中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/7/11 月曜日

「ホワイトハウスの必読書ーこれがブッシュ中東民主化政策の理論的支柱の本」:『中央公論』7月号掲載論文

Filed under: - nakaoka @ 9:50

人は様々な読書を通して、世界を理解したり、自分の世界観を作ったりします。ブッシュ大統領も、その例外ではないでしょう。ブッシュ大統領は、リベラル派からはあまり知的ではないと揶揄されています。しかし、エール大学、ハーバード大学の経営大学院を卒業するなど、”学歴”を見る限り、他の指導者と比べてもあまり見劣りするとは思えません。以前、2004年11月7日に本ブログに書いた「大統領の精神構造」の中で指摘したように、一説では子供の頃は「学習障害」であったといわれています。また成人してからアルコール依存症になるなど、あまり良い印象を与えていないようです。しかし、調べてみるとブッシュ大統領は意外な読書家の面もあるようです。今回は『中央公論』7月号に掲載した記事を転載します。ロシアからの亡命ユダヤ人で、現在、イスラエルの政治家のシャランスキーが昨年出版した本「The Case for Democracy」が、ブッシュ大統領に大きな影響を与えています。この本を通して、ブッシュ大統領の読書傾向、それと中東政策を分析してみました。

ブッシュ大統領の愛読書

今年の初めジャーナリストのエリザベス・ビュミラーが、ホワイトハウスの報道室に「ブッシュ大統領の愛読書」について質問状を出した。報道室から渡された用紙には三冊の書名が書かれていた。一冊は『聖書』で、他の二冊は『ヒズ・エクセレンシー-ジョージ・ワシントン』と『アレキサンダー・ハミルトン』であった。政治家が、過去の偉大な政治家の評伝から学ぶというのは特に不思議な話ではない。二〇〇〇年の大統領選挙の時に愛読書を問われたブッシュ大統領は、『アチソン-世界を作った国務長官』を上げている。

だが、最近、ブッシュ大統領は友人に盛んに勧めている本がある。それはトム・ウフルが書いた『私はシャロット・シモンズ』という小説である。大統領がウフルの熱狂的なフアンであることは良く知られている。父親のブッシュもウルフに「息子はあなたの『虚構の篝火』を非常に気に入っている」と語っているほどである。そのウフルの本が一冊も愛読書のリストに載っていないのを不思議に思ったビュミラーは、その理由を報道室に問い返した。しかし、まったく返事はなかった。『私はシャロット・シモンズ』は昨年出版された本で、ノースカロライナ州の田舎町から都会の大学に進学してきた少女シャロットの物語である。この信仰心が深い少女はキャンパスでの学生の性的な乱行に翻弄され、やがて精神を病むという物語である。ブッシュ大統領自身も大学時代に床を転げ回る“アリゲーター”というダンスに興じていた。この小説は、そうした彼の大学生活と重なるものがあったのかもしれない。大統領が友人に熱心に推奨する本が愛読書リストに載っていなかったのは、報道室が「大統領が読むのにふさわしくない本」と判断したのかもしれない。

ブッシュ大統領はクリントン大統領と良く比較される。クリントン大統領がインテリで読書家のイメージが強いのに対して、ブッシュ大統領は読書には縁のない人物というのが一般的な印象である。だが、彼は意外な読書家なのである。大統領専用機「エア・フォース・ワン」に搭乗しているときは必ず読書を読んでいるし、キャンプ・デビッドで週末を過ごすときも読書は欠かせない。大統領は「寝る前に本を読むのが好きだ。早起きなので読書は自分にとって鎮静剤のようなものだ」とも語っている。大統領の就寝が早いことは良く知られている。四月三〇日に開かれたホワイトハウス記者会の夕食会でローラ夫人は「ジョージは、この時間にはもう寝ているんです。ある時、私は彼に『もし本当に世界から独裁国家を消滅したいと思っているのなら、もうすこし遅くまで起きているべきね』って言ったんです」とジョークを飛ばし、出席していた記者を喜ばせた。

以前、ブッシュ大統領は尊敬する政治哲学者は誰かと問われて、「イエス・キリストである」と答えたエピソードは有名である。おそらく今、同じ質問をしたら「ナタン・シャランスキーだ」と答えるだろう。ナタン・シャランスキーはイスラエルの政治家で、昨年、『ザ・ケース・フォー・デモクラシー(民主主義の論拠)』を出版した人物である。なお同書の副題は「独裁とテロに打ち勝つ自由の力」である。彼は、大統領執務室に来る人に同書を推奨しており、ホワイトハウスの「必読書」となっている。

