中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/9/14 水曜日

アメリカで最悪の仕事トップ10は何か:社会の最下層で働く人たち

Filed under: - nakaoka @ 0:23

アメリカは貧富の差が大きい社会です。セントルイスのワシントン大学にいたとき、ある学生が「自動車の中に貴重なものを置いておかないように」と忠告されました。盗難が非常に多いからということでした。それに関して友人のドイツ人で日本文学を教えていた学者が「これくらい貧富の差があれば、誰も乗っていない自動車の中に貴重品があれば盗んで当然で、罪の意識は感じないだろうね」と言っていたのを鮮明に覚えています。アメリカ社会は豊かな社会で、金持ちにとってとても住みやすい社会です。しかし、自動車も買えない貧困層にとってまるで地獄のような社会かも知れません。競争社会は、強者はより強く、弱者はますます弱くなる社会なのでしょう。アメリカ社会のことを「勝者がすべてを手にする社会(Winners take all)」といいます。そのアメリカで最悪の仕事は何でしょうか。アメリカのジャーナリストのLiza Featherstoneが「The Ten Worst Jobs in America」というレポートを書いています。興味深いのでサワリを、私の解釈を付け加えながら紹介します。なお10位の間の差はなく、順不同です。また英語のブログに「How to interpret the land-slide victory of Mr. Koizumi」という原稿アップしました。

この「最悪の仕事トップ10」は、日本人にはなかなか予想できないものです。まず、本稿を読み始める前に、何か想像してみてください。同時に、日本では「最悪の仕事トップ10」は何かを考えてみるのも面白いかもしれません。ベストセラーになった本に「Penny and Dimes」というのがあります。研究者が、レストランの皿洗いや清掃員などのパート労働に実際に携わった経験を書いたものです。最低賃金では生活ができず、いくつもの仕事を掛け持ちしたり、アパートを借りることができないので、モービルハウスやトレーラーに住んだりしています。そして最悪なのが、こうした人々は医療保険に加入していないことです。

アメリカで医療保険に入ってないということは、最悪の事態に置かれているということを意味します。保険がなければホーム・ドクターを持てません。最後の手段は、救急車に乗って大学病院の救急受付に運んでもらうことです。そうすれば、公的な医療補助を受けることができます。しかし、その救急車に乗るにもお金がかかります。1981年に私は家族と一緒にボストンにいましたが、交通事故を起こして救急車で病院に運ばれました。後で、救急車の料金100ドルを請求されました。保険に入っていれば、それは保険会社が払ってくれますが、そうでないと自腹になります。また、病院で最初に聞かれたことは、保険に入ってないのなら、大学病院の救急受付に行くったらいいとアドバイスされました。幸い、保険に加入していて、すべての費用は保険から支払われました。

最下層で働く人の多くは健康保険にも、失業保険にも加入していないケースがたくさんあります。そうしたアメリカの状況を想像しながら、以下の文章を読んでください。

最初の最悪の仕事は「鶏肉加工工場で働く労働者(poultry processor)」だそうです。鶏の臓器の猛烈な臭いの中で働かなければならないそうです。そうした工場で働く動労者の3分の2は黒人女性です。その賃金は製造業の中で最低の部類に属します。最低の賃金は、後で触れますが、縫製工場で働く労働者だそうです。仕事は単調で、トイレにも行けない状況が普通だそうです。フェザーストーン記者は、仕事中にトイレに行ったら罰せられると書いています。さらに怪我の多い職場だそうです。労働者4人のうち1人は怪我をしたことがあるそうです。ナイフやハサミを使うので、切り傷は絶えないのです。こうした労働者の多くはトレーラーハウスに住んでいて、トレーラーは工場の敷地に駐車しているのが普通で、その駐車代も給料から天引きされるそうです。そして、フェザーストーン記者は「驚くべきことに、鶏肉加工労働者は最近、最も急速に増えている」と書いています。

次が「縫製工場の労働者(sewing machine operator)」です。その賃金は、鶏肉加工工場で働く労働者の賃金よりも低いそうです。実は、縫製工場は違法移民が最も多く働いている場所なのです。その工場は、「タコ部屋(sweat shop)」と呼ばれています。こうした低賃金労働者を守るために、アメリカは「多国的繊維(マルチ・ファイバー)協定」によって繊維製品の輸入を規制していました。が、昨年末に同協定は破棄され、繊維貿易が自由化されました。その結果、中国から大量の繊維製品が流入し、アメリカ政府は課徴金を課しています。同じことがヨーロッパでも起こっています。輸入の急増で、縫製業界で2010年までに25万人以上の雇用が失われるとの予測もあります。その平均時給は7.72ドルです。しかし、さっき触れたように違法の地下工場などがあり、そこでの賃金はさらに低く、場合によっては支払われないこともあります。なぜなら、そうした違法工場で働く労働者の多くは違法移民だからです。また、そこで働く労働者の大半は女性です。現在、アメリカ全土で縫製労働者は14万人いるそうです。

