中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/11/20 月曜日

保守主義者から見放されつつあるブッシュ大統領

Filed under: - nakaoka @ 13:23

ブッシュ大統領の弾劾に関するブログを書きました。その後の展開としては、ラムズフェルド前国防長官が11月14日、アメリカの市民団体3団体によってドイツのカルルスエールの検察当局に「戦争犯罪」で告発されました。中心になって告発したのは、The Center for Constitutional Rightsという市民団体です。これはドイツの法律(The Code of Crimes against International Law)に基づいた告発です。アメリカはthe Military Commission Act of 2006でアメリカ兵が戦争犯罪で告発されないという免責を決めています。ただラムズフェルド前長官が民間人になったことと、ドイツが海外からの告発を受け入れていることから、ドイツでの告発となったものです。またブッシュ大統領弾劾の動きが加熱してきています。中心となっている組織はImpeachBush.orgで、積極的に議会に弾劾を求める活動を行なっています。民主党勝利で弾劾要求に拍車がかかっています。ただ民主党は、取り扱いは慎重で、むしろ2008年の大統領選挙の材料にしたいとの意向があるようです。またImpeachBush.org は2007年3月17日(イラン侵攻が始まった日)にワシントンで大規模な弾劾要求集会を予定しています。今回は『経済倶楽部講演録』11月号に寄稿(10月20日執筆)した文章を掲載します。

米国の政局が大きく動きそうである。本稿は11月7日の中間選挙の前に執筆している。本稿は11月10日に出版されるので、既に中間選挙の結果が出ていることになる。世論調査では、民主党が下院で過半数を獲得する公算が強いという結果が出ている。だが選挙は水物で、予想外の結果が出ないとも限らない。しかし、結果如何に拘わらず、今回の選挙は米国政治の大きな転換点を示す可能性がある。今回の選挙は長期にわたる保守主義運動の歴史のなかで理解することで、初めて何が問われているのかが分かるのである。

米国の政治的保守主義運動は、67年の大統領選挙でゴールドウォーター共和党候補が大敗を喫したことから始まった。ニクソン大統領が“サイレント・マジョリティ”と呼ばれる中間層の中に保守の支持基盤を発見し、レーガン大統領がさらにその支持基盤を拡大することで“保守革命”が現実した。さらに94年の中間選挙でギンギリッジ議員が率いる共和党が「アメリカとの契約」を政策綱領に掲げて戦い、54年以降始めて両院で過半数を制した。それ以降、現在に至るまで共和党の議会支配が続いてきた。2000年の大統領選挙でブッシュ大統領の誕生で、共和党は両院だけでなく政府も支配下に置いたのである。さらに連続テロ事件を背景に同大統領は“強い指導者”を標榜して圧倒的な国民の支持を得て02年と04年の選挙で圧勝し、共和党の長期政権の基盤を構築したかに見えた。

しかし、今回の選挙では共和党の勢いは完全に消え、共和党議員は雪崩のように“ブッシュ離れ”を起こしている。世論調査では大統領支持率は40%を割り込むなど、その不人気ぶりが際立っている。その要因はイラク戦争処理の稚拙や05年夏のハリケーン・カテリーナに対する不手際などがあった。しかし、そうした個別具体的な問題に留まらず、今回の選挙ではブッシュ大統領の保守主義の本質が問われているのである。多くの保守主義者は「ブッシュ大統領は本当に保守派を代弁する大統領なのか」と問い始めている。保守主義者はルーズベルト大統領が作り上げた政治社会構造を破壊することを政治的な目標に掲げてきた。それは福祉政策の見直しであり、小さい政府の実現であった。しかし、社会的倫理を強調する伝統的保守主義者も、自由競争を主張するリバタリアンも、減税を主張するサプライサイダーも声を揃えてブッシュ大統領は保守派の理念を裏切ったと批判し始めている。ブッシュ大統領は“ビッグ・スペンダー”であり、連邦政府は史上最大の財政赤字を生み出したと糾弾している。

90年代初に父親のブッシュ元大統領が保守派の反対を押し切って増税を行ったとき、多くの保守派はレーガン革命への裏切りであると大統領から一斉に離反していった。それが大統領選挙でクリントン候補に敗北する要因となった。今度は、息子のブッシュ大統領が父親と同じように保守派の離反に直面しているのである。ブッシュ大統領は自らの宗教体験を語ることでエバンジェリカル(福音派)の支持を得てきた。しかし、ブッシュ大統領は社会政策においても保守主義の理念から逸脱していると見られており、エバンジェリカルだけでなく、社会的保守派も大統領に距離を置き始めている。ブッシュ大統領が国民に語るべき“理念”を失ってしまったのは明らかである。今まで保守主義運動は幾度となく失敗を繰り返してきた。そのたびに彼らは新しい代弁者を見出してきた。しかし、今回の選挙は、ブッシュ大統領の限界だけでなく、保守主義運動の転換を示すものになるかもしれない。

1件のコメント »

  1. 非常に参考になりました。
    有り難う御座います。

    コメント by 池袋 エクステ — 2008年10月28日 @ 20:08

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