中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/5/4 水曜日

FRBは8度目の利上げ決定:先行き不透明感増すアメリカ経済

Filed under: - nakaoka @ 11:17

連休の最中です。このブログは5月で最初のものになります。まずブログのヒット数について報告します。データの詳細は後日にご報告しますが、ヒット件数は4月は21万6431件でした。3月の17万0305件を大幅に上回りました。月の後半、多忙でブログのアップ件数が減ったにもかかわらず、ヒット件数は増え続けています。なお、2月は12万9332件、1月は12万0970件でした。

4月28日、アメリカ商務省は第1四半期の経済成長の第1次速報値を発表しました。成長率は3.1%と大方の予想を下回るものでした。アメリカ経済の成長は予想以上に減速しているようです。しかし、5月3日に開かれたFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利のフェデラル・ファンドの目標が0.25%引上げられ、3%になりました。景気の先行きに減速懸念が出始めている中で、金利引き上げが決まったわけです。今回の利上げの目的、アメリカ経済の先行きをどう判断すればいいのでしょうか。

まずFOMCの利上げ決定から。3日にFRB(連邦準備制度理事会)は昨年の6月から連続8度目のフェデラル・ファンド金利(政策金利)の目標を決定しました。その際に発表された声明は、以下の通りです。

「連邦公開市場委員会(FOMC)は、今日、フェデラル・ファンド金利の目標を0.25%引き上げ、3%にすることを決定した」

「当委員会は、この引き上げの決定を行なった後も、金融政策が依然として緩和的であり、生産性の旺盛な向上を考え合わせると、引き続き経済活動を支援するものであると信じている。最近の経済データは、堅調な支出の伸びは、部分的にエネルギー価格の上昇を受けてやや鈍化していることを示唆している。しかし、労働市場の状況は明らかに緩やかな改善が続いている。インフレ・プレッシャーは、この数ヶ月、強まっており、(企業の)価格決定力の回復もより顕著になってきている。しかし、より長期のインフレ期待は今まで通り押さえ込まれたままである(Longer-term inflation expectations remain well contained)

「当委員会は、適切な金融政策の行動を取ることで、持続的な経済成長と物価安定の両方の上方リスクと下方リスクはほぼ同じ程度に保たれていると理解している。当面のインフレを抑制することで、当委員会は金融緩和政策は慎重に図ったペースで解除できるものと信じている(policy accomodation can be removed at a pace which is likely to be measured)。それにもかかわらず、当委員会は物価安定を維持するという責務を果たすために必要であれば、経済見通しの変化に対応する」

今回の声明では、ちょっと異例なことが起こりました。最初に発表された声明文にはゴチックで示した部分(Longer-term inflation expectations remain well contained)が抜け落ちていたとして、声明文が修正されるという事態が起こったのです。修正後の声明には「この文章は偶然(inadvertantly:不注意とか、意図せずにという意味にもなります)に落ちてしまったものである」と釈明されています。ちょっとありえないミスです。この文章があるとないとでは、FOMCの政策スタンスに対する理解が大きく変わってきます。この文章がないと、FOMCのインフレに対する懸念が強調されることになります。したがって、今後、FOMCはさらに引締政策を強化するという受け止め方ができます。事実、金融市場では、この解釈を巡ってやや混乱が起きたようです。市場関係者は常に声明文の中にFOMCの真意を探ろうと懸命になっています。そのため、わずかな表現の違いや差に過剰に反応するようになっています。特にグリーンスパン議長は、どうでも解釈可能な曖昧な表現を使うので、市場関係者は様々な憶測や推測をしています。最近の声明では「measured」という言葉の解釈を巡って議論が行なわれています。「measured」は「バランスを取りながら」とか「慎重に」とか、あるいは「段階的に」などと訳すことが可能です。したがって、市場ではFOMCは当分の間、0.25%の幅で段階的に利上げをすると理解しています。

