中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/2/4 日曜日

2007年のアメリカ経済の見通し(3):2006年のGDP統計からみた分析ー個人消費主導の成長続く

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1月31日、米商務省がGDP統計を発表しました。今回の発表は「速報値(advance)」です。次に「予備値(preliminary)」が発表され、最後に「最終値(final)」が発表になります。したがって最終的なGDPの値が決定するまで、2度の修正が行なわれる可能性があります。他の様々な経済統計を使って、GDPの値を推定します。経済統計の中には直近のデータが発表されていないもののあるため、最終値が変わってくるのです。非常に大きな修正が行なわれることもあるので、要注意です。商務省の統計では、2006年第4四半期の実質成長率は3.5%になりました。これは大方の予想よりも、高い水準でした。『ウォール・ストリート』紙がGDP統計発表の3日前に22名のエコノミストを対象にした成長予測調査では、中央値は3.0%でした。実際の値は、この予想をかなり上回りました。同紙は、期末の数週間の経済データが好調であったことが第4四半期の速報値を高めたと説明しています。以下、2006年のアメリカ経済を分析し、先に掲載したコーンFRB議長とホーニング地銀総裁のコメントと比較して読んでください。なお、私の見方は次回のブログで紹介します。

【経済成長の動向】
経済成長の内容を理解するには、GDPの構成要素を理解する必要があります。どの項目がGDPのどれだけを占め、どの項目への支出が増えたかを知ることが、経済成長の中身を知るうえでの基本となります。

まず2006年の四半期ベースの成長率を見てみます。
第1四半期:5.6%   第2四半期:2.6% 第3四半期:2.0% 第4四半期:3.5%
通期の成長率は以下の通りです。
2004年:3.9%  2005年:3.2%   2006年:3.4%

第1四半期の成長率が異常に高いのは、2005年第4四半期に自動車販売などが大きく落ち込み、成長率が1.8%と低水準になった反動でした。要するに年末に売れなかったものが年を明けて、売れ始めたために2006年第1四半期の成長率が大きく嵩上げされたものです。したがってアメリカ経済のトレンドは、第2四半期と第3四半期の成長率に反映されていると考えられていました。とすれば、第4四半期の3%を上回る成長は、大方の予想を裏切ったものです。秋頃には、2006年の成長率は2%台に落ち込むというのが、大方の予想でした。

第1四半期の高成長と第4四半期の高成長を受けて、年間ベースでの実質成長率は3.5%となりました。2004年の成長率は3.9%、2005年は3.2%でしたから、2004年には及ばないものの、2005年を上回る成長を達成したのです。年初の予想では、よくて3%前後、場合によれば2%台半ばまで成長は減速するというのが、一般的な予想でした。予想はあくまで予想であり、前提条件が変わってくれば、当然、結果も変わってくるわけです。当初予想と現実の間に違いが出てくるわけですが、最大の要因は原油価格上昇と個人消費の動向が予想と大きく違ってきました。特に後半からの原油価格下落は、まったくの予想外の事態の推移でした。さらに、住宅バブルの破裂と原油価格上昇で落ち込むと見られていた個人消費が堅調を維持したことです。2006年のアメリカ経済も個人消費に支えられたのです。もう少し、GDPの中身を見てみましょう。

【GDPの内訳】
項目別の動向です。GDPの項目で一倍大きいのは個人消費です。2006年の名目GDPは13兆2539億ドルです。「個人消費支出」は9兆2708億ドルで、GDPの約70%を占めています。したがって、個人消費の動向が成長率に一番大きな影響を与えるのです。個人消費支出は、「耐久消費財」と「非耐久消費財」「サービス」に分かれます。耐久諸費財に対する支出額は1兆0713億円(GDP比は8%強)です。耐久消費財の中で一番大きな比率を占めるのが「自動車と部品」で、次が「家具」です。自動車支出額は4453億ドル(同3.4%、耐久消費財に占める比率は約23%です)。「家具」は対GDPで3.1%、対耐久消費財で約38%です。「非耐久消費財」は食品や衣類、ガソリンなどのエネルギーなどが含まれます。支出額は2兆7160億ドル(GDP比20%強)です。非耐久消費財支出は、耐久消費財支出を上回っています。食品やエネルギーは日常の消耗品ですので、毎日買わないわけには行きません。したがって、耐久消費財に比べると非耐久消費財の変動は小さいのが特徴です。最後の「サービス」支出の合計は、5兆4836億ドル(GDP比41%強)です。額からいえば、「サービス」は個人消費支出のなかで最大の割合を占めています。サービス支出の項目は、住宅費(家賃など)、交通費、医療費、リクリエーション費などが含まれています。サービス支出も非耐久支出と同様、耐久消費財に比べると変動は小さいといわれています。医療費などは景気変動の影響を受けにくいからです。

