中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/8/10 水曜日

石油先物価格が史上最高値:最近のコモディティ市場の動向をどう理解すべきか

Filed under: - nakaoka @ 10:53

原油価格が最高値を記録しました。じわりじわりと世界経済に影響を及ぼしてくるでしょう。しかし、コモディティ(商品:一次産品)で価格が上昇しているのは、原油だけではありません。コモデティ市場を見ると、様々な商品が2001年を底に上昇に転じています。コモディティ価格は長期的な低下傾向にありましたが、2002年以降の世界的な金融緩和や中国、インド、ブラジルなどが目覚しい経済成長を遂げ、新たな需要を生み出していることなどから、そうした価格の長期下落傾向に大きな変化がでています。今回、その長期的な趨勢を見てみることにします。本ブログは7月中旬の時点で書いたものですが、基本的な動向は変わっていないと思います。目先の動きだけでなく、長期的な趨勢を見てみると、違った側面が見えてくるかも知れません。

中長期的な上昇が予想されるコモディティ市況
コモディティ市況の上昇が続いています。コモデティというのは原油や大豆、砂糖などの農産物や銅などの鉱物のことです。そのコモディティの各価格指数は、一様に大幅な上昇を示しています。たとえば『エコノミスト』誌が発表している「エコノミスト・コモディティ価格指数」によれば、2000年を100とすると201年第4四半期の87.87底に上昇に転じ、2004年第4四半期には122.8まで上昇しています。また「カナダ銀行コモディティ価格指数」も総合指数とエネルギーを除いた指数の両方ともに過去最高を記録しています。「CRBフューチャーズ指数」も1981年以降で最高の水準に達しています。

こうした価格上昇の背景に、コモディティに対する投資額が急増していることもあります。バークレーズ・キャピタル社の調査では、コモディティに対する投資額は500億ドルに達しており、これは1999年に比べると実に10倍の額になるものです。

コモディティ市況は、短期的な上昇に留まらず、今回の上昇は長期的な様相を示しています。今までコモデティ価格は長期的な下落基調にありました。「エコノミスト・コモディティ価格指数の長期統計」(1845~50年=100)の戦後の推移を見ると、1950年代に80を越える水準を付けた後、1975年には40を割り込むなど一貫して低下しています。その後、一時的に同指数は50まで戻したあと、2001年まで上下動を繰り返しながら下降トレンドをたどっています。しかし、2001年を底にコモディティ価格は着実に上昇に転じ始めたのです。

個別のコモディティ価格の動向を見てみると、銅は2005年6月20日に1メトリック・トンで3435ドルと過去最高を記録しています。銅は電線ケーブルや自動車部品などに使われており、その需要は着実に増加しているのが1つの理由だと推測されます。在庫水準も3万4500トンと30年来最低の水準にまで落ち込んでいます。また鉄鉱石も過去最高の価格水準にまで上昇しており、石炭もこの1年で価格は倍にもなっています。原油の先物価格も6月20日にニューヨーク市場で終値ベースで1バレル=59.37ドル(注記:8月8日に64ドルを越えました)と過去最高の水準にまで上昇しています。

こうしたコモディティ価格の上昇の背景には、①世界経済の回復、特に中国、インド、ブラジルが高成長を段階に入ったことと、②世界経済が過剰流動性の状況にあることが背景にあります。

世界経済の成長は、IMF(国際通貨基金)の統計では2004年が4.0%、2004年が5.1%と高成長を達成しています。2004年の世界経済はブーム状況にあったといます。その中で中国とインド、ブラジルの経済成長率はそれぞれ9.6%、7.3%、5.2%といずれも高水準を達成したのが目立っています。2005年の世界経済の成長率も4.3%(IMF予想)とやや減速するものの、高水準を維持するとみられます。中国の成長はIMFの予想では8.5%に減速するとなっていますが、最終的には9%台の成長は十分に可能でしょう。これらの国のコモディティに対する需要は大幅に拡大しており、それが市況上昇に大きな影響を与えているのです。

