中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/1/13 木曜日

見えてきたブッシュ政権の経済政策スタッフ:アラン・ハバードが国家経済会議ディレクターに就任

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第2期ブッシュ政権の人事がほぼ最終段階に差し掛かかりました。社会保障改革、減税、財政赤字といった厳しい経済課題を抱えて第2期ブッシュ政権は出発します。正直いって、ブッシュ政権の経済閣僚は、前のクリントン政権の経済閣僚と比べるとかなり見劣りしました。クリントン政権では、ロバート・ルービン(国家経済会議ディレクターを経て財務長官に就任)やローレンス・サマーズ(財務副長官を経て財務長官に就任)といった超大物が経済政策を立案の中枢にいました。それと比べると、ブッシュ政権では、オニール財務長官は途中で解任され、後任にジョン・スノーが任命されています。また、大統領経済アドバイザーで、国家経済会議ディレクターのローレンス・リンゼーもスノーと時を同じくして解任され、後任にスティーブン・フリードマンが任命されましたが、いずれも見劣りする人事でした。フリードマンは昨年末に辞任し、後任にアラン・ハバードが任命されました。そこで国家経済会議人事に焦点を当てながら第2期ブッシュ政権の経済チームを評価してみることにします。なお、12日のヒット数は6199件でした。

主な経済官僚には、財務長官、商務長官、行政予算局長、経済諮問委員長、国家経済会議ディレクターがいます。今回の一連の人事で商務長官と国家経済会議ディレクターの更迭が決まり、大統領経済諮問委員会委員長の辞任が確実視されています。ここでは財務長官人事と国家経済会議ディレクター人事に焦点を当てて分析します。

前のブログで「スノー財務長官の更迭説が浮上」という内容の記事を書きました。当時の状況から判断すると、そうした憶測が流れても仕方がない状況でした。大手新聞が一斉に「スノー更迭論」を流したのに、ホワイトハウスから何の反応も出てこなかったのです。否定も肯定もしない姿勢から、メディアはブッシュ大統領がスノー長官を支持していないのではないかと判断したのです。大統領選挙では、スノー長官はブッシュ再選に向け懸命の努力をしました。それに報いるためにホワイトハウスはスノー留任を早々と決めると見られていたのですが、かなりの期間、人事は凍結され、その間、マスコミの餌になるなど、スノーは完全に晒し者になっていたのです。

第1期ブッシュ政権では、経済政策はホワイトハウス主導で決まっていて、財務省や財務長官は単に政策のセールスマンに過ぎないと言われていました。要するに、閣内におけるスノー財務長官の地位は、決して高いものではなかったのです。が、スノー自身は留任を望んでおり、屈辱的な状況が続いたにもかかわらず、再任を期待していました。最終的にブッシュ大統領は彼の留任を決めました。だが、今回の留任プロセスを見る限り、スノー長官が第2期ブッシュ政権で大きな影響力を発揮することは期待できないでしょう。

では、国家経済会議ディレクター人事をどう判断すればいいのでしょうか。古巣の金融界に戻るフリードマンの後を継いで任命されたのはアラン・ハバードです。彼は、ブッシュ政権で3人目の経済アドバイザー兼国家経済会議ディレクターになります。最初のディレクターは、2000年の大統領選挙でブッシュの経済アドバイザーを務めたリンゼーで、彼はブッシュ大統領の”側近”と見られていました。だが、2002年末の減税を巡る内部論争に破れ、オニール財務長官と一緒に更迭されたのです。また、リンゼー更迭のもう1つの理由として、彼がマスコミに出すぎることがブッシュ大統領の意向に反したからだとも言われています。ブッシュ大統領は、内部の結束を重視する人物で、スタンドプレーに対して厳しい姿勢と取るといわれています。いずれにせよ、側近の一人と見られていた人物が簡単に解任されたことは、驚きをもって受け止められました。

後任はスティーブン・フリードマンで、大手証券会社ゴールドマン・サックスのスタッフでした。ルービンも同証券会社の会長でしすが、ルービンと比べればフリードマンはいかにも”小物”でした。彼は、リンゼーの失敗を教訓にしたのか、マスコミに対する露出度はまったくといってありませんでした。それは単にマスコミだけの話ではなく、おそらくホワイトハウス内でもあまり実力を持っていなかったのが本当の理由かもしれません。そして、今回、ハバードが後任に指名されたのです。ちなみに国家経済会議ディレクターの人事は上院の承認は必要はないので、この人事は確定した人事です。

ハバードの評価に入る前に、そもそも「国家経済会議(National Economic Council)」とは何かを説明しておく必要があるでしょう。同会議は1993年にクリントン政権で「大統領指令」に基づいて設置されたものです。その役割は、ホワイトハウス内で内外の経済政策の一貫性を維持し、各経済官庁の調整を図り、大統領の基本政策を実現するために政策立案を行なうというものです。安全保障や軍事問題については「国家安全保障会議(NSC)」があります。国家経済会議は、経済政策でNSCと同じ機能を果たすことを期待されたものであり、またクリントン政権の経済政策重視の政策を反映したものでした。同会議の初代ディレクターはロバート・ルービンです。一説では、クリントン大統領が同会議を設置したのは、ルービンを閣僚として受け入れるためであったといわれています。ルービンは実力者であり、クリントン政権の中の経済政策立案で国家経済会議の占める役割は大きかったといわれています。ルービンが財務長官に転出した後、経済学者のローラ・タイソンが後を継ぎます。1997年にタイソンは辞任し大学に戻り、ジェネ・スパーリングが後任に任命されました。

