中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/9/2 金曜日

統計から見るアメリカの家庭の現実:増える単身世帯と貧困層

Filed under: - nakaoka @ 10:57

知人と話をしていて気がついたことがあります。それは、日米のコンビニの売っている商品が違うのではないかということです。日本でも系列のコンビニによって、それぞれ品揃えに違いはあるのでしょうが、それでも最大の売れ筋商品はおそらく”弁当”を中心とする食品ではないでしょうか。しかし、アメリカのコンビニには、もちろん”弁当”は置いてありませんし、私の知る限りサンドイッチのような食品も売っていなかったのではないかと思います。ニューヨークなどでは、路上に屋台が出ていて、ホットドッグやタコスのようなものは売っています。お昼時にコンビニで手軽に買える弁当は便利なものです。また昼食に限らず、単身生活者にとってもコンビニの食品は重宝なものです。また、デパ地下の食品店も日本固有の現象かも知れません。アメリカでも単身者が所帯の最多数を占めているのですが、コンビニでは彼らを対象とした食品は売っていないようです(これは私のアメリカ経験に基づく判断で、一般化できないかもしれませんが)。「なぜなのでしょうか」という発想から、この記事を書く気になりました。アメリカの商務省が「家計に関する国勢調査」を8月末に発表しました。また、「所得調査」も発表されました。貧困層が増えているという結論です。これらの統計を元にアメリカの家庭の実情を書いてみます。

2000年の国勢調査では、所帯数は1億0548万0101所帯です。1990年の調査では9199万3582所帯ですから、この10年間に世帯数は約1348万所帯増えています。横道にそれますが、アメリカの住宅ブームの背景には、こうした世帯数の増加があるのかもしれません。

家族構成で見ると、単身所帯の数は2723万所帯で、全体の25.82%を占めています。比率でいうと一番を占めています。これに対して、非単身所帯は6953万所帯で、比率でいえば65.92%です。しかし、「配偶者と自分たちの子供(養子ではない自分の子供は、英語でnatural childといいます)」と暮らしている”普通の家庭”の数は2366万世帯、比率は22.44%で、単身世帯を大きく下回っています。「配偶者だけと暮らしている世帯(要するに子供のいない普通の夫婦)」は2238万世帯、比率は21.22%です。ですから、結婚している世帯数は、合計すれば43%と言うことになります。

独身世帯の次に大きな比率を占めているのが、「子供とだけ暮らしている世帯」すなわち離婚や死別で片親しかいない世帯の数で、その世帯数は886万世帯(比率は8.41%)に達しています。日本との比較の数字がないのですが、アメリカでは片親と子供という世帯数は、かなりの数に達しています。

正式に結婚していないパートナーと暮らしている世帯数、言い換えれば同棲世帯は268万世帯(2.54%)、ルーム・メイト(housemate)と暮らしている世帯数は233万世帯(2.21%)、同棲しているが、どちらかの配偶者の子供(養子ではない)と一緒に暮らしている世帯は158万世帯(1.15%)、配偶者と自分の子供と養子というやや複雑な家族構成で暮らしている世帯は119万世帯(1.14%)もいます。こうした家族関係は、日本ではなかなか想像しにくい構成だと思います。しかし、アメリカでは養子を取るということはは極めて普通に見られる現象で、しかも子供がいないから養子を取るだけではなく、経済的に余裕のある家族も養子を取るケースがたくさんあります。私の知っているアメリカの政府高官だった人物は、経済的な余裕もあったのかもしれませんが、数人の養子を取っていました。経済的に余裕ある家庭が、恵まれない子供を育てるのは社会的な責任であるという考えもあるようです。自分の子供がいなく、配偶者と養子だけ暮らしてる世帯は110万世帯(1.05%)です。また、日本では比較的当たり前の両親と暮らしている世帯は56万世帯と全体からすると少数派です。おそらく日本と比べると非常に少ないのではないでしょうか。

この10年間の変動でみると、単身世帯が480万世帯増と圧倒的に増えています。配偶者と生活する世帯も220万世帯増えていますが、その増加数は単身世帯の増加の半分にすぎません。配偶者と自分の子供と暮らしている世帯は、10年間で実に42万世帯も減っています。おそらく、この組み合わせが、日本では最も普通の世帯構成でしょうが、アメリカで”中核的”な世帯数が減っているのです。

