中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/3/31 金曜日

アメリカ経済の成長は持続するか

Filed under: - nakaoka @ 1:46

30日に米商務省は第四四半期の成長率の修正値を発表しました。一次推定値では1.1%と低成長に留まりましたが、速報値では1.6%と上昇修正され、30日発表の修正では1.7%と若干ですが、再度、上昇修正されました。また、通年の成長率は3.5%でした。それに先立ち、FOMC(連邦公開市場委員会)は政策金利であるフェデラル・ファンド金利の目標値を0.25%ポイント引上げて4.75%にしました。以下で、FOMCの利上げ決定の声明の紹介と、3月17日発売の『世界週報』に寄稿したアメリカ景気動向に関する記事を転載します。

3月27日と28日の二日にわたって開かれたFOMCは、バーナンキFRB議長が最初に議長を務めるもので、注目を浴びました。同議長が就任して、市場では金利見通しに関して様々な憶測が流れました。が、最終的には、バーナンキ議長は利上げに踏み切りました。市場関係者の間では、フェデラル・ファンド金利の目標値が最終的に5%まで引上げられるというのは、ほぼコンセンサスになりつつあるようです。まず、今回の利上げについてFOMCはどのような理由を挙げているか、以下に紹介します。

「2005年第四四半期の実質GDPの成長率の鈍化は、主に一時的あるいは特殊な要因を反映したものであるように思われる。経済成長は2006年第1四半期に力強く回復しているが、持続的なペースに減速しそうである。エネルギー価格や他の一次産品価格の上昇はまだコアインフレにわずかな影響しか与えておらず(注:コアインフレとは価格変動の激しいエネルギーや食糧品の価格を除いたもの)、生産性向上によって単位労働コストの上昇は抑制され、インフレ期待は押さえ込まれたままである。しかし、エネルギーと他の一次産品価格の上昇に加え、稼働率の上昇が、インフィレ圧力を高める可能性がある」

「当委員会は、持続的な成長と価格安定の双方のバランスを取るために引締め政策が必要であると判断した。いずれにせよ、当委員会は成長と物価安定という目的を達成するために必要であれば、経済見通しの変化に対応するだろう」

今回の声明の特徴は、「成長」「物価安定」を両睨みにしているところにあります。この短い文章の中に、バーナンキ議長の考え方がわずかながら反映しているように思えます。バーナンキ議長の考え方に関しては、前回に掲載した経済倶楽部での講演を参照してください。

以下は、『世界週報』に寄稿した記事の転載です。

タイトル:アメリカ経済は資産バブル崩壊を回避しながら軟着陸できるか

(リード)
高度成長を達成してきたアメリカ経済の最大の課題は、インフレを回避しながら、経済を持続的な成長経路に軟着陸させることである。FRBは「金融政策報告」で今年の成長率を3・5%と予想。また、コア・インフレ率も2%程度に抑制する方針を明らかにしている。しかし、経済の先行きにはエネルギー価格の上昇と住宅バブルの破裂という大きなリスクが存在している。経済を軟着陸させることができるかどうかは、金融政策にかかっている。3月と5月のFOMC(連邦公開市場委員会)でバーナンキFRB議長がどのような判断を下すかが、これからの経済の方向を決定することになるだろう。

(本文)
ソフトランディングを予想するFRB

2月15日、FRB(連邦準備制度理事会)議長に就任したばかりのバーナンキが下院金融サービス委員会で証言を行なった。FRBは「ハンフリー・ホーキンス法」に基づいて年2回、議会に対して経済情勢と金融政策に関する「金融政策報告」を提出しなければならない。今回のバーナンキ議長の証言は、同法に基づいて行なわれた。

今回のFRB議長の証言は、いつも以上に注目された。それはバーナンキ議長の公的なデビューであると同時に、1月31日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)でグリーンスパン前議長が14度目のフェデラル・ファンド金利引き上げを決めた後の議会証言であったからだ。市場関係者にとって、同議長の経済状況の判断や金融政策について知る絶好のチャンスであった。

バーナンキ議長は「2005年のアメリカ経済は素晴らしい成果をあげた。実質GDP(国内総生産)は3%を越える成長を達成した」と昨年の経済成長に言及し、今年も「経済は順調に成長している」と述べた。具体的な成長見通しは、「金融政策報告」の中で述べられている。この見通しは、FRB理事とFOMCの委員である各地方連邦準備銀行総裁の見通しをベースにまとめられたものである。それによると、06年の成長率予想は約3・5%、07年は3%から3.5%であった。価格変動の激しいエネルギー価格と食品価格を除いたコア・インフレ率は、06年が約2%、07年が1・75%から2%と予想されている。また、失業率は、06年と07年ともに4・75%から5%の間と予想されている。

