中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/3/4 金曜日

2008年の大統領選挙は”女の戦い”か:世論調査の結果ではアメリカ国民は女性大統領を望んでいる

Filed under: - nakaoka @ 21:08

前のブログは「利用状況」で特に面白い情報が含まれているわけではありません。そこで、ちょっと軽い感じで今回のブログを書くことにしました。その前に1つ。アメリカを取材旅行中の日本人の新聞記者からメールが届きました。アメリカ取材の前に、同記者にアメリカをどう理解すべきかレクチャーをしました。そのメールには「これまで共和党の関係者やリバタリアンを自称する保守活動家と会いましたが、感じたことは、事前に日本でお話を伺ったなかでも、中岡さんの分析と物の見方が現実に一番近いということでした。改めて感服している次第です」と書かれていました。同じジャーナリストから高い評価をしてもらったことと、少しでも役にたったことを嬉しく思っています。今回のブログは、「2008年の大統領選挙は女の戦いになる」というものです。もちろん、4年後のことは分かりません。最初に名前が挙がった候補者から消えていくということもあります。ただ、アメリカ人の今の感覚を理解するには格好のテーマではないかと思います。ニューヨーク州のシエナ大学(Siena College)がハースト・ニュースペーパーズと共同で行なった調査の結果、多くの国民の多くが女性大統領の誕生を期待しているということが明らかになりました。以下はその詳細と、女性候補者の紹介と分析です

シエナ大学は3月4日と5日に「最初の女性大統領シンポジューム」を開催しました。そのシンポジュームの一環として同大学の調査研究所が新聞コングロマリットのハーストと共同で50州とワシントンDCで登録済み有権者1125名を対象に電話調査を行ないました。4名の著名な政治家(民主党のヒラリー・クリントンとバーバラ・ボクサー、共和党の絵エリザベス・ドールとライス国務長官)を上げ、誰が大統領にふさわしいかを質問したものです。

4名の内、誰が一番支持されているかに答える前に、女性大統領の誕生について聞いています。それによると、回答者の62%が2008年に女性大統領が誕生してもおかしくないと答えています(英語で正確に言うと、United States is ready for a woman president in 2008となります。要するに「女性大統領を迎える準備はできている」ということです)。さらに、その内の81%が「女性大統領候補に投票する」と答えているのです。この回答を見る限り、アメリカ国民には女性大統領に対する抵抗感はまったくないと言っていいようです。男女で見た場合、男性の64%、女性の60%が、女性大統領が誕生しても構わないと答えています。性によって大統領を決める必要はないというのが大勢の意見となっているようです。

さらに、具体的に女性が大統領候補として立候補すべきかどうかという問いに対して、次のような回答となっています。回答者の60%が、女性が民主党の大統領候補になると答えています。また、42%が、女性が民主党の副大統領候補になると答えています。これに対して、18%が、女性が共和党の大統領候補になると答えており、民主党とは対照的な回答になっています。また、28%が、女性が共和党の副大統領候補になると答えています。この回答だけから判断すると、2008年の大統領選挙では、民主党が女性候補を立てる可能性は極めて高いといえます。保守的な共和党は、その可能性は低いですが、それでも18%の人が女性候補者を予想しています。副大統領候補が女性になる可能性は、それよりも高いということになります。

同調査は、4名の人物を挙げて、誰が大統領候補にふさわしいかを聞いています。
まず、民主党ではクリントン上院議員の場合、「大統領候補として出馬すべきである」と答えた人は53%に達しています。逆に「大統領候補として出馬すべきではない」と答えた人は37%であり、この数字からすると、クリントン上院議員が民主党大統領候補になる可能性は極めて高いといえます。もう一人の女性はボクサー上院議員で、「大統領として立候補すべきである」と答えた人は13%、「立候補すべきではない」と答えた人は39%となっています。「分からない」という回答が38%もあったことからすると、ボクサー議員はカリフォルニア州選出の議員で、まだ全国区の知名度がないことを意味しているのでしょう。

では、共和党ではどうでしょうか。ライス国務長官が「大統領候補として立候補すべきだ」と答えた人は42%、「立候補すべきではない」と答えた人は41%と拮抗しています。もう一人のドール上院議員は「立候補すべきである」と答えた人は33%、「立候補すべきではない」と答えた人が48%となっています。この4名の中ではクリントン上院議員に対する期待は極めて強いといえます。