シャランスキーをホワイトハウスへ招待

フィラデルフィアで自著のキャンペーンを行っていたシャランスキーにホワイトハウスから電話がかかってきたのは昨年の一一月一〇日のことである。電話の趣旨は、ホワイトハウスへ招待するというものであった。大統領選挙で終った直後でまだホワイトハウスには勝利の余韻が残っていた。シャランスキーが共著者ロン・ダーマーとホワイトハウスに着いたのは、一一日の昼前であった。大統領との面談まで時間があり、彼らはライス安全保障問題補佐官のオフィスに案内された(その時点でまだ国務長官ではない)。ライス補佐官のオフィスに入ると、シャランスキーの本が執務机の上に置いてあった。彼らをオフィスに招き入れたライス補佐官は「本は半分ほど読みました」と語りかけた。さらに「なぜあなたの本を読んでいるのか分かりますか」と質問をした。彼女は答えを待たずに「大統領が読んでいるからです。大統領が何を考えているのか理解するのが私の仕事ですから」と言葉を継いだ。

シャランスキーが大統領執務室に通されると、そこには大統領の他にチェイニー副大統領、アンドリュー・カード首席補佐官、第二期政権の安全保障問題補佐官に就任するジョセフ・ハドレー、それにイスラエル・コネクションで知られる国家安全保障会議スタッフのエリオット・アブラムズも控えていた。大統領はシャランスキーに向かってまず「申し訳ないけど、まだ二一一ページまでしか読んでない」と言った。ちなみに同書の本文は二七九ページである。二時から四五分間の会談が予定されていたが、話しは弾み、一時間を越えた。

会談後、ブッシュ大統領は様々な場所で同書に言及している。『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューでは「シャランスキーの考え方は私の大統領のDNAの一部であり、私の哲学の一部である。もし私が外交政策で何を考えているのか理解したければ彼の本を読めばいい」と語っている。またCNNのインタビューに答えて「彼は自由が何を意味するのか、自由がどのようにして世界を変えるかについて語っている。彼の意見に賛成だ。本書は私がどう感じているかを要約している」と最大級の賞賛の言葉を使って紹介している。

シャランスキーもイスラエルのジャーナリストの質問に答えて「私の考えを信じてくれる人が非常に少ないのは残念だが、信じてくれている数少ない人物の一人がアメリカ大統領であると考えるだけで心躍るものがある」と感想を語っている。会談では彼はブッシュ大統領に対して「政治家は世論やメディアを気にして常に妥協を繰り返している。しかし、ディシデント(反体制論者)は思想を大切にし、自分の中に燃えるようなメッセージを持っている。その結果がどうあれ、信念のために立ち上がる者である」と強いロシア訛りの英語で語りかけている。
 
“新ブッシュ・ドクトリン”の誕生

なぜここまでブッシュ大統領はシャランスキーの思想に共感するものを感じるのであろうか。シャランスキーの本の中に次のような一節がある。「私は“すべての”人は自由を希求していると信じている。“どこにあっても”自由は世界の“あらゆる場所”をより安全なものにすると信じている。アメリカに率いられた民主国家は自由を世界に広めるために重要な役割を果たすべきだと信じている。自由世界が非民主国家との(外交)関係をその国の国民がどれだけ自由を享受しているかによって決める明確で一貫性のある政策を追求することで、中東を支配している体制を含む地球上のいかなる社会も転換させることができるのである。そうすることによって、独裁国家は奴隷と同じように未来のない悪の存在となるだろう」(原著一七ページ)。

これは民主主義を世界に広めるというブッシュ政権の世界戦略の考え方と一致する。シャランスキーの思想は、外交で困難な状況に直面しているブッシュ政権にとって強力な論理的基盤を与えてくれるのである。事実、シャランスキーが本の中で述べている思想は、ブッシュ大統領の就任演説や一般教書演説の中で頻繁に引用されるなど、ブッシュ政権の外交政策に具体的な影響を与えているのである。一月二〇日の就任演説の中に「世界に自由を広げる」「独裁国家を終焉させる」という表現が出てくるが、これはシャランスキーの本からの引用と言っても間違いではない。従来からブッシュ政権は“悪の枢軸”という言葉に代表されるように、独裁国家や専制国家に対して極めて厳しい姿勢を取ってきた。二〇〇二年にブッシュ大統領は敵対国に対して先制攻撃も辞さないという“ブッシュ・ドクトリン”を発表したが、今回の就任演説はその政策をさらに一歩前進させ、民主主義を世界に広めることを政策の柱に据えた“新ブッシュ・ドクトリン”を表明したものといえる。一部の論者は、これを“ブッシュ・シャランスキー・ドクトリン”と呼んでいる。

