中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/4/9 土曜日

ボルトンの上院での国連大使承認を巡る最後の攻防:アメリカの政治の現実と日本への教訓

Filed under: - nakaoka @ 19:00

本ブログで「国連改革」とボルトン国務次官の「国連大使指名」について何度も書いてきました。4月7日と8日に上院外交委員会でのボルトン指名の承認に関する公聴会が開かれる予定でした。だが、ヨハネ・パウロ2世の葬儀に外交委員会の委員が出席することになったために、延長になりました。早ければ週明けの4月11日から開催されることになりますが、承認を巡って賛成派と反対派の動きが急になっています。アメリカのメディアの多くは、ボルトンが国連大使として承認されるかどうか最終段階に至っても不透明であると報道しています。議会での、政府高官の承認手続きは、日本と違って非常に興味深いものがあります。そこで、直近の外交委員会の状況と反対派、賛成派の動向、ボルトン承認を巡る議論を通してアメリカの政治の仕組みの一端を説明することにします。

ボルトンの国連大使承認を支持する保守派の組織から次のようなメールが届きました。少し長くなりますが、以下に紹介します。

「『私はプロ・アメリカンである』・・・その言葉は、できるだけアメリカの利権を守り、世界の守護神というよりもアメリカの擁護者として自分を見ているということを意味する。それは素晴らしい響きを持っているではないか。もしアメリカの国連大使がそうした発言をする人物であれば、さらに素晴らしいことである」

「もしブッシュ大統領が指名したジョン・ボルトンが上院で承認されれば、まさに私たちが願っていることが実現するkことになる。自分がプロ・アメリカンであるという発言をした人物こそ、ボルトン次官に他ならないからだ。ブッシュ大統領は、その彼を国連大使に任命したのである」

「しかし、今、何が起こっているのか考えてみて欲しい。上院のリベラル派や、世界政府を主張する”Citizens for Global Solutions”(現在の名称は”World Federalist Association”)や、ジョージ・ソロスがスポンサーの”Open Society Policy Center”、”American Progress Fund”が、ボルトンの指名を阻止するためにありとあらゆる手段を講じているのである」

「ブッシュ大統領は確固たるプロ・アメリカンの愛国者を反米に満ちた国連の大使に指名したのである。しかし、左派は彼の承認を阻止しようとしている。さらに悪いことに、その阻止に成功しそうなのである。正義のために立ち上がり、上院議員に反米の左派と対決し、ブッシュ大統領が指名した保守派のボルトンを支持するように要求できるかどうかは、皆さんと、アメリカの何百万の愛国者である私たちの肩に掛かっているのである。私たちの声が上院議員に届くために、彼らが無視できないほど多数のメールを各上院議員に送りつけようではないか。私たちは、それをしなければならないのである」

「上院はボルトンの指名に関する公聴会を次週開催する予定である。議員たちに”今日”、私たちの声を聞かせなければならない。国連の安全保障理事会にアメリカの声を反映されるためにはボルトンのような人物が必要であることを上院議員に分からせることが急務なのである。今すぐに上院議員に大量のファックスを送りつけることができる。それによって、議員らにボルトンの指名を支持するように要求することができるのである。上院をファックスの洪水で埋め尽くす必要がある。私たちが、上院議員たちにジョージ・ソロスや過激派の左派国際主義者に反対するために立ち上がって欲しいことを知ってもらう必要がある」

「5名の元国務長官が、上院にボルトンを承認するように求めている。ジェス・ヘルムズ(Jesse Helms)元上院議員は
『ジョン・ボルトンはハルマゲドン(善と悪の最後の大決戦)の時に一緒にいたい種類の人物である』と語っている。ボルトンが私たちの支持を必要とし、アメリカが彼を必要としている今、彼と共に立ち上がらなければ、一体、いつ立ち上がることができるのか。今日、上院議員にファックスを送ろう」。

こうした文章の中で「ハルマゲドン」という言葉が出てくるのは日本人には理解しにくいが、実はレーガン大統領など有力な政治家などは「ハルマゲドン」を信じているのです(拙著「アメリカ保守革命」を参照)

ボルトンを支持する5名の元国務長官とは、ジェームズ・ベーカー、ローレンス・イーグルバーガー、アレキサンダー・ヘイグ、ヘンリー・キッシンジャー、チャールズ・シュルツで、彼らは連名で上院外交委員会委員長のリチャード・ルーガー議員にボルトンを国連大使として承認するように書簡を送っています。これとは逆に、59名の元外交官が「ボルトンは国連大使のポストにふさわしくない」という内容の書簡をルーガー委員長に送っています。署名者の名前を幾人か挙げると、元フランス大使のアーサー・ハートマン、元国連副大使のジェームズ・レオナード、元南アフリカ大使のプリンストン・ライマンなどです。

