中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/8/21 日曜日

国防省の軍事政策に変更はあるのか(3):鍵を握るエデルマン次官とチェイニー副大統領のスタッフ

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ポール・ウォルフォウィッツ前国防副長官(現世界銀行総裁)、ジョン・ボルトン前国務次官(現国連大使)、エリックエデルマン国防次官、ダグラス・フェイス前国防次官に共通するのは、”傲慢”と思えるほどの過剰な自信です。自分の信念を絶対化し、他者を睥睨するような傲慢さは、保守派の人々に共通しているものかもしれない。そうした傲慢さは、政策にも確実に反映しているようです。以前、保守派のシンクタンクであるヘリテージ・ファンデーションを取材で訪れたとき、そこで感じたのはちょっと異様な雰囲気でした。妙な表現ですが、ヘリテージ・ファンデーションで会った若者たちはキレイに髪を刈り上げ、ネクタイをしたその姿に感じたのは、何かホモセクシャルな匂いでした(もちろん、これはジャーナリストとしての私の嗅覚であてって具体的な事実があるわけではないが)。おそらく戦前の日本の”愛国少年”にも同様の匂いがあったのではないだろうか。そんななかで、ウォルフォウィッツ副長官の後任に指名されたゴードン・イングランド(Gordon England)はやや異色な存在かもしれません。(英語のブログもお読みください。本ページの左上に”リンク”がついています)

イングランドには軍隊の経験もなければ、前任者のウォルフォウィッツのように思想的な背景もありません。彼は純粋なビジネスマンであり、政府の要職に就いたのも、ブッシュ政権が誕生してからです。1961年にメリーランド大学で電機工学で学士号を取得。1975年にテキサス・クリスチャン大学で経営学士号を取得しています。大学卒業後、軍事企業ハネウエル社に入社、ジェミニ宇宙計画に携わっています。その後、リットン・インダストリーズ社やジェネラル・ダイナミックス社に勤務。いずれも軍事企業です。1997年から2001年までジェネラル・ダイナミックス社の執行副社長を務めています。

ジェネラル・ダイナミックス社を退社後、ブッシュ政権に加わり、デフェンス・サイエンス委員会のメンバーを務め、海軍長官に就任しています。ちなみにジェネラル・ダイナミックス社の最後の年の彼の年収は90万ドルでした。軍隊での経験がなく(彼の世代はまだ徴兵制度があったはずで、もしそうなら兵役を務めていることになりますが、それは確認していません)、しかも必ずしもブッシュ政権に強力な後ろ盾がないにも拘わらず、大抜擢されたのです。テキサスの大学を卒業してはいますが、”テキサス・コネクション”があるわけでもありません。あえて理由を探せば、長期にわたって軍事産業に勤務し、軍事産業と極めて緊密な関係を持っていることでしょう。彼を海軍長官に強力に推挙したのが、ラムズフェルド国防長官です。彼が海軍長官に就任するにあたって、いろいろな反論もありましたが、2001年5月に就任しています。

おそらくラムズフェルド長官は、彼のビジネスマンとしての管理能力を買ったのでしょう。その期待に応え、イングランド海軍長官は海軍の合理化を推進します。まず戦艦などを積極的にスクラップし、兵士の削減を行なっています。海軍と海兵隊の一部を統合し、危機に際して迅速に配置できる体制を作り上げています。おそらく彼に期待されたことは、軍事戦略の策定というような事柄ではなかったようです。また、軍事産業との関連から、新しい兵器開発などにもかかわっています。ある記事に、イングランドはラムズフェルドの”頼れる人物(go-to guy)”であると書かれています。