たとえば中国の鉄鋼、セメント、農産物などのコモディティの輸入・消費量は急増しています。鉄鋼では、中国は世界消費の30%を占めているのです。原油の消費量もアメリカに次ぐ第2位であり、2000年以降の消費の増加分の40%を占め、消費量も過去2年間で倍増しています。セメントも世界最大の消費国になっています。またインスタント麺の生産でも中国は世界最大で、材料の小麦やパームオイルの輸入も急激に増加しています。アメリカ商務省は、中国の小麦の輸入量は5年間に36倍に増え、2005年は約700万トンに達すると予想しています。中国は世界のコモディティ需要に大きな影響を与えており、「エコノミスト・コモディティ価格指数」の上昇分の50%が中国の需要増によるものであると分析されています。

世界経済の動向に加え金融要因も、コモディティ市況回復を支えています。2001年以降、世界の流動性は急激に増加しているのです。IMFの『世界金融安定報告』(2005年4月)によれば、世界の流動性は2001年に約2兆ドルであったものが、2004年には3.5兆ドルにまで増えています。これはアメリカが2001年以降、急激な利下げを行なったこと、日本がゼロ金利政策を取っていること、EUも金融緩和政策を採用するなど、各国が一斉に金融緩和を進めたためです。

日米の株高の背景には、こうした“過剰流動性”があることは間違いありません。しかし、運用で見れば伝統的な株式市場や債券市場よりも、コモディティ市場のパフォーマンスが上回っています。たとえば「ゴールドマン・サックス・コモデティ指数」の2005年第1四半期の総合リターンは22%でしたが、同じ時期の「スタンダード&プアーズ500株価指数」は逆にマイナス2.6%でした。株式や債券の運用で従来のような高い収益は期待できなくなっているため、機関投資家は最近、コモディティ市場での運用にシフトしつつあるといえます。

それに対応して金融機関も機関投資家向けにコモディティを組み込んだ投資商品を積極的に開発することで、そうした動きを支援しています。それによってコモディティ市場での運用は特殊な投資家の運用やヘッジ目的の運用から、大きな広がりを見せつつあり、先に触れたように多くの資金が流入し、市況を支えているといえます。

問題は、こうしたコモディティ市況の回復が持続的なものか、一時的なものかである。過剰流動性は各国の金融緩和政策が背景にあったが、FRB(連邦準備理事会)は本格的な成長路線に回復し、インフレ懸念が高まってきたことから2004年6月から1年間に実に9度にわたって利上げを行っている(注記:8月9日に再度の利上げを決定)。日銀もゼロ金利政策からの転換を模索し始めている。主要国で金融引締めが進んでくれば、コモディティ市況にもマイナスの影響が出てくるでしょう。

ただ、現状を詳細に見ると、ドル短期金利は上昇しているものの、財務省証券の長期金利は逆に低下し、イールド曲線はなだらかになっています。こうしたことから、アメリカの引締め政策への転換にもかかわらず「金融情勢は依然として緩和基調にある」(IMF報告)といえます。日本経済も緩やかな回復が期待されるものの、超低金利構造は当分変わらないでしょう。とすると、2001年以降、コモディティ市場を支えてきた金融要因が急激に変わることはないと見て間違いないでしょう。

むしろ中長期的にはコモディティの需給が市況を決定すると見るべきです。世界経済の高成長はまだ続くでしょう。中国も成長が急激に落ち込む“ハードランディング・シナリオ”もありますが、成長率は鈍化しても、依然として高成長を続けることは間違いありません。今後、長期にわたって中国のエネルギー需要は増加し続けると思われます。もし中国の1人当たりのGDPが韓国なみに増えると、中国のエネルギー消費量は現在の4倍になると推定されています。中国の自動車保有は70名に1台と低水準であり、その普及による石油の需要増を満たすだけでも相当の量になります。同様なことはインドやブラジルに関しても言えます。こうした巨大な消費国が同時に登場するということは、かつて見られなかった現象です。

コモディティ・サイクルから見ても、当分の間、在庫積み増しの動きがでてくると予想されるます。また、コモディティの供給面の制約も大きく、市況を下支えする要因となるでしょう。以上の要因を組み合わせて考えてみると、2001年から始まったコモディティ市況の回復は構造的な要因によることろが大きく、上昇トレンドは中長期的に続く可能性が強いと思われます。

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