中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/10/29 金曜日

SECのヘッジファンド規制の狙い

Filed under: - nakaoka @ 0:14

SEC(証券取引委員会)がヘッジファンド規制を決定しました。本原稿は、8月に執筆したものですが、SECのヘッジファンド規制の狙いを理解するうえで役に立つものです。やや情報的に古い部分もありますが、SECの基本的な考え方、具体的な規制を理解するうえで役にたつものです。執筆時点から最小限の加筆をしたものです。

ヘッジ・ファンドについて幾つかのニュースがあります。まず、カリスマ的なヘッジ・ファンド・マネジャーであるジョージ・ソロスの2004年の年収が七・五億ドルと前年比で倍増となったことです。また年収上位25名のマネジャーの平均年収も前年の1.1億ドルから2.07億ドルへと、ソロス同様に倍増していことです。もう一つのニュースは、2004年上半期に組成されて新規のヘッジ・ファンドは120億ドルと過去最高を記録したことです。

こうしたヘッジ・ファンド・マネジャーの活躍やヘッジ・ファンドの運用資産の急増の背景には、低金利や株式市場の低迷で投資リターンが急激に低下したことがあります。そのため投資家は、従来以上に“ハイリスク・ハイリターン”のヘッジ・ファンド資金をへシフトしているのです。ヘッジ・ファンドに関する公的な統計は存在していませんが、運用資産は2000年末の約4000億ドルから最近では8500億ドルから1兆ドルにまで増えていると推定されています。その額は3年以内に2兆ドルに達するという予想もあります。また、ヘッジ・ファンドの数は現在8000を越えると推測され、93年比で実に15倍となっているのです。

こうしたヘッジ・ファンドの急増は、様々な問題を引き起こしています。一つは、ヘッジ・ファンドによる資金集め競争が激化していることです。それと同時に優れたファンド・マネジャーの数が不足し、ファンド・マネジャーの質が悪化していることです。それに加え高収益の投資機会の減少もあり、ヘッジ・ファンドのリターン(利回り)が低下していることです。従来、グロス(手数料控除前)のリターンが20%というのは普通でしたが、最近では10%程度にまで低下していると言われています。

こうした厳しい状況を反映して、ヘッジ・ファンドのマネジャーはファンドの資産やパフォーマンスを水増したり、ミューチャル・ファンド(投資信託)を使って不正な取引を行なうケースが増えているのです。すなわちヘッジファンドの資産評価やパフォーマンス評価の基準が曖昧なため、資産やリターンを過大に評価したり、不当な手数料を得る不正行為が頻繁に行なわれているのです。SECのスタッフが確認しただけで約40のファンドが不正を行なっていたことが明らかになっています。

ヘッジ・ファンドの最大の特徴は、投資家が富裕層に限定されていることです。今までの基準では、純資産が100万ドル以上あり、年収が少なくとも2年以上にわたって20万ドル以上の投資家しかヘッジファンドに投資できませんでした。また、最低投資額も10万ドルから20万ドルが普通で、リスクに耐えることができる金持ちの運用資産でした。また、ヘッジ・ファンドは投資家の数も99名以下でなければなりませんでした。その意味で、ヘッジ・ファンドの投資家は“一般投資家”でないく、ミューチャル・ファンドのような厳しい規制が科せられておらず、ファンド・マネジャーが自由に資産を運用することができたのです。その“秘密性”が、所得の源泉を明かされることを嫌う富裕層にとってもうヘッジファンドの大きな魅力になってきたのです。

ただ、2002年以降、中産階層の投資家を対象とする「ファンド・オブ・ヘッジ・ファンズ」が急速に増えています。このファンドの場合、最低投資額は5万ドル程度で、実質的に一般投資家向けのミューチャル・ファンドと変わらなくなってきています。ヘッジ・ファンド市場が“マス・アフリュエント・マーケット(大衆的な富裕市場)”になっているのです。このことは、ヘッジ・ファンドに投資する投資家の保護が必要になってきていることを意味しています。

