中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/4/1 金曜日

ホワイトハウスで初めて記者証を得たブロガーの物語

Filed under: - nakaoka @ 11:32

アメリカのジャーナリズムの世界ではブロガーが着実に市民権を得つつあります。主要な新聞や雑誌は例外なくブロガーの主張を紹介する欄を設けています。本ブログでも10月15日に「大統領選挙の分析:大統領選挙は情報戦争」と題して、大統領候補の公開討論会で両党のブロガーがいかに重要な役割を果たしたのかを紹介しました。伝統的なメディアから差別されてきたブロガーですが、3月9日にホワイトハウスは初めてブロガーに記者証を発行し、ホワイトハウスでの取材を許可したのです。これはブロガーがジャーナリズムとして初めて認知された重要な出来事といえるかもしれません。今回のブログでは、どのようにしてブロガーがホワイトハウス記者証を得たのかについて書きます。それと同時に、私のブログの「3月の利用状況」をご連絡します。3月もブログのヒット数の増加は続き、3月29日には1日のヒット件数が7401件と過去最高を記録しました。3月月間では、ヒット件数は17万030件(2月は12万9332件)と大幅に増えました。本ブログでは「英語のブログ用語集」を付録として掲載します。最初のテーマの「ブロガー」の記事が長くなってしまいましたので、「3月のヒット状況」の詳細は次回に書きます。

まず個人的な経験から。1985年にソウルでIMF世銀の年次総会が開催されました。これは韓国にとってオリンピックと並ぶ重要な出来事でした。ヒルトンホテルで総会は開催され、南北朝鮮の緊張状態が高まっているときで、ホテル周辺に銃を抱えた兵士が警護にあたっていました。その側を通るときの威圧感は、例えようのないものでした。2003年にニューヨークに行ったとき、ちょうどテロ警戒警報が「オレンジ」で、マンハッタンは厳戒体制に置かれていました。ここでもソウルと同じように街角の武装した兵士が配置されていました。が、ソウルで感じたような緊張感はありませんでした。ロックフェラーセンターでは、兵士たちは観光客と一緒に写真を撮っていました。

やや、本題からそれましたが、ソウルでのIMF世銀総会を取材しているとき、大蔵省の記者クラブである財研が毎日夜に財務官の大場氏を囲む懇談会を開いていることを知りました。大場氏とは面識があり、その懇談会に出席していいかと彼に聞いたところ、「記者クラブの許可を得てくれ」といわれ、幹事の通信社の担当者のところに行き、了解を得て、懇談会に出席しました。懇談会は、ホテルのロビーの一角を借り切って行なわれていました。そこで、お酒を飲みながらインフォーマルな会話が行なわれ、記者たちが原稿を書く材料を入手するのです。正直、その懇談会に出席して話を聞いていても面白くなく、1度出席して行くのを止めてしまいました。

もう1つのエピソード。ベーカー財務長官が来日したとき、アメリカ大使館の招待でパーティに呼ばれました。パーティ会場では長官を囲んで雑談が行なわれ、そこで彼の写真を撮って、『週刊東洋経済』のグラビアに使いました。通常のパーティでした。ただ、会場の一角にロープが張られ、そこには同伴記者(それについてはライス国務長官の上智大学での講演でも触れましたので、参照してください)が陣取っていました。パーティが進むうちに、大使館のスタッフがやってきて、ロープの向こう側に行くように言われました。パーティには招待されているので、ロープの向こう側に行くのは変だと感じて理由を聞いたら、同伴記者団がジャーナリストがパーティの会場の中にいるのは困るとのクレームが出たからということでした。要するに、長官に接近できない同行記者団の嫉妬から、招待さらたジャーナリストは会場から排除されたのです。

日本では記者クラブ制度がいろいろ問題になります。たとえば、週刊誌の記者や外人記者は「記者クラブ」のメンバーになれません。今は知りませんが、以前は、記者クラブの維持経費は役所などが負担していました。記者クラブの”閉鎖性”がよく問題になります。が、それは程度の差はあれ、アメリカでも同じです。アメリカでも記者証を得るのは容易ではありません。ましてや伝統的なメディアでない新興メディアの場合、なおさらです。

