中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/6/13 月曜日

雑誌への寄稿2本:『中央公論』7月号の「ホワイトハウスの必読書」ほか

Filed under: - nakaoka @ 1:38

6月10日発売の雑誌2冊に原稿を寄稿しました。まず時事通信社の週刊誌『世界週報』(6月21日号)に「ボルトン国連大使人事紛糾の真相」を題する記事を寄稿しました。本ブログで何度もボルトン前国務次官の国連大使の議会での承認問題について書いてきました。やっと後任が議会承認されたことで彼の肩書きは「前次官」になりましたが、議会での承認の見通しは立っていません。その真相を分析したものです。雑誌4ページの記事ですが、内容の濃いものになったと自負しています。もう1つは『中央公論』7月号に寄稿した「ホワイトハウスの必読書」と題する10ページの原稿です。あまり”インテリ”とは思われていないブッシュ大統領ですが、意外な読書の内容を紹介しつつ、イスラエルの政治家シャランスキーの本「The Case for Democracy」がブッシュ政権の外交政策、特に中東政策に与えた影響を分析したものです。以下で最初の部分だけ紹介します。なお、パウエル前国務長官の最近の動きについてもブログの最後にふれておきます。

人の人生で1冊の本が大きな影響を与えることがあります。アメリカ大統領でも、それは同じことだと思います。アメリカのリベラル派メディアは、ブッシュ大統領の非インテリ振りを大いに揶揄し、からかっています。確かにクリントン前大統領や大統領選挙の対立候補であったケリー上院議員と比べると、ブッシュ大統領には知的な魅力が欠けている面があるのかもしれません。日本人にとって分かりにくいのは、英語の問題です。父親のブッシュ大統領の演説下手は有名でした。しかし、私が彼の演説を聞く限り、それほど下手という感じは持ちませんでした。また、ブッシュ現大統領の演説を聞いていると、どこかで保守派の英雄レーガン大統領の真似をしているような印象を受けました。

ブッシュ大統領は子供の頃”学習障害”だったという説もあります。要するに勉強嫌いだったのです。彼がエール大学に入学できたのは、祖父が同大学の理事というポストにあったことと、当時は卒業生の子弟を優先的に入学させる制度があったからだと言われています。ただ、そうするとハーバード大学経営大学院に入学できたのはどうしてかと考えると、そう知的に劣っているとは思えない気がします。ブッシュを大統領に担ぎ出すこをと決めたのは、エール大学の教授の私邸にアメリカを代表するインテリたちが集まって開かれた小さな会合でした。そこにブッシュは呼び出され、いわば面接のようなものを受けています。その後、その場にいた著名な経済学者は「ブッシュは経済学を理解しており、大統領としての十分な知性を持っている」と語っています。

さて、そのブッシュ大統領がどんな本を読み、今、一番影響を受けている本は何かについて『中央公論』に書きました。最初の出だし部分だけを紹介します。続きは、ぜひ雑誌を購入して読んでください。

『中央公論』7月号「ホワイトハウスの必読書」

「今年の初めジャーナリストのエリザベス・ビュミラーが、ホワイトハウスの報道室に「ブッシュ大統領の愛読書」について質問状を出した。報道室から渡された用紙には3冊の書名が書かれていた。1冊は『聖書』で、他の2冊は『ヒズ・エクセレンシー-ジョージ・ワシントン』と『アレキサンダー・ハミルトン』であった。政治家が、過去の偉大な政治家の評伝から学ぶというのは特に不思議な話ではない。2000年の大統領選挙の時に愛読書を問われたブッシュ大統領は、『アチソン-世界を作った国務長官』を上げている」

「だが、最近、ブッシュ大統領は友人に盛んに勧めている本がある。それはトム・ウルフが書いた『私はシャロット・シモンズ』という小説である。大統領がウフルの熱狂的なフアンであることは良く知られている。父親のブッシュもウルフに「息子はあなたの『虚構の篝火』を非常に気に入っている」と語っているほどである。またローラ夫人はウルフをホワイトハウスに招待し、懇談している。昨年そのウルフの本が一冊も愛読書のリストに載っていないのを不思議に思ったビュミラーは、その理由を報道室に問い返した。しかし、まったく返事はなかった。『私はシャロット・シモンズ』は昨年出版された本で、ノースカロライナ州の田舎町から都会の大学に進学してきた少女シャロットの物語である。この信仰心が深い少女はキャンパスでの学生の性的な乱行に翻弄され、やがて精神を病むという物語である。ブッシュ大統領自身も大学時代に床を転げ回る“アリゲーター”というダンスに興じていた。この小説は、そうした彼の大学生活と重なるものがあったのかもしれない。大統領が友人に熱心に推奨する本が愛読書リストに載っていなかったのは、報道室が「大統領が読むのにふさわしくない本」と判断したのかもしれない」