ボルトンの承認に危機感を感じた保守派グループは、積極的な支持運動を展開しています。たとえば”Citizens for Global Solutions”は、まだ態度を明確にしていない共和党のリンカーン・シャフィー(Lincoln Chafee)上院議員の地盤であるロードアイランドで大量の資金を投入してフォックス・ニュース、NBC、CBSというテレビ局に加え2つのラジオ局でボルトンを国連大使として承認することに反対する広告を流しています。また、「www.stopbomton.org」というウエブサイトを作って反対運動を展開しています。ロードアイランドは民主党が強い選挙区で、共和党のシャフィー議員は来年の中間選挙で改選を迎え、民主党から強力な候補者が立候補すると見られるだけに、選挙区の動向に神経質になっています。また、彼は従来からブッシュ政権の外交政策に批判的でした。同上院議員のスポークスマンは、選挙区から500通の電子メールが届いたが、ボルトンを支持するものは10本もなかったと話しています。

上院外交委員会の委員は、共和党が10名、民主党が8名で構成されています。シャフィー議員は与党共和党の議員であるにもかかわらず、もしボルトンに反対票を投じると、票決は9対9になり、ボルトンの承認は実現しないことになります。また上院本会議でも共和党が多数派を占めていますが、2002年にボルトンが国務次官に承認されるときの票決は57対43でした。その時、1人の民主党議員は賛成票を投じています。現在の上院議席の数は、共和党55議席、民主党44議席、無党派1議席です。無党派の1議席(バートント選出のジェームズ・ジェフォーズ議員)は、投票では民主党と同じ行動を取っているので、反対票と見られます。ただ民主党議員の中には、大統領の指名は原則として支持すべきだと主張する議員もいます。議会の中では民主党と共和党の一部にはボルトンに対する強いアレルギーがあるのも事実です。たとえば、民主党上院の幹事のハリー・レイド(Harry Reid)議員は「ボルトンの指名は失望している。それはすべての人に間違ったシグナルを送ることになるだろう」と述べています。

シャフィー議員が外交委員会のキャスティンブ・ボートを握っているのは明らかです。そのため、ライス国務長官はボルトンを国連大使に指名したという発表を行なってすぐにボルトンを伴って同議員を訪問し、支持を要請しています。ただ、複数のメディアの報道を総合すると、同議員はまだ方針を明確にしていないようです。また、同議員は外交委員会の票決の前にボルトンと直接面接する意向でもあるとも言われています。

公聴会の最初の日にボルトンが証言することになりますが、2日目はボルトン承認に反対する証言が予定されています。国務省とCIAの元高官が、反対証言を行なう予定になっています。その際の最大の反対理由は、ボルトンが国務次官として正規のルートを通さないで機密情報を入手し、それを国務省内で自分の主張を有利にするために使ったということや、自分に反対する国務省スタッフの会議への出席を阻止したり、辞任を迫るなどの行為があったということのようです。もし、反対証言が票決に大きな影響を及ぼす可能性があれば、ボルトンは再度、証言する機会が与えられることになるでしょう。

もし票決が9対9になったらどうなるのでしょうか。指名は承認されないことになります。が、外交委員会は「推薦なしの第2次決議(the second resolution without possitive recommendation)」を上院総会に提出することになります。これを受けて上院総会で投票が行なわれます。上院では共和党が多数派を占めており、仮に数人の共和党議員が反対に回ったとしても可決されることになるでしょう。したがって、最終的にボルトン国連大使は誕生することになると見ていて間違いないでしょう。ただ、外交委員会で承認が否決されれば、話は別です。

では、なぜここまでボルトンは反対されるのでしょうか。国務次官としての彼の言動を見れば、彼が国連などの国際機関を軽視してきたのは明白だからです。彼の国連に対する考えについては、1994年にニューヨークで行なわれた「Global Security Structures Convention」での発言がよく引き合いに出されます。彼は次のように語っています。「私の議論の出発点は国連が存在しないということだ。アメリカの利益に適い、世界で唯一の強国すなわちアメリカが指導することができるようなものが国際社会である。国連が独自に機能する組織であると考えるのは間違いである」「国際連盟はアメリカが参加しなかったから失敗した。もしアメリカが参加しなかったら、国連も失敗していただろう。アメリカが国連に働いて欲しいと思うとき、アメリカが国連に働かせることができるのである。国連はそうした組織であるべきなのである」。さらに一番有名な発言は「国連の38階建てのビルのうち10階がなくなっても、何も変わらないだろう」というのがあります。要するに、国連は機能していない無駄な長物だということです。この発言は94年のものですが、ボルトンの国務次官としての活動やその後の発言も、同じ内容であることからみると、この発言は彼の”本音”ということになるでしょう。