ブッシュ政権では、先に触れたように、リンゼーとフリードマンが国家経済会議ディレクターを務め、6代目のディレクターとしてハバードが任命されたのです。従来のディレクターと比べると、ハバードは異色です。今までディレクターに任命されたのは学者か金融界を代表するような人物でした。だが、ハバードはインディアナ州で小さな会社の経営者で、前任者のような輝かしい経歴は持っていません。会社経営の経験はありますが、大学でちゃんと「経済学」を学んだことはないのです。ただ、詳細に彼の経歴を見てみると、意外な事実が明らかになります。

実はハバードはブッシュ側近グループの一人なのです。それもリンゼーと比べるとはるかにブッシュ大統領に近い人物なのです。ハバードは現在57歳です。バンダービルト大学を卒業後、ハーバード大学経営大学院とハーバード大学法律大学院を卒業しています。ブッシュ大統領はハーバード大学経営大学院で学んでいますが、その時の同級生にハバードでした。ですから二人の付き合いは30年以上に及んでいます。ハバードはブッシュ(父親)政権とも深い関係にありました。まずクエール副大統領の副首席補佐官を務めています。クエール副大統領の首席補佐官は、若い世代のネオコンの代表者であるウィリアム・クリストルでした。その意味では、思想的にもネオコンと近いものがあるかもしれません。また、クエール副大統領が設置した「競争力会議(Competitiveness Council)」のエグゼクティブ・デフィレクターを務め、ブッシュ(父)政権の規制緩和政策の策定にかかわっています。また2000年の大統領選挙ではブッシュ(息子)陣営の最大のファンドライザーの一人で、10万ドル以上の政治献金を集めています。第1期ブッシュ政権が誕生したとき、ハバードはブッシュ政権に参画すると見られていましたが、当時、子供がまだ3歳であることを理由に地元のインディアナ州に留まることを決めています。

その代わりに、彼は、リンゼーや前のブログに書いたチーフ・スピーチライターのマイケル・ガーソンを推挙しているのです。また、ブッシュ政権の大幅減税を推し進めた陰の人物の一人であるとも言われています。また、最近では、ジョン・コーガン・スタンフォード大学教授やグレン・ハバード・コロンビア大学教授などの学者グループを率いて自由市場に基づく健康保険制度改革を提案しています。ですから、学者とのネットワークも持っているのです。保守派のシンクタンクであるハドソン研究所の理事も務めています。

2004年の大統領選挙でもハバードはブッシュ陣営のために20万ドルの献金を集めています。今回の人事は、ハバードの政治献金活動を評価した「論功報奨人事」だと指摘するメディアもあります。確かにブッシュ大統領と共和党の大きな資金源になっていますが、上記のように必ずしも政治に素人とはいえない経歴を持っているのです。また、彼を知る人は、ハバードは政治的な交渉力も持っていると言っています。第2期ブッシュ政権は、厳しい経済政策を迫られることは間違いありません。議会との関係が重要になってきます。フリードマンでは、それは荷に勝ちすぎるのは明白でした。その意味で、ハバードの就任はブッシュ政権にとって望ましい人事であるといえるかも知れません。

国家経済会議は、同会議のスタッフであるチャールズ・バルハウスとケイス・ヘネシーを中心に社会保障制度の抜本改革の検討を重ねています。また、同会議は税制改革のタスクフォースを設置し、7月31日までにスノー財務長官に報告書を提出することになっています。税制改革と社会保障改革はいずれも極めて困難な課題であり、その成否は国家経済会議ディレクターの手腕に掛かっているといっても過言ではないでしょう。

では、ハバードにそれを処理する能力はあるのでしょうか。彼はブッシュ大統領と大学院時代の同級生であり、また父親のブッシュ政権の時のスタッフであり、2度の大統領選挙で最大の政治献金を集めた人物です。多くの関係者は、ハバードはブッシュ大統領に極めて近い人物であると指摘しています。経済政策の中核であるべきスノー財務長官は必ずしもブッシュ側近とはいえないだけに、今まで以上に経済政策はホワイトハウス主導で進んでいく可能性が強いかもしれません。したがって、ハバードの果たす役割は予想以上に大きいかもしれません。単にハバードを「論功報奨」で地位を得た人物と見ていると、全体をミスリードするかもしれません。

最後に、もう一人の経済閣僚である経済諮問委員会のマンキュー委員長に触れておきます。彼が職を辞して、ハーバード大学に復職するというのは、もう既成事実のように語られています。その後任に、バーナンケFRB(連邦準備制度理事会)理事が有力になっていると伝えられています。力のない財務長官、新任の商務長官、新任の経済諮問委員長をいう組み合わせを考えると、ハバードがキーマンになる可能性も否定できません。彼のビジネス界での経験が政策決定過程に反映してくるかも知れません。

閣僚リスト(新任は議会の承認が必要)

司法長官  John Ashcroft (辞任)     Alberto Gonzales (新任)
国防長官  Donald Rumsfeld (留任)
国務長官  Colin Powell (辞任) Condoleezza Rice (新任)
国土安全  Tom Ridge (辞任)   Michael Chertoff (新任)
財務長官  John Snow (留任)
農務長官  Ann Veneman (辞任)      Mike Johanns (新任)
内務長官  Gail Norton (留任)
商務長官  Don Evans (辞任)    Carlos Guitierrez (新任)
労働長官  Elaine Chao (留任)
教育長官  Rod Paige (辞任) Margaret Spelling (新任)
エネルギー Spencer Abraham (辞任)     Sam bodman (新任)
運輸長官  Norman Mineta (留任)
健康    Tommy Thompson (辞任)     Mike Leavitt (新任)
住宅都市  Alphonso Jackson (留任)

ただし、留任でも今後辞任のありうる

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