中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/4/13 水曜日

米連邦公開市場委員会(FOMC)の「議事録」から見たアメリカ経済の現状

Filed under: - nakaoka @ 11:56

アメリカの金融政策はFRB(連邦準備制度理事会)で決定されますが、もっと正確に言うとFOMC(連邦公開市場委員会)で決められます。FRBは公定歩合を決定する権限を持つのに対して、FOMCは金融政策の目標金利を決定する権限を持っています。日本では公定歩合が金融政策の対象になっていますが、アメリカでは公定歩合は形式的なもので、実際の金融政策は目標金利の操作を通して行なわれます。目標金利はフェデラル・ファンド(FF)金利で、これは銀行の間で資金の貸借をするインターバンク市場の金利です。銀行は余剰資金をフェデラル・ファンド市場で運用し、銀行準備の調達の必要な銀行は、この市場を通して資金を調達します。FF金利のほうが銀行の貸し出し行動に迅速に影響を及ぼすことから、FRBは同金利を使って金融政策を行なっているのです。なお、FOMCはFRBの理事と連邦準備銀行の総裁によって構成されています。3月22日にFOMCが開かれ、FF金利の引き上げが決まりました。その時の議事録が12日に公表されました。議事録はFOMCで行なわれた議論を収録しています。以下は議事録の要旨です。

FOMCは最初、システム・オープン・マーケット・アカウントのマネージャーが、前回のFOMCの後にどのような金融運営が行なわれたかについて報告をします。さらに金融・経済状況の詳細な報告を行ないます。

経済状況
「本会議で検討した情報によれば、第一四半期の経済は堅調な成長を遂げている。雇用は改善し、消費支出は依然として旺盛に伸びているように見える。住宅建設支出も引き続きさらに増加している。企業の設備やソフトウエアに対する投資は第一四半期も目立った伸びを示している。工業生産は過去2ヶ月、小幅ながら増加した。消費者物価は昨年12月は横ばいであったが、1月は上昇した」

同議事録での経済報告では、アメリカ経済が順調な成長を示していることを示しています。上の文章で唯一懸念されるのは消費者物価が上昇しているということでしょう。事実、金融市場の最大の関心は、FOMCの委員がどの程度のインフレ懸念を抱いているかにありました。以下、それぞれの部門別の説明が行なわれます。

労働市場
「同道市場は2月も改善した。非農業部門の雇用は堅調に増加し、その増加は産業全体に及んでいる。ずっと減少してきた製造業の雇用は、若干の増加を示した。2月の失業率は12月の水準に逆戻りし、労働市場の情報から判断すると、労働市場のスラック(緩み)は減ってきている」

工業生産
「2月の工業生産は自動車生産の増加によって増えた。ハイテク機器の生産も増加した。ただ、通信機器の生産は低迷するコピューの生産を大きく越えるペースで増えている。消費財の生産も増加している。これに対して、非ハイテクのビジネス機器の生産は減少した。建築資材、ビジネス什器の生産は反落した」

消費支出
「所得の旺盛な伸びと資産の増加に支えられ、個人消費は2004年第四四半期に大きく増加したが、今年の第一四半期もさらに増加しているように見える。昨年末の好調の反動で落ち込んだ自動車購入を別にすれば、支出は広範な品目にわたって増えている。実質所得は12月、1月と好調に増えている」

住宅建設
「年初の住宅市場は引き続き拡大している。戸建住宅の着工は昨年の第四四半期のペースを大きく上回っている。ただ先行きの見通しではやや鈍化している。集合住宅の着工も1~2月は大幅に増えたが、3月はやや鈍化している。新築住宅と中古住宅はいずれも1月は売上が減少した。住宅需要は引き続き低住宅ローンに支えられるだろう」

設備投資
企業の設備投資は昨年の第四四半期に大幅な伸びを記録した。今年も自動車関連を除けば、第一四半期も好調を持続した。投資優遇税制が2004年末に終ったが、それによって投資が減っているということはないように見える。旺盛な設備投資の原因は、企業の生産増と手持ち流動性が豊富なことと、低金利環境の中で資本コストが低いためである」

物価
「消費者物価は12月は横ばいであったが、1月は若干上昇した。コア消費者物価(食糧とエネルギーを覗いたもの)は全体の物価よりも上昇率が高かった。消費者向けエネルギー価格は1月は下落したが、2月と3月初めには上昇に転じた。この1年の消費者物価は石油価格高で上昇したが、コア消費者物価はほぼ横ばいであった。短期のインフレ予想は3月初めに上昇したが、長期のインフレ予想は昨年末とほとんど変わっていない。生産者物価と一次産品価格は1月は上昇した。労働コストは、平均週賃金は1月、2月は若干増加した」

