中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/10/11 火曜日

年末にかけての為替相場の見通し:相場の焦点は再び金利差へ

Filed under: - nakaoka @ 22:42

本ブログで何度も為替相場の見通しを書いてきました。年初から、どちらかといえば円高論を主張してきました。通常のマクロ経済的に考えれば、アメリカの経常赤字が現在の水準で続くはずはないという”常識”が、その見通しの根底にありました。中国の人民元の切り上げなどもあり、為替相場の基調はどう考えてもドル安に向いていると判断していました。しかも日本経済に底打ち感がでてきたこともあり、年初から見られた金利差を要因とする動きからファンダメンタルズに焦点を当てた展開になるかもしれないと考えていました。7月中旬に113円台の安値を付け、円高に振れる動きを見せたものの、相場は再び円安の方向に押し戻されました。9月にアメリカが再び利上げに踏み切り、さらに年末までにもう一度利上げをするという観測もあり、再び金利差が誘引となる動きを見せています。ここにアップした為替相場の見通しは9月22日に、ある為替専門の雑誌に書いたものです。もう3週間以上前のものですので、その後の動きもありますが、そのままアップします。

再び金利差を睨んだ相場展開に-円相場は年末に掛け年初最安値も

ビッグ・イベントにも拘わらず相場は安定

最近の為替相場の特徴は、大きなエベント(出来事)が相次いで起こっているのに、相場の動きが落ち着いていることだ。大幅な原油価格の上昇、アメリカのハリケーンの招いた惨事、日本の自民党の大勝、ドイツの政治の混迷、9月21日のアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)のフェデラル・ファンド金利の11回連続の引き上げと、通常であれば為替相場に大きな影響を及ぼす要因であるにもかかわらず、相場の動きは極めて落ち着いていた。円ドル相場にしても、自民党が雪崩的な勝利を遂げたにもかかわらず、円は買われなかった。事前の予想と結果が変わらず、既に相場に“折込済み”だったとしてもやや肩透かしの感さえあった。

では、今、為替相場は何を見て動いているのであろうか。昨年来の相場展開を見ていると、金利差が重要な要因になっていた。一時、日本経済の回復を評価する動きも見られ、7月に113円の安値をつけたあと、105円に向けた円高の動きも見られた。しかし、その勢いは弱く、最近の展開は110円を挟んだボックス相場の展開になっている。では、今後、ボックス圏相場を放れるとすると、どちらに向かう確率が高いのであろうか。

欧米のアナリストの見方を総合すると、相場は再び金利差を軸に展開するとの見方が優勢になっている。ドル悲観論として経常赤字と財政赤字の“双子の赤字論”がある。経常赤字は依然として巨額のままであり、改善の兆しを見せていた財政赤字もハリケーンの被害の復興資金などで再び拡大するとの懸念も強まっているが、そうした見通しが直接的に相場に影響を与えているとは思えない。

再び金利差を材料に相場は展開

日銀は、日本経済は“踊り場”を脱したと宣言したが、金融面ではまだ“ゼロ金利政策”が続くと思われる。景気回復も予想されたほど強くなさそうである。景気回復を背景に日本株は上昇しているのに、為替相場が円安に触れているのは、海外の為替ディーラーの円相場観を反映しているのであろう。ハリケーンの被害でFOMCは9月の利上げを見送るのではなかとの見通しがあったが、FOMCは「ハリケーンの影響は一時的で依然としてインフレ・リスクが高い」として、利上げに踏み切った。11月1日、12月13日に開催されるFOMCで再び利上げを行なうとの見通しが強まっている。

利上げにもかかわらず、アメリカ経済は堅調を維持しているが、それは企業の手元流動性が潤沢で、引締めが直接企業活動に響かないからである。むしろ、利上げはバブル状況を呈している住宅市場を軟着陸させるうえで効果があるかもしれない。景気が大きく崩れる懸念がなく、金利差が拡大することを前提とすれば、為替相場は年末に掛け緩やかなドル高・円安の展開になる可能性が強そうだ。

石油価格上昇も、逆転的発想であるが、ドル高・円安要因になるかもしれない。ガソリン価格上昇はアメリカ経済の負担になるが、逆に日本がドルベースで増えた石油輸入代金を調達するためにドル需要を高める面も無視できない。既に原油高で日本の貿易黒字は縮小している。また中国などアジア経済の成長がやや鈍化していることも、アメリカへの資本流入を促進することになるだろう。

年末にかけ年初来円最安値も

オイル・ダラーはユーロに投資されており、その面ではドル・ユーロ相場では、ユーロ高に作用する可能性があるが、全体の流れはドル高に傾斜していると見ていいだろう。もう1つの要因に触れておきたい。それはハリケーン被害との関連で一次産品市場が上昇しており、それも間接的にドル高支援材料になるだろう。

円・ドル相場は目先的には110円を挟んだボックス相場が続きそうだが、年末にかけて年初来安値である113円の水準を越える円安相場が見られそうだ。

追記:9月22日時点での予想では、「年末にかけて円相場の最安値」がありうると書きましたが、動きは予想よりも早かったようです。面白いエピソードを1つ。以前のブログにも書きましたが、80年代に私は毎週、為替見通しの記事を書いていました。為替ディーラーに取材して書くのですが、ディーラーにはそれぞれ癖があります。ディーラーになったときに相場の動きがドル高だと、いつまでも”ドル高”のセンチメントが抜けないそうです。ですから、相場が始まると、まずドル買いから入る傾向が強いそうです。逆に円高相場のときにディーラーになった人は、まず円買いからポジションを作ることが多いそうです。確かに、そうした傾向はあるのではないかと思います。かく言う私も、円高の時代に記者として記事を書いてきたので、なかなか円安に対して心理的抵抗感があります。

もう1つの”経験則”を言えば、相場が大きく展開するときは、アメリカの政策が大きく展開した時です。その時、相場のトレンドが大きく変わります。ただ、短期的にいえば、金融的なファクターや為替のポジションの動きを見ているほうが正確な予測ができそうです。

もう1つ、11日の東京テレビでスノー財務長官がインタビューを受けていました。その中で彼は人民元のさらなる切り上げを性急には求めないと答えていました。本ブログでアメリカの財務省の考え方を何度も紹介してきましたが、その答えは、まさにブログで指摘した通りのことです。中国政府は実に巧みに為替問題を処理しています。日本政府が稚拙な対応で、日本企業の国際競争力を喪失させたのとは大違いです。逆に言えば、中国政府は日本政府の政策の失敗を実に良く研究しているのでしょう。

2件のコメント

  1. 要人発言で為替相場を読み取ろう(重要人物の発言をまとめたサイトの紹介)
    為替を始め相場の動向に欠かせない要人発言。 サプライズのある発言後は直ぐに相場が…

    トラックバック by 羊飼いの外国為替証拠金取引★FXブログ — 2005年12月11日 @ 11:24

  2. 為替相場の転換期?!
    《為替相場の転換期?!》 昨日はドルがだいぶ売り込まれ、ドル円は予想どおり115円台を割り込みました。昨年来の急ピッチな為替相場を見るとこの急落もなんとなく理解はできる…

    トラックバック by FXはスワップ金利で勝つ! 外国為替取引の日記 — 2006年1月7日 @ 12:38

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