銀座4丁目交差点。昔、あのあたりは「尾張町の十文字」と呼ばれていたそうだ。初めてそれを知ったのは戦後の銀座を舞台とした浅田次郎さんの「地下鉄に乗って」を読んだ時の事だった。
実際には見た事もない、好きな街の昔の風景が目に浮かぶ。涙腺を刺激するそのストーリー展開に夢中になって読んだものだ。その浅田次郎さんをインタビューすることになった。
あれは昨年春の事だった。インタビューの事前準備としては当然だが、浅田さんの作品を読みまくる日々を過ごし、いよいよその日を迎えた。約束の時間の1時間前に到着した私は、そのまま待ち合わせのロビーラウンジで「地下鉄に乗って」を再び読んだ。普通なら最新作についてふれるべきだが、銀座を舞台としたこの作品についても是非話して欲しいと思ったのだ。
平日ではあったが帝国ホテル1階のロビーラウンジは、たいそうな賑わいだった。写真やテレビでしか拝見した事のない浅田さんを果たして見つける事が出来るだろうか……。緊張と不安が高まりつつあったその時、携帯が鳴った。浅田さんだ…。
~つづく~