総括
「本会議のためにスタッフが準備した予想では、今年と来年の経済は旺盛な企業の設備・ソフトウエアの需要に牽引されて”潜在成長”を超える成長を実現しそうである。その結果、労働市場は逼迫すると予想され、失業率は除々に低下するとみられる。設備投資も、現状を見てみると、今後上方修正されるだろう」

政策判断
「以上の報告を受け、FOMCの委員の多くは、2月初に開催されたFOMCの時に予想された状況から環境が変わったと指摘した。特に経済活動が以前に予想されたよりも明らかにより活況になっており、インフレ・プレッシャーが高まる可能性がでてきた。現在のインフレはわずかながら上昇しているように見えるが、ほぼ全員の委員は、先行きのインフレは比較的低水準に留まると考えている」

「多くの委員は、企業の第一四半期の設備投資は予想を大幅に上回る水準で推移していると見ている。異常ともいえる好金融情勢(低金利)を反映して、設備投資は予想より活況を呈してるように見える。企業は、生産拡大と生産性向上、コスト低減のために設備投資を行なっている。また、一部の企業は陳腐化した設備の取替えている。資本財の需要は各分野に及んでいる」

「住宅投資、耐久財への支出も経済成長を支えている。一部の委員は、住宅市場で投機的な活動が見られると指摘した。しかし、最近の住宅価格の動向にはばらつきが見られる。消費支出も、エネルギー価格上昇があるが、所得増によって堅調な増加が見込める。個人貯蓄率が高まっていることが、消費の下方リスクの可能性を示唆している。自動車販売の落ち込みが、経済の先行きの成長の懸念材料になっている」

インフレに関して
「全国的に労働市場は改善しており、参加者は労働市場のスラックは除々に消えていくと予想している。企業経営者は、労働者は容易に確保できるが、熟練工を採用するのは難しくなっていると述べている。単位労働コストの上昇は生産性向上によって抑制されている。FOMCの委員の多くはインフレに関して詳細なコメントを行なった。委員はインフレに対して懸念を抱いているが、それにもかかわらず全体のインフレは後退(diminish)し、コア消費者物価の上昇も限られたものであると述べた」

政策決定
「金融政策に関する議論の中で、全委員はFF金利を〇・25ポイント引上げ、2.75%にすることに賛成した。金融は明らかに依然として緩和気味であり、経済活動は以前に考えられていた以上に勢いをつけつつあるように見える。コア・インフレもおそらく低水準に留まるが、インフレ圧力は高まっている。財政赤字削減の立法が実現するかどうか不透明である。累積的な引締めの効果は見られるが、経済のスラックは依然として残っていることから、委員は引締め政策を加速化する必要は現時点ではないと述べた。生産性向上が単位労働コストのと価格上昇を抑制している。インフレは引き続き抑制される可能性が最も強い。こうした状況から、FOMCは緩和政策を段階的に会場することが現在は好ましいと判断した」

FOMCの委員たちは、アメリカ経済は極めて好調に拡大していると見ているようです。議事録を読む限り、成長が鈍化するリスクはあまりないようです。経済成長が3年以上続いており、こうした状況ではインフレ懸念が高まるものですが、委員たちは楽観的な見方をしているようです。このFOMCでFF金利は〇・25ポイント引上げられ、2・75%になりました。これは、今までの超低金利政策を是正することが狙いです。最近、連銀の一部の総裁が「金融政策として小幅に金利を変えることが好ましい」という意見を述べています。昨年6月から始まった利上げは、〇・25ポイントずつ、既に7回も行なわれていますが、それもこうした考え方によるものでしょう。

市場は、FOMCの委員が強いインフレ懸念を抱いているのではないかと見ていました。もしそうなら、利上げも小幅なものに留まらない可能性もでてきます。ですが、議事録を見る限り、委員のインフレ懸念はそれほど強くないことが分かり、金融市場では金利が低下し、ドルが安くなりました。

1件のコメント

  1. 米国株、FOMC議事録公表後に反発に転じる
    注目されていた議事録でしたが、発表後、米国株は大幅に反発しました発表前はむしろダウで80ドル安とけっこう安かったんですが、発表後は一気に上げに転じました。この反応をみて「引き締めペースが穏やかになるヒントでもあったのか?」と思うくらいの市場の反応でしたが…

    トラックバック by へそまがり株式投資家日記 — 2005年4月13日 @ 13:16

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