まず、現在の金融政策の状況を明確にしておく必要があります。昨年の6月以降、8度にわたって0.25%の引き上げが行なわれました。FOMCは2001年のリセッションに際して、超低金利政策を導入し、アメリカ経済が日本と同じようなデフレに陥る事態を全力で阻止しようとしました。しかし、2003年以降、景気が本格的な回復に向かいます。それを受けて2004年6月から超金利政策の修正が行なわれるようになりました。したがって、今までの引き上げは「引締め政策」というよりは「超低金利政策の是正」と理解すべきなのです。また、物価上昇(1~3月の上昇率は年率4.3%です。3月の物価水準の前年同期比だと3.1%の上昇率になります)を加味した”実質金利”は依然としてマイナス圏(大雑把にいえばフェデラル・金利3%から物価上昇率4.3%を控除したもの)にあり、今回の声明で指摘されているように「金融政策は依然として緩和的」なのです。アメリカ経済の実態、すなわち大幅な財政赤字と貿易赤字、低貯蓄、株・住宅バブルの懸念を考慮に入れれば、超低金利政策の是正は避けられないところです。しかも、実質金利ベースでみれば、まだ金融緩和状況が続いていると判断できます。とすれば、今後もFOMCは、段階的に金利を引上げてくると思われます。あるエコノミストは、アメリカ経済の状況から判断すれば、フェデラル・ファンド金利は年末までに5%にまで引上げられるべきであると指摘しています。モルガンスタンレー証券のスティーブン・ローチは「実質金利の正常化が必要である。そのことは、フェデラル・ファンド金利は抑制的なゾーン、可能であるから5.5%程度にまで引上げる必要があることを意味しているのかもしれない」と語っています。その是非は別にしして、まだまだ金利が引上げられる余地が大きいことは間違いないでしょう。

中央銀行の最大の責務は、物価安定にあります。ですから、インフレの兆候が出てくれば、できるだけ早い段階でその芽を刈り取ってしまおうとするものです。しかし、雇用を維持するためには、持続的な成長を維持することも重要な責務です。これに関してFOMCは、「エネルギー価格で消費支出の伸びが鈍化し始めていること」を認めています。
また雇用情勢の改善(失業率の低下)が続いていることも認めています。さらに、今回の金利引き上げにもかかわらず、金融政策は景気刺激的であることも認めています。また、生産性向上が続いていることも認めています。さらに、声明に追加して文章で「長期的にインフレは抑制される」と楽観的な見方をしています。

では市場はどう判断しているのでしょうか。まず、今回の声明を読む限り、今までの声明文のトーンが基本的に変わっていないことから(たとえば「measured paceで金利を引上げる」という表現)、FOMCの金融政策の基調は変わっていないという見方が一般的な反応です。要するに、まだまだ小幅で連続的な利上げは続くということです。ただ、支出の堅調な伸びが鈍化しているという表現の中に、利上げの一巡も近いと判断するエコノミストもいます。あるエコノミストは「さらに3度に利上げ(合計で1.5ポイント)が行なわれるだろうが、11月、12月には利上げは行われないかもしれない」と、FOMCのスタンスを解説しています。いずれにせよ、まだFOMCの利上げスタンスには変化がないというのが共通した見方です。

では実態経済はどうなっているのでしょうか。4月28日に発表された成長率の第1次速報値(advanced estimate) では、第1四半期の成長率は3.1%と予想をかなり下回る結果になりました。第2次速報(preliminary estimate) は5月26日に発表になります。したがって、まだ大幅に修正されることもありえるため、この第1次速報値で判断するのは難しいかもしれません。たとえば、昨年の第4四半期の場合、速報値の成長率は3.1%でしたが、最終的に3.8%に修正されています。今回も、そうした修正がないわけではありません。それはそれとして、第1速報値の内容を確認して起きましょう。

