中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/8/23 火曜日

国防省の軍事政策に変更はあるのか(終):『ワシントン・ポスト』紙は国防省人事をどう見ているのか

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8月22日付けの『ワシントン・ポスト』紙は国防省の人事に関する記事を掲載しています。日本から見た状況と、現地の一流の新聞社の記者が見た状況では違いがあるかもしれません。同紙の記事は、私のブログよりも1週間遅れですが、比較してみるのも面白いでしょう。以下で、私なりの注釈をつけながら、同紙の記事の要約を紹介することにします。同紙の記事のタイトルは「At Pentagon, Less Ideology, More Balance(ペンタゴンは以前よりもイデオロギー的ではなくなり、もっとバランスが取れたものになっている)」というものです。サブタイトルは「ウオルフォウフィッツとフェイスが去り、専門家は新しい国防省の指導者は議会と協調的であると見ている」となっています。同じテーマで4回連続となりますが、これで国防省の人事に関する分析は一応終わりにし、次から新しいテーマについて書くつもりです。

「国防省の新執行部は前の指導部と比べるとそれほどイデオロギー的ではなく、よりバランスの取れたもので、議会とも協調的であると専門家や議会関係者は見ている」

「ラムズフェルド長官はイラク戦争の処理の不手際で議会から辞任を要求されて、抵抗していた。副長官や政策、武器購入、オフィスの運営を担当する何人かの上級顧問が辞任した。国防省のナンバー2だったポール・ウォルフォウイッツ副長官と政策担当責任者のダグラス・フェイス次官が辞任した。二人ともネオコンで、ブッシュ政権のイラン政策の策定に携わっていた。彼らは、イラク戦争の批判の矢面に立っていた。過去4年、国防省は予防的攻撃や諜報能力といった問題を巡る論争で混乱に陥っていたが、新執行部は政治的な攻撃をまったく受けていない」

「ウォルフォウィッツの後任のゴードン・イングランドはイラクやアフガニスタン問題に直面しているが、5月に副長官代理に就任して以来、こうした対立に対して公的に何も語っていない。彼は国防省のもっと狭い課題、たとえば国防省の業務の合理化や軍事力の再構築といった問題に焦点を当てている」

「フェイス次官の後任のエリック・エデルマンも、ワシントンで行なわれたイデオロギー抗争に加わった経歴はなく、熟練の職業外交官として評価されている」

「ラムズフェルド長官の首席補佐官に就任したロバート・ランゲル(Robert Rangel)は下院軍事委員会のスタッフで、議会とラムズフェルド長官の関係を円滑にする役割を果たしている。ラムズフェルド長官が下院軍事委員会の民主党議員を朝食を招待したのも、その成果である」

「ブルキングス研究所の専門家は、『旧執行部は優れた能力を持っていたのに対して新執行部の質はそれほど高くはない。しかし、ネオコンが国防省を支配していたときよりもバランスが取れている』と語っている」

「ただ、国防省のスタッフは国防省の執行部の交替を基本的な政策の変更であると見るべきではないと警告している。ラムズフェルド長官は選択基準として、業務の経験や忠誠心、信頼性を重視しているようだ」

「たとえば、イングランドは海軍長官や国土安全省副長官の経験があり、ロジスチック担当の新次官ケネス・クリーグ(Kenneth Krieg)は国防省でプログラム・アナリストなどの任務に就いている。エデルマンは国務省の高官やトルコ大使を経験している。また、チェイニー副大統領の国家安全保障問題のアドバイザーでもあった。また1990年代初めに国防省でウォルオウィッツの元で働いた経験もある」

「政府の国防政策の担当者は『政策の観点からいえば、基本的な変化はないだろう』と述べている。新執行部は、強調点とスタイルで従来よりも変化すると思われる。イングランドは、国防省の日々の業務を監督するという伝統的な副長官に戻るつもりである。こうした業務は、学者肌で、防衛政策の専門家であるウォルフォウィッツはやってこなかった。もし機会が与えられれば、彼は何十億ドルの資金が無駄遣いされていると信じており、今までの国防省のやり方のすべてを変えようとするだろう。彼は、今年の国防省の軍事レベル、武器レベルの見直しの責任者である。彼は聖域なき見直しを行なうだろう」

「現在、国防省の47の上院の承認が必要なポストのうち12のポストがまだ埋まっていない。その中には、空軍長官、海軍長官も含まれる(注:イングランドは海軍長官を兼務している)。また陸軍次官もまだ決まっていない。これは上院議員と国防省の政策を巡り対立があるからである」

「イングランドの上院での承認も行き詰っている。議会は、利益相反を回避するために、イングランドなどの民間出身者に民間企業から年金を受け取る代わりに特別保険に加入するように求めている。もし、この問題が今月中にクリアされれば、イングランドは承認されることになるだろう」

以上が『ワシントン・ポスト』紙の記事の概要です。結論を要約すれば、「新執行部は実務重視であり、イデオロギー的な傾向は薄い。しかし、だからといって国防省の政策が基本的に変わると見るのは早計である。今回のラムズフェルド人事は、彼の好みが大きく反映しており、信頼関係や忠誠心が選択基準になっている」ということになるでしょうか。字数からいえば、相当長い記事ですが、あまり分析的とはいえません。おそらく、私の過去3回のブログのほうが詳しい分析が行なわれていると思います。政策が基本的に変化しないだろうというのが、私の結論でした。しかも、政策決定は今まで以上にチェイニー副大統領のスタッフに移るのではないかと思います。

最近の印象では、チェイニー副大統領の一般的な人気はあまり芳しくありませんが、政策面では彼と彼のスタッフがリードしているのではないかと感じています。その傾向が、ますます強くなるかもしれないというのが、私のメッセージです。

『ワシントン・ポスト』紙の分析は表面的すぎる気がします。アメリカにいるから、アメリカのことが見えるわけではありません。日本にいても、詳細に情報を分析すれば、かなりの分析ができると思います。現場主義は重要であり、現場に立ち会うというのはジャーナリストの特権です。しかし、だからといって優れた分析ができるというものではありません。私が良く使うたとえ話に、「もし現場にいかなければ真実が見えないというのであれば、歴史学者は存在しえないだろう」というのがあります。タイムマシーンでもない限り、過去に行くことはできないからです。しかし、過去の資料を詳細に分析し、鋭い感性さえあれば、時代を読み取ることができるのです。多くの優れた歴史家はそうして歴史を解釈してきました。それは現代についても言えることです。ましてや膨大な情報が簡単に入手できる時代です。忍耐強く資料を集め、読み砕くことで、問題の輪郭を明らかにすることができると思います。もしろん、現場に行き、自分の理解を確かめることができれば最善ですが・・・・。

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