中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/9/6 火曜日

これからの円相場をどうみるべきか:基調は円高だが・・・

Filed under: - nakaoka @ 2:14

為替相場の予測は難しい。私は、1980年代の半ばに週刊誌で毎週、為替ディーラーに会ってコラムに為替予想記事を書いていました。また、当時、他のメディアでやっていなかったディーラーの為替予想アンケートを四半期ごとにやっていました。市場であるから、当然、参加者によって予想は大きく分散します。予想は違っても構わないし、また違うものです。ディーラーやアナリストが注目する材料によって、予想の値は違ってきます。しかし、それにしても、その分散は大きすぎたような気がします。では、「平均値」や「中央値」の予想が当たるかというと、必ずしもそうではないのです。マクロ的な説明は分かり易いが、短期的な予想では用をなしません。たとえば、アメリカの”双子の赤字”は、ドル安(為替調整)か、国内経済の落ち込み(=不況、所得調整)のいずれかによってしか解消できないというのが、マクロ経済的な説明です。しかし、現実には長期にわたって”双子の赤字”が存在可能なのはどうしてなのでしょうか。では、金利差によって為替相場の変動は説明できるのでしょうか。答えは説明できることもあれば、説明できないこともある、です。グリーンスパン議長の考え方は、以前のブログに書きましたので、参照してください。

予想が当たった場合は、かなりの部分は偶然のような気がします。論理的に整合性があるが、予想は当たらないというのが経済学者の予想です。ディーラーの予想は直感的で説明不可能だが、当たるということもあるのです。ただ、問題は予想の時間です。短期的な予想では、経験に基づいたディーラー的な勘が有効なのでしょうが、それは長期的には意味をなさないでしょう。為替相場を見るとき、大きな転換(特に政策の変更と関連した転換)があるかどうかが重要な気がします。そうした基調の展開以外は、テクニナルな要因だけで動くのかもしれません。

以下に掲載した原稿は、8月中旬に書いたものです。今月に入って円高が若干でも進んでいますが、以下に書いた大きな流れに加え、ハリケーンの影響でアメリカ経済に影響が出てくるという予想が背景にあるのかもしれません。9月にFOMCは再度利上げをするというのが市場のコンセンサスでしたが、ちょっと怪しくなってきました。しかし、グリーンスパン議長とスノー財務長官は会談をして、今回のハリケーンの経済に与える影響は短期的なもので、成長率に与える影響も小さいということで合意したそうです。

しかし、今度は日本についていえば、もし総選挙で与党が負ければ、わずかながら進んできた円高は一瞬にして消ええなくなるかもしれません。

手元にある海外の為替予想の記事では、次のように予想されています。予想期間は今週です。

「今週の円相場はドルに対して強くなるだろう。ドル相場が1ドル=110円50銭から60銭に戻す局面も数日あるかもしれないが、全体の基調はドル安・円高であり、今週中に1ドル=108円の相場もありうるだろう」

以下、8月中旬に私が雑誌に書いた予想記事です。さて、はぼ1月たっています。まだ有効な分析であることを祈っています。

円相場は再び短期、中期ともに円高局面に突入

8月15日にブルンバーグ・ニューズが発表した「為替相場予想調査」によると、為替トレーダーの円相場に対する“強気予想”は昨年の一一月以来の最高の水準に達しているという。回答者の実に41%が円の買いを推奨し、円の売りを推奨したのはわずか8%に過ぎない。

こうした最近の市場のセンチメントの変化は、為替相場の動きに反映されている。円相場は7月20日に113円と14ヶ月来の安値を付けた後、緩やかに円高で推移している。8月中旬には109円と、わずか1ヶ月足らずで4円以上も円高が進んでいる。この円高は一時的なものなのか、あるいはもう一段の円高が進む序章なのであろうか。
春先から円安が進んできたが、その理由は何であったのか。また、なぜここに来て円に対する市場センチメントが急速に変わったのであろうか。

7月中旬から8月中旬にかけて円相場に影響を与えるニュースが相次いだ。7月21日の中国は人民元の切り上げを発表した。これは結果的に円高要因となった。8月8日の衆議院解散は本来なら政治的不透明性の高まりで円安要因と見られるものであるが、その後の世論調査で小泉内閣の支持率が上昇したこともあり逆に円高に作用した。

日本経済の第二四半期の成長率は年率で1・1%を記録、上半期の成長率で見ると3・3%と予想を上回る成長を達成し、これも円の買い要因となった。日本銀行が景気回復は“踊り場”を脱したとの発表したのを受けて株高が進んだことも海外の投資家の日本株投資を促し、円の支援材料となった。

アメリカ側の要因としては、6月の貿易収支が588億ドルと単月では過去3番目の大幅な赤字となったこともドル安要因となった。また、8月15日に米国債の償還・利払いが合計で247億ドルあり、そのうち約50億ドルが日本の機関投資家に支払われると予想されている。このドル資金の大部分が円に転換されると予想され、円高を促進することは間違いないだろう。

