中岡望の目からウロコのアメリカ

2011/7/17 日曜日

フランクリン・ルーズベルト大統領に見る政治家の指導力

Filed under: - nakaoka @ 0:11

人の本当の能力は、危機に直面したときに初めて試され、評価できるものである。特にそれは政治家についていえる。現在、日米は大きな危機に直面している。両国の菅直人首相、オバマ大統領ともに指導者としての能力を十分に発揮しているとは言い難い。危機に際して国民に明確な方向性を示し、大胆な政策とビジョンで国家を救ったのは、フランクリン・ルーズベルト大統領である。大恐慌に際して、どのような指導力を発揮したか見てみよう。

 菅直人首相は東日本大震災と原子力発電問題という“戦後最大の危機”に対処するために明確な指導力を発揮しているとは思えない。またバラク・オバマ大統領も連合軍によるリビア攻撃に際して十分に指導力を発揮したとはいえない。リビア攻撃を主張するクリントン国務長官などの強硬派と、攻撃参加に消極的なゲーツ国防長官などの慎重派に挟まれ、オバマ大統領は決断できなかった。

 リビア攻撃もオバマ大統領が南米を歴訪中に、サルコジ仏大統領がオバマ大統領に相談することもなく始めた。「大学教授のように立派なことを話すが、行動が伴わない大統領」というのが、オバマ大統領に対する一般的な評価になっている。

 指導者として歴代大統領2位にランク

 ではアメリカの歴代大統領の中で指導者として最も優れていたのは誰だろうか。2009年にCスパンが歴史学者を対象に行った「大統領の指導力調査」では、総合順位では1位はリンカーン大統領、2位はワシントン大統領、3位はフランクリン・ルーズベルト大統領(FDR)、4位はセオドーア・ルーズベルト大統領であった。大統領に必要とされる資質はいろいろあるが、FDRは「危機に際する指導力」ではリンカーン大統領に次いで2位、「国民に対する説得力」では一位、「ビジョン・政策」ではリンカーン大統領に次いで2位、「道徳的権威」では3位、「行政的スキル」では3位、「国際関係」では2位、「行政的手腕」では3位と、いずれも上位にランクされている。現代の大統領としては、FDRは最も指導力のある大統領と評価されているのである。

FDRは、大恐慌と第二次世界大戦という未曾有の危機に直面し、いずれの場合も大きな指導力を発揮している。スタンフォード大学のデビッド・ケネディ教授はFDRの能力を「緊急性と重要性の違いを区別できる人物」と評している。要するに短期の政策と中長期の政策を明確に意識化し、政策運営を行ってきた。FDRが大統領に就任したのは33年3月。大恐慌の最中である。就任式に集まった国民は「葬式に出席した弔問客のように押し黙っていた」。

 大統領は就任演説で、国民に向かって三つのメッセージを送った。まず「恐れなければならないのは恐れること自体である」と将来に向かって“楽観論”を訴えた。さらに、「我が国は行動を求めている。今すぐに行動すべきだ」と“決意”を述べた。そして、「アメリカの問題は物質的な問題に過ぎない」と、大不況で打ちひしがれる国民に“慰め”の言葉を与えた。就任演説は国民に勇気を与え、国民は大統領に喝采を送った。その後、数週間にホワイトハウスに大統領に励まされたという内容の手紙が50万通以上届いた。大統領就任直後にFDRは、卓越した政治家の資質を見せていた。

 就任直後に大統領は閣僚を執務室に集め、宣誓をさせている。これは前例のないことだった。閣僚に宣誓をさせることによって、大統領は新しいニューディール政策を即座に実効することを求めたのである。そして政権発足後100日間に15の主要法案を成立させるという成果を上げる。FDRに関する著作もあるジャーナリストのアダム・コーエンは、ルーズベルト政権のやり方を「アイデアと政策の一斉射撃」と呼んでいるが、まさに息をつかせぬほど一気に政策を実現していった。

 大恐慌からアメリカ経済を救うというのは、FDRにとって“緊急な課題”であったが、本当の“長期的な狙い”は別のところにあった。それはアメリカ社会を作り変え、国民にとって安全を保障する社会にすることであった。レッセフェール(自由放任)の経済と決別し、政府が国民の必要とするものを提供する仕組みを作り上げることであった。

 大統領は「新権利章典」と呼ばれる原則を打ち出す。それは政府が人々に雇用、教育と住宅な、医療などの生活に必要な物を保障することを誓うものであった。それは「国民の誰もが無視されることのない社会」を建設することであった。大統領は、その後のアメリカの基本理念ともいえるリベラリズムの枠組みを作りあげる。

