中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/12/29 木曜日

アメリカの住宅バブル問題を論ずるー「金融ビジネス」への寄稿記事

Filed under: - nakaoka @ 10:53

アメリカ経済は好調を維持しています。その大きな原動力の1つが住宅価格の上昇を背景にする「資産効果」にあるといわれています。住宅価格の上昇で家計は住宅を担保に銀行借入を行なうホーム・エクイティ・ファイナンスを活用したり、低金利の住宅ローンに借り替えることによって、可処分所得を増やしています。アメリカでは、住宅価格上昇を投機を背景としたバブルと見るのか、あるいは家族数の増加や所得増加を背景とする実需と見るのかで議論が行なわれています。そのどちらが正しいにせよ、アメリカ経済の動向が住宅市場の動向に密接に関連していることは間違いありません。最新の住宅市場の状況に加え、9月末に東洋経済の『金融ビジネス』に寄稿した原稿も掲載します。この記事の議論は、依然として役に立つと思います。

最新の住宅市場の状況

11月の住宅市場に若干の変化の兆しが見え始めています。全米不動産業者協会(the National Assocaition of Realtors)の調査では、11月の中古住宅の販売は前月比1.7%落ち込み、季節調整後で年率697万戸になりました。販売戸数が700万戸を割ったのは3月以来のことです。中位価格(medium price)は前月比で3000ドル低下して、21万5000ドルになりました。ただ、前年同月比では13.2%ほど高い水準に留まっています。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は「住宅市場は明らかに勢いをなくしつつある」と指摘しています。その理由は、住宅価格が高騰しすぎており、購買可能性(affordability)は14年来で最低の水準になっていることを上げています。

商務省の統計では、新築住宅の販売は大幅に落ち込んでいます。また、住宅ローンの申し込み件数も3年半ぶりの低水準になっています。全米不動産業者協会の調査では、売れ残っている新築住宅は290万戸あり、86年以来最高の水準に達しています。この在庫数は、約5か月分の販売戸数に相当します。これは住宅市場の需給関係が崩れ始めていることを示唆しています。まだアメリカでは、来年の住宅市場も強気に見ている関係者が多いようですが、いよいよ警戒水域に入りつつあることは確かなようです。

以下は、『金融ビジネス』への寄稿原稿です。

グリーンスパンの警告

グリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)委員長が、“住宅バブル”に警鐘を鳴らした。同議長は7月に「一部の地方市場で住宅価格が持続不可能な水準にまで上昇する“泡”が発生している兆候が見られる。2001年以降、投機的な熱狂による投資目的の住宅購入が増加し、一部の地方市場を変えてしまった」と語っている。この発言は、同議長が96年に行なったITバブルを予測する“根拠なき熱狂”という言葉を連想させるものであった。

さらに同議長は、8月末にカンサスシティ連銀が主催するシンポジュームで住宅などの資産価格が上昇しているのは「投資家が求めるリスク・プレミアムが低いからである」と分析し、「もし投資家が用心深くなり、高いリスク・プレミアムを求めるようになれば資産価値は低下し、資産価格上昇を支えてきた潤沢な流動性はなくなってしまうだろう」と語った。現在の株高や住宅価格の上昇は極めて脆弱な基盤に基づいたものであり、投資家のセンチメントが変われば一気に弾けてしまう可能があると指摘したのである。

同議長は、ローカル市場で“小さな泡”が発生しているだけで、全国的に“大きなバブル”は生じていないと言う。しかし、同議長は株価バブルを予想しながら、結果的にそれを許してしまった苦い経験がある。今回も金融政策を誤れば、同じ過ちを犯さないとも限らない。

アメリカには“不動産神話”がある。大恐慌以来、全国的な規模で住宅価格が暴落したことは一度もない。過去35年間に平均的な中古住宅の価格は8倍も上昇している。新築住宅の価格は、それ以上の上昇を示している。00年にITバブルが弾けたときも、住宅価格は上昇し続けた。株式投資で火傷をした多くの投資家は、安全な投資先として住宅投資を増やしていた。だが、04年の急速な住宅価格の上昇を受け、業界の一部で住宅バブルを懸念する声が聞かれるようになっていた。今回のグリーンスパン議長の発言は、そうした懸念を反映したものであった。