次に厳しい労働を強いられているのが「農場労働者(farm laborer)」です。アメリカでは農場労働者は最も貧しい層の人々です。多くの中小農場は、労働関連の法律の適用除外になっています。しかも季節労働者的な面もあり、雇用が極めて不安定なのです。多くの農場は残業手当を払わないし、最低賃金さえ払っていない例が多いそうです。しかも健康や安全に関する規制の対象外であるため、たとえば殺虫剤散布などの影響で体を壊す労働者が多いとのことです。現在、農場労働者の数は79万人以上いるそうです。

次の例は、日本人には理解しがたいかもしれません。その職業は「ミシシッピ州の囚人労働者」です。映画「ショーシャンクの空の下で」を見た読者は多いかもしれません。そこでは労働した囚人にはわずかですが、お金が支払われました。が、所長がピンはねをしており、最後は主人公に告発される場面があります。おそらく、日本でも金額は知りませんが、囚人は働けば、わずかでも賃金をもらえるようになっていると思います。そのわずかな賃金を使ってタバコを買ったりしているのでしょう。あるいは出所後の生活のために蓄えることをしているのでしょう。しかし、ミシシッピ州の囚人は働いても賃金はまったくもらえないのです。しかも、華氏100度を越す炎天下で、週40時間以上働かせられているのです。囚人の多くは黒人で、賃金がもらえないだけでなく、管理者から様々な虐待を受けているそうです。

次が「短期滞在ビザで働いている乳母(nanny on a temporary visa)」です。アメリカの富裕層にとって、「乳母」と「メイド」は不可欠の存在です。政府の高官に指名されたが、違法で乳母やメイドを雇っていて、せっかくのチャンスを失ったという話がたくさんあります。高所得の共稼ぎ夫婦にとって、働くためにはどうしても乳母かメイドは必要です。この10年間に何万という人が「一時ビザ(temporary visa)」でアメリカに入国し、働いています。通常、こうした人は、外交官や企業のエグゼクティブ、国際機関のスタッフの家で働いていることが多いそうです。日本でも、ビザのことはしりませんが、アメリカ大使館のスタッフの家に行くと、フィリピンの女性などが働いています。彼女たちの場合、おそらく外交ビザに類するビザで来日して働いているのでしょう。

一時ビザできているという弱みから、そうした労働者は極めて厳しい条件の下で働いているそうです。なぜなら、もし雇い主との間でトラブルが発生すれば、ビザの更新ができなくなるかもしれないからです。そうした弱い立場を利用して、雇用主は明確な労働条件を決めなかったり、外出を許可しなかったり、家族以外の人と話をするのを禁止したりしているケースが多いそうです。こうした違法労働に対して取締り当局の動きは消極的だそうです。野党主が金持ちで、有力者であるというのも影響しえているのかもしれません。「人身売買」的な扱いを受けている場合もあるそうですが、雇用主を訴える乳母やメイドは極めて少ないとのことです。通常、乳母やメイドの時給は2.14ドルです。1日の労働時間も14時間に達しています。

次が洗濯屋の労働者(laundry worker)」です。アメリカに移民してきて、まず就く職は「クリニング屋」というのは相場です。英語を話せなくても、仕事ができます。クリニング屋ではないですが、最近、アメリカでこんな事件が起きました。デリバリー関係の仕事をしていた中国人がいました。彼は英語がまったく話せなかったそうです。配達に行ったとき、エレベーターが故障して、閉じ込められてしまいました。これもアメリカ的なのでしょうが、エレベーターは修理されず数日放置されていたそうです。しかし、あるとき、ビルで働いている人が、誰かがエレベーター内に閉じ込められているのに気づきました。しかし、その中国人はまったく英語を理解しないために、救出しようにもできなかったということです。最終的に救出されましたが、アメリカでは英語を話せない人は実にたくさんいるのです。で、クリニング屋の店員の賃金は時給8.74ドルと、上に上げた労働者よりは高い賃金をもらっています。というのは、雇用主は労働が組合に加盟しないように脅していますが、組合に加盟する労働者が増えており、賃上げなどを要求してストライキをすることも頻繁にあります。それが、比較的高賃金へと繋がったのでしょう。なお、全米でクリニング店で働く労働者の数は20万人と言われています。

