中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/12/8 木曜日

なぜ円安相場が続くのか:円安の構造を分析するー「日経マネー」に掲載した記事

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円相場は120円台に突入しています。当面の関心は、円安相場がどこまで続くかですが、その前にどうして今、円安になっているのかを理解する必要があります。日本経済は大底をうち回復過程に入っています。株式市場も好調です。一方でアメリカは依然として貿易赤字と財政赤字という”双子の赤字”を抱えたままです。経済成長も3%半ばで推移していますが、前年から比べれば減速しています。来年は緩やかですが、さらに減速するでしょう。金利面では、来年1月に開催されるFOMC(連邦公開市場)で、グリーンスパン議長は最後の利上げを行い、市場では昨年6月から始まったアメリカの利上げは打ち止めになるとの見通しも出ています。こうした要因を考え合わすと、円安相場の展開が理解しにくいところです。11月10日に「日経マネー」向けに為替相場の見通しを書きました。1ヶ月前に書いた原稿ですが、まだ十分に読むに耐えると思います。記事の中で年末の相場レンジを119円~121円としました。以下は、同誌へ掲載した記事です。

為替はこう動く
金利差に加え原油高、米経済の予想以上の高成長でドル高局面続く

(本文)
為替相場を予想するのは難しい。株式以上に様々な要因によって決定されるからだ。世界の政治、経済の全ての要因を反映して、為替相場は決定される。しかし、為替相場も他の価格と同様に最終的には「需給」と「予想」によって決まることに変わりはない。

世界の為替相場はドルを軸に決定されている。ドルは各国の最大の「準備通貨」であると同時に最大の「貿易決済通貨」でもあるからだ。したがって、為替相場を見るとき、最初にアメリカの経済や政治状況を見る必要がある。為替相場を予想する出発点は、「経常収支」の状況である。アメリカの経常赤字は膨大な額に達している。この赤字は、世界の投資家のドル資産投資で埋め合わされている。しかし、経常赤字は危機的水準と言われる対GDP比率六%に近づいており、この状況が続けば投資家はドル投資を減らすか、ドル資産を売却するかもしれない。そうなれば懸念されている“ドル暴落”が現実のものになる。

大幅な経常赤字が存在するのは、ドル相場が高すぎて、アメリカの輸出価格の競争力を削いでいるからか、国内で過剰需要が存在し、輸入が増加しているからだと考えられる。したがって経常赤字を削減するには、ドル相場を下げるか、国内需要を抑制するしかない。金利を上げて内需を抑制し、不況に陥るよりもドル相場が緩やかに下落することが、アメリカにとって好ましい。多くの為替専門家は「ドル安」を予想しているが、それはこうしたシナリオをベースに考えているからである。

しかし、円・ドルでみた為替相場は2004年12月に101円強の円高相場を付けて以降、相場のトレンドは円安相場で推移している。その間、アメリカの経常赤字と日本の経常黒字はいずれも拡大している。そうであれば、円高・ドル安相場になるはずである。

しかし、現実はそうならなかった。とすると経常収支以外の要因が作用したことになる。それは、経済成長格差である。2004年からアメリカ経済は本格的な成長過程に入っていく。一方、日本の景気低迷は続いている。日米経済の「ファンダメンタルズ(基本的条件)」から見ると、アメリカ経済の方が魅力的になっている。さらに、昨年6月からアメリカは金利引き上げに転じた。その結果、ゼ日米の金利差が拡大した。経済が魅力的で、アメリカの金利が日本よりも高いとなれば、日本の投資家も含め世界の投資家はアメリカへの投資を増やした。それが為替需給に影響を与え、ドル高をもたらしたのである。

もう一つ需給関係に大きな影響を及ぼしたのが、原油価格の上昇である。世界経済は原油高の影響を受けたが、日本の場合、原油の輸入代金が増加し、貿易黒字が縮小することになった。アメリカの場合、原油価格はインフレ要因になるのではないかと懸念された。それが利上げ「予想」を高める結果となった。アメリカ経済はハリケーンの影響にもかかわらず高成長を続けており、インフレ懸念も加わってさらに利上げも予想される。世界の投資家は、高金利・高イールドを期待してドル資産への投資を増やしたのである。原油高で収入が増えた産油国も一部をユーロや円で運用しているものの、その多くをドル資産で運用している。さらに安い金利の通貨を借りて、高い金利の通貨で運用する動き(これを「キャリー・トレード」という)もドル需要を増やした。

日本経済が踊り場を脱し、日本株が高くなっているので外資が流入すると予想されるが、むしろ機関投資家は株高で円のポートフォリオを減らす可能性もある。長期的にはアメリカの経常赤字が大きな“重石”として存在しているが、中短期的には世界の資金はまだアメリカに集まる状況が見られる。とすると、今のドル高・円安の基調は当分続くと見るべきであろう。ただドル高が続けば利食いの動きで瞬間的なドル反落という局面もあるだろうが、年末一二〇円、来年半ばに一二五円という円安水準は十分にありえる。

見通し:(11月21日から12月末)1ドル=119~121円

この注目材料:
アメリカの金融政策
年内に2度開かれるFOMC(連邦公開市場委員会)での利上げ決定と、新FRB議長バーナンケの議会証言の内容に注目

日本銀行の動き
相場の焦点は金利差にある。日本経済が腰砕けにならなければ、日銀はゼロ金利政策修正もありうる。そうした「予想」が高まれば相場に影響を与えるだろう

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