まず寄与度で見てみましょう(その見方はブログの「アメリカ経済の易しい位見方」を参照)。成長率は3.1%(前年第4四半期は3.8%)で、個人消費の寄与度は2.45%(同2.92%)でした。FOMCが指摘するように個人消費の寄与度が低下しています。そのうち耐久消費財の寄与度は0%(同0.33%)で、自動車と自動車部品の販売が不調で、寄与度はマイナス0.42%(同マイナス0.02%)と成長の足を引っ張っています。ただ、住宅建設の好調を受けて家具などの調度品の寄与度は0.31%(同0.21%)と高まっています。食品や衣料、ガソリン、燃料などの非耐久消費財の寄与度は0.98%(同1.19%)と低下していますが、これはエネルギー価格上昇の影響を受けたのでしょう。サービス支出の寄与度は1.46%(同1.41%)でした。

投資はどうでしょうか。寄与度は2.03%(同2.11%)と堅調な伸びを示しています。ただ、非住宅投資の寄与度は0.82%(同1.65%)と大きく落ち込んでいます。工場建屋は前期の0.05%からマイナス0.06%と大きく落ち込んでいます。コンピュータやソフトなどインフォメーション関連投資も1.41%から0.56%に低下しています。住宅投資は前期の1.41%から0.56%に落ちています。

成長率を大きく嵩上げしたのが、在庫投資でした。前期の寄与度が0.46%であったのに対して、当期は1.21%と大きく上昇しています。在庫投資には、「後ろ向きの在庫投資(売れないから在庫になった分)」と「前向きの在庫投資(先行きの売り上げ増を予想して在庫を増やした分)」があります。当期の在庫投資の増加は、輸入が急増したためであると説明されています。では純輸出の寄与度はどうだったのでしょうか。前期のマイナス1.35%から、当期はマイナス1.49%に成長の足を引っ張っています。輸出の寄与度は0.69%(同0.32%)と高まっています。これはドル安の効果があり、輸出が増えたことを意味します。では輸入はどうでしょうか。前期の寄与度はマイナス1.67%でしたが、当期は2.19%と大幅に悪化しています。要するに輸入が大幅に増えたのです。その結果、輸出と輸入の差である「純輸出」は大きくマイナスとなりました。

政府部門はどうでしょうか。寄与度は0.10%(同0.16%)とやや低下しています。連邦政府の軍事支出の寄与度は前期のマイナス0.03%から0.01%に増えていますが、非軍事支出の寄与度は前期の0.11%から当期は0.03%に低下しています。

以上で、アメリカ経済の大体の動きが分かったと思います。こうした成長鈍化をエコノミストは”soft patch”と呼んでいます。これは「一時的な軟調」とでも訳せると思います。3.1%成長は、2003年第1四半期以降、一番低い成長率です。また、第1四半期の予想成長率は3.5%でしたから、予想を大きく下回ったことになります。経済の状況を一言で表現すれば、「DGPの減速は主に企業の設備とソフトウエアに対する投資が減少し、輸入が増加し、個人消費が落ち込んだのが理由であり、その落ち込みの一部は在庫投資の増加と輸出の増加で相殺された」ということになるでしょう。

アメリカ経済の成長の原動力は個人消費にありますが、もし個人消費に大きな変調が出てくれば、アメリカ経済の今後の動向は大きく変わってくるでしょう。個人消費の増加率を見ると、2004年第3四半期が5.1%、第2四半期が4.2%、2005年第1四半期が3.5%と低下基調になっています。特に当期の耐久消費財の伸びはゼロでした。
消費の伸びは、株高、住宅価格上昇といった資産効果によるところが大きいのが特徴です。しかし、このところ株価が低調である一方、住宅市場にもやや変調が出つつあります。住宅価格にはまだ目立った変化は出ていませんが、専門家は「投機的な需要が増えている」と指摘しています。もし実需から仮需に動いているとすると、懸念されている住宅バブルが本物になるかもしれません。