3月9日、ホワイトハウスは「FishbowlDC」とブログの記者ガレット・グラフ(Garrett Graff)に記者証を発行し、ホワイトハウスで行なわれる記者会見へ出席することを認めたのです。ホワイトハウスのマクレラン報道官は「彼はホワイトハウスが最初に記者証を発行したブロガーである」と言っています。実は、グラフが記者証を得るのは簡単ではありませんでした。まず、前段階として「ジェフ・ギャノン・スキャンダル」があり、ホワイトハウスと記者団の間でジャーナリストの定義を巡る議論がありました。このスキャンダルは、ジェームズ・ガッカートという人物が『Talon News』のワシントン支局長ジェフ・ギャノンという偽名で記者証を得てホワイトハウスの記者会見に出席し、2年間にわたって共和党系のブログに記事を書いていたのです。特に最近、彼がブッシュ大統領に意図的に共和党に有利な質問をしたり、民主党に批判的な質問などをしていたことから、リベラル派のブロガーが彼を問題にし始めたことが発端となり、スキャンダルに発展したのです。

そんな中で23歳の若いブロガーのガレット・グラフがホワイトハウスに記者証を発行するように電話したのです。彼の働くブログのFishbowDCは、ワシントンの記者の動向をテーマに情報を提供しているブログです。ホワイトハウスは、彼の依頼を無視し続けました。グラフはホワイトハウスに20回も電話をかけましたが、埒があきませんでした。その状況を、他のブログが取り上げて書き、FishbowlDCのヒット件数は10倍増えるという副産物もありました。しかし、ホワイトハウスは、彼の要請をまともに受け止めませんでした。

そんな中で、大手新聞『USA Today』紙が、この問題を取り上げたのです。さらに、CNNが続き、グラフのホワイトハウス記者証発行問題が全国的な問題となったのです。さらに、ホワイトハウス記者会(the White House Correspondents Association)のロン・ハッチンソン会長も、ホワイトハウスのプレス・オフィスに対して問題を提起したのです。この問題の波紋が大きくなるにつれて、ホワイトハウスも重い腰を上げます。マクレラン報道官は記者団と会い、「これは記者団のブリーフィング・ルーム(記者会見場)であり、もし(ジャーナリズムについて)新しい線を引くのであれば、記者会で行なうべきである」と発言、ブロガーに記者証を発行するかどうかは、記者会で決めてくれと下駄を預けたのです。そして最終的に、フラグにホワイトハウス記者証が発行されることになりました。

同じことが日本で起こっても、おそらく日本の記者クラブは、決してブロガーを記者クラブのメンバーには受け入れないでしょう。また、日本では、ブロガーの地位が確立しているとはいえないのも事実です。私の経験からいっても、多くのブロガーと称する人は匿名で記事を書いています(またブロガーの大半は趣味的な原稿を書いているのが実情です)。本当のジャーナリズムとして主張するのであれば、匿名性は排除されるべきでしょう。特にブログの場合は、内容をチェックする仕組みができているわけではありません。通常のメディアでは、内部の編集プロセスなどを通して、内容のチェックが行なわれますが、ブログの場合の情報の信憑性に関する問題は残ります。そのためにも、ジャーナリズムを標榜する限りは、匿名性は排除されるべきでしょう。

今回のエピソードには、もう1つの情報があります。グラフは、ハーバード大学を卒業し、大学新聞『クリムゾン』紙の編集者であり、ある程度の個人的な信頼があったこと、彼の父親クリストファー・グラフはAP通信のバーモント支局長であり、祖父のバート・マッコードは『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』紙に寄稿する演劇評論家であることもプラスに作用したと言われています。また、彼は大統領選挙ではハワード・ディーンの選挙運動に参加しています。

グラフが最初にホワイトハウスの記者会見に出席し、会見が終ったあと、マクレラン報道官は彼を自分の部屋に招き、談笑しています。また、彼がホワイトハウスの印象についてブログに次のように書いています。「Our first impression this morning? As glamorous as the best itself may be, there’s little glamour to be found in the briefing room」。読者の皆さんが訳してみてください。また、記者会見が行なわれる「ブラディ・ルーム」について、「狭苦しくて、今にも壊れそうだ」という印象を語っています。アメリカでは建物や部屋に個人の名前をつけることが普通ですが、この「ブラディ・ルーム」もレーガン大統領の時の報道官の名前で、大統領の暗殺未遂の時に被弾した人物です。

ブログの簡単な歴史と基本用語
・「ブログ」は「Web log」から作られた用語ですが、これは「1997年にJorn Bargerによって作られました
・2002年にトレント・ロッテ上院議員は、ブロガーに人種差別論者だと批判されたことで辞任に追い込まれました
・大統領選挙でハワード・ディーンとウエスリー・クラークはブログを選挙ツールとして積極的に活用しました

Aggregator:毎日大量に書かれるブログ記事を定期的にチェックし、その結果を表示するソフトのこと。通常、最も新しいリンクを表示し、他のブロガーがすぐにキャッチ・アップし、コメントできるようにする機能を持つ。