 経済制度でも大胆な改革を実現する。証券取引委員会、連邦預金保険公社、全国労働関係委員会などの組織を新設し、連邦準備制度理事会の機能を強化し、戦後のアメリカ経済の繁栄の基盤を作り上げる。さらに最低賃金制や失業保険制度の導入、労働組合の団体交渉権の承認など景気政策を越える政策と相次いで打ち出していく。ケネディ教授は「大恐慌という危機を利用することでより大きな目的を達成した」と評価する。

 ニューディール政策は単なる景気政策ではないのである。それは壮大なビジョンに基づく、アメリカの社会、経済の改革プログラムであった。FDRはニューディール政策によって、政府が積極的に役割を果たす仕組みを作り上げ、そのことによってアメリカ資本主義を救い、アメリカ社会の左傾化を阻止したのである。

 「時を待つ」忍耐力も重要な資質

 もうひとつの危機に対しても、大きな指導力を発揮した。ウィルソン政権で海軍次官補を務め、第一次世界大戦を経験し、戦後、ウィルソン大統領の失敗を目の当たりに見て、同じ過ちを繰り返さないように国民の意識に注意深く事に当たった。41年の夏にドイツ空軍がイギリスを攻撃し、ドイツの潜水艦がアメリカの船を攻撃して沈没させる事件が起きた時、大統領の顧問たちはドイツに宣戦布告すべきだと進言した。しかし、FDRは「まだ、その時ではない」と進言を退ける。アメリカ国内には参戦に反対する雰囲気が強く、まだ国民を十分に納得させることはできないと判断したのだ。

 大統領が参戦を決意するのは、41年12月8日に日本軍が真珠湾を攻撃した時である。もはや国民は参戦に反対することはない。同年12月8日に日本、11日にイタリアとドイツに対して宣戦布告を行う。「時や国民の意識を読む」ことも、政治家の重要な資質である。

 また43年のテヘラン会議、45年のヤルタ会議で、戦後の世界秩序を想定しながら、ソビエトのスターリンと忍耐強く交渉を行うなど、危機に際しての細心さも指導者の条件を示している。

 オバマ大統領は就任当初、FDRと頻繁に比較された。だが、残念なことにオバマ大統領には、FDRのような長期的なビジョンも、国民を説得する力もなかった。国民に訴えるビジョンや情熱を失ったとき、政治家の役割は終わるのであろう。

1件のコメント »

  1.  米国(政府)がとった「スペースシャトルからの撤退」は、(一時的に)有人飛行を中ソなどの他国の共同開発に譲って、超高速輸送で補うと言う考え方のようだが…北上山系はその離発着場に最適:元東大教授の糸川英夫博士はいっていた。急斜面からの打ち上げは確かに安定しているし、エネルギーコストも安い。ま、米国も月は止めても?火星や金星から小惑星の探査や宇宙旅行に復帰して、ばっちりドルを稼ぐようになるだろう。ロッキーやアパラチアにその基地を建設しているようだ(憶測)。そうなれば世界中で建設ラッシュが期待できそうなものだが…オバマさんはそこまで考えていらっしゃるかどうか?いずれ人間の欲望=夢と好奇心は果てしがない(米国はずっとニューフロンテイアを求めるしかないだろう)。それにしてもアメリカの国内事情がよくわからない。格差、差別が激しいらしいが大丈夫なか? 歴史の栄枯盛衰は世の常。人間のやる気、情熱が文明を支えつつ衰退を長引かせるそうで…ローマ帝国もそれで延命したと言う。実際は早く崩壊してもおかしくない情況だった、との説があります。
     米国は大学がすばらしい。サンデル教授の白熱教室など。しかし単なる場合分けと組み合わせの哲学は昔から合った。(なんだか長時間観てきて、最近あの独特のやりとりにマンネリを感じて飽きてきた)無い物ねだりかもしれないが東洋、イスラムの精神・文化も奥深くて人間的でおもしろい。まあどこもかしこも高度情報化社会に突入しその恩恵に服しているのは確かで、地方も直接世界に参加できるようになった。確かに国段階では個人の政治力・指導力が問われてくるが、地方は現実として独立経済圏でもやっていける地域が出てきている。東日本大震災の結果、住民が一致協力して叡智を結集し、思い切った街作りを期待したいものである。それにしても国の復興計画が遅い。米国のような国家的プロジェクトは無理としても。今後は都会と地方・田舎の交流=先行投資で潤いと幅のある相互扶助のライフスタイルの達成が理想だろう。特別、格差や差別を感じない…その点ではまさに「人間復興の時」である。被災地は独自の産業と伝統文化を生かした「多角的総合観光」が重要である。内外からのお客さんが落としてくれる観光収入を地域に還元して、知的レベルを高めて魅力ある街にしなくては…この辺で止めましょう。他の分野も拝見します。

    コメント by 鈴木東吉 — 2011年9月23日 @ 15:31

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=379

コメントはお気軽にどうぞ