中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/11/27 月曜日

始まった大統領選挙に向けての抗争:ヒラリー・クリントンは大統領候補になれるか?

Filed under: - nakaoka @ 1:22

民主党は中間選挙で下院と上院の過半数を制しました。再選のないブッシュ大統領は“レーム・ダック化”している上に、議会運営で厳しい状況に置かれることは間違いありません。実質的に共和党の政策を実現するのは難しくなってくるかもしれません。と同時に、政治の焦点は2008年の大統領選挙に完全に移った感があります。今回の中間選挙での勝利を巡って、民主党内で対立が激化しています。『週刊東洋経済』11月25日号に中間選挙分析を寄稿しました(同原稿は数日後にアップする予定です)。その中で、今回の民主党勝利の1つの要因は、“ニューデモクラット”と呼ばれる中道右派の新人候補が大量に当選したことにあると書きました。ニューデモクラットはクリントン前大統領の政治的立場でもあります。したがって、今回の選挙はクリントンの勝利とも言えるものです。それを受けて、民主党全国委員会のハワード・ディーン(Howard Dean) 委員長とクリントン派のエマニュエル(Rahm Emanuel)民主党下院選挙委員会委員長の間で対立が深まっています。ワシントンの保守派のインサイダー・レポートが、その状況を詳細に書いています。以下は、そのレポートに基づいて、分析したものです。追記:クインニピアック大学(Quinnipiac University)の「政治家好感度調査」の結果を追加しました(11月29日)。

民主党の選挙体制について説明します。まず、全国組織として民主党全国委員会があります。それと同時に、議会では民主党下院選挙委員会と民主党上院選挙委員会があり、それぞれが各候補者の選挙活動の応援をします。全国委員会のディーン委員長は04年の大統領予備選挙でケリー候補と争って敗北した人物ですが、まだ大統領への野心を持っています。民主党全国委員会委員長は各州の代表で構成される委員会委員によって選挙で選ばれます。今回の中間選挙で、ディーン委員長は「50州戦略」を取り、各選挙区に万遍なく選挙資金を配布する戦略を取りました。これに対して、民主党の参謀であるジェームズ・カービル(James Carville)が、勝てる選挙区にもっと集中的に選挙資金を配分しておけば、もっと議席数が増やせたはずだと批判を展開しています。そして、ディーンの指導力の欠如は、ラムズフェルド前国防長官と同じだと批判し、辞任を要求しています。

これに対してディーン委員長は、今回の選挙の勝利は「50州戦略」が成功したからであると反論しています。そして、民主党勝利を背景に08年の大統領選挙立候補に意欲を示しています。ディーンは政治的には完全に過去の人物でしたが、中間選挙の勝利で蘇った感があります。しかし、クリントン派は今回の勝利はエマニュエル下院選挙委員会委員長にあると、ディーン委員長に対して批判的な立場を取っています。エマニュエル議員は、クリントン派の議員で、彼もニューデモクラットに分類される政治家です。ちなみいクリントン派の議員は“Clintonista” と呼ばれています。カービルのディーン批判も、クリントン派の意向を汲んだものだといわれています。インサイダー・レポートによると、クリントン派とディーンの対立は04年の大統領予備選挙にまで遡ることができるそうです。

今、民主党で大統領候補として名前が挙がっているのは、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)上院議員とゴア元副大統領、前回の予備選挙に立候補したジョン・ケリー(John Kerry)上院議員もまだ野心を捨てていないようです。マサチューセッツ選出のテッド・ケネディ(Ted Kennedy)上院議員は、同じ州から先週されているケリー上院議員の大統領予備選挙への立候補を支持していると言われています。前回の選挙でもケリー上院議員は、自分の名前の頭文字を取って”JFK”と呼んでいました。それはケネディ大統領のニックネームですが、同時にケネディ大統領の弟のデッド・ケネディ上院議員と極めて密接な関係があることを示しています。ケネディ上院議員は、民主党内ではオールド・リベラルに属しており、クリントン派のニューデモクラットとは政治的な立場が異なっています。そして、もう一人、色気を示しているのがディーン民主党全国委員長です。クリントン前大統領もヒラリー・クリントン上院議員は、ディーン委員長とケリー上院議員、ケネディ上院議員、ゴア前副大統領を“4人組(Gang of Four)と呼んで、軽蔑していると言われています。