FRBの予想を見る限り、アメリカ経済は順調に持続的成長への軟着陸に向かって進んでいくように思われる。実質成長率は03年に2・7%を記録した後、04年には4・2%という高成長を実現している。昨年は3・5%と大きく成長が鈍化したが、それでも高水準の成長が続いている。

FRBの予想で、コア・インフレ率が2%以下に抑制されると想定しているのは興味深い。バーナンキ議長はインフレターゲット政策”を主張している。同議長は公言していないが、コア・インフレ率を2%以下に抑えるべきであると考えており、今回の予想はこの想定の線に沿ったものといえる。正式にインフレターゲット政策を採用するには時間がかかろうが、実質的にFRBはインフレターゲット政策に沿った動きをしているようだ。

成長の原動力は資産効果による個人消費の伸び

バーナンキ証言から2週間後の2月28日、商務省は05年第四四半期のGDP統計を発表した。成長率は1月に発表された1・1%から1・6%に上方修正された。第一四半期の3・8%、第二四半期の3・3%、第三四半期の4・1%と比べると、第四四半期の成長率は大幅な落ち込みとなった。通年の成長率は3・5%であった。

第四四半期の急激な成長鈍化にも拘わらず、株式市場や為替市場はまったく反応しなかった。それは、この成長鈍化は夏のハリケーンによる影響によるもので、想定内の一時的な現象と見られていたからである。第四四半期の成長鈍化の最大の要因は、個人消費の低迷であった。個人消費は前期比で1・2%と小幅な増加に留まった。第三四半期の4%超の増加と比べると、その落ち込みは際立っている。落ち込みの主因は、自動車販売の不振であった。自動車メーカーは夏場に従業員向けの割引販売などを実施し、販売増進を図った。その結果、第二四半期と第三四半期の自動車販売はそれぞれ7・9%、9・3%と高水準の伸びを記録した。しかし、第四四半期に、その反動で自動車販売は16%を越す落ち込みとなった。ただ、通年では約1700万台と前年並みの販売台数を確保している。自動車販売の不振で耐久消費財は落ち込んだものの、食品や衣料品などの非耐久消費財は前期比で5%を越す順調な増加を続けている。

しかし、第四四半期の結果は、アメリカ経済の成長トレンドを反映したものではない。年間でみれば個人消費が経済成長をリードする成長パターンに変化はない。年間の成長率3・5%のうち個人消費の寄与度は2・5%であった。成長の70%以上は個人消費の増加によってもたらされたものである。
消費を決定する可処分所得は、エネルギー価格や金利の上昇の影響を受けて、03年、04年を大きく下回る1・5%に留まった。それにもかかわらず、個人消費が堅調を維持しているのは、住宅価格と株価上昇による“資産効果”によるものである。バーナンキ議長は「個人支出は住宅価格と株価の上昇を反映した家計の資産の増加に支えられた」と、資産効果説を支持する証言を行なっている。

住宅価格上昇と株高で家計部門の純資産は大きく増えている。05年第三四半期末の可処分所得に対する純資産の比率は5・65倍で、長期的な平均値4・75倍を大きく上回っている。FRBのスタッフは、純資産が1ドル増えると消費が3・5セント増えると試算し、資産効果の消費に与える影響が大きいことを示している。

個人は、資産が増加したことで貯蓄を減らして、支出を増やしたのである。その結果、個人貯蓄率は05年第二四半期以降マイナスとなっている。アメリカ国民は所得を上回る消費を行なっており、資金の不足は預金を取り崩したり、住宅を担保に金融機関から借入を行なったり、手持ちの金融資産を売却して埋めているのである。

高成長に影落とす2つの不確実性

06年の3・5%成長は達成可能なのであろうか。05年第四四半期の低成長は一過性のもので、今年の第一四半期の成長は急激に回復するとの一般的な予想である。たとえばモルガンスタンレー証券とシティグループは、いずれも第一四半期の成長率は5・5%と予想している。また、年間の成長率も、モルガンスタンレー証券が3・6%、シティグループが3・3%と予測している。これはFRBの予想と近い水準である。

いずれの予想も、基本的な成長パターンは変わらないことが前提となっている。すなわち、住宅価格の上昇を背景に資産効果によって個人消費が堅調を続けるというものである。とすれば、住宅市場の好調が続くことが予想の前提となる。しかし、住宅価格は既に“バブル”状況にあり、暴落の可能性を指摘する声もある。

バーナンキ議長は、住宅市場の沈静化を予想し、さらに「過去数年間の住宅価格の大幅な上昇を考えれば、現在、考えられている以上に住宅価格が急激に下落する可能性もある」と指摘している。もし住宅価格の暴落があれば、個人消費の急激な減退き、急激な景気の悪化を招く可能性は十分ある。