以上の要因に加え、今年に入ってからの市場の円安センチメントを受けて円のポジションはショートになっており、円は買い易い状況にある。こうした要因から判断すれば、“短期的”に円高が進む地合に十分にある。総選挙の結果が予想外のものでない限り、9月に105円という水準もありえる。

では、中期的にも円高は進むのであろうか。それを予想する前に、なぜ四月以降、ドル高・円安が進んだのか見ておく必要がある。

ここ数年の為替相場の予想はドル安が圧倒的なコンセンサスになっていた。その根拠は、アメリカ経済の抱える財政赤字と経常収支赤字の“双子の赤字”を解消し、世界経済の不均衡を是正するためには大幅な為替相場調整すなわち大幅なドル安が不可避であるということであった。これは、マクロ的なファンダメンタルズ要因による「ドル安論」である。

そうした市場コンセンサスを背景に、2002年以降、長期的に世界的な為替調整が進んできた。特に為替調整の負担はユーロに大きくシワ寄せされ、ユーロ相場が史上最高値を記録する局面もみられた。他方、円相場もユーロ相場同様に大幅な調整が必要だと見られ、100円の大台を割り込むのも時間の問題だと思われていた。しかし、日銀の大規模な市場介入によるドル買い支えで急激な円高相場を阻止してきた。

だが、ここ数ヶ月の為替相場は、その「ドル安のシナリオ」とはまったく違った展開を示した。ある欧州の銀行のアナリストは「当行は今年の5月に相場観を“ドル強気”に変えた」と調査レポートに書いている。また、アメリカのアナリストも「アメリカの経常赤字に関連する懸念は休眠状態である」(スティーブン・ジェン・モルガンスタンレー証券為替相場首席エコノミスト)と主張し始めるなど、相場観のファンダメンタルズ離れがみられた。

そうした相場観の変化を受けて円相場は1ドル=113円台にまで下落。円の実効相場は7月に過去7年間で最低の水準にまで低下した。また、同様にユーロ相場も1ユーロ=1・19ドルにまで下落するなど、主要通貨は軒並みドルに対して下落したのである。

では、この間、市場が注目していたのは何か。それは“金利差”であった。FOMC(連邦公開市場委員会)は昨年の6月からアメリカ経済の順調な成長を背景にインフレ懸念を強めており、昨年の6月から今年の8月までに政策金利であるフェデラル・ファンド金利を10度にわたって利上げている。これに対して日銀は量的緩和政策の出口を模索しているが、実際に政策転換を図るのはまだ先であろう。欧州中央銀行もユーロ経済圏の景気低迷で利下げ圧力がかかっており、現在の2%の政策金利は当分続くであろう。とすると政策金利差は拡大する傾向にある。短期金利だけでなく、長期金利のイールド格差も拡大している。例えば二年物の米国債と主要10カ国の債券のイールド格差は四%台、10年物では5%以上にもなっている。

こうした金利格差、イールド格差を背景に資金がアメリカに流入してきた。2月の米国債と米株式の外人投資家による買い越しは約800億ドルに達している。5月も600億ドルの買い越しになり、6月も620億ドル程度の買い越しになったと推定されている。これが7月までのドル高の背景にあった。

しかし、最近、そうした春先以降の「ドル高のシナリオ」に変化が出始めている。為替市場では常にテーマを求めている。“金利差”を材料にドルを買ってきたが、再び“ファンダメンタルズ”でドルを売り始めたのであろうか。確かに先に触れたように日本経済のファンダメンタルズ評価が円高の背景にあるが、成長格差で見る限りアメリカ経済のパフォーマンスが圧倒的に日欧を上回っている。しかも、アメリカの財政赤字は縮小の兆候を見せている。とするとファンダメンタルズの再評価だけを今回のドル安を説明することはできない。むしろファンダメンタルズで判断すれば、「ドル高論」になっても不思議ではない。

実は、もっと大きな変化が起こりつつあるのである。それは、産油国のオイル・マネーと中国を初めとするアジア諸国の外貨準備の”ドル離れ”である。原油価格高騰で産油国のドル収入は急激に増え始めている。この数年、産油国は原油高で増えたオイル・マネーをドルではなくユーロで運用する姿勢を強めている。その動きが、ここに来て加速化している。

また、中国も人民元のドル・ペッグ制を維持するために為替市場に介入し、大量の外貨準備を蓄積し、ドル資産で運用してきた。それがドル相場を支えていたのである。しかし、バスケット方式に移行したことで、中国はドル以外の通貨にも気配りをしなければならなくなっている。中国はユーロや円での外貨準備の運用を増やす姿勢を見せている。モルガンスタンレー証券の調査では「OPECと日本を除くアジアの中央銀行は毎月150億ドルをユーロに転換する」と予測している。

ロシア中央銀行も、外貨準備に占めるユーロの比率を30%から35%に引上げると発表している。こうした外貨準備の“ドル離れ”が続くと、ドル相場への影響は避けられない。外貨準備の還流がアメリカの経常赤字の約40%を賄っており、その動向が与える影響は大きい。

以上から判断すると、中期的にもドル安が進む可能性が強い。円相場は、日銀の介入というリスクは常にあるものの中期的には再び100円という大台に挑戦する円高局面があるかもしれない。

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