アメリカの住宅価格の上昇が“バブル”の段階に達しているのか、もし“バブル”なら破裂する可能性はあるのかを検討する前に住宅市場を理解しておく必要がある。アメリカの住宅価格は、世帯数の増加を背景に着実な需要に支えられて上昇してきた。「国勢調査」をベースに80年と現在のアメリカの住宅状況の変化を見てみよう。

平均的な新築住宅の価格は80年には7万6400ドルであったが、04年には27万4500ドルまで上昇している。80年当時、床面積は1740平方フィートで3寝室というのが、平均的な新築住宅であった。04年になると平均的な新築住宅の床面積は2349平方フィートに広がり、寝室も最低で3部屋、バスルームも2つ以上、車庫があるのは当たり前であった。より大きな家に住むというのは、アメリカン・ドリームの実現でもあった。

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急速に増える投機的需要

では、購入資金はどうであったのか。一般的な世帯は1年分の年収に相当する貯蓄と作り、それを住宅購入の頭金にして住宅を購入するのが普通であった。80年のモーゲージ(住宅ローン)金利は、期間30年で固定金利15%であった。その条件で住宅購入に必要なローンを組むと、月々の返済額は808ドルになる。当時の平均的な週給は240ドルで、月々ローンを返済すると週に使えるお金は54ドルにすぎなかった。04年になると期間30年の固定金利のローンの金利は5・5%にまで低下している。その金利でローンを組むと、月々の返済額は1403ドルになる。現在、平均的な週給は528ドル、毎月ローンを返済した後に使える金額は週204ドルである。25年前と比べると、住宅ローンの返済負担が大きく軽減されているのが分かる。

住宅を購入する際に、ローン金利は極めて重要である。05年7月時点の新築住宅のローンは、期間30年で5・76%である。これは50年来の低水準である。この超低金利が、住宅ブームに火を付けたことは間違いない。FRBはそれまでの超低金利政策を変更し、04年6月から05年9月までフェデラル・ファンド金利を11回も引上げている。しかし、長期の住宅ローン金利は上昇する気配はなく、04年に住宅価格は過去最高の上昇を記録したのである。

04年から住宅価格の上昇は、それまでの上昇と違い“バブル”の色合いを濃くしている。住宅価格の急激な上昇は、所得の増加や世帯数の増加といった実需をベースにした市場のファンダメンタルズを背景にしたものか、あるいは超低金利を背景に投機的な需要に支えられたバブルなのか議論が行なわれている。住宅価格は02年が7・3%、03年が7.7%上昇してが、04年には11・4%と一気に上昇スピードを速めている。さらに05年第一四半期の住宅価格上昇率は前年同期比で12・5%を記録した。過去30年間の年平均上昇率は約6%であるから、それを倍以上の上昇率である。

この上昇率は平均値の話である。一部のローカル市場ではさらに急激な上昇が見られた。人口増加と雇用増が顕著なカリフォルニア州、フロリダ州、ネバダ州、ハワイ州では、住宅価格は21%から30%も上昇しているのである。さらにオレゴン州、ワシントンDCやニューハンプシャー州、メリーランド州といった州でも11%から20%上昇している。

シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ・インスティチュートの経済学者のジョン・マキンが、最も住宅価格の上昇率が高いフロリダ州キーウエスト市では1年前は60万ドルだったマンションが100万ドルを超えるまでに値上がりしている地方市場のバブル状況を報告している。そして「新築住宅がまるでホットケーキを売るように売られている」と書いている。ローカル市場では“小さな泡”ではなく、“大きなバブル”が起こっているのである。

自分が居住するために購入する層が一番多いが、セカンドハウスや値上がり期待の投機目的で購入する者が着実に増え始めている。全米不動産協会(NAR)の調査では、03年は投機目的で住宅を購入した者の比率は16%であったが、04年には23%にまで跳ね上がっている。また、自分が居住しないセカンドハウスを購入した者の比率は13%であった。この傾向は地域によって大きな違いあるが、住宅価格の上昇が大きい地域では投機目的の住宅購入者の比率はさらに高くなっている。