次は売春婦(street prosutitute)」です。通常、セックス産業の労働者は恵まれているそうです。しかし街角に立つ売春婦は、かなり厳しい仕事のようです。まず、危険性が高いことがあります。ある調査では、大半の街頭に立つ売春婦は顧客に1度以上暴行を受けたことのあるとのことです。また、料金を踏み倒されたり、場合によっては殺されるケースもあります。さらに厳ししのは、警察の取締りがあり、逮捕されるかもしれません。そうしたリスクを考えると、街頭に立つ売春婦は決して割りのいい仕事ではないようです。あえて日本語訳はつけませんが「blow job」で20ドルから50ドル、「intercouse」 で50ドルから100ドルだそうです。これが日本の基準と比べて安いのか、高いのかわ分かりません。この仕事で一番いいことは、ウエザースプーン記者によれば、「需要が安定している」ことだそうです。

日本にもあるのでしょうが、アメリカでは「屋根ふき職人(roofer)」というのがあり、それがワースト10の1つに入っています。日本的な感覚では、とび職に近いものかもしれません。この仕事は危険性が高く、転職率が高いそうです。賃金も時給9ドル以下でと低賃金職種の1つになっています。また、この仕事には移民が従事しているケースが多いとのことです。移民の場合、雇用主の賃金不払いなどが多発しています。現在、全米で少なくとも17万人の労働者が働いているそうです。次が「リサイクル工場の労働者」です。これも危険な仕事の1つです。

最後が「イラク戦争に従軍している兵士」です。現在、イラクには14万8000人が派遣されています。既に1882名が戦死し、負傷兵は1万4120名に達しています。この職業に就くと、精神的なトラウマにとらわれることが多いとのことです。身に付ける保護防具は軍隊から支給されず、自腹で支払わなければなりません。良いことは、基地での子供の十分なケアを受けられることくらいだそうです。下級兵士の賃金は、小売業界で働く労働者よりも少ないなど、割の悪い仕事のようです。

同じような「日本で最悪の仕事トップ10」を作るとどうなるのでしょうか。「政治家」がトップに来るかもしれません。

11件のコメント

  1. 狙われる中間層の失意が二極化を加速する
    朝日新聞の「ののちゃん」は総選挙番外編で仲野荘の3人が登場。 いしい氏に限って、…

    トラックバック by Over 40 — 2005年9月14日 @ 15:34

  2. 大変興味深く読みました。アメリカには、「メディケア」「メディケイド」という公的医療保険があると聞きますが、これらの保険は上記の労働者は加入できないのでしょうか。

    コメント by 岡田広行 — 2005年9月15日 @ 22:29

  3. 戦士し→戦死し では無いでしょうか

    コメント by yoshioka — 2005年9月17日 @ 12:02

  4. 2005/9/17
    teiouのがぞ氏に、羅列型ニュースサイトについてアドバイスを頂いた。独自性を打…

    トラックバック by JAMJAM — 2005年9月17日 @ 18:40

  5. アメリカで最悪の仕事トップ10は何か:社会の最下層で働く人たち
    「自動ニュース作成F」さんより。

    日本の場合、どんな順番になるんだろなんて、
    いろいろ考えてたら書き込むのが怖くなっちゃいました。(w
    >アメリカで最悪の仕事トップ10は…

    トラックバック by 小ネタBlog~純情派 — 2005年9月18日 @ 13:16

  6. アメリカで最悪の仕事トップ10
    ハリケーンで自動車が買えなくて逃げることができなかった人たちが注目されていますが…

    トラックバック by ????日坊主な雑記 — 2005年9月19日 @ 08:16

  7. 最悪の仕事ワースト10
    アメリカで最悪の仕事トップ10は何か:社会の最下層で働く人たち 読んでて正直きつかった。 徹夜仕事があるけど、自分の仕事はまだましだなと思えた。 上を見ても、下を見てもきり…

    トラックバック by 霜の降りた屋根 — 2005年9月20日 @ 00:25

  8. 「行くったらいい」→「行ったらいい」?
    「野党主」→「雇い主」?

    コメント by とみた — 2005年9月20日 @ 14:07

  9. これが日本の基準と比べて安いのか、高いのかわ分かりません。

    これが日本の基準と比べて安いのか、高いのか(は)分かりません。

    コメント by Condor — 2005年9月20日 @ 19:38

  10. 差についてこんなのを見つけた
    先日の周囲の出来る人との実力とその所得差についてたわ言を言いましたが、もっと格式…

    トラックバック by 壱四〇-140/マイペース日々是日記 — 2005年12月20日 @ 23:25

  11. [...] 引用元: 中岡望の目からウロコのアメリカ » アメリカで最悪の仕事トップ10は何か:社会の最下層で働く人たち. Previous Post« 「心が躍れば、それはGAMEです。」今年の東京ゲーム [...]

    ピンバック by 中岡望の目からウロコのアメリカ » アメリカで最悪の仕事トップ10は何か:社会の最下層で働く人たち « BlueBerry — 2011年2月22日 @ 14:57

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