「ブッシュ大統領はクリントン大統領と良く比較される。クリントン大統領がインテリで読書家のイメージが強いのに対して、ブッシュ大統領は読書には縁のない人物というのが一般的な印象である。だが、彼は意外な読書家なのである。大統領専用機「エア・フォース・ワン」に搭乗しているときは必ず読書を読んでいるし、キャンプ・デビッドで週末を過ごすときも読書は欠かせない。大統領は「寝る前に本を読むのが好きだ。早起きなので読書は自分にとって鎮静剤のようなものだ」とも語っている。大統領の就寝が早いことは良く知られている。4月30日に開かれたホワイトハウス記者会の夕食会でローラ夫人は「ジョージは、この時間にはもう寝ているんです。ある時、私は彼に『もし本当に世界から独裁国家を消滅したいと思っているのなら、もうすこし遅くまで起きているべきね』って言ったんです」とジョークを飛ばし、出席していた記者を喜ばせた」

「以前、ブッシュ大統領は尊敬する政治哲学者は誰かと問われて、「イエス・キリストである」と答えたエピソードは有名である。おそらく今、同じ質問をしたら「ナタン・シャランスキーだ」と答えるだろう。ナタン・シャランスキーはイスラエルの政治家で、昨年、『ザ・ケース・フォー・デモクラシー(民主主義の論拠)』を出版した人物である。なお同書の副題は「独裁とテロに打ち勝つ自由の力」である。彼は、大統領執務室に来る人に同書を推奨しており、ホワイトハウスの「必読書」となっている」

シャランスキーをホワイトハウスへ招待

「フィラデルフィアで自著のキャンペーンを行っていたシャランスキーにホワイトハウスから電話がかかってきたのは昨年の11月10日のことである。電話の趣旨は、ホワイトハウスへ招待するというものであった。大統領選挙で終った直後でまだホワイトハウスには勝利の余韻が残っていた。シャランスキーが共著者ロン・ダーマーとホワイトハウスに着いたのは、11日の昼前であった。大統領との面談まで時間があり、彼らはライス安全保障問題補佐官のオフィスに案内された(その時点でまだ国務長官ではない)。ライス補佐官のオフィスに入ると、シャランスキーの本が執務机の上に置いてあった。彼らをオフィスに招き入れたライス補佐官は「本は半分ほど読みました」と語りかけた。さらに「なぜあなたの本を読んでいるのか分かりますか」と質問をした。彼女は答えを待たずに「大統領が読んでいるからです。大統領が何を考えているのか理解するのが私の仕事ですから」と言葉を継いだ」
(以下は『中央公論』で読んでください。面白い内容だと自負しています)

『世界週報』6月21日号「ボルトン国連大使人事紛糾の真相」

「今年の3月にブッシュ大統領がジョン・ボルトン国務次官を国連大使に指名したとき、承認を巡ってこれほどまで議会で紛糾すると予想した者はいなかったかもしれない。承認手続きは、まず上院外交委員会で審議され、その決議を経て、上院本会議での投票で承認される。上院外交委員会の党派別の委員の数は、共和党が10名、民主党が8名である。民主党の中には前大統領候補のジョン・ケリー議員や女性議員でヒラリー・クリントン議員と並んで女性の次期大統領候補の一人になる可能性があるとされているバーバラ・ボクサー議員など民主党の強硬派議員が名を連ねているが、普通に考えれば共和党の議院が多数を占める委員会で大統領が指名した候補者が承認されないという事態が起こるとは考えにくかった」

「しかし、そうした事態が起こったのである。共和党のジョージ・ヴォイノビッチ議員が共和党に公然と反旗を翻したのである。同議員は「ボルトンは国連を改革しようとするアメリカの目的を後退させる可能性があり、国連大使の重要な職務をまっとうする外交手腕に欠けている」と反対の姿勢を明確にしたのである。もし外交委員会でヴォイノビッチ議員が反対票を投じれば、票数は九対九で完全に割れることになる。そうした事態を回避するため、共和党のルーガー外交委員長は何度も票決を繰り延べ、妥協点を模索した。だがヴォイノビッチ議員の意思は固く、ルーガー委員長も説得を断念せざるを得なかった」