ローンパフォーマンス社の調査では、住宅価格上昇が最も上昇しているラスベガス周辺地域では購入者の35%、カリフォルニア州の大都市圏では購入者の20%が投資目的で住宅を購入しているという結果が出ている。こうした層は、明らかに将来の住宅価格の上昇を見越して投資しているのである。

英誌『エコノミスト』誌(6月16日号)は、住宅バブルは世界的現象であると分析し、「アメリカでは住宅価格が過大評価されており、住宅価格が大恐慌以来初めて下落するかもしれない」と指摘している。

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潜在需要の掘り起こし

こうした状況を単にローカル市場での熱狂と片付けてしまうには、事態はあまりに深刻である。先に触れたように、健全なアメリカ市民の住宅購入のパターンは、堅実に貯蓄とし、蓄えた年収分の資金を頭金に使って住宅を購入するというものであった。しかし、“バブル”状況を呈し始めてから顕著になってきている傾向に、頭金なしでの住宅購入が急増している。ローンを組んで住宅を購入した人の25%が頭金なしでの購入であった。

「頭金なし」ということは、それだけ借入負担が増えることになる。様々な新型住宅ローンが導入され、潜在的な需要層を掘り起こしているのである。新型ローンには「インタレスト・オンリー(IO)ローン」と「ネガティブ・アモタイゼーション・ローン」などがあり、こうしたローンを利用することで購入資金がなくても、また所得が少なく返済能力がない層まで住宅購入が可能になっているのである。

「IOローン」は、毎月、その名称通り金利を支払うだけでよく、元本はローンが満期に来たときに一括返済する仕組みのローンである。04年に新規に設定された住宅ローンのうち3分の1は、「IOローン」であった。「ネガティブ・アモタイゼーション・ローン」は様々な形があるが、基本的には、月々の最低返済額を決め、それを超える金利分は元本に算入する仕組みになっている。

これらは、目先の返済負担を軽減し、将来、住宅価格が上昇することを前提にしているローンである。住宅価格の上昇が続き、住宅を売却して元本を返済することを想定したものである。しかも、その大半が変動金利制を採用している。本来なら住宅購入層でない者までも、将来の住宅価格上昇と金利低下あるいは少なくとも現在の金利水準が変わらないことを前提に、住宅購入に駆り立てているのである。投機とはいえないかもしれないが、将来も住宅価格の上昇が続くことを前提にしたローンであることは間違いない。

住宅価格が急騰しているカリフォルニア州では、新規にローンを組んで住宅を購入した者の60%以上が、「IOローン」や「ネガティブ・アモタイゼーション・ローン」を利用しているという統計もある。02年には、こうしたローンを利用して住宅を購入した者は全体の8%に過ぎなかった。

こうしたローンを利用している住宅の購入者は、金利変動と価格変動に対して極めて脆弱になっている。もし金利が上昇するか、住宅価格が下落すると、たちまち返済不能に陥る可能性がある。グリーンスパン議長も、そうしたリスクに対して警告しているが、“バブル”の最中には誰も聞く耳を持たないのが実情である。

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正常価格を越える

では、住宅価格は異常に高くなっているのであろうか。日本で住宅バブルが弾けたと時、住宅投資は「収益還元法」に基づいて行なわれるべきだという議論が盛んに行なわれた。この考え方を基準にアメリカの住宅価格を評価してみると、明らかに合理的な水準を越えているのである。その指標として住宅価格と家賃の比率を利用することができる。それによると、75年から00年の平均比率を100とすると、05年の比率は135になる。要するに現在の住宅価格は実際の価値をはるかに上回っているのである。

先の『エコノミスト』誌の計算では、家賃が毎年2・5%上昇し、住宅価格が12年間上昇しなければ、正常な比率に戻るという。しかし現実には家賃は長期にわたって上昇しておらず、毎年2%を超える上昇があるとは思えない。とすると、指標が正常な水準に戻るには住宅価格が大幅に下落するしかないということになる。

