中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/9/6 火曜日

8月のヒット状況:月間30万件を越える

Filed under: - nakaoka @ 1:42

8月はハーバード大学からの友人の永岡洋治君の訃報で始まりました。お昼のテレビを見ていて、彼が病院に運ばれたことを知りました。それからまもなく、彼の死が報じられました。「どうして」という気持を拭いきれないまま、とにかく彼について何かを書いておこうと思い、「我が友、永岡洋治君への鎮魂」を書きました。週刊誌などのメディアは確認を取らないまま噂で記事を書くものです。ですから、彼の実像を知らせる何かを、とにかく書いておきたかったというのが、その時の気持です。幸い、多くの人に読んでもらえました。急いで書いたので、十分に書ききれなかったところもありましたが、少しは役に立ったのではと思っています。8月のヒット件数は32万件を越えました(7月は29万9000件)。少しずつですが、昨年10月にブログを始めて以来、ずっと増え続けています。
また、いつか始めたいと思っていた「英語のブログ」も8月22日から始めました。できれば週1本程度書くことができればと思っていますが、なかなか時間が取れません。日本発の英語の情報が提供できればと思っています。妙な英語の文章があるかもしれませんが、ご容赦を。興味のある方は時々覗いてみてください。無味乾燥なヒット件数の一覧表を載せてもあまり意味がないので、以下、8月に感じたことも書いておきます。

8月に一番印象に残ったことは、NHK教育テレビの「ゼロ戦の設計思想」(途中から見たのでタイトルは少し違うかもしれません)。その中で日米の戦闘機の設計思想の違いについて説明がありました。日本の軍は、ゼロ戦の戦闘性を高めるために設計者にできるだけ軽くするように求めたそうです。敵機と遭遇し、空中戦になったとき、軽い方が機動性が高く、有利だからということです。軽くするためには、操縦士を守っている操縦席の防御性を低下させるのが一番だそうです。確かに戦闘性は高まるのでしょうが、その分、操縦士の安全性は犠牲にされます。他方、アメリカの戦闘機の設計思想は、まず操縦士を守るところから始まるとのことでした。ですから、ある意味では機動性に欠ける設計になってしまうことになります。

では何が問題なのでしょうか。番組の説明では、日本は空中戦のたびに多くの操縦士を失いました。いわば操縦士は”消耗品”だったのです。その思想は、日本軍の根底に常に流れていたようです。熟練した操縦士が戦死すれば、まだ未熟な操縦士で補充することができました。そこで日本軍の基本的な発想の誤りがあったのです。確かに兵士や徴兵すれば集まります。その中から操縦士をある程度、訓練で操縦士を育てることもできます。しかし、本当に優秀な操縦士を育てるには、長時間の飛行訓練が必要なのです。要するに、優秀な操縦士を育てるには、膨大なコストと時間がかかるのです。決して”消耗品”ではないのです。

そうしたことを繰り返すうちに、日本の戦闘機の操縦士の能力は確実に劣化していきます。優秀な操縦士を失うのですから。一方、アメリカはまず操縦士を守るという発想から戦闘機を設計するため、操縦士の犠牲は最小に抑えられます。優秀な操縦士は、何度も作戦に参加することができるわけです。空中戦でも、その熟練度が物をいいます。少なくとも、アメリカ軍は、優れた操縦士を育成するのがどれほどコストがかかるか知っていたのです。操縦士は”消耗品”ではなく、”貴重品”なのです。

確かに日米の物量の差があったかもしれません。空軍に限らず、陸軍もロジスチックを無視した作戦を平気で立てていました。食料もない、弾薬もない、ただ実際に戦闘に加わっていない頭でっかちの参謀本部が机上の作戦を押し付けたのです。前線の兵士は”現地調達”を強いられます。それが、現地の人たちとの摩擦を生んだのでしょう。映画「戦場に掛ける橋」を見ていると、そうした司令部の無能さ、無知さが哀しいほど描かれています。作戦を遂行できないと、参謀本部に無能呼ばわりされたのです。そこにあるのは、軽薄な精神主義だけです。

操縦士を大切にしない空軍、それは熟練した労働者や社員を大切にしない今の日本企業に通じるものがあるのかもしれません。高給の熟練スタッフを削減することで企業は短期的な利益を上げることができるのでしょう。しかし、技術やノウハウの蓄積は、そこにはありません。企業文化も育たないでしょう。人と人の人格的な交わりもないかもしれません。そうした発想は、まさに”ゼロ戦の設計思想”と共通するものがあるのかもしれません。本当に人を育てるには膨大な時間とエネルギーが必要です。それを簡単に捨ててしまう企業に、本当の人事思想はないのでしょう。

やや舌たらずですが、8月に一番感じた思いです。

8月の利用状況

8月のヒット件数:32万6846件
ユーザー数:11万8335
リピート率:21%

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7位:混迷続くボルトン国連大使の議会承認
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10位:国防省の軍事政策に変更はあるか(2):新スタッフでネオコン色は薄まるか

7月の利用状況
ヒット件数:29万9941件
ユーザー数:11万0736人
リピート率:20%

7月に最も読まれた記事上位10位
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2位:「ホワイトハウスの必読書―これがブッシュ中東民主化政策の理論的支柱だ」:『中央公論』7月号掲載論文
3位:グリーンスパンFRB議長は中国人民元切り上げ問題をどう考えているのか
4位:ヘッジファンド入門:ヘッジファンドは為替相場・株式相場にどのような影響を与えるのか
5位:「フィリバスター(議事妨害)」は反民主的行為か?
6位:経済からみた日中関係:どう不毛な政治的対立を克服すべきか
7位:『ニューズウィーク』誌の記事撤回問題の波紋:6月29日付け『東京新聞』夕刊掲載
8位:2008年の大統領選挙は“女の戦い”か
9位:「国連改革」とアメリカの主張:日本の安全保障理事会の常任理事国入りをどうかんがえるか
10位:米財務省の「国際経済と為替政策に関する議会報告」:アメリカは中国人民元切り上げ問題を“本音”でどう   考えているのか

なお英語のブログは8月22日から31日の期間で、アップした原稿は2本です。

8月のヒット件数:3564
ユーザー数:1309

読まれた記事
1位:Japan’s September 11:Japan’s Turning Point
2位:Japan-China Relations (Part I)

1件のコメント

  1. 6段落目「空軍」とありますが、当時の日本に空軍は無かったのでは?アメリカでさえ第二次大戦開始時は独立した空軍を持っていなかったはずです。

    コメント by 匿名希望 — 2005年9月7日 @ 03:18

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