中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/12/28 水曜日

2006年の為替相場見通し:金利差相場を背景に円安基調は続く

Filed under: - nakaoka @ 11:59

本ブログでは何度も為替相場の見通しを書いてきました。今回は2006年の相場見通しのポイントと具体的な水準について書いてみました。本原稿を執筆したのは12月12日で、執筆から既に3週間弱経っていますが、基本的なシナリオは何ら変わっていません。11月、12月はアップしたブログの件数は少なくなりました。大学の授業や雑誌原稿の執筆、講演などが続き、ややへばり気味でした。改めて記事を書き続けるのは、いかにエネルギーがいるのかを感じさせられました。テーマはあり、資料も集めているのですが、それを読み、解釈を加えるには、気力が必要です。今、風邪気味ですが、体調が戻れば、また週2~3本のペースに戻したいと思っています。

2005年の為替相場は年末にかけて大きな波乱局面があった。05年の円相場を振り返ってみると、1月17日に1ドル=101円87銭の最高値を付けたあと、小幅の上下動を繰り返しながら円安が進み、4月5日には108円90銭まで下落した。その後、一時103円台まで反発したものの再び下降局面に入り、7月20日に113円05銭まで下落。その水準を底に8月16日には109円04銭まで円高に戻ったものの、その後は一貫して円安が進み、12月5日には121円を越える円安となった。これは03年3月8日に付けた120円69銭以降の最安値である。

このまま円安相場で年を越すかと思われたが、為替相場に大きな波乱が起こる。12月15日に一気に円相場は117円台まで反発したのである。問題は、この反発が一時的な要因によるものか、あるいは04年4月から始まったドル高相場が終ったのかである。

ドル高・円安相場あるいはドル高・ユーロ安相場を支えてきたシナリオは「金利格差相場」であった。しかし、12月中旬に起こった波乱要因は、まずアメリカの11月の貿易赤字が689億ドルと10月の660億ドルから拡大し、それまでの金利差をテーマとする相場からアメリカの貿易赤字が再び注目されたことがある。さらに12月13日のFOMC(連邦公開市場委員会)でフェデラルファンド金利の目標値が0・25ポイント引上げられ4・25%になったものの、声明書から「金融緩和の状況が続いている」という表現が消えたことで、市場で04年6月から続いてきた利上げが最終段階に来たとの思惑が強まった。さらに12月15日に発表された11月消費者物価指数が0・6%下落、49年来月次ベースでは過去最高の下落となったことも利下げサイクルが終わりに近づいたという市場の見方を裏付ける結果となった。

他方、円サイドの要因として、12月9日に福井日銀総裁が「金利機能を封鎖し続けてきた量的緩和政策が終るということは市場原理による資源配分機能が再び動き始めることである」と発言、市場はこれを量的緩和政策の終焉が近いと受け取った。また、12月14日発表の日銀短観で、経営者の景気見通しが改善されているとの結果が発表されたことで、市場では日本経済の先行きに対する強気の見方が強くなった。

ユーロ・サイドでは欧州中央銀行が12月1日に政策金利を2・25%に引上げた。これは欧州中央銀行としては5年ぶりの利上げである。欧州中央銀行の関係者が、さらに利上げの可能性を示唆したことも、相場に影響を与えた。

こうした幾つかの要因が重なりあって、それまでのドル高に急激にブレーキがかかったことは間違いない。テクニカルには、年初から続いてきた円安相場でヘッジファンドなどの円のショート・ポジション(売り持ち)が累積しており、こうした市場の地合を受けてショート・ポジション解消が急速に進んだ(すなわち円の買い戻しが行なわれた)ことも、円高を推し進める要因となった。こうした地合は年末にかけて続き、円相場は年末にかけてさらに円高に振れる可能性が強い。年末にかけて円相場は1ドル=115円程度まで上昇する可能性はある。

問題は、06年の相場見通しである。年末の状況が続くとすれば、次のような展開が予想される。まずドル金利の予想である。次回のFOMCは1月30日に開催される。それはグリーンスパン議長が主催する最後のFOMCとなり、おそらくそこでフェデラルファンド金利は再び0・25%引上げられ、4・50%になるというのがコンセンサス見通しである。しかし、その後のFOMCはバーナンキ次期FRB議長の下で3月28日に開かれる(同氏の人事は上院銀行委員会で承認されたが、まだ上院総会で承認されていない。年明け後に再開される議会で承認されるのは間違いない)。バーナンキ次期議長はインフレ・ハト派(景気重視派)と目されており、これ以上の利上げを見送る可能性もあると見られる。もし利上げが見送られれば、04年6月に始まった“ドル金利正常化”は一巡することになる。