「そこでヴォイノビッチ議員は妥協案を提案する。それは、同議員はボルトンの大使承認に賛成票を投じるが、外交委員会の決議にはボルトンの国連大使への推薦を付けないというものであった。その結果、外交委員会では党派に沿って10対8で票決され、実質的な決定は上院本会議に委ねられることになった。ちなみに人事承認に関して委員会が推薦しないまま本会議に送付された承認人事は過去に46名あり、そのうち承認されたのはわずか9名にすぎない。では、ボルトンの何が問題なのか」(以下、略)

なおボルトンの件に関していえば、民主党はホワイトハウスに対してボルトンがアメリカ政府が行なっている盗聴活動によって得た情報を私的に利用したのではないかという疑惑から、ホワイトハウスに書類の提出を求めています。しかし、ホワイトハウスはそれを拒絶し、民主党はフィルバスター(議事妨害)でボルトン承認に抵抗しています。5月に上院で採決でずメモリアル・デーで議会は休会に入り、休会明けの6月6日の週に採決が行なわれるのではと思われたのですが、現時点でも採決の目処は立っていません。

こうした人事の問題にも拘わらず、ブッシュ大統領はボルトン支持の姿勢を変えていません。民主党は別の人を指名せよと主張し、妥協の余地がない状況が続いています。本原稿は、将来、ブログに新しい展開を含めて掲載する予定です。

本文にも書きましたが、共和党の歴代国務長官が連署でボルトンを支持する書簡を発表しています。その中で公然とブルトンの国連大使就任を批判しているのがパウエル前国務長官です。5月末に内輪のパーティがワシントンで開かれました。歴代国務長官とチェイニー副大統領がライス国務長官を囲む会です。出席した元国務長官は、それぞれ自己紹介を兼ねて短いスピーチをしました。順番がパウエルに回ってくると、彼はながながと「アメリカ外交のあり方」について話始めたそうです。彼が話している間、犬猿の仲のチェイニー副大統領は横を向いたままでした。

その内輪の集まりの後、ブッシュ大統領は妻のローラと一緒にバージニア州にあるパウエルの私邸を訪ねて、夕食を一緒にしています。ブッシュ政権を去っても、まだ大統領とパウエルの間では頻繁な拘留があるようです。パウエルは今でも自分はブッシュ大統領の忠実はスタッフであると自認しています。ただ、最近、その態度にも変化が出てきつつあるようです。パウエルは5月に雑誌『US News & World Report』誌のインタビューに答えて、ブッシュ政権の外交政策を辛らつに批判しています。記者が「ブッシュ大統領の邪魔をしないようにしているのですか」との問いに対して、彼は「私は”一応”、ブッシュ大統領を支持している」と答えています。英語の表現は”only pretty supportive”ですが、”pretty”は「大いに」というよりは「まあまあ」といった感じで使われています。

パウエルは続けて「私は私たちがやってきたことに誇りを持っている。しかし、意見が異なっているときは、私は異なった意見を述べる。私は何にも制約されていない。大統領と私は今でも接触を持っているし、話をしている」と発言しています。それを受けて記者が「どの程度の頻度で話をしているのか」と問い返すと、彼は「That’s my business」と答えています(もっと強い表現を使えば「That’s none of your business」ということになるのでしょうが、同じ意味で「あなたとは関係ないことだ」という意味になります)。ただ、明らかにパウエルのブッシュ大統領を支持する気持は萎えてきているようです。あるジャーナリストは「彼はブッシュ政権で”良き兵士”を演じてきたことを後悔しているのかも知れない」と書いています。特にパウエルはボルトン問題で完全にブッシュ政権に距離を置いているのは明らかです。

今までの政権の中でブッシュ政権は極めて特異です。それはホワイトハウスから情報のリークがまったくと言っていいほどないのです。通常、ホワイトハウス内の権力抗争から常に情報のリークがありますが、それがありません。おそらくホワイトハウスはカード首席補佐官とローブ副主席補佐官を中心に”身内”で固められているからでしょう。

1件のコメント

  1. 読書スタンドを使ってます
    読書スタンドで睡眠前の充実読書空間を練成完了。あなたの読書スタイルはどんな感じですか?学習机で読みますか?ソファーにだらーんとしながら読むのが好きですか?良い読書方法が…

    トラックバック by ボビー・オンライン — 2005年8月23日 @ 02:32

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