一方、ケリー上院議員は、クリントン派のニューデモクラットに対して強い反感を抱いており、04年の選挙でクリントン夫婦が十分に選挙支援をしなかったことに反感を持っています。ゴア前副大統領も、2000年の大統領選挙での敗北はヒラリー・クリントンのせいであると考えているようです。ケネディ上院議員は、政治的な立場が違うことに加え、クリントン一派が民主党の選挙資金マシーンを支配していると反感を抱いているようです。ケネディ上院議員は民主党の活動家や政治献金をしている人に対して「ヒラリー・クリントン上院議員だけが候補者ではなく、彼女を支援しないように」というメッセージを送っています。

そうした状況に加え、民主党の指導権を巡って、ヒラリー・クリントン上院議員とディーン全国委員長の抗争が始まっています。ディーン委員長の支持者は、ヒラリー・クリントン上院議員が当初、イラク戦争を支持したことを快く思っていないようです。ディーン委員長は04年の予備選挙でイラク戦争反対の立場を明らかにしています。また、ヒラリー・クリントン上院議員が民主党の支持基盤を固めるために中道右派(ニューデモクラット9の立場にシフトしているのも、不愉快に思っているようです。ヒラリー・クリントン上院議員が大統領候補になれば、党が分裂するとも主張しています。

他方、クリントン支持者は、カービルが主張しているように、ディーン委員長は民主党全国委員会を運営する能力がないと批判しています。その批判の背景には、選挙資金を管理できる民主党全国委員会の支配権を狙っているというのが本音のようです。さらにクリントン派はディーン委員長は民主党左派に属し、中産階級や労働者階級の票を獲得できないと、彼が大統領候補になることに反対しています。なお、資金的には一番潤沢なのはヒラリー・クリントン上院議員だと言われています。また、ゴア前副大統領も潤沢な資金ルートを持っているといわれています。また、彼は環境問題などで独自の主張を展開しており、環境保護派などの支持を得ています。

民主党では、まだ誰も正式に大統領予備選挙への立候補を表明していません。ほぼ2年にわたる長期戦です。早々と立候補を明らかにすると、途中で息切れすることもあります。それぞれが様々な思惑で動き始めています。ここでは触れませんでしたが、イリノイ州選出のバラック・オバマ(Barack Obama)上院議員がダークホースに上がっています。彼は上院で唯一の黒人上院議員で、まだ1回しか当選していませんが、メディアの注目度は高い人物です。

共和党では数名の議員が立候補を表明しています。最有力な共和党候補と目されているジョン・マケイン(John McCain)上院議員は、「立候補の調査委員会」を設置しています。おそらく間違いなく立候補するでしょう。

政治家好感度調査(Quinnipiac University, Polling Institute、11月28日発表)

中間選挙後に実施されたもので、0点から100点で好感度の順位を示したものです。いずれも大統領候補と目されている人物がランク入りしています。

1位: ラドフル・ジュリアーニ(Rudolph Guiliani)前ニューヨーク市長(共和党) 64.2点
2位: バラック・オバマ(Barak Obama)上院議員(民主党)           58.8点
3位: ジョン・マケイン(John McCain)上院議員(共和党)            57.7点
4位: コンドレッザ・ライス(Condoleeza Rice)国務長官(共和党)        56.1点
5位: ビル・クリントン(Bill Clinton)前大統領 55.8点
6位: ジョセフ・リバーマン(Joseph Lieberman)上院議員(民主党) 52.7点
7位: マイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg)ニューヨーク市長   51.1点
8位: ジョン・エドワーズ(John Edwards)上院議員(民主党)          49.9点
9位: ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)上院議員(民主党)          49.0点
10位:ビル・リチャードソン(Bill Richardson)ニューメキシコ州知事        47.7点