一般教書の中でブッシュ大統領は次ぎのように語っている。「私たちは常にすべての支配者と国家の前で選択を明確にしなければならない。選択とは圧制と自由の選択である」「人間の尊厳に対するアメリカの信念が我が国の政治を導くのである」「我が共和国の自由が存続できるかどうかは、世界に自由を広げることができるかどうかにかかっている」。ブッシュ大統領の「私たちは永続的な奴隷制を許容できないように、永続的な独裁国家を受け入れることはできない」という演説のサワリは、シャランスキーの「地球上から奴隷制が廃絶されたように独裁政府も過去の存在になるだろう」という部分と呼応するのである。

シャランスキーのメッセージは、ライスの上院外交委員会の国務長官承認公聴会での発言でさらに具体的に展開される。証言の冒頭でライスはシャランスキーの本を引用して“街の広場テスト(タウン・スクエア・テスト)”論を展開している。すなわちライスは「逮捕されるという恐れを感じることなく街の中央にある広場に歩み出て自分の意見を主張することができないなら、その人は“恐怖の社会”に住んでいるのである」と主張した。要するに、彼女の言わんとするところは、ある国が独裁国家か専制国家かの判断は“街の広場テスト”を基準に行なうというのである。

四月一六日にライス国務長官は新聞編集者協会の昼食会で演説し、「独裁国家の台頭とテロを防ぎ、憎しみを希望と置き換えることができる唯一の力は人間の自由の力である」というブッシュ大統領の発言を引用しながら、ロシアとパキスタンが民主化する必要性があると強調した。さらに中東政策に関して、過去六〇年間、民主党政権も共和党政権も中東を例外扱いして、民主化を求めてこなかったと分析し、中東政策を民主化の要請を柱とする政策へ変更することを示唆している。

フー・イズ・シャランスキー?

このようにブッシュ政権の外交政策に非常に大きな影響を与えているシャランスキーとは何者なのであろうか。彼は四八年にロシアで生まれたユダヤ人である。モスクワの大学で応用数学を専攻している。七三年にイスラエルへの移民ビザが国家安全保障を理由に拒否されたため、英語の通訳として生計を立てながら、反体制運動家で物理学者アンドレイ・サハロフのために働いた。ソビエトのユダヤ人の人権運動に携わり人権活動家として知られるようになるが、七七年にアメリカのスパイ容疑で逮捕され、シベリアの労働キャンプで一三年の強制労働を命じられる。

だがレーガン大統領のソビエト政府に対する圧力もあり、八六年に西側に拘留されているソビエトのスパイとの交換で釈放されている。だが彼は自分がスパイであることを否定し続け、最終的に彼の主張は受け入れられ、スパイが交換される時間よりも数時間前に釈放されている。釈放後、イスラエルに移民し、ヘブライ語の名前であるナタンを名乗るようになる。イスラエルでロシアから移民してきたユダヤ人の支援活動に携わり、八八年に自伝『フェア・ノー・イーブル』を出版。八九年にレーガン大統領から「自由のメダル」を授与されている。

九五年に政党を結成し、政界に進出。過去、三つの政府で閣僚を務めている。二〇〇三年三月からシャロン政権の閣僚であったが、今年五月二日にシャロン首相がガザ地区やウエスト・バンクからの一方的な撤退したことに抗議し辞職している。彼はイスラエルでは右派として知られ、パレスチナ問題で非妥協の厳しい態度を取っていることで知られている。

彼の自由や民主主義に対する思想は、ソビエトでの反体制活動によって培われた。彼は目の当たりでソビエトの崩壊過程を見てきたのである。彼は、ソビエト崩壊のきっかけとなったのは七五年の「ヘルシンキ合意」であったと考えた。同合意に基づきNGOの「ヘルシンキ・ウオッチ」が設立され、ソビエトの人権問題が国際的に監視されることになった。これがソビエトの反体制派を勇気付け、ボディー・ブローのようにソビエト体制にダメージを与えていった。
さらにレーガン大統領がソビエトを「悪の帝国」と既定し、明確な対決政策を取ったことが、ソビエト崩壊の決定的な要因となったと、シャランスキーは解釈する。こうしたソビエトでの経験が、独裁国家に対して外交政策の中で人権問題を明確に位置づけ、対決姿勢を保つことが独裁国家の国民が自由を獲得し、民主主義を確立するうえで重要であるという思想に発展していったのである。