Blogbox:MIT(マサチューセッツ工科大学)のプロジェクトで、どのブログがリンクされているか、どのように情報がトラックキングされているかを示す。ブログボックスで高いランクされたブログは、どれだけのヒットがあるかを示す指標となる。

Bloggerati:これはブロッガーの中で歴史があり、質の高いビッグ・ネームのブロッガーのこと。

Blogroll:他のブログへのリンク表のこと。

Dowdification:引用文から単語や用語を削除し、引用した文章の内容を自分の都合の良いように変えてしまう行為のこと。この用語は『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者Maureen Dowdから来たものである。

Fisking:ブログの内容をことこまかく検討し、その内容に反対であることを示す行為のこと。この言葉はジャーナリストのRobert Fiskから来ているが、彼の記事はwarbloggerと称される人によって改作されてことが語源。

Moblog:コンピュータではなく、携帯電話などを通して作成されるウエブロッグのこと。

Photoblog:主に写真で構成されるブログのこと。

Ping:メッセージを送り、その返信を待って特定のIPアドレスにアクセス可能かどうかを知る方法。ブロッガーはpingを利用して、ブログ・トラッキング・サービスで自分のウエブロッグが更新されているかを調べることができる。

RSS:「RDF Site Summary」の略。RDFは「Resource Description Framework」の略。ブロガーが自分のブログの内容を配信するために利用しているフォーマットである。

Weblog:ウエブロッグは、各ページに掲載された幾つかの記事や情報で構成されている。情報や記事は逆時系列(新しいものが最初)で配列されているのが普通。そのほかに、リンクやコメント、カレンダー、コメントなどの情報も記載されていることがある。

Warblogger :D ave Winerが作った言葉で、9月11日の連続テロ事件に影響されてブログを始めた人。

私がブログを始めたのは昨年の10月ですから、やっと半年に過ぎません。あまりブログのことも知らずに、ただジャーナリストとして情報をメモ代わりに整理するために、主にこのブログを使ってきました。多くのブログは”感想文”的なものが多いのですが、私は基本的に情報を提供することで、おのずと自分の立場を語ってきました。通常のメディアでは「一人称」で記事を書くことはできません。が、ここでは「私は・・・」と書くことができます。声高に主義主張を唱えるのではなく、情報を発掘し、それを冷静に分析していくことが、本ブログの基本姿勢です。日本でも、いつの日にか、首相記者会見で若いブロガーが大手メディアの記者と対等に質問できる日がくればと思っています。そのためには、”ゴシップ・ブログ”を脱して、自己を規律する訓練と経験が必要でしょう。本当のジャーナリストは声高に自己主張するのではなく、「事実に語らせる」ものです。

同時に、グラフがホワイトハウスの記者証を得る際に、ホワイトハウス記者会が積極的な役割を果たし、またマクレラン報道官が、ブロガーをジャーナリストとして認めるかどうかは記者が決めるべきであると答えたような成熟した状況がいつの日にか、日本のメディア業界でも見られるようになることを祈っています。

5件のコメント

  1. 色々参考になりました。トラックバックさせてもらいます。

    ジャーナリストがブログを行うケースはありますが。近い将来、ジャーナリストとして活動する際、前段階としてブロガーとして経験を踏むケースが考えられると思います。「ブログジャーナリスト」というのが確立するような気がします。

    ブログを踏み台として使うかは各人の意向によりますが。

    コメント by asami+ — 2005年4月9日 @ 02:13

  2. ブログがテレビニュースを駆逐する?
    「News23」の特集、途中まで音声のみ聴いてたので大雑把しか分からなかったけど、それを踏まえて書いてみることに。(23で取り上げてたテーマから脱線してますが)

    ブログがメディアに…

    トラックバック by どこで暮らしてますか? — 2005年4月9日 @ 02:19

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    大久保麻梨子,映画で初濡れ場!「官能小説~愛憎編~」 タレントの大久保麻梨子(22)と浜田翔子(21)が共演した映画「官能小説~愛憎編~」のDVD発売記念イベントが2日、都内で行われた。 撮影でラブホテルに初めて行ったという大久保は「お風呂がぴかぴか光って…

    トラックバック by 大久保麻梨子ブログ — 2007年9月3日 @ 11:54

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    ピンバック by Ermanii’s memo-random — 2009年4月23日 @ 16:51

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    ピンバック by web2.0 –∫€cƒƒ潟‚ « Ermanii’s memo-random — 2009年4月28日 @ 19:22

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