14位: アル・ゴア(Al Gore)前副大統領(民主党)                 44.9点
15位: ジョージ・ブッシュ(George Bush)大統領                  43.8点
20位: ジョン・ケリー(John Kerry)上院議員(民主党)              39.6点

1. Rudolph Giuliani, former New York City mayor, 64.2
2. Barack Obama, Illinois senator, 58.8
3. John McCain, Arizona senator, 57.7
4. Condoleezza Rice, secretary of state, 56.1
5. Bill Clinton, former president, 55.8
6. Joseph Lieberman, Connecticut senator 52.7
7. Michael Bloomberg, New York City mayor, 51.1
8. John Edwards, former North Carolina senator, 49.9
9. Hillary Clinton, New York senator 49.0
10. Bill Richardson, New Mexico governor 47.7
11. Joseph Biden, Delaware senator 47.0
12. Nancy Pelosi, U.S. House speaker, 46.9
13. Mitt Romney, Massachusetts governor, 45.9
14. Al Gore, former vice president, 44.9
15. President George Bush, 43.8
16. Evan Bayh, Indiana senator, 43.3
17. Newt Gingrich, former House speaker, 42.0
18. Bill Frist, Tennessee senator, 41.5
19. Harry Reid, Nevada senator, 41.2
20. John Kerry, Massachusetts senator, 39.6

この好感度調査が大統領候補決定の判断資料にはなりませんが、アメリカの一般の国民の政治家観が伺えると思います。ヒラリー・クリントン上院議員の好感度が意外に低いのが注目されます。民主党でトップは、オバマ上院議員です。共和党はジュリアーニ前ニューヨーク市長で、マケイン上院議員は3位につけています。

3件のコメント »

  1. はじめまして、bystanderという者です。
    共和党の場合
    マケイン上院議員の場合は年齢に伴う体力的な問題や現時点でのイラクへの増派といった態度がどう政治的に受け止められるかといった点に移っていくでしょうし、前ニューヨーク市長の場合は同性愛や中絶、離婚暦などに宗教右派がどう反応するか、あと国内やイラク政策をめぐる二人のような穏健派の台頭を嫌った、宗教右派の行き着く先のような第三のロス・ペローの去就などが焦点だと思いますが、現時点ではどのような情勢なのでしょうか、
    「与党であり続けること」の求心力はものすごく強いんで、08年にむけて穏健派で共和党は結束し続けるように思えますがいかがでしょうか?
    民主党に関しては、今のような中道右派vsリベラル急進派の内部抗争による自滅で2008年まで持ちそうにないので興味ありませんw。

    コメント by bystander — 2006年11月27日 @ 15:04

  2. [...] 始まった大統領選挙に向けての抗争:ヒラリー …ニューデモクラットはクリントン前大統領の政治的立場でもあります。したがって、今回 の選挙はクリントンの勝利とも言えるものです。 … しかし、クリントン派は今回の勝利 はエマニュエル下院選挙委員会委員長にあると、ディーン委員長に対して批判的な … [...]

    ピンバック by music@pickup-keyword.com » [2006年12月29日] の注目キーワードリスト — 2006年12月29日 @ 22:50

  3. [...] 始まった大統領選挙に向けての抗争:ヒラリー・クリントンは大統領候補 …ニューデモクラットはクリントン前大統領の政治的立場でもあります。したがって、今回 の選挙はクリントンの勝利とも言えるものです。 … しかし、クリントン派は今回の勝利 はエマニュエル下院選挙委員会委員長にあると、ディーン委員長に対して批判的な … [...]

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