配偶者と養子の世帯数も、9万世帯減っています。配偶者なしで自分の子供と暮らしている世帯(片親世帯)は160万世帯増えています。アメリカでは90年代に入って離婚率が低下していますが、それでもこの片親世帯が増加している理由は何なのでしょうか。まだ離婚の影響が大きくあるのかもしれません。また、同棲世帯(結婚していない相手と暮らしている世帯)は、103万世帯増えています。アメリカでは、長期間同棲してから入籍するという結婚形態が極めて普通です。実質的に夫婦なのですが、戸籍上は夫婦ではないのです。アメリカで恋人や同棲関係にある女性をガール・フレンドといいます。日本語のガール・フレンドは、普通の女性の友達という意味なのですが、英語では、恋人や同棲相手という意味になります。

国勢調査の一番注目される結果は、「単身世帯」が最大の比率を占めているようになっているということです。「単身世帯」が「両親と子供2人」というアメリカの”伝統的な家族”にとって代わって、最大の世帯数になっているのです。1990年までは「両親に子供1人」という”核家族”(一人っ子家庭)が増えて、主流になっていました。90年には2500万世帯が核家族でした。しかし、2000年には核家族は2459万世帯と減少しています。

「単身世帯」の数は増え続けて、2010年には3400万世帯にまで増えるとの予測もあります。「単身世帯」の増加要因として指摘されているのは、結婚しない若者が増えているのと、高齢者で配偶者が亡くなった世帯が増えているためだと推定されています。これからベビーブーマー世代の高齢化が進めば、配偶者を亡くした単身世帯が増えていくことになるでしょう。

また「単身世帯」のもう1つの特徴は、女性の単身世帯が多いということです。これは特に高齢者に目立っています。65歳以上で女性の単身世帯数は男子の単身世帯数よりも600万世帯も多いのです。高齢女性の単身世帯の大半は配偶者の死別によるものですが、高齢男子の単身世帯はずっと独身で過ごしたものが多いのが特徴です。離婚女性や死別女性の再婚率は低いのに対して、死別しり、離婚した男性の再婚率は高く、従って高齢層の男性の単身世帯数は少ないのです。要するに、男性は離婚しても、死別しても、多くの人が再婚するのに対して、女性は再婚せずに、単身のまま生涯を終る人が多いようです。これは日本でも似た状況があるのではないでしょうか。

ただ、「単身世帯」に分類されている中に「週末婚的」な存在も含まれています。このカテゴリーは、同棲(結婚していない相手と暮らしている)に分類されてもいいのかもしれません。また離婚した親が週末には自分の子供と過ごすというケースも多く見られますが、こうした世帯は「単身世帯」に含まれているのでしょう。この層も、完全な単身世帯とはいえないかもしれません。

また国勢調査では、”multigenerational household”(複数の世代が同居している世帯)が増えています。5%の世帯が同じ世代で暮らしていますが、世帯の41%は複数世代(すなわち子供や祖父母と暮らしている世帯)と一緒に暮らしています。さらに、3.9%の世帯は3世代同居の世帯です。

次に「Current Population Survey(現在人口調査)」の結果から、所得状況を見てみます。統計は8月30日に発表になったもので、データは2004年のものです。

まず、2004年の正式な貧困率(official poverty rate)は12.7%で、2003年の12.5%から若干増加しています。アメリカ経済は2003年から本格回復に入りましたが、貧困者層は増えているのです。人数からいうろ、貧困層に分類される人数は3700万人で、2003年よりも110万人増えています。

人種別の貧困率は、黒人は24.7%、ヒスパニック系は21.9%で、2003年と同じでした。しかし、5人に1人が貧困層に分類されるというのは、異常な感じも受けます。貧困層が増えたのは、非ヒスパニック系の白人で2003年の8.2%から8.2%へと増えています。増えたと言っても、その比率は黒人やヒスパニック系と比べると低水準です。アジア系は2003年の11.8%から9.8%に減っています。感覚的にいえば、アジア系アメリカ人は一生懸命働く傾向があり、確実に社会的階層を登っているのが特徴です。貧困率は、4年連続で増加しており、2000年は11.3%で3160万人でした。

