中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/8/7 月曜日

ヘイデン新CIA長官とは何者か:スパイのトップが長官に就任

Filed under: - nakaoka @ 1:45

いつか「諜報国家・アメリカ」を素材に何かを書いてみたいと思っていました。9/11以来、アメリカ社会は変わってしまった感じがします。もともと「自由」と「秩序」あるいは「治安」は両立しがたいところがあります。アメリカは長い間、「自由」を重視する社会でしたが、最近ではアメリカ社会の保守化が進み「秩序」をより重視するようになっている気がします。それが9/11以降、さらに強まっているようです。そして新CIA長官に就任したマイケル・ヘイデンはアメリカ諜報機関の最高責任者でした。しかも国防総省の諜報機関とも密接な関係があり、それまで独立性を主張したきたCIAも、国防総省の諜報システムの中に組み込まれそうです。今回は『中央公論』8月号に寄稿した「ヘイデン論」のオリジナル原稿を転載します。なお、8月1日から4日まで大阪外国語大学で4日間で15コマという集中講義をしてきました。タフな授業で、疲れましたが、楽しい授業ができました。同時に独立法人化で苦悩する話も聞くことができました。いつか大学教育のあり方について書くチャンスがあればと思っています。なお7月の「ページ・ビュー」は210万8578件でした。6月は207万4508件でした。

“スパイ中のスパイ”であるマイケル・ヘイデン(六一歳)が中央情報局(CIA)長官に就任した。空軍の諜報スタッフ出身の叩き上げのスパイである人物がCIA長官に就任するという異例な人事の意味を理解するには、前任者のポーター・ゴスCIA長官辞任の経過を理解する必要がある。

同時多発テロ事件を受けて設立された国家情報長官のポストが新設立され、ジョン・ネグロポンティが長官に就任。これにより諜報活動の統括責任は国家情報長官に移ったが、ネグロポンティ長官とゴス長官の間で主導権を巡って抗争が展開されていた。ネグロポンティ長官はチェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官と密接なブッシュ・サークルに属する人物である。これに対してゴスはフロリダ州選出の元下院議員で下院諜報委員会委員長を務めた人物で、ブッシュ・サークルとは距離を置いていた。

CIAはイラクの大量殺戮兵器に関する情報分析で大きな間違いを犯すなど大きな組織上の問題に直面していた。ゴスはCIAの建て直しを期待されて長官に任命されたが、彼の人事や手法はCIAのスタッフの反発を買っていた。そこに汚職で罪を問われたカニングハム元下院議員が主催するポーカー・パーティに出席するなどスキャンダルに巻き込まれ、大統領の信頼を完全に失っていた。権力抗争に敗れたゴスは、在任期間わずか一八ヶ月で辞任となったのである。

ゴスの後任のCIA長官に任命されたのが、ヘイデンである。彼はネグロポンティ長官の下で副長官として働いていた人物であり、チェイニー副大統領にも近い人物として知られている。『タイム』誌は、彼を「好感が持て、気取らない人物である」と紹介し、ホワイトハウスだけでなく、議会でも評判が良い。ブッシュ大統領は記者会見で彼を「重要な時期にCIAをリードできる最適な人物」と紹介している。

アメリカ政府の諜報活動の八割は国防総省の関連諜報機関が行なっている。CIAは、国防総省に対抗する唯一の独立した諜報機関である。しかし、“チェイニー・ラムズフェルド・ネグロポンティ”の路線に繋がるヘイデンのCIA長官就任によって、諜報活動はラムズフェルド長官が率いる国防総省が完全に掌握したことになる。ヘイデンはラムズフェルド長官の影響下にある人物と見られている。議会の承認公聴会でも、このことが問題になり、軍人がCIA長官に就任することを懸念する声もあった。最終的に五月末に上院で賛成七八票、反対一五票で彼の人事は承認された。

ヘイデンはピッツバーグ生まれで、父親は溶接工であった。大学は地元のデュケイン大学大学院で現代アメリカ史を専攻し、六九年に卒業。学生時代、授業料を稼ぐためにタクシーの運転手をしていた。彼の故郷に対する思いは強く、地元のフットボール・チームのスティーラーズの熱狂的なフアンで、会議テーブルの真ん中にスフィーラーの選手がサインしたヘルメットを置いていたほどである。

大学を卒業後、空軍に入り、最初の任務はネブラスカの戦略空軍の情報アナリストであった。士官学校卒業のエリート軍人ではなかった。以降、彼は軍の諜報活動の専門家の道を歩む。ドイツや韓国のアメリカ大使館に勤務し、ソビエトや北朝鮮に関する諜報活動を行なっている。八〇年代にベルギーのアメリカ大使館に勤務しているとき、休日には作業服を来て秘密工作員のリクルート活動に従事している。彼自身は現場で諜報活動をしたことはなく、主に情報分析を行なってきた。

その後、空軍諜報局司令官などを経て九九年にNSA長官に就任。連続テロ事件が起こったときスタッフに「スパイ監視こそ国民の期待に応えることだ」と檄を飛ばしている。NSAは外国人の盗聴を主な任務としているが、彼は国内の民間人の違法な盗聴活動を指揮する勇み足を踏み、批判を浴びている。NSA長官としてホワイトハウスと議会に積極的に働きかけ、それまで目立たない存在だったNSAの地位を引上げたと言われている。その後、ネグロポンティ長官の知遇を得て国家情報副長官に転進、さらにCIA長官に抜擢されたのである。

ヘイデンはゴスに解任された地下活動の専門家でCIAスタッフの中で評判の高いスティーブン・カッペスを副長官に迎えCIA再建を進める意向だ。就任初日、スタッフに向かって「CIAをアメリカの諜報機関を統合するセンターにする」と語っている。同氏のCIA長官就任は、同時多発テロ事件以降、急激に強まっているアメリカの“諜報国家化”を象徴する人事である。

1件のコメント

  1. ロンドンでのテロ未遂、インドでもテロ計画等が明るみにでて、テロのためということでCIA強化されちくかもしれませんね

    コメント by 星の王子様 — 2006年8月13日 @ 07:05

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=183

現在、コメントフォームは閉鎖中です。