政策面に関する質問があります。まず、男性大統領と女性大統領で政策がどう違ってくるかという質問です。外交政策では女性大統領のほうが男性大統領よりも「良くなる」と答えた人が24%、「悪くなる」と答えたのが11%、「変わらない」と答えたのが52%となっています。これは意外な回答で、通常、戦争や厳しい交渉が必要となる外交政策では男性大統領が良いのではないかと思っていましたが、逆に女性大統領になったほうが外交政策は良くなるという意見の方が多いのです。確かに、外交交渉で女性が代表団となり、タフな交渉を行なってきたのを何度か見ているので、男女で問題にするのはおかしいのかもしれません。それにしても意外な回答であり、敢えて解釈すれば、女性のほうが平和的な政策を取る、ということなのかもしれません。では、3軍の最高司令官としての女性大統領と男性大統領ではどうなのでしょうか。18%の人が「女性大統領のほうが良くなる」と答え、23%が「悪くなる」と答えています。内政政策では、実に67%が「女性大統領になったほうが国内政策は良くなる」と答えています。「悪くなる」と答えたのは、わずか3%に過ぎません。総合的に判断すれば、女性大統領のほうが内政外政ともに「良くなる」という回答のほうが多いのです。

ここでクリントン上院議員とライス国務長官について説明する必要はないでしょう。ただ、多くの読者はボクサー上院議員とドール上院議員についてあまり情報がないでしょうから、良い機会ですから簡単に紹介します。これから頻繁にメディアに名前が出てくるでしょう。

まず、バーバラ・ボクサー(Barbara Boxer)上院議員です。彼女は1940年11月11日にニューヨーク州ブルックリンで生まれています。想像するに決して裕福な家庭ではなかったようです。公立のウインゲート高校を卒業後(通常、金持ちの子弟は私立高校に行きます)、ブルックリン・カレッジに入学しています。これも地元の大学で、有名大学とはいえません。大学での専攻は経済学。1962年に大学を卒業後、証券会社に勤務しています。その後、新聞の編集者として2年間働き、下院議員のスタッフになっています。カリフォルニア州に移り、マリン郡議会に議員に選挙で選ばれています。1983年には民主党全国大会に州代表として出席しています。1983年に下院議員に当選。10年間、下院議員を務めた後、92年に上院議員に当選、98年に再選。2004年の選挙では690万票を獲得し、圧倒的な勝利を収めています。これは上院議員として最高の得票数でした。上院議員の任期は2011年までです。私の記憶に間違いがなければ、夫のドールは「バイアグラ」が発売になったとき、コマーシャルに出て、その効能を説いていたと思います。

民主党の中でもリベラル派に属しています。彼女が提案した法案には「the Feedom of Choice Act of 2004」「the State Drinking Water Act」「the Violence against Women Act」「the Violence againt Children Act」などがあります。興味深いのは確定拠出年金「401(K)」で、退職者を守るために「the 401(k) Pension Act」を提出しいるなど、女性や子供の安全を守ったり、健康のために飲み水の安全基準の設定をしたり、退職者を保護したりと、伝統的な民主党の政策に深くかかわってきています。現在、上院の商業委員会、外交委員会、環境・公共事業委員会に属しています。ライス国務長官の承認は外交委員会で審議されましたが、ボクサー上院議員はライス国務長官に対してイラク戦争を始めた責任を取れと極めて厳しい対応を取りました。またゴンザレス司法長官に対しても、ホワイトハウスの法律顧問としてイラク戦争での虐待を容認したと糾弾しています。また、民主党内での立場も有力です。2004年に民主党上院議員首席副院内幹事に任命されています。

興味深いのは娘の二コールは、1994年にクリントン上院議員の弟(トニー・ロドハム。クリントン上院議員の旧姓はロドハムです)と結婚しています。ただ、二人は2000年に離婚していますが、ボクサー上院議員とクリントン上院議員は姻戚関係にあったのです。

最近、ボクサー上院議員は注目されています。まず、2004年の大統領選挙でのオハイオ州の投票結果が不当であると主張していることです。今でも、それを主張しており、その反対活動は”ボクサー・リベリオン(Boxer Rebellion)”と呼ばれています。”ボクサー・リベリオン”は、1900年の「義和団の乱(Boxer Rebellion)」にかけた表現です。また、カリフォルニア州では彼女の支持者が「Barbara Boxer Rose Campaing」を展開、支持者が薔薇の花を買って、彼女に送る運動を展開。彼女のオフィスには4500本の薔薇の花が届けられたということです。まだ全国区の名前ではありませんが、その経歴はリベラル派をひきつけるには十分に魅力的です。