年代別には、18歳以下のグループでは、2004年の貧困率は17.8%、1300万人でした。これは2003年と同水準です。18歳から64歳の労働人口では、2003年の10.8%、1940万人から2004年は11.3%、2050万人へと増えています。65歳以上では貧困率は2003年の10.2%から2004年には9.8%へと減少しています。

さて、貧困の定義ですが、まず歴史的に言えば、”poverty line”という概念が最初に導入されたのは、1964年で、当時ジョンソン大統領が「貧困との戦争」を旗印に福祉国家”偉大なる社会”政策を取っていたころです。政策の尺度として、こうした概念が必要となったものです。ただ、その定義はいろいろ問題も含んでいますが、1つの規定は「生活の必需品を買えない層」が貧困層に分類されています。1999年の例では、4人家族で年収が2万1286ドルを下回る層が貧困層と定義付けられています。家族構成で、そのラインとなる額はことなります。いずれにせよ、アメリカ人の約13%が、貧困者と見られています。

では、具体的な所得動向はどうなのでしょうか。中央値(最も数の多い所得)は、2004年は前年と同水準の4万44389ドルです。まあ、アメリカで最大の問題である健康保険に加入していない数は15.7%で、2億450万人でした。した。アメリカの健康保険は、個人が民間の保険会社に加入するのが普通ですが、低所得層は加入することができません。こうした人を対象に政府の保険制度「低所得者向け保険(メディイド)」や、「高齢者向け保険(メディケア)」があります。日本のような国民健康保険制度はありません。クリントン政権のとき、ヒラリー・クリントンを中心に保険制度改革が議論され、「ユニバーサル健康保険制度」(日本の国民健康保険のような制度)が検討されましたが、共和党の反対で実現しませんでした。

黒人家計の中央値の所得は最低で、3万134ドルでした。アジア系家計は5万7518ドルでした。ヒスパニック系家計は3万4241ドルでした。また15歳以上フルタイムの仕事を持っている男性の中央値の所得は4万0798ドルでした。女性の場合は、3万1223ドルでした。

ちなみに、少し古い統計ですが、1996年の10万ドル以上の所得のある層(大半は共稼ぎ家計)は過去最高の水準の8.2%でした。これをピークに低下しています。もちろん、超富裕層も存在していますが、その数は多くはありません。アメリカの所得と人口の分布(これを2次元の図で表現したのが「ロレンツ曲線」です)を見ると、富が一部の富裕層に集中しているのが分かります。

以上が最近の統計からみたアメリカ人の家計の1つの側面です。日本の統計と比較して見ると面白いでしょう。もし日本でもアメリカと同様の「貧困率」を計算したら、かなりの高い水準になるかも知れません。この分野の専門家が何か試算をしてみたら面白いでしょうね。意外に、日本社会の問題点が浮かびあがってくるかもしれません。明確な自己イメージを持つことが、社会を変えていく第一歩かもしれません。

参考資料:
貧困の基準

1人暮らし          9645ドル
65歳以下の1人暮らし  9827ドル
65歳以上の1人暮らし  9060ドル

2人世帯          1万2334ドル
世帯主が65歳以下   1万2714ドル
世帯主が65歳以上   1万1420ドル

子供が1人の3人世帯  1万5205ドル
子供が2人の4人世帯  1万9157ドル  

1件のコメント

  1. 興味ある情報、感謝します.分析に使わせていただきます.今回のハリケーンでもはっきりしたことですけど、貧困層の問題は大きいなあと感じます.これはデリケットな部分もありますので、米国人でも言いにくい部分があることを在米中にも感じました.ただ、米国にかぎらず所得格差と貧困層の増大は、各国共通(日本も例外ではないのでは)の問題で、特に社会的調整(納税や社会保障)前の格差が開いていることが問題と感じます.この背景には、高齢化と家族構成の大きな変化がありと思います.若干大げさに言えば、高度工業化文明の影響のような.

    コメント by M.N生 — 2005年9月5日 @ 11:38

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