さらに彼の独自の人間理解が、その思想に加わる。それは「人間は基本的に自由を希求する存在である」という考え方である。シャランスキーは、民主主義は文化的、歴史的な相違があっても、どの国においても実現可能であると主張する。誰もドイツや日本が現在のような民主国家になるとは予想できなかったではないかと指摘し、各国の歴史的違いや文化的違いを理由に民主主義の確立が不可能であるとする主張を退ける。条件さえ整えば、どんな国でも民主主義を実現することができるのである。そうした考えが、民主主義国家は独裁国家に対して常に民主化を求める続けるべきであるという彼の思想に繋がっていく。そして、世界は“自由な社会”と“恐怖の社会”に分かれていると主張する。それはレーガン大統領の「悪の帝国」やブッシュ大統領の「悪の枢軸」という世界を善と悪に区分する考えに通じる。“自由な社会”と“恐怖の社会”を峻別するのは、ライス国務長官が指摘した“街の広場のテスト”である。

シャランスキーの「理想主義」

シャランスキーは、ヘンリー・キッシンジャー(ニクソン政権の国務長官)などに代表される現実主義者の外交政策を批判する。現実主義者は東西冷戦の時に“デタント政策”を主張したが、それは独裁国家の温存を図るものであったと批判する。彼は、現実主義者は国益と民主化政策は無関係であると考えていたと指摘する。すなわち、相手国が独裁国家であっても、そこに力の均衡が存在し、緊張が緩和するなら、体制の是非は問わないという政策であった。そうした現実主義者のデタント政策は対ソ戦略に留まるものではない。たとえば、彼によれば、アメリカの中東政策は、サウジアラビアやエジプトなどの専制国家の安定化を優先し民主化を要求しないという過ちを犯したのである。彼は「独裁者は自らの権力を維持するためにテロを輸出している」と、現実主義者の中東政策が結果として中東諸国をテロの温床にしてしまったと主張する。したがって、本当にテロを撲滅するためには、中東の独裁国家の民主化しか道はないと説くのである。

彼はさらに議論を進め、世界を民主化することはアメリカの国益に叶うだけでなく、世界の民主化が実現したとき初めて本当の平和が訪れると主張する。その目的を達成するためにアメリカを中心とする民主国家は世界の民主化を進める役割を果たすべきだと訴えるのである。シャランスキーは「テロのネットワークを根絶するだけで満足すべきではない。民主主義の種を蒔かなければならない」と説く。この発想は、ブッシュ大統領の就任演説の内容にそのまま投影されているのである。

もちろん、こうしたシャランスキーの「理想主義」に対して強烈な批判も加えられている。アメリカの伝統的保守主義者のパット・ブキャナンは二月一三日のNBCテレビ報道番組「ミート・ザ・プレス」でシャランスキーに対して「九月一一日の連続テロ事件はアメリカの介入主義が引き起こしたものである。ビン・ラディンがアメリカを攻撃するのはアメリカが民主国家だからではなく、アメリカの中東での軍事的プレゼンスが過剰であるから」であり、「パレスチナのテロもイスラエルがガザ地区などを占拠しているのが原因である」と批判を加えている。これに対してシャランスキーは「アメリカがテロリストに攻撃されるのはアメリカが自由世界のリーダーだからだ」と反論。さらにパレスチナ問題については「イスラエルが譲歩するとすれば、それはパレスチナが本当に民主化したときだ」と切り返す。

またブキャナンは「アメリカに直接的な脅威となっていない国に攻撃を加えるのは内政干渉ではないか」と、ブッシュ・ドクトリンにも疑問を呈する。これに対してシャランスキーは「独裁者を攻撃する必要はない。支援を止めればいい。そうすれが独裁国家は自然に倒れるだろう。独裁国家は内部からの攻撃には弱いものである」と武力行使には否定的な見解を述べつつ、民主勢力を支援せずに独裁国家に対して融和政策を取ってきた現実主義者の外交政策にこそ問題があると反論を加えている。

アメリカのネオコンとの関係

では、ネオコンはシャランスキーの議論をどう見ているのであろうか。ネオコンの代表的論者デビッド・ホロウィッツは、「これは私がこの二五年間に読んだ中で最も優れた本である」と絶賛している。またネオコンの週刊誌『ウィークリー・スタンダード』の編集長ウィリアム・クリストルは「大統領がシャランスキーの本について熱中しているのは良いニュースである。大統領は第一期政権で敷かれた基本的な外交政策に沿って国を導く決意をしている」と述べている。民主主義を世界に広めなければならないという主張は、ネオコンの主張と完全に重なるのである。