エリザベス・ドール(Elizabeth Dole)は1936年7月29日にノース・カロライナ州で生まれです。ボクサー上院議員とは対照的な経歴を持っています。大学は名門のデューク大学です。同大学を卒業後、ハーバード大学で1960年に修士号を取り、さらに65年にハーバード大学法律大学院で博士号を取得しています。当時は民主党員でした。66年にワシントンDCに出て、障害者のために働いています。68年に弁護士として独立し、さらにニクソン政権の消費者問題委員会のエグゼクティブ・ディレクターに就任しています。それからニクソン政権に急速に接近、連邦通商委員会(Federal Trade Commission)の委員長に任命されています。そして、75年にそれまでの民主党員から共和党員に変わります。75年に後の共和党大統領候補になるロバート・ドール上院議員と結婚し、それが政界への進出のきっかけになります。ちなみにドール上院議員の2番目の妻です。

レーガン政権のもとで83年から87年まで運輸長官を務めています。さらに、父親のブッシュ政権の時の89年から90年まで労働長官を務めています。夫のドール上院議員は、96年の大統領選挙で共和党の大統領候補として利候補しますが、クリントン大統領に大敗します。彼女は野心家で、2000年の大統領選挙に自ら共和党の大統領予備選挙に立候補しています。ただ、資金不足で実際に予備選挙の投票が始まる前に選挙活動を止めています。そのとき、彼女はブッシュ現大統領とフォーブス候補に次ぐ人気を得たこともありました。2002年の選挙でドールは、元クリントン大統領の首席補佐官であったボールズを破ってノース・カロライナ州の上院議員に当選しています。2004年の選挙で共和党は上院の議席を増やしました。彼女は現在、全国共和党上院委員会(National Repubilican Senatorial Committeeの議長に就任しています。下馬評では、2008年の大統領選挙の大統領候補ではなく、副大統領候補として有力であると見られています。

好き嫌いは別にして、この4名の女性はいずれも魅力的な存在です。おそらく個人的に見れば、男性よりもはるかに魅力的でしょう。イギリスのサッチャー首相で実証されているように、女性の中にも有能な政治家としての資質を持っている人がいます。女性同士で大統領選挙が争われたら、選挙は多いに盛り上がるでしょう。

セクハラだとの批判を受けることを敢えて覚悟していえば、美人度ではボクサーが最も美人でしょう。続いてクリントン、ドール、ライスになるでしょうか。いずれにせよ、ブッシュ大統領、ケリー候補よりははるかに個性的で魅力があることは間違いありません。年齢的には、60代のボクサー、ドール、50代のクリントン、40代のライスですが、それぞれ美しく年を取っているといえます。

最新情報のフォローアップです。共和党の有力な大統領候補と目されているジョン・マッケイン上院議員は、有名なニュース番組のMeet the Press で、「クリントン上院議員は良い大統領になれない」と発言。また、将来、同議員が民主党と強力する可能性があることも示唆しています。同議員は、2000年の共和党大統領予備選挙でブッシュと争い、負けています。

また元ニューヨーク市市長のコッチは、クリントン上院議員支持を明らかにしています。保守系のメディアMaxNewsは、ライス長官を大統領候補にすることを支持する立場を明らかにしています。有名な政治コンサルタントのディック・モリスも、共和党の唯一の大統領候補はライス長官であると発言、さらに2008年の選挙はクリントン対ライスの一騎打ちになると予想しています。

しかし、こうした議論は、まだまだ”お話”の段階で、その実現性を議論するのは早すぎると思います。特に共和党が女性候補を担ぐ可能性は極めて低いでしょう。また、民主党の中にも反クリントンはたくさんいます。中間選挙の結果で政治状況は大きく変わるでしょう。それから本格的な大統領選挙が始まると見ておいてほうがいいでしょう。

3件のコメント

  1. 参考になる情報でした 女の戦いもいいですが強い男が登場というのはないのでしょうか

    コメント by 星の王子様 — 2005年3月8日 @ 05:19

  2. 秘書まで立ち上がらなければならない拉致問題の現状
     日高義樹氏による新著「二〇〇五年、ブッシュは何をやるのか―日本はどう生き残る」読了。「ニクソン大統領就任以来、選挙結果の予想を一度も外したことがない」という筆者が、去…

    トラックバック by log — 2005年3月8日 @ 17:19

  3. 2008年の大統領選挙は”女の戦い”か:世論調査の結果ではアメリカ国民は女性大統領を望んでいる
    中岡望の目からウロコのアメリカ 2008年の大統領選挙は”女の戦い”か:世論調査の結果ではアメリカ国民は女性大統領を望んでいる

    トラックバック by twilightpeasantry — 2005年5月3日 @ 15:26

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