昨年は新築住宅、中古住宅ともに販売戸数は過去最高を記録した。しかし、今年に入って市場に変調の兆しが見え始めている。1月の新築戸建住宅の販売戸数は年率で123万戸強と前月比5%の落ち込みとなった。1月は100年来の暖冬で小売販売は好調であったが、その中で住宅販売は低調であった。また、新築住宅の在庫水準は5・2か月分と、96年11月以来初めて5ヶ月の水準を越えている。前年同月比でみると実に20%の増加であった。また、中古住宅の販売戸数も、昨年8月以降、減少が続いている。1月の販売戸数は04年2月以降、最低の水準であった。ピークを付けた昨年6月の販売戸数よりも10%落ち込んでいる。こうした販売の落ち込み子を反映して、中古住宅の在庫水準も増加している。

ただ、住宅価格はまだ大きく崩れる気配はない。昨年10月に新築住宅の中位価格は24万4000ドルと過去最高を付けた後、一時、低下したものの、1月は前月比で4%上昇している。投資用に住宅を購入した層が、先行きの警戒感を強め、売却の動きを見せているが、まだ住宅価格全体に影響を与えるまでにはなっていない。ただ、1月の住宅ローン申し込み件数は前月比7・5%減少している。

住宅市場は相反するシグナルを発しているが、これは、現在、分岐点に来ていることを示唆しているのであろう。住宅市場の調整が緩やかに進めば、FRBが描く軟着陸シナリオの条件が整うことになる。だが、急激な調整すなわち価格の暴落の可能性がまったくないわけではない。もし住宅価格が下落すれば“逆資産効果”によって個人消費が抑制され、成長が鈍化することになる。その鍵を握っているのが金融政策である。

金融政策は雇用とインフレの両睨みへ

アメリカ経済が順調な成長を実現できた背景にインフレ抑制がある。バーナンキ議長は「低いインフレ率とインフレ期待が経済成長を促進し、経済の安定性を高めた」と、物価安定が持続的な成長に不可欠であることを認めている。エネルギー価格の急激な上昇があったにもかかわらず最終製品への転嫁は行なわれず、また単位労働コストの上昇も生産性向上で吸収されてきた。コア・インフレ率は安定した推移を示してきた。その結果、インフレ期待が抑えられ、長期金利の上昇を避けることができた。特に住宅ローン金利の低下は、前述のように個人消費を刺激し、成長の原動力となったのである。

金融政策のポイントは、コア・インフレ率を2%前後に抑制することができるかどうかである。 04年6月に始まった利上げは、超緩和金利を中立的な水準にまで戻すのが狙いであった。この間の利上げは方針に沿ったもので、それほど難しい政策決定を要するものではなかった。だが、1月の利上げで「フェデラル・ファンド金利はほぼ中立まで戻った」(スターン・ミネアポリス連銀総裁)。これからが本当の意味で金融政策の運用が問われてくることになる。バーナンキ議長は「金融政策は2つの失敗を犯す可能性がある。1つは長期にわたって引き締めすぎることであり、もう1つは長期にわたって引き締めを行なわないことである。そのバランスを取るのが難しい」と語っている。これまでの金融政策と違い、これからはインフレと雇用を両睨みしながらの運営を迫られてこよう。

インフレに関連して注目されるのが、設備稼働率である。バーナンキ議長はインフレの最大の要因はGDP(需給)ギャップであるという持論を持っており、議会証言でもエネルギー価格の動向のほかに「操業度が比較的高いことがもう一つのインフレ要因である」と語っている。その稼働率は、05年12月に80・7%と高水準になっている。操業度が80%を超えると、かなり逼迫感が出てこよう。さらに、失業率が1月に4・7%にまで低下し、労働市場の逼迫化も予想される。こうしたデータから判断すると、バーナンキ議長は3月27日のFOMCで利上げを実施すると予想される。

フェデラル・ファンド金利は5%まで引上げられるだろう。問題は、利上げが住宅市場や株式市場にどのような影響を与えるかである。資産効果に依存した成長パターンをいつまでも続けることができるとはできない。バーナンキ議長の使命は、資産バブルの破裂を回避しながら、経済の軟着陸を図り、新しい成長パターンを作り上げることである。だが、金融を引き締めすぎれば、住宅市場の崩壊を招く可能性も否定できない。だが、果敢な利上げに躊躇すればインフレを招きかねない。3月と5月のFOMCでバーナンキ議長の新金融政策の輪郭が明らかになるだろう。

9件のコメント

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  2. 5月は利上げ継続との見方がマーケットに織り込まれてきましたね。そもそも、ソフトランディングなんて可能なのでしょうか?これまでに実例があるのでしょうか?
    為替マーケットを見ていると、行き着くところまで行って上限なり、下限なりをトライしない限り落ち着かない様な気がします。その場合は大きな振幅をともなうと思うのですが、、、

    コメント by Fuh He — 2006年4月10日 @ 09:55

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  5. 東西逆転とドル大暴落
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    トラックバック by 東京生活案内熟年雑談情報 — 2006年4月14日 @ 22:37

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