シャランスキーがネオコンの論者アブラムとは極めて緊密な関係にあるのは、周知のことである。彼はネオコンのシンポジュームにも頻繁に参加している。またチェイニー副大統領とも懇意な関係にある。二〇〇二年六月にコロラド州ビーバー・クリークで保守派のシンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所のセミナーが開催された。その会合でチェイニー副大統領とシャランスキーは出会い、長時間話し込んでいる。それから数日後の六月二四日にブッシュ大統領は「パレスチナの民主化がない限り、パレスチナ問題の解決はない」という趣旨の演説を行なった。これはアメリカの中東政策の転換であり、シャランスキーの主張を全面的に採用したものである。この演説はチェイニー副大統領とシャランスキーの会談の影響を受けたものであることは容易に想像できる。いずれにせよシャランスキーとネオコンは極めて近い存在であることは間違いない。

第二期ブッシュ政権の外交政策がどうなるかが注目されている。ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官が世界銀行総裁に転出し、ダグラス・フェイス国防次官が辞任の意向を明らかにし、ジョン・ボルトン国務次官が国連大使に指名されるなど強硬派ネオコンが相次いで政府から去ることで、ブッシュ政権の外交政策に変化が出るとの見方もある。しかし、ブッシュ大統領がシャランスキーの思想を前面的に受け入れる姿勢を見せており、その意味ではクリストルが指摘するように第一期政権で敷かれた外交政策の基本は継続されるのかもしれない。

中東では“民主化の春風”が吹き始めている。それはブッシュ政権が中東諸国に対して民主化を求め始めたことが背景にある。たとえば大統領はサウジアラビアに「国民が自分の将来を決定できる役割を拡大することで指導力を発揮すべきだ」と要求する一方で、反対党の指導者の拘留などを民主化に逆行するものだと批判を強めている。エジプトに対しても「中東の民主化の道筋を示せ」と迫り、公平な大統領選挙の実施を要求している。

ブッシュ大統領は五月一八日、インターナショナル・リパブリカン研究所の昼食会で演説を行い、改めて外交政策の基本方針を明らかにした。大統領は「現在は何百万人の人々にとって自由の夢が現実になる偉大な理想主義の時代である。理想的な目的を達するために、国家が自由を確保できるように支援する現実的な政策と、若い民主国家が手に入れた自由を確実なものにできるように支援する実際的な戦略が必要である」と語っている。そして、「世界で民主主義を確立するには時間がかかり、困難で混乱の時期がある」と認めつつ、世界の民主化の必要性を強調する姿勢に揺るぎは見えない。

従来のネオコンの主張にシャランスキーの理想論が加わり、第二期ブッシュ政権はさらにイデオロギー色を強めていくかもしれない。

6件のコメント

  1. 昔からロシアは偉大な思想家を輩出していますが米国とロシアが協調し世界平和の安定に寄与するなら好ましいことですね 自由といいすぎるとEフロムの自由からの逃走という事態も生じうるのっでしょうからBUSHをうまく抑える側近がいれば以外とBUSH政権はいいかもしれないと思えます

    コメント by 星の王子様 — 2005年7月12日 @ 04:39

  2. 日本と比べて合衆国は、

    1.自己責任を問う個人主義であり、
    2.拝金主義の競争社会であり、
    3.先制攻撃を厭わない統率のとれた軍事専制国家であり、
    4.貧富の差が激しい不平等な他民族社会です。

    しかし、世界から見ると、

    1.民主主義が発達し、
    2.経済大国で、
    3.平和を守る軍事大国で、
    4.別天地なのでしょうね。

    それだけ、世界は厳しいということだと思います。

    ドイツや日本でも民主化に成功したではないか?という見方があるのには驚きました。

    コメント by ちびた — 2005年7月23日 @ 04:40

  3. とんでもない国際政治理論(2)
    ダーデリアンの国際政治理論の続きを紹介します。相変わらずぶっ飛んでます。ダーデリアンは、国際関係の本質を、秩序維持の「監視」機能に求めます。国際関係においては、監視する…

    トラックバック by 海の向こうを見よう! — 2005年8月12日 @ 19:08

  4. とんでもない国際政治理論(2)
    ダーデリアンの国際政治理論の続きを紹介します。相変わらずぶっ飛んでます。ダーデリアンは、国際関係の本質を、秩序維持の「監視」機能に求めます。国際関係においては、監視する…

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    トラックバック by 海の向こうを見よう! — 2005年8月12日 @ 19:09

  6. 買ったのはいいけれど・・・
    先月、ブッシュ大統領のバイブルとも言われる本を研究のために購入しました。Natan Sharansky著The Case For Democracy(これ)です。ところ…

    トラックバック by 海の向こうを見よう! — 2005年8月14日 @ 03:57

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