そのほかの懸念材料は、実質最終販売(real final sales)の伸びが鈍化していることです。実質最終販売は前期に年率で3.4%と大きく伸びたあと、当期はわずか1.9%に留まっています。消費の先行きとして、家計部門の債務残高が増えていることが指摘されています。事実、2004年にはGDPに対する家計部門の債務比率は90%を超えるまでになっています。これは過去最高であると同時に、90年代半ばと比べて20ポイントも増えています。借金をしてまで消費を続けているわけです。それだけでなく、所得のなかから貯蓄に向ける資金も減っており、貯蓄率はゼロに近い状態になっています。

また企業の設備投資も、前期の14.5%の増加から、当期はわずか4.7%にまで減速しています。特に設備やソフトウエアに対する投資は、前期が18.4%と大きく伸びた反動もあり、当期はわずか6.9%の増加に過ぎませんでした。これは2年来の最低水準の伸びです。また、工場建屋への投資は、前期は2.1%増であったのが、当期はマイナス2.6%と減っています。これは、どうみても良い兆候とはいえないでしょう。

長くなりました。インフレ問題については、近いうちに整理したいと思っています。FRBが一番懸念しているのがインフレ動向だからです。地方経済に関して連銀がまとめた資料を「ベージュ・ブック」といいます。最近の「ベージュ・ブック」は、2月末から4月初めにかけて「物価上昇圧亮がたかまりつつある」と報告しています。果たしてインフレはどの程度深刻な問題なのでしょうか。中央銀行は過剰にインフレに対して反応するきらいがあります。

トリビア:連邦準備制度の仕組むでは、「公定歩合」を決定する権限は理事会にあります。ただ、変更の発議は連邦準備銀行が行い、それを受けて理事会が決定します。これに対してFOMC(連邦公開市場委員会)は、7名のFRB理事と5名の連邦準備銀行総裁で構成され、フェデラル・ファンド金利の目標を決定します。なお、連邦準備銀行は12行あり、このうち5名が交替でFOMCのボーティング・メンバーになります。ただ、ニューヨーク連銀総裁は常任メンバーで、交替しません。FRB議長も理事も連銀総裁も投票権は1票で、フェデラル・ファンド金利の目標設定は多数決で行なわれます。なお、公定歩合は連邦準備制度加盟銀行が連銀から借入をするときに適用される金利ですが、現在は政策手段としては名目的なものになっています。実際の金融調整はフェデラル・ファンド市場で行なわれます。同市場は、加盟銀行が銀行準備を調達する市場です。預金準備率に応じて銀行は連銀に銀行準備を積まなければなりません。それが不足すると、フェデラル・ファンド市場で調達しなければなりません。一方、余裕資金のある銀行は同市場で資金を運用します。その需要と供給で金利が決まりますが、FRBはその状況を見ながら、市場への流動性の供給をコントロールしているのです。FRBは公定歩合操作よりもフェデラル・ファンド市場での金利(言い換えると流動性)を操作することで金融を緩和したり、引き締めたりして金融政策を操作しています。フェデラル・ファンド金利を「政策金利」と呼びますが、これは以上の理由からです。

なお今回の会議で、ニューヨーク連銀、ボストン連銀、フィラデルフィア連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀など12の連銀すべての理事会からの要請を受けて、理事会が公定歩合を0.25ポイント引上げて4%にすることを承認しています。

2件のコメント

  1. FOMCについてトラックバック
    参考になりましたのでトラックバックさせていただきました

    FRBは8度目の利上げ決定:先行き不透明感増すアメリカ経済

    トラックバック by へそまがり株式投資家日記 — 2005年5月5日 @ 08:22

  2. 米国政策金利は3%へ
    米国経済の根幹を成す米国政策金利。正確には、Federal Funds Target Rateのことを指し、銀行同士が短期資金を融通するときに利用する金利(Federal Funds Rate)を誘導することにより金融調節を…

    トラックバック by 為替王 — 2005年5月5日 @ 08:30

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