円金利はどうか。日銀は量的緩和政策あるいはゼロ金利政策からの“出口”を模索していることは明らかである。日銀は折に触れてゼロ金利政策からの政策転換を示唆するだろう。それが実現すればFOMCの利上げ一巡と重なり、日米の金利差は縮小の方向に動くことになる。また、欧州中央銀行がさらに金融引締めに動けば、ドル・ユーロ金利差も縮小することになる。以上に指摘したように日米欧の金融政策が変更されれば、04年中旬から続いた「金利差相場」に大きな変化が出てくるのは間違いない。

アメリカの貿易赤字と財政赤字という“双子の赤字”の状況から判断する限り、現在のドル相場の水準ではドルが“過大評価”されていることは間違いない。もし相場の焦点が“金利差”から“ファンダメンタルズ”に移れば、間違いなくドル相場の過大評価の修正が起こるだろう。しかし、こうした要因はいわば長期的な要因で、目先の為替動向に与える影響は限られている。

では、06年の相場の焦点は、“金利差”から“ファンダメンタルズ”に移るのであろうか。まず、ドル金利であるが、バーナンキ次期議長は議会証言で「グリーンスパンの政策を踏襲する」と繰り返し発言している。市場も、バーナンキ次期議長の最初の政策決定を注目している。モルガン・スタンレー証券のローチ首席エコノミストは「バーナンキはまず為替市場で試されるだろう」と述べているように、もし彼が利上げを見送り、それを市場がインフレ・ハト派であると受け取れば“ドル暴落”を誘発する事態も十分にありえる。彼が、そうしたリスクを犯すかどうか疑問である。とすれば、現時点の見方では、バーナンキ次期議長が利上げを継続すると見るほうが妥当かもしれない。市場では、06年末にフェデラルファンド金利は5%まで上昇するとの見方もあり、まだ利上げサイクルは続くだろう。

日銀の金融政策はどうか。日本の株価がバブルの状況を呈し始めており、景気の本格回復が確認されれば、日銀はゼロ金利政策から転換したいと思っている。ただ、増税含みの財政政策、さらに政治的な状況から判断すると、早期の政策転換は難しいだろう。また、欧州中央銀行も、ドイツの10月の物価が0・5%と、東西ドイツ統合後、月次ベースでは最大の下落を記録するなど、インフレ懸念が薄れてきていることもあり、利上げを継続する可能性は低い。

以上をあわせ考えると、06年も「金利差相場」が大きく変わる可能性は小さいと判断すべきであろう。仮に小幅な金利差の縮小や変動があっても、長期的な相場の基調が変わるまでには至らないだろう。まだドルと円・ユーロのイールド差は依然として大きい。資本がアメリカに流入するというパターンに基本的な変化は起こらないだろう。米財務省が発表した10月の資本流入統計では、流入額は1068億ドルと過去最高の水準を記録している。ちなみに10月の貿易赤字が690億ドルであるから、資本流入額は貿易赤字を大幅に上回っているのである。12月がどのような状況かまだ分からないが、基本的な資本の流れに変化はないだろう。

円のショートのポジション調整が一巡すれば、ふたたびドル買い、円売りの動きが活発になってくるだろう。特に日本の機関投資家は、株高でリスクに対する余裕が生まれていることから、ドル資産への投資意欲を高めている。06年もイールド差を背景に日本から長期資本の流出が続くだろう。

05年末の大きな相場の動きは、一時的要因とテクニカルな要因に支えられたもので、相場基調の変化と見るのは時期尚早であろう。既に述べたように、05年12月末にかけてさらに円高が見られるかもしれないが、06年上半期は再び1ドル=130円に向かった動きに戻るだろう。それ以上の円安もありうるかもしれない。

1件のコメント

  1. いまさらですが、大変参考になりました。
    更新楽しみにしています。(_ _)

    コメント by satokiti — 2006年1月7日 @ 05:49

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