2003年1月に新設された国土安全省副長官に転出しています。その職務は、彼にとってブッシュ政権の中で存在感を強める役割を果たしたといえます。しかし、後任の海軍長官に指名されていたコリン・マクミランが自殺したことで、彼は再び海軍長官に就任することになります。2003年10月のことです。その後、キューバのグアンタナモ基地での収容者虐待問題が明らかになります(これに関しては本ブログ6月30日付けの「ニューズウィーク誌の記事撤回事件の波紋」を参照)。ラムズフェルドは、イングランドを委員長に3人のスタッフで構成される委員会を儲けて、調査をさせます。2005年5月にウォルオウィッツ副長官が辞任したことに伴い、イングランドが後任の副長官に指名されます。しかし、ウォルフォウィッツの辞任が決まる前には、空軍長官に横滑りするとの観測がありました。現在、イングランドは海軍長官を兼務しながら、国防副長官代理を務めています。極めて異例な状況にあります。

彼の上院での承認は進んでいません。彼が海軍の合理化を進めたことで、選挙区に軍港を持つ議員が反発しているのが1つの理由です。と同時に、彼の軍事産業との密接な関係も、上院が承認に慎重になっている理由です。彼はロッキード社とジェネラル・ダイナミックス社から年金を28万ドル受け取っています。

ボルトンやエデルマンも上院の承認を得ることができませんでしたが、ブッシュ大統領は”リセス・アポイントメント”で任命しました(その内容は本ブログの(1)を参照)。可能性としては、イングランドも”リセス・アポイントメント”されるのではないかという観測もあります。しかし、議会の夏休み休会は9月の初めまでで、それまで残された時間はあまりありません。また、リセス・アポイントメントをした場合、2007年1月までの任期しかありません。ブッシュ政権としては、まだ上院での承認の可能性はあるとして、あくまで正式な承認を求めることになるでしょう。ただ、副長官代理というポストにあっても、特に業務に差し障りはないので、今の状況がしばらく続くことになるかもしれません。例えば、国務省スポークスマンのローレンス・ディリタは、スポークスマン代理を2年間にわたって務めています。イングランドの職務は、ウォルオフォウィッツと違い、政策や戦略にあまりかかわりがないので、代理であっても問題はないかもしれません。

ちなみに今、空軍長官は空席のままになっています。先に触れたように、イングランドは国防副長官に指名される前は、空軍長官に指名されるのではないかと言われていました。また、統合参謀本部議長の席も空席のままです。アメリカは戦争状況にあるわけですが、軍の指導部は固まっていないのです。

ウォルフォウィッツと比べれば、イングランドは思想性においても、国防省内部における影響力も極めて限られたものですが、今、ブッシュ政権が進めているアメリカ軍の”トランスフォーメーション(再配置計画)”を実施するうえでは大きな役割を果たすのではないかと見られます。あえて思想性を指摘するとすれば、イスラエルに近い「ジューイッシュ・インスティチュート・ナショナル・セキュリティ・アフェアーズ(Jewish Institute for National Security Affairs)」からヘンリー・ジャクション賞(Henry M. Jackson Distinguish Service award)をもらっています。この研究所は、ネオコンに近い組織です。

むしろ、国防省の政策の面では、エデルマン次官の影響力のほうが圧倒的に大きいでしょう。彼は、フェイスと違いイスラエル・コネクションではありませんが、ネオコンの流れを汲む人物であることは間違いありません。トルコ大使の時の対応でも明らかなように、こわもてで、強引な人物であるといえます。国防次官補にリセス・アポイントメントされたペーター・フローリー(Peter Flory)も国際安全保障政策担当であり、その動きも注目されます。彼が上院の承認を得られなかったのは、フェイス前次官がイスラエルに機密情報を提供したことに関連する書類の提出を拒んだからです。

ラムズフェルド長官の影響力も低下しています。むしろ、軍事政策をリードするのはチェイニー副大統領とリビー副大統領首席補佐官などネオコン・スタッフでしょう。エデルマンは、チェイニー副大統領の側近であり、彼のスタッフと緊密な関係にあります。そうした状況から判断すると、軍事戦略のキーマンになるのはエデルマンかもしれません。とすると、第二期ブッシュ政権から、ウォルオウィッツ、ボルトン、フェイスなどの有力ネオコンが去ったにもかかわらず、世界戦略は基本的に変わらないのではないでしょうか。

本稿は(1)(2)(3)で終わりです。

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