中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/2/7 火曜日

これだけは知っておきたいアメリカの2007年度予算案と議会での予算の決まり方(1)

Filed under: - nakaoka @ 10:49

アメリカには3大教書というのがあります。「一般教書」「予算教書」「経済教書」です。「一般教書」は「施政方針演説」で、今後1年間の政府の政策目標などを明らかにするものです。既に1月末にブッシュ大統領が両院総会の場で「一般教書演説」を行なっています。次が「予算教書」です。アメリカの新年度は9月1日から始まります。まず政府の予算案を受けて、議会で歳入、歳出に関する個別の法案を審議し、何事もなければ8月末までに成立し、9月の新年度から実施に移されます。もう1つの「経済教書」は、まだ発表されていません。それは大統領経済諮問委員会が作成するもので、1年間の経済状況や政策効果などを分析しています。昔の日本の「経済白書」と考えればいいでしょう。さて、今回のブログでは「2007年度予算教書」(2月7日発表)の骨子をお伝えします。これはホワイトハウスが発表した「ファクト・シート」を訳したものです。が、アメリカの予算を知るうえで興味深いと思います。またブッシュ政権の基本的な政策を知ることができます。このブログは(1)(2)に分かれていますが、(1)では予算案の内容、(2)ではアメリカの予算の決まり方を説明します。

2007年度予算教書の概要

「大統領2007年度予算教書」は、力強い成長と雇用創出を促してきた成長指向の政策を継続するものです。財政赤字を削減するためには、力強い成長とともに歳出抑制が極めて重要です。2007年度予算は昨年成功を収めた歳出抑制をベースにして、再び全体の裁量的歳出の伸びをインフレ以下に抑制し、非安全保障関連の裁量的歳出を昨年以下の水準に削減する提案を行ない、成果を上げることができないか重要な目標を達成できないプログラムの廃止あるいは予算額の削減を要請しています。昨年同様、予算案では、貯蓄と強制的な歳出プログラムの改革を提案しています。強制的な歳出プログラムの増加は維持できるものではなく、長期的に財政の健全性に大きな脅威となるものです。

経済成長の継続
2007年度予算案は、経済の持続的な成長にとって極めて重要な大統領の成長指向的政策を継続するものです。2003年に成立した減税計画を完全に実施することによって、470万人以上の雇用を創出し、生産性は年率で3%向上し、住宅保有所帯数は過去最高の水準に達し、アメリカの経済成長は他の工業国を上回りました。

アメリカは一時的な経済成長以上のものを必要としており、納税者は一時的な現在以上のものを必要としています。そのため、同予算案は、2001年と2003年に成立した減税を“恒久化”することを提案し(訳注:2001年と2003年の減税は期限付きの減税)、家計や小企業の税負担が増えるのを阻止します。

経済が高成長を実現したことで、連邦政府の歳入は急激に増加しました。歳入増加は、財政赤字を削減するためには極めて重要なものです。2004年から2005年に歳入は14.5%(金額で2740億ドル)増加しました。これは、経済成長率の倍以上に相当します。予算案は、歳入は2005年から2006年の間にさらに1320億ドル(6.1%増)を予測しています。

歳出抑制と財政赤字削減
成長指向的な政策と歳出抑制を継続することで、2009年までに財政赤字を半減するという大統領の目標を達成する方向に進んでいます。以下、予算案のポイントです。

再び裁量的歳出の伸びをインフレ以下に留め、非安全保障関連の裁量的歳出を前年度の水準以下に削減します

成果を上げていない141のプログラムを廃止するか、予算額を削減し、それによって147億ドルの節約をすることを提案します。昨年は、大統領の提案を89件実現することで65億ドルの節約を実現することに成功しました

議会に大統領に対して憲法に基づく項目別拒否権を与えることを要請します(訳注:アメリカでは議会で成立した法案を大統領は承認するか、拒否するかの選択権を持っています。これを英語で“veto”と呼びます。大統領が拒否権を発動すると法案は議会に差し戻され、両院の3分の2の賛成が得られれば、拒否権を覆すことができます。これを英語では”override” といいます。もし議会がオーバーライドできないと法案は廃案になり、逆にオーバーライドされると大統領はもう拒否することはできません。項目別拒否権(line-item veto)は、一括承認、一括拒否ではなく、法案の項目に対して拒否権を発動することを求めるものです)。項目別拒否権によって生じる節約の全額は、財政赤字削減に使われることになります

財政赤字は2004年にGDPの4.5%(5210億ドル)のピークから2009年には1.4%(2080億ドル)に減少すると予想しています。これはピーク時と比べて半分以下であり、また過去40年の平均2.3%を大きく下回るものです

長期的な財政の危機
長期的な財政の健全性に対する最大の脅威は、社会保障制度や高齢者・身障者医療制度(Medicare)、低所得者医療制度(Medicaid)の増加が続くことです。

