中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/2/28 火曜日

3月以降の円相場をどうみるか

Filed under: - nakaoka @ 4:52

相場の予想は難しい。それは相場を取り巻く状況の動きが早いからです。ケインズは「事実が変われば、考え方を変えるべきである」と書いていますが、これは為替相場にも妥当します。相場を予想するさいの重要なポイントは、特定の相場観にあまり執着しないことでしょう。ついつい自分の相場観に拘ってしまいますが、状況の変化には敏感に対応すべきでしょう。相場は、大きなイベント(出来事)があれば一気に市場の相場観や流れが変わることもあります。また、為替相場は、経済のファンダメンタルズだけで決まるものではありません。市場心理も重要ですし、為替のポジションも市場の動きに大きな影響を与えます。ただ、過去の経験からいえば、相場の基調が大きく転換するときは、必ず政策が変更されてたときです。その意味で、今後の相場予想を見る場合、日米の金融政策の動向が大きなポイントになるでしょう。なお、今回、アップする為替相場の原稿は2月22日に書いたものです。

為替相場のトレンドが大きな分岐点にかかっているのかもしれない。この1年、世界の為替相場はドルとの金利差を材料としながら動いてきた。昨年12月5日に円相場は1ドル=121円の高値を付けた後、一転して円高の動きを見せた。そして2006年1月16日に1113円まで円高が進んだ。しかし、その後は再び円安となり、2月7日に119円を記録。本稿を執筆時点(2月22日)では118円前後で推移している。

円相場がこうした円安の動きを示したのは、為替市場のアメリカの金融政策に対する見方が変わったことが最大の原因であった。ベン・バーナンキが2月1日に新FRB(連邦準備制度理事会)議長に就任したことで、2004年6月から続いてきた利上げが終るか、少なくとも最終段階に来たとの見方が市場で強くなったからである。その背後には、バーナンキはインフレに対してハト派ではないかという見方があった。ブッシュ政権がバーナンキを新FRB議長に選んだのは、彼がインフレよりも雇用や景気を優先するからであるという観測が流れた。もしそうなら、アメリカの金融政策は大きく転換することになる。そうした思惑から、ドルが売られ、円が買われた。
 
バーナンキFRB議長はインフレ抑制を重視

しかし、2月15日とFRBが議会に「金融政策報告」を提出し、バーナンキ議長は議会で証言と、2月24日にプリンストン大学で行なった演説でインフレ期待を押さえ込むことの重要性を指摘している。こうした一連の発言から、市場では3月のFOMC(公開市場委員会)では間違いなく利上げが継続されるし、それ以降も利上げが継続する可能性も否定できなくなったと見ている。フェデラル・ファンド金利は0・25%ポイント引上げられ、4・75%になるのは間違いないだろう。さらに6月28日のFOMCでも再利上げが予想される。市場では、フェデラル・ファンド金利の5%を越える引上げもありうるとの見方を強くしている。

バーナンキ議長は、インフレの最大の要因はGDPギャップにあるという考え方をしている。そして議会証言で、景気拡大は順調に続き、操業度が上昇し、供給余力がなくなってきていると指摘している。エネルギー価格上昇もあり、それらが物価上昇に結びつくのを阻止するためには金融政策を使う以外ないとの趣旨の発言を行なった。これはドル高要因である。バーナンキ議長は「インフレターゲット論者」として知られている。彼は公に発言はしていないが、コア・インフレ(変動の激しいエネルギー価格と食糧価格を除いた消費者物価)を2%に抑えることが好ましいと考えているようだ。そのコア・インフレは2%に近づいており、その面からも、利上げを予想できる。

バーナンキ証言後の2月17日に、日本の第四四半期のGGP統計が発表され、年率成長率は5.5%と予想を大きく上回った。これに呼応するように、日銀総裁から量的緩和政策から転換するとの発言が出てきた。GDPデフレーターはまだ下落しており、政府から日銀に対するプレッシャーがかかったものの、市場は4月の政策決定会合で日銀は政策転換をするとの見方がコンセンサスになっている。これは円高要因である。2つの異なるシグナルが発せられたわけであるが、市場はドル高に動いた。日銀が量的緩和政策をやめたとしても、実際に金利が上昇するのは年後半から年末にまでずれ込むだろう。とすれば円ドルの金利差はまだ拡大し、投資家のドル資産選好は基本的に変わらないということになる。現実に日本の機関投資家のドル投資は、年度末でやや減少するかもしれないが、基本的に変わっていない。

ただ、金利差を利用した“キャリー・トレード”は、円ショートのポジションはリスクが高まり、投資家も今まで以上に慎重な姿勢を取らざるを得ないだろう。その意味では一方的な円安にはならないだろう。

では、そうした条件から、夏場までの円相場の推移をどう判断すればいいのであろうか。2つの相反する見方がある。1つはモルガン・スタンレー証券の予測で、6月末の円相場は1ドル=111円と円高になり、その後も円高が続くと予想している。これに対してクレジ・スイス・ファースト・ボストン証券は、円相場は中期的に125円と予測している。前者の予測は日米のファンダメンタルズを軸に予想しているのに対して、後者は日本の超低金利は当分続くということが前提になっている。

まず、3月の相場は、やや円高に推移する可能性は強い。1つは年度末で日本の機関投資家のドル投資が落ち込むと予想されることだ。また、日銀の量的緩和政策の動きを市場が評価すると予想される。市場では、「3月に115円に迫る円高がありうる」と見ている。ただ、半年あるいは1年の期間でみると、まだ相場の基調が大きく円高に変わったと見るのは早計だと思われる。量的緩和政策が打ち切られも、日銀の市場への大量の流動性の供給が続くという状況に変わりがなく、仮に利上げがあったとしても年後半以降、すなわち年末頃になると予想される。新年度に入れば、再び相場は円安に進み、まだ120円を越える円安相場の可能性はまだ十分に残っていると見る。ただ、昨年のようなきれいな傾向は見られず、イベントや経済統計に敏感に反応する神経質な相場展開になるだろう。
 

1件のコメント

  1. 株高 円安基調ですか?
    119円に達成したところで、利益確定なのか本日は多少円高になっています。特にNZの下がりは顕著であせりました。でも押し目で買いました。 ドル円も118円台での押し目を買い足し…

    トラックバック by マネ吉の外国為替証拠金取引投資日記 — 2006年3月14日 @ 12:08

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