中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/8/10 水曜日

7月のブログ利用状況:確実に広がる読者層

Filed under: - nakaoka @ 10:04

7月から8月にかけていろいろなことがありました。まず、本ブログで何度も取り上げたジョン・ボルトン前国務次官が議会の承認を得ないまま、「リセス・アポイントメント」(休会中に大統領権限で任命)されました。これは本ブログで書いた通りの展開です。また、中国人民元の切り上げも行なわれました。予想通り小幅な切り上げで、大きな混乱も波乱もおきませんでした。このテーマも本ブログで何度も取り上げてきたものです。日本の国連安全保障理事会の常任理事国入り問題も、結局、頓挫した状況になっています。他にも取り上げなければならないテーマが山積していますが、7月は3本の記事しか書けませんでした。本の執筆に集中していて、時間的にも、気分的にも余裕がなかったためです。それにもかかわらず、ヒット件数は29万9941件と6月の28万件を約1万上回りました。累積した記事の効果で、7月中に読まれた記事の本数は117本(掲載総数は124件)に達しています。以下、7月の利用状況をコメントを書きます。なお本ブログの最後に、「日本の国連安全保障理事会常任理事国入り問題」アメリカ議会で審議中の「国連改革法案」に関してコメントを付けておきました。そちらもご一読ください。

7月の利用状況
ヒット件数:29万9941件
ユーザー数:11万0736人
リピート率:20%

7月に最も読まれた記事上位10位
1位:ライス国務長官の上智大学での講演と『世界週報』の拙稿「ライス国務長官の下でアメリカ外交はどう変わる   か」の全文転載
2位:「ホワイトハウスの必読書―これがブッシュ中東民主化政策の理論的支柱だ」:『中央公論』7月号掲載論文
3位:グリーンスパンFRB議長は中国人民元切り上げ問題をどう考えているのか
4位:ヘッジファンド入門:ヘッジファンドは為替相場・株式相場にどのような影響を与えるのか
5位:「フィリバスター(議事妨害)」は反民主的行為か?
6位:経済からみた日中関係:どう不毛な政治的対立を克服すべきか
7位:『ニューズウィーク』誌の記事撤回問題の波紋:6月29日付け『東京新聞』夕刊掲載
8位:2008年の大統領選挙は“女の戦い”か
9位:「国連改革」とアメリカの主張:日本の安全保障理事会の常任理事国入りをどうかんがえるか
10位:米財務省の「国際経済と為替政策に関する議会報告」:アメリカは中国人民元切り上げ問題を“本音”でどう   考えているのか

6月のヒット状況
ヒット件数:28万6480件
ユーザー数:10万2927人
リピート率:21%

6月の最も読まれた記事上位10位
1位:経済から見た日中関係:どう不毛な政治的対立を克服すべきか
2位:21世紀のアメリカの軍事的、経済的な同盟国の条件は何か?
3位:第二期ブッシュ政権の経済チームを評価する
4位:ライス国務長官の上智大学での講演と『世界週報』に寄稿したライス外交政策に関する原稿
5位:混迷続くボルトン国連大使の議会承認
6位:グリーンスパンFRB議長は中国人民元切り上げ問題をどう考えているのか
7位:米財務省の「国際経済と為替政策に関する議会への報告」
8位:2008年の大統領選挙は”女の戦い”か
9位:『ニューズウィーク』誌の誤報問題とジャーナリズムのあり方
10位:「国連改革」とアメリカの主張

7月のリピート率は低下していますが、これは新しい記事をアップできなかったので、定期的に読んでいただいている読者のリピートが減ったためでしょう。読まれた記事の本数は117件と、以前に書いた記事が頻繁に読まれています。

国連安全保障理事会常任理事国入り問題について
詳しくは別途ブログに書くつもりですが、日本の国連安全保障理事会の常任理事国入りについて、ここで若干ふてておきます。今回の経緯を見ていて痛烈に感じたのは、日本には外交戦略がまったくないのではないかということです。外務省の担当者は、最初からアメリカの支持が得られるものと超楽観的に考えていたようです。ある編集者から聞いた話ですが、外務省の担当者はアメリカ政府との密接な関係を自慢げに語り、極めて楽観的な予想をしていたそうです。その外務省の担当者は「ボルトンなど電話一本で話ができる」と語っていたとのことです。しかし、結果的にはアメリカ政府の基本的な考え方は「安全保障理事会の拡大には基本的に反対」ということでした。それは、本ブログのアメリカ保守派の考え方というところで紹介しました。常任理事国を1~2カ国増やすという一見日本を考慮したような発言も”リップサービス”以上のものではなく、実質的に新常任理事国は認めないということを別の言葉で表現したものでしょう。