社会保障関連の歳出の増加を抑制することで5年間に650億ドルの節約を行います

長期的にメディケア予算の増加を抑制するために必要な改革の道を準備します

大統領は、将来の世代が資金的に耐えられるような社会保障制度にするために社会保険制度の包括的な改革の促進 を継続します

国家の優先順位は何か
予算案は、テロに対する戦争、医療、エネルギー開発の研究、数学や科学教育、研究を通した国際的な競争力の強化といった国家の優先的なプログラムに納税者の資金を集中的に投入します。

テロとの戦争:テロと戦い、国家を守るために必要は軍事資金を提供するために、予算案では防衛費をほぼ7%増やしています。こうした支出増によって、軍事的能力の水準を維持し、戦場におけるアメリカの優位性を確実なものにするための新しい武器システムの開発と調達を行い、軍人とその家族を支援することになります

ホームランドの防衛:非軍事面でのホームランドの安全保障のための支出は8%以上増えます。予算案では、国境警備強化のために新たに1500名の国境パトロール要員と6000の拘置所ベッド、560名の拘置所要員と送還要員、違法な移民を送還するための257名の弁護士を採用するために予算を計上しています

健康保険費用の削減と医療施設へのアクセスの改善:ヘルス・セービングス・アカウント(health savings accounts)の改善と医療情報技術、医療事故保障制度改革(medical liability reform)によって医療を手ごろで使い易いものにします

海外の石油依存を低下させる:The Advanced Energy initiative (高度エネルギー政策)によって、クリーンで安価で信頼できるエネルギー(太陽エネルギー、風力エネルギー、核エネルギー、ゼロ・エミッションの石炭、ハイブリッド車やエレクトリック車のためのバッテリーなど)を開発するために調査費を22%増やし、2025年までに中東からの輸入の75%をこうしたエネルギーで代替することを目標とします

競争力の強化:The American Competitiveness Initiative (アメリカ競争力政策)によって2007会計年度に59億ドル、10年以上にわたって1360億ドルの資金を提供し、研究開発投資を増やし、新たに数学と科学の教師を採用し、イノベーションを促進し、世界経済の中でアメリカの競争力を強化します

思いやり(compassion)を促進し、家族関係を強化する:予算案では、「思いやりプログラム(compassion program)」を引き続き促進します。その中には、信念に基づくコミュニティ・プログラム(Faith-based and Community initiative)への予算3億2200万ドルが含まれています。他の優先政策だけでなく、「アメリカの若者支援プログラム(The Helping America’s Youth initiative)」のための支出も含まれています(訳注:第一期ブッシュ政権がスローガンに掲げたのは“思いやりのある保守主義(compassionate conservative)”でした。そうした政策に基づき、ホワイトハウスの中に“the Office of Faith-Based and Community Initiative”が設置されました。その基本的な発想は、福祉は国家が行なうものではなく、信念に基づいて活動する団体―宗教団体や慈善団体―やコミュニティが行なうものだという発想がありました。その結果、福祉活動の予算がそうした団体に委譲されてきましたが、必ずしも成果があがっているわけではなく、また以前ほどブッシュ大統領は熱心に”思いやり政策“に言及していませんでした。が、ブッシュ政権の売り物政策の1つであることは間違いありません)

成果の達成と歳出の管理:大統領は、歳出を管理し、政策がより大きな成果をあげるように以下の改革を提案しています

○裁量的支出に法的な上限を設定する

○「2年間の予算案」を提案する。そうすることで議員は税金が効率的に使われているかをチェックするために時間 を割くことができる
○政府機関やプログラムのパフォーマンスを改善し、納税者の不必要な負担を軽減するために「評価委員会(Results Commission)」と「サンセット委員会(Sunset Commission:必要のなくなった政策や組織を判断す  る)」を設置する

○連邦政府の政策の透明性と信頼性を改善するために「ExpectMore.gov」を発足させる

以下は「行政管理予算局」のより詳しい説明です。ホワイトハウスの説明と重複する部分は省略しました。

家計部門の富が劇的に増えました。アメリカの株式市場の時価総額は3兆ドル以上増加し、アメリカの純資産は2001年以来28%増加しました(訳注:2001年はブッシュ政権が誕生した年で、4月からリセッションが始まりました。が、年末にはリセッションは終わり、極めて短期のリセッションでした)。2001年以降、アメリカ経済は株式市場の暴落、リセッション、エンロンなどの企業スキャンダル、9月11日のテロ攻撃、最近ではハリケーンの襲来など大きな挑戦に直面しました。

減税が2003年に完全実施されたことで、2004年の歳入は5.5%増収、2005年は14.5%増、金額で2740億ドルの増加となりました。これは24年来で最大の増収です。

2004年と2005年の歳入増加によって、財政赤字は大幅に減少しました。大統領は、2004年のGDP比3.6%、金額で5210億ドルの財政赤字を半減する目標を設定しています。2004年の最終財政赤字はGDPの3.6%、金額で4130億ドルに減少、2005年の赤字はGDPの2.6%、金額で3180億ドルと更に減少しました。