さらに、最近、年金ファンドが運用先としてヘッジ・ファンドを積極的に利用し始めていることがあります。その結果、ヘッジ・ファンドが破綻すれば、年金ファンドも破綻する危険性が高まっているのです。それに留まらず、大型のヘッジ・ファンドが破綻すると、金融市場に壊滅的な影響を与えかねない状況になっています。1998年に起こった大手ヘッジファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメントの破綻が、その金融市場に与える影響の深刻さを端的に示しています。ヘッジ・ファンドは、もはや「富裕層向けファンド」として当局の規制外に置いておくわけにはいかなくなってきているのです。

こうした状況の変化を受けて、SECはヘッジ・ファンドの規制導入に乗り出したのです。7月14日にSECはヘッジ・ファンド規制導入の提案を承認しました。5名の委員のうちドナルドソン委員長と民主党系の委員2名の3三名の委員が規制導入の提案に賛成したのに対し、共和党系の2名の委員が反対に回りました。ちなみにドナルドソンSEC委員長は、共和党系の人物です。

SECが真っ二つに割れる票決となりましたが、この決定によってヘッジ・ファンド規制導入の動きが始まったのです。手続き的には、提案後60日にわたって公聴会開催され、関係者の意見聴取が行なわれ、最終的に規制を行なうべきかどうかの決定が行なわれます。もし順調に進めば秋口にはヘッジファンド規制導入が決まることになる化も知れません。ただ、SEC委員の中に根強い反対論があるうえ、ヘッジ・ファンド業界も反対の立場を取っており、すんなりヘッジファン規制が決まるかどうかは流動的です(10月26日に決定された)。

SECが提案しているヘッジ・ファンド規制の具体的な内容は、ファンド・マネジャーにSECへの登録を義務付けるというものです。また、当局が定期的な監査を行なうためにヘッジファンドに対して運用関連の資料を提供することも求めることができます。同案によれば、規制対象となるヘッジ・ファンドは、運用資産が2500万ドル以上で、投資家の数が15名以上のものとなっています。したがって、ヘッジ・ファンドがすべて規制の対象になるわけではありません。その他の規制として、独立した法令遵守担当役員を設置することも求めています。

ドナルドソン委員長は従来から、当局はヘッジ・ファンドを放置してきたと主張していました。しかし、ヘッジ・ファンドの影響力が大きくなり、その実態を知るために情報収集が必要であると、ヘッジファンドの規制導入の目的を説明しています。従来のような“機密性”よりも、“透明性”が重要であるということである。ヘッジ・ファンド規制導入の法的根拠として「一九四〇年投資顧問法」を上げているます。

こうした規制導入の動きに対してヘッジ・ファンド業界は、登録制度導入は5万ドルから10万ドルのコスト負担増になると反論しています。さらに、既に大手ヘッジ・ファンドのマネジャーの40%は州当局に登録しており、新たな登録制度は必要ないと主張しています。さらに既にヘッジ・ファンド・マネジャーの登録制度を導入しているCFTC(商品先物委員会)は、逆に規制緩和の方針を打ち出しており、新たにSECが規制導入を行なう必然性があるのかどうか疑問を提起しています。

また、反対論者は、登録制度で不正行為を防止することはできないと主張しています。ヘッジ・ファンドの定期的な監査を行なうには、SECのスタッフの数や予算が少なすぎるというテクニカルな観点から実行は難しいとの声も聞かれます。

7月20日の上院銀行委員会の公聴会でグリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)議長は「DECがリスク監査によってイレギュラーな取引を発見したとしても、それは業界特有なものです。銀行業界では大半の不正は同業者の告発によって明らかにされており、同じことがヘッジ・ファンド業界でもいえます」と、SECの不正防止の目的は規制導入によって達成することはできないと、否定的な証言を行なっています。さらに同FRB議長は、ヘッジ・ファンドは市場に流動性を供給する役割を果たしており、規制導入はそうした機能を阻害する可能性があると指摘しています。

最終的にヘッジファンド規制がどのような形になるか予断できませんが、ヘッジ・ファンドが富裕層の投資対象だけでなくなっていることは事実であり、なんらかの規制が導入されるのは避けられないでしょう。

1件のコメント

  1. free online poker
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    トラックバック by free online poker — 2005年2月22日 @ 00:30

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