もう1つ、ある外国のメディアは、アメリカは常任理事国問題で「イラク問題でアメリカに反対したドイツを罰する」という記事を掲載していました。ブッシュ政権は意地でもドイツを常任理事国にしたくなかったようです。そうしたアメリカ政府の姿勢を、すくなくとも外務省の担当者はまったく読んでいなかったようです。アメリカは、イラク戦争を支持してくれた日本に対する”リップサービス”として日本の常任理事国入りを支持したとのと同時に、おそらく日本は安全保障理事会でアメリカに反対の立場を取らないという思惑もあったのでしょう。いずれにせよ、アメリカ政府は常任理事国を増やすことには基本的に反対だと考えるべきでしょう。

現在ですら、常任理事国の拒否権で安全保障理事会が十分に機能できない状況にあります。さらに拒否権を持つ国が増えることは、同理事会の機能や有効性がさらに低下するというのが、アメリカの多くの論者の主張です。アメリカにとって、国連組織自体や予算などのほうが国連改革の柱なのです。アメリカにとって拒否権を持つ常任理事国を増やすメリットはまったくないのです。もちろん、アメリカの思惑だけで国連改革が進むものではありませんが、アメリカの意図を無視して改革を進めることもできないわけです。アメリカは国連スキャンダルの摘発に真剣に取り組んでいます(これについても「独立調査委員会」の行動に関してブログを書いていますので、参照してください)。同じ国連改革といっても、日米政府では力点の置き方が違うようです。

今、米議会で「国連改革法案」(「ヘンリー・J・ハイド国連改革法案」)が提出されています。そのに「安全保障理事会の拡大」という条文があります。以下がその条文です。

SEC. 112. POLICY WITH RESPECT TO EXPANSION OF THE SECURITY COUNCIL.
It shall be the policy of the United States to use the voice, vote, and influence of the United States at the United Nations to oppose any proposals on expansion of the Security Council if such expansion would–
(1) diminish the influence of the United States on the Security Council;
(2) include veto rights for any new members of the Security Council; or
(3) undermine the effectiveness of the Security Council.

ここで主張していることは、安全保障会議でのアメリカの影響力を減じる提案、新常任理事国の拒否権を認める提案、安全保障理事会の効率性を損なう提案には反対すると規定されています。本法案が成立するかどうか分かりませんが、ブッシュ政権がこうした議会の意向を無視することはないでしょう。また、同法案には投票権に関して、拠出金の割合で投票権を与えるべきだと主張しています。アメリカの保守派などは、すべての加盟国が総会で1票しか投票権がないのは不公平であると主張しています。また、本法で繰り返し主張されていることは、「アメリカの影響力を損なわない」ということです。こうしたアメリカの国連改革に対する姿勢を、日本政府や外務省の担当者はどう評価し、判断していたのでしょう。

ボルトン新国連大使の任命に関して、アメリカのメデフィアは「鶏小屋に狼を入れたようなものだ」と書いています。彼の強引な手法が、今後の国連改革の流れを決めていくかも知れません。ブルトンは、まだ大使に決まっていない段階から、国務省内に事務所を構え、スタッフの拡大を要求していました。彼は基本的にワシントンに留まり、政府や議会と密接な関係を維持しながら、アメリカ流国連改革を進めていくでしょう。従来の国連大使とは大きく違い、ワシントンで大きな影響力を維持し続けているのです。

それにしても、日本は世界にどんなメッセージを送ろうとしているのか、相変わらず分かりません。靖国問題や戦争責任問題で、日本はもはやアジアでの”道徳的指導者”になるチャンスの芽を自ら摘んでしまいました。誰の立場にたって、何を主張しようとしようとしているのでしょうか。日本の国益をどう考えているのかまったく分かりません。今回の常任理事国入り問題は、改めて外交とは何か、日本は何をしようとしているのかといった問題を考えさせてくれたようです。

1件のコメント

  1. 国連安保理拡大に関するエントリー、あらためて期待するとして、米国の本音は日本の常任理事国入りに反対ということではないんじゃあないですか.むしろ、日本だけなら歓迎だよということだが、これはどうみても無理筋だし、日本もわかっていたからG4案を出したんでしょうが、実はこれも無理筋だったということでしょう.ただ、日米お互いに相手の出方を読み誤った点はいなめない.米国の国連不信はかなりヒートアアプしてきた(職員の逮捕まででてきた)が、人権理事会や資金管理改善の面で日本の提案が生きる局面はありうるし、G4挫折からの旨い方向転換は可能と考えますが.

    コメント by M.N生 — 2005年8月10日 @ 15:48

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