昨年の財政の中間見直しでは、2006年の名目財政赤字は2006年1月1日から実施される新しいメディケアの医薬品処方給付(Medicare prescription drug benefit)を織り込んで増加すると予想されています。また、ハリケーン関連の予想外の支出があり、現在、2006年の財政赤字は予想を上回ると見られています。政府は、2006年の財政赤字はGDPの3.2%、金額で4230億ドルに達すると予想しています。

財政赤字は歓迎されませんが、この範囲の財政赤字は過去に見られた赤字の範囲内に収まるものです。さらに重要なことは、予算案に盛り込まれているような経済成長と歳出抑制が続けば、赤字は大統領が設定した2009年までに半分に減らすという目標を達成する経路を辿ることになるでしょう。

2007年の予算案では、財政赤字はGDPの2.6%、金額で3540億ドルに減少すると予想されています。2009年までに赤字はピーク時の半分のGDP比1.4%以下にまで減少すると予想されています。これは、過去40年の平均を下回る水準です。

2007年の予算案では、2001年と2003年に成立した減税を恒久化する提案がなされています。これらの減税を恒久化しないと、所得税は上昇し、結婚している世帯の税負担(marriage penalty、訳注;単身所帯よりも結婚した場合のほうが適用税率が高くなることを指しています)も増加し、子供の扶養還付(child tax credit)も半額になり、貯蓄者と投資家の税率も上昇し(訳注:現在、配当課税の軽減措置が取られています)、相続税(訳注:アメリカでは現在、相続税は廃止されています)も復活することになります。

長期的な成長を促すために、2007年度予算はアメリカの競争力を維持し、高める政策を提案しています。大東証は、引き続き貿易障壁を取り除き、海外の市場を開放するように圧力をかけ、不必要な訴訟や規制を排除し、公立学校の改革を支援し、医療費の増加に立ち向かい、新しいエネルギー源の開発を促進します。さらに2007年度予算案では、「American Competitiveness Initiative」と呼ばれる政策に注力し、子供の数学・科学教育を改善し、ハイテク労働者を訓練・育成し、民間部門のイノベーションと起業家精神を強化します。

財政赤字削減の第2の重要な政策は、歳出抑制です。この1年、政府と議会は、歳出抑制で大きな成果を挙げてきました。2006年度予算では、大統領は裁量的歳出の削減で3つの目標を掲げました。第1に、全体の裁量的歳出の伸びをインフレ率以下に抑えること。第2に、非安全保障関連の裁量的歳出の実額を削減すること(これはレーガン政権以降、初めてのことです)、第3に、成果を出していない154のプログラムを廃止することです。

議会は、この3つの目標を実現しました。裁量的歳出の伸びはインフレ率以下に抑えられ、非安全保障関連の裁量的歳出を半減する歳出法案が成立しました。また、政府が廃止あるいは縮小しようとした154のポログラムのうち、89のプログラムに関して成果があがり、歳出を65億ドル削減することができました。

予算規模
2.77兆ドル

歳入
個人所得税:  1兆0964億ドル
社会保険費:    8841億ドル
企業法人税:       2606億ドル
消費税:          746億ドル
関税:           281億ドル
不動産・贈与税:      237億ドル
その他:          484億ドル
借入:          3542億ドル

歳出
社会保障費:       5810億ドル
軍事費:         5370億ドル
その他の国内プログラム: 4920億ドル
老人医療費:       3870億ドル
低所得・子供医療費:   2050億ドル
純金利支払い:      2470億ドル
他の強制的費用:     3200億ドル

政府が裁量的に使える金額
強制的支出:       1.5兆ドル
防衛費・本土安全保障費: 5370億ドル
純金利支払い:      2470億ドル
裁量的支出:       4920億ドル(裁量的予算は極めて少ない)  

きるだけ注釈をつけました。ただ、急いで訳したので、訳文がこなれていないところはご容赦を。なお(2)では、議会の審議プロセスなどについて説明します

3件のコメント

  1. 自動車税が知りたい!車の税金情報誌Web
    自動車税の基礎知識。自動車税に関するお役立ち情報。車の税金の支払い方。

    トラックバック by 自動車税が知りたい!車の税金情報誌Web — 2006年5月10日 @ 21:07

  2. 自動車税を徹底解説!車の税金の豆知識
    自動車税を徹底解説!車の税金の豆知識では、自動車税、車の税金に関する疑問を分かり易く紹介しています。

    トラックバック by 自動車税を徹底解説!車の税金の豆知識 — 2006年5月13日 @ 03:24

  3. 自動車税!自動車重量税・自動車取得税・減免
    自動車税!自動車重量税・自動車取得税・減免は、自動車税・自動車重量税・自動車取得税に関する疑問を分かり易く解説!

    トラックバック by 自動車税!自動車重量税・自動車取得税・減免 — 2006年5月13日 @ 04:10

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=163

現在、コメントフォームは閉鎖中です。