国連を重視しない人物が国連大使になるということはどういうことなのか、というのが反対者の主張です。また、ブッシュ第2期政権が「一国主義」を脱し、外交政策を重視するのなら、ボルトンを国連大使にするのは”間違ったシグナル”を海外に送ることになるというわけです。しかし、2002年の国務次官承認のとき、ボルトンは次のように言っています。「I have actually changed my mind from time to time(私は状況に応じて考えを変えてきた)」。今回、彼は公聴会で民主党議員の質問にどう答えるのでしょうか。Cituzens for Global Solutionsのチャールズ・ブラウン会長は「ボルトンはアメリカが国連へ公平な拠出をすることを反対した。彼は同盟関係を構築するために国連を利用することに反対した。ボルトンは国連でアメリカを代表するには信頼性と外交経験に欠けている」と批判しています。そして「 効果的な国連を構築するという点に関しては、ボルトンは破壊の専門家であって、構築者ではない」と決め付けています。ただ、だからといってボルトンに反対している人々が、国連を高く評価し、多国籍主義者であるというわけではありません。ブラウン会長は「ボルトンに反対しているのは、国連を守るためではない。むしろアメリカの国益を守るためである」と語っています。

その一方で、ブッシュ政権は国連改革で指導力を発揮するには、強力な人物を国連に送り込むべきであるという主張もあります。それによってアメリカの国益が守られるからです。イラク戦争で国連を操れなかったことに対する反省もあるようです。また、現在、ヨーロッパが指導権を握って交渉を行なっているイラン問題や、6カ国協議で交渉が行なわれている北朝鮮問題も、いずれは国連の安保理事会に持ち込まれるという見方がブッシュ政権の中にあります。そのとき、強力な国連大使を置いておくことはブッシュ政権にとって絶対必要なことというのが、賛成派の意見です。また、国連改革もアメリカ主導で行なうべきだという強い意見もあります。3月に発表されたアナン事務総長の国連改革案も、実質的にアメリカ政府が書いたといわれています。「アメリカの国益を代表する」という意味では、ボルトンは”最適な人物”ということになるのでしょう。ライス国務長官は「歴史が示すようにアメリカの最善の国連大使は最も強力な発言力を持つ人物であり、それはカークパトリックやモイニハンのような人物である」と語り、ボルトンがそうした人物に匹敵すると語っています。

ボルトンは、今や保守派の代表者のようになっています。たとえば、American Conservative Union の創設50周年の会合でヘッド・テーブルに座った最初の外交官であり、同組織は彼のことを”movement conservative(行動する保守派)”と呼んでいます。ボルトンが国務副長官の座をゼーリックに奪われたとき、保守派の指導者は大統領副首席補佐官のカール・ローブにボルトンのためにポストを確保するように要請しています。ローブがボルトンの国連大使指名に動いたとの観測もあります。それほど保守派の信頼が強い人物なのです。ただ、ライス国務長官が同人事を示唆したというのが事実のようです。前のダンフォース国連大使はメディア受けが良く、どちらかといえばリベラル派に近い存在でした。イラクの石油・食糧品プログラム(前のブログを参照)で、アナン事務総長に信任投票したのはダンフォース大使で、これはパウエル国務長官の了解なしで行なわれたものでした。ちなみに外交政策の面で、ボルトンが大きな影響を受けているのはジェームズ・ベーカー元国務長官(レーガン政権のとき)だといわれています。とすれば、ボルトンの考えは共和党主流派に近いことになりますが、これに関しては議論があるところです。

ボルトンの国連大使就任を支持する保守派の団体「Move America Forward」のシオブバン・グイニ専務理事は「ボルトンは非常に率直に者を言う人物である。私たちは、国連の中の”アメリカを最初に批判する(Blame America First)”人々に反対することのできる人物が必要である。私たちはアメリカの利益に挑戦している独裁者や専制者に脅迫されないような国連大使を必要としている」と語っています。ボルトンの国連大使に反対する人々は当然ながら、賛成する人々も必ずしも国連を高く評価しているわけではないのです。

最新号のネオコンの雑誌『ウィークリー・スタンダード』でウィリアム・クリストルが面白い表現を使っています。「誰の外交政策がアメリカにとって好ましいのか、すなわちブッシュの外交政策かジョージ・ソロスの外交政策か、共和党はテレビを使って多いに議論すべきである」。もちろん、ボルトンとクリストルは盟友であり、クリストルはボルトンを速やかに国連大使として承認するように求めています。