さらに構造的な供給過剰の問題も存在する。アメリカは、大量の移民が入ってくることもあり、先進国の中では珍しく人口増加率の高い国である。それが潜在的な住宅需要となって、住宅価格を押し上げる大きな要因となっている。年間の世帯数の増加は140万世帯程度と予想されている。しかし、新築住宅の供給戸数は年間190万戸から200万戸で推移している。需要の中には退職後の生活を楽しむためのセカンドハウス購入もあり、単純に世帯数増加で需要の全てを説明することはできないが、それにしても年間数十万戸の超過供給があることは間違いない。今のところ投機的な需要が超過供給分を吸収しているが、そうした状況がいつまでも続くものではない。

まだ、住宅ブームに明確な陰りは見えない。7月の新築住宅の販売戸数は季節調整済み年率で141万戸を記録、前月比で6・5%の大幅な増加となった。新築住宅の好調な販売を支えているのが、低金利である。8月の期間30年の住宅ローン金利は5・82%であった。7月の5・70%よりも弱化上昇しているが、04年8月の5・87%よりは低下しているのである。低金利をテコにした需要掘り起こしは依然として続いているのである。

ただ、全米住宅建設業協会の業者の先行きに対するセンチメントを示す指数は、6月の72から8月の67、9月の65へと低下している。これは業者に供給過剰の懸念が出始めている兆候かもしれない。新規着工件数も7月、8月と連続で減少しているのも、その反映かもしれない。しかし、そうした兆候が住宅市場の傾向になるまでには至っていない。まだ住宅価格上昇期待は根強く存在している。

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効かない引締め策

グリーンスパン議長は大きなディレンマに直面している。金利を引上げたにもかかわらず、長期金利はまったく変化しないからだ。海外からの大量の資本流入が長期金利上昇を阻止する役割を果たしているからである。住宅バブルを抑制するには、ローン金利を引上げるしか道はない。いかに“住宅バブル”を警告しても、投機に浮かれる人々を正気に戻すことはできないのである。バブルを弾けさせずに沈静化させるのは容易ではない。

いずれ“住宅バブル”が弾けるのなら早いほうが影響は小さい。しかし、 強引に“住宅バブル”を抑えようとすれば、マクロ経済全体に大きな影響が及ぶ。また、同議長は「金融政策は特定の市場を対象に行なうものではない」と繰り返し主張している。同議はITバブルが始まる前にも、同じ主張していた。その結果、ITバブルの発生を阻止することができなかった経験を持っている。グリーンスパン議長が、早々と“住宅バブル”に警鐘を鳴らしたのも、そうした経験があったからだろう。

金利上昇は、変動金利で新種住宅ローンを抱える住宅購入者を、間違いなく返済不能に追い込むだろう。仮に“住宅バブル”がローカル市場の現象であっても、多くのローン保有者が自己破産すれば、金融機関は大量の不良債権を抱え込むことになる。

バブルが弾けるには、何らかの要因が必要である。政策金利の引き上げもその1つであるが、もう1つ無視できない動きがみられる。それは、米議会が民間金融機関の住宅ローン原資調達を支援している「連邦抵当ローン協会」や「連邦住宅貸付抵当ローン公社」の活動を規制する動きを見せていることだ。もし何らかの規制が行われれば、住宅市場に深刻な影響を及ぼすことになるだろう。住宅モーゲージ担保証券の市場は6兆ドルに達している。バブルの破裂は住宅価格下落のみならず、金融市場やマクロ経済にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。

グリーンスパン議長に「バブルは弾けて初めてバブルであることが分かるものだ」という名言がある。しかし、それを待っていては、コストは余りにも大きくなりすぎるかもしれない。

5件のコメント

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    老後は、冬場の3ヶ月間はハワイで暮らし、残りは日本で暮らしたいと思っているあ

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  5. ロサンゼルスを覆う高級コンドミニアム建設ラッシュ…

    <記事概要> コンドミニアム建設ラッシュが続くロサンゼルス。2009年までに、……

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