中岡望の目からウロコのアメリカ

2011/10/30 日曜日

アメリカの宗教事情:減少する主流派プロテスタント、台頭するエバンジェリカルとカトリック教徒

Filed under: - nakaoka @ 22:32

アメリカはプロテスタントの国です。宗教的弾圧を逃れて欧州大陸から宗教的自由を求めてピューリタンがアメリカ大陸にやってきました。人口の圧倒的多数はプロテスタントが占めています。しかし、そうした宗教の情勢に大きな変化が起っています。主流派プロテスタントは長期的な低落傾向にあり、非主流派のエバンジェリカル(福音派)の勢力が伸び、同時にカトリック教徒もその数を増やしています。アメリカの宗教に何が起っているのか。アメリカの政治を理解するには、宗教を知らねばなりません。それが将来のアメリカの政治にどのような影響を及ぼすのか、調べてみました。

 アメリカは宗教国家である。19世紀のフランスの政治学者で名著『アメリカの民主主義』を書いたアレクシス・ド・トクヴィルは、共有すべき歴史も、共通な文化も持たないアメリカがどのようにして統一を維持できるのかと問いに対して、「国家統一の役割を担うのは宗教である」と答えている。そうした状況は、現在のアメリカでも基本的に変わっていない。アメリカの社会や政治を理解するには、アメリカの宗教の状況を理解することが不可欠である。

 アメリカ国民を結びつけてきた宗教はキリスト教である。調査機関ピュー・フォーラムが2008年に行った調査では、人口の78.4%がキリスト教徒であると答えている。宗派はプロテスタントであると答えたのは51.3%と過半数を超えている。アメリカはピルグリム・ファーザーが宗教的弾圧を逃れてヨーロッパからアメリカにやってきて以来一貫してプロテスタントの国なのである。

 キリスト教の他の宗派では、カトリック教が23.9%、モルモン教が1.7%を占めている。キリスト教以外では、ユダヤ教の1.7%、仏教の0.7%、イスラム教の0.6%と続く。また無神論を含め無宗派と答えた比率は16.1%であった。ただ、同調査はプロテスタントが国民の過半数を占めるものの、「アメリカはプロテスタントが少数派になる瀬戸際にある」と結論付けている。

 ギャラップの調査(2009年12月24日)でも同様な結果が出ている。1948年の時点でプロテスタントの比率は69%と圧倒的に多かった。しかし、2008年の時点では、ピュー・フォーラムの調査と同じように、その比率は56%にまで低下している。

 さらに宗派の動向を見てみると、さらに大きな変化が見られる。ピュー・フォーラムの調査は「この数十年に主流派プロテスタント教会の信者の数は大幅に減少しているのに対して、エバンジェリカル教会の信者数は増加している」と指摘している。プロテスタントの宗派的な内訳を見ると、伝統的な主流派プロテスタントの信者の数は現在では全体の18%を占めるに過ぎず、これに対してエバンジェリカルと呼ばれる原理主義的なプロテスタントの信者の数が26.3%を占め、主流派プロテスタントを圧倒するまでになっている。

 この20年で主流派プロテスタリベラリズムの衰退とともに主流派プロテスタントは社会的なリーダーシップと活力を失い、次第に保守主義的な目標を掲げ積極的な活動を展開するエバンジェリカル教会に圧倒されていった。現在、エバンジェリカルの信者数は国民の25%~30%、数では7000万人~8000万人と推計されている。ントの衰退と反主流派のエバンジェリカルの勢力は完全に逆転してしまった。主流派プロテスタントの衰退は、信者の高齢化に端的に表れている。2008年に行われたバイロー宗教調査では主流派プロテスタント教会の信者の28%が65歳以上であった。31歳から44歳の信者は17%に過ぎなかった。

 進化論を巡る論争で主流派プロテスタントと袂を分かち、郊外に出て行ったエバンジェリカル教会は、郊外に住む富裕層を中心に勢力を拡大してきた。もはやエバンジェリカルの政治的、文化的な影響力は無視できないまでに大きくなっている。なお、オバマ大統領が所属していた黒人教会も6.9%と比率は低いが、非常に大きな力を持っている。

 アメリカの宗教地図のもうひとつの注目点は、国民の約25%がカトリック教徒であることだ。比率は1978年の29%をピークに増減を繰り返しているが、信者の数は着実に増加している。国勢調査によると、1990年のカトリック教徒の数は4600万人であったが、2008年には5700万人に増えている。

 『アメリカ・カナダ教会2011年報告』は25のキリスト教会の信者数を報告している。多くの教会が信者を失っているが、その中で最大の伸びを記録しているのがカトリック教会である。信者数は昨年、0.57%増えて6800万人と、教会別でみた信者数は最大となっている。

 カトリック教徒の増加要因はラテンアメリカからの移民の増加である。カトリック教徒の46%が外国生まれであり、58%はヒスパニック系アメリカ人である。彼らは政治的には民主党支持が多いのが特徴である。神父の性的なスキャンダルで白人がカトリック教から離れている現実もあるが、ネット・ベースでは増加傾向が続いている。ニューヨークの郊外に住むある住民は「街にある主流派プロテスタントであるプレスビタリアン教会では礼拝が行われる日曜日は空っぽだが、カトリック教会は多くの参列者で賑わっている」と語っていた。