今回のボルトンを巡るアメリカの政治の動きは、日本と極めて大きな違いがあります。それはアメリカの議員は党の決定とは無関係に自分で判断して投票を行なうということです。日本では「党議拘束」というのがあり、党で議論して決めた方針に背いた投票を行なうと、党から除名されてしまいます。要するに「党内で十分に議論したのであるから国会での投票は党の決議に従うべきである」という建前論です。しかし、党が決めたからと行って、自分の良心を否定してまで党の決定に従うべきなのかという問題が残ります。以前、アメリカのジャーナリストと話をしていたら、彼女は「別に議員歴が長いからといって影響力が強いわけではない」と言っていました。議員歴に関係なく、個々の議員の1票の重みは同じなのです。「議員内閣制だから」という議論で「党議拘束」を正当化するのは、あまり説得力がないのではないでしょうか。また党内の議論は、国民にはなかなか見えないものです。党の有力者が実質的な意思決定をするために、党歴の浅い議員は「陣笠議員」と蔑称され、個人の持つ影響力が極めて小さいものになってしまうのです。アメリカでは、議員1人1人の影響力は日本よりも圧倒的に大きいのです。1議員が法案の命運を握るキャスティング・ボートを握ることさえあるのです。日本では、党内ですべて決まるというシステムのために国会での議論が形式化、空洞化してしまっているのではないかと思います。

もう1つの違いは、各種団体が積極的な情報活動や政治活動を行なうことで、政策に影響を及ぼすということです。アメリカでは選挙は2年に1回行なわれます。それは、2つの面があります。1つは議員が選挙区の動向に左右されやすいということと(マイナスの面)。もう1つは、社会情勢や経済情勢を迅速に政策の意思決定過程に反映させることができる(プラスの面)ということです。日本の場合、社会状況が変わっても、政治が変わらないという状況が続く1つの理由は、議員の任期が長いことがあるのかもしれません。

もう1つは、アメリカにとって国連はあくまで国益を実現するための手段であるということです。以前から、本ブログで何度も書いているように、アメリカでは保守もリベラルも基本的には国際機関を信用していないのです。ましてや国連がアメリカの外交に干渉することに対して猛烈な反発を示す傾向があります。アメリカの国益と国連に関して、以前次のような文章を読んだ記憶があります。「小さな発展途上国が国連の場でアメリカの外交に影響を及ぼすことができるようなことは認めがたい」「国連がアメリカを守ってくれるはずがない」。国際機関を信頼したり、多国籍主義を唱えるのはアメリカでは”Wilsoninan diplomacy(ウイルソン的外交)”と呼ばれ、決してアメリカ外交の主流ではないのです。Citizens for Global Solutions は世界政府を目標に掲げていますが、それはアメリカの主流の考えとはいえませんし、先に会長の言葉を引用したように、根底には国益をどう守るかという問題意識が強烈にあるのです。長期的には国連がもっと積極的な役割を果たすべきでしょうが、今はまだ世界は国民国家(nation state)によって構築されており、牧歌的な国連主義だけでは対応しきれない現実があるというのも頭の隅に入れておくべきでしょう。

さらに日本の国連大使も外務官僚の出世コース(あるいは”上がり”)のポストにするのではなく、本当に外交力を持った人物を選ぶべきでしょう。もし安保理の常任理事国になっても、国連外交を展開する能力がないと、宝の持ち腐れになるでしょう。せめて国連や主要国の大使のポストは、アメリカのように”ポリティカル・アポインティ(政治任命)にすべきでしょう。ボルトンに対抗できる外務官僚はいるのでしょうか。

なお、追加ですが、ボルトンの後任の国務次官に国家安全保障委員会のロバート・ジョセフ(Robert Josep)が指名されています。彼の政策や発想は、ボルトンに極めて近いといわれています。ライス国務長官とゼーリック国務副長官のラインは”外交優先派”と言われていますが、ジョセフは必ずしもそうではないようです。安全保障委員会のジョセフの後任は、ジョン・ルード(John Rood)が指名されています。

来週の前半に、ボルトンの承認票決が行なわれます。本ブログを読みながら、動きを見ると、理解しやすいでしょう。

1件のコメント

  1. うへー、GM、フォードまで・・・・ブッシュはどこみてんだろ!?
    ほりえもん、西海岸でサラ金廻りをしている間にアメリカ本体も結構大変!!

    GM,そしてFord。本当に大丈夫なんだろうか。
    既に投資をお勧めした私としてはこれは大変な状況でございます、はい。

    昨日だけで業績下方修正を受けて、Fordの社債は年限問わず、軒?..

    トラックバック by 債券・株・為替 中年金融マン ぐっちーさんの金持ちまっしぐら  — 2005年4月12日 @ 09:06

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