 もうひとつのカトリック教の特徴は、知識層を引きつけていることだ。ネオコンの父と言われたアービング・クリストルはユダヤ教からカトリック教に改宗している。ユダヤ教からカトリック教への知識人の改宗は彼に留まらない。世俗的なプロテスタントに対して知的な神学大系を持つカトリック教は知識人にとって魅力に富むのかもしれない。ヒスパニック系アメリカ人の増加と考え合わせると、将来的にカトリック教徒はさらに増加すると予想される。

政治に大きな影響を与える宗教団体

 宗教が初めて大統領選挙の大きな焦点になったのは、1959年の大統領選挙である。民主党のジョン・F・ケネディ候補はカトリック教徒であった。当時、世論調査では国民の25%はカトリック教徒の大統領に投票しないと答えていた。

 同じ宗教問題が2012年の大統領選挙のテーマとなりそうだ。現在、共和党の大統領候補者で先行しているのがミット・ロムニー元マサチューセッツ知事であるが、同氏はモルモン教徒である。また、同様に共和党の大統領候補指名を目指すジョン・ハンツマン元ユタ州知事もモルモン教徒である。

 アメリカ人の大半はモルモン教をキリスト教の正式な宗派とは見なしていない。その意味では同じキリスト教のプロテスタントかカトリックかという選択よりも、さらに厳しい選択を迫られることになるだろう。

 6月中旬に行われたギャラップの世論調査では、回答者の22%がモルモン教徒の大統領候補には投票しないと答えている。党派別で見ると、共和党支持者の18%、無党派の19%、民主党の27%がモルモン教との大統領候補には投票しないと答えている。民主党支持者の方がモルモン教に対する抵抗が強いのは興味深い。同じ月に行われたピュー・リサーチの調査では回答者の68%がモルモン教徒の候補者に投票するのに躊躇すると答え、25%が投票しないと答えている。こうした調査を受け、ロサンジェルス・タイムズ紙は「モルモン教に対する偏見がアメリカ政治の重要な要素になっている」(6月21日)と指摘している。

 アメリカで宗教組織が積極的に政治活動を始めるようになったのが1970年代である。リベラリズムの過剰を懸念した保守派のプロテスタントがリベラル派批判を始め、社会的道徳の回復を訴えた。その最初の組織が保守派プロテスタントの「モラル・マジョリティ(道徳的多数派)」で、1980年の大統領選挙でレーガン政権誕生を資金面で支援した。モラル・マジョリティの解散後、さらに「クリスチャン・コーリション(キリスト教同盟)」が結成され保守派の大スポンサーとなる。1990年の大統領選挙で共和党のジョージ・ブッシュ候補を当選させたのはクリスチャン・コーリションの資金力であったと言われている。

 宗教票が選挙結果を決めたのが2004年の選挙である。ブッシュ大統領とジョン・ケリー民主党大統領候補が争った同選挙では、イラク戦争と並んで大きな選挙テーマとなったのが同性婚の問題であった。ヒスパニック系アメリカ人は民主党支持者が多いが、同時に彼らはカトリック教徒でもあり、宗教上の理由から同性婚に対して批判的である。多くのカトリック教徒のヒスパニック系アメリカ人はブッシュ大統領に投票し、ブッシュ大統領の大勝の原動力となった。

 同性婚や中絶、再生細胞の研究など宗教色の強いテーマを巡る論争は“文化戦争”と呼ばれている。オバマ大統領は就任演説の中で、もう文化戦争を止め、政治の二極化に終止符を打つべきだと主張した。しかし、こうした宗教的、社会的問題は依然としてアメリカ社会では重要な問題である。現在のところ、2012年の選挙では経済問題が最大テーマになると予想されている。しかし、共和党候補者は折に触れ民主党に文化戦争を仕掛ける構えを見せている。保守派のエバンジェリカルやカトリック教徒を味方に付け最もてっとり早い選挙戦略であることは間違いない。

 牧師であるマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事が大統領予備選挙の立候補を取りやめたため、文化戦争の仕掛け手になると予想されるのが、キリスト教右派の立場からオバマ大統領を批判するミシェル・バックマン下院議員やサラ・ペイリン元アラスカ州知事である。大統領選挙で保守派のキリスト教徒を動員できるかどうかが選挙結果に大きな影響を与えることになる。同時にティーパーティ運動も単なる財政保守主義の立場を逸脱し、社会的保守主義者の色合いを全面に出しつつある。こうした保守層の動向が共和党の大統領候補選びに大きな影響を与えることになるだろう。

6件のコメント »

  1. 日本で言う聖霊派は米国では全部福音派に入るのでしょうか?

    コメント by Anonymous — 2011年10月31日 @ 05:21

  2. モルモン教って少し前までは非常に怪しい新興宗教というイメージがありましたが
    続々と政界にも進出しているのですね。時代を感じます。

    コメント by ベトナム — 2011年11月7日 @ 20:57

  3. 宗教って私達には難しい問題に感じますね…
    アメリカは多民族ですけど、他の宗教の人とかって気にしているんですかね。

    コメント by きし — 2012年1月30日 @ 11:39

  4. キリスト教の歴史って非常に興味深いものがあります。
    (我が家はクリスチャンではありませんが。)
    しかし、政治にもここまでの影響を与えていたとは、知らなかったので、非常に勉強になりました。
    有難うございます。

    コメント by ウェルス — 2012年2月27日 @ 23:17

  5. 考え方ってすごく大切ですよね

    コメント by るな — 2012年4月18日 @ 22:07

  6. はじめまして。
    キリスト教のような宗教と国の関わりは、日本に住んでいる私には理解できないところがありますが、それがまた大きな力になっている事にどこかで羨ましい気持ちがあります。

    コメント by okudai — 2012年6月14日 @ 16:42

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