個人消費支出に次ぐ大きな項目は、「総民間国内投資(gross private domestic investment)」です。2006年の総額は2兆2184億ドル、GDP比では17%弱です。内訳は「固定投資(fixed investment)」(2兆1650億ドル)と「在庫投資」(534億ドル)に区分されます。「固定投資」は、「非住宅投資」(1兆3979億ドル)と「住宅投資」(7671億ドル)に分かれます。「非住宅投資」はさらに、工場の建屋などの「構造物」(4116億ドル)と「設備機械・ソフトウエア」(9862億ドル)に区分されています。金額から言えば、企業の設備投資で最大のシェアを占めているのは「情報処理装置やソフトウエア」(4853億ドル)です。「産業機械」は1692億ドルに過ぎません。要するに企業の設備投資は、現在では工場や機械装置への支出よりも、情報関連装置やソフトウエアのほうが大きな比率を占めているのです。もう1つは「住宅投資」です。2006年の住宅投資額は7671億ドルです。額からいえば、「住宅投資」は「総民間国内投資」の中で最大です。住宅投資は個人消費の家具などの派生需要を生むので、成長に対する寄与は大きなものになります。住宅を新築すると家具も新しいのにする人も多く、家具などに対する需要も喚起するのです。

経済成長を見るうえで小粒だが、大きな意味を持っているのが「在庫変動」です。企業は需要動向を見ながら生産計画を立てます。急に注文がきても在庫がないと出荷できません。ですから、こうして将来の需要増を見込んで在庫を積みますことがあります。これは「前向きの在庫投資」です。予定された在庫の増加です。しかし、逆に売れると思って生産したら、実際に注文がなく、「意図せざる在庫積み増し」が起こる場合もあります。「後ろ向きの在庫投資」です。そうした意図せざる在庫が増えると、企業は生産調整をします。要するに減産をするわけです。そうすると次の期に生産が減ることになります。同時に経済活動にも影響を与えます。いろいろな項目の中で、「在庫」の変動は大きく、それだけ成長に与える影響も相対的に大きくなっていきます。2006年は前年比で在庫は534億ドル増えています。2006年は、“意図した”のか、“意図しなかった”のかは別にして、在庫は増えて、成長に対する「寄与度」は0.26ポイントになっています。ただ、第4四半期だけでみますと自動車生産が減少し、在庫水準が減ったために、成長の寄与度はマイナス0.71ポイントと、成長の足を引っ張っています。2006年第2四半期の在庫は537億ドル増加、第3四半期は544億ドル、第4四半期は353億ドルでした(いずれも年率換算)。したがって、第3四半期の在庫水準よりも第4四半期の在庫水準が減っているため、成長にはマイナスになったのです。

次の大きな項目は「純輸出(net export)」です。アメリカは巨額の貿易赤字を抱えています。したがって、「純輸出」はマイナスになります。マイナスとは成長をそれだけ低めているということです。2006年の「純輸出」は7618億ドルのマイナスでした。さらに「政府部門の購入と投資(government consumption and gross investment)」(2兆5264億ドル)があります。「政府部門」は「連邦政府」(9264億ドル)と「地方政府」(1兆6000億ドル)に分かれます。連邦政府よりも地方政府の支出額のほうが多いのです。「連邦政府」は「国防支出」(6208億ドル)と「非国防支出」(3057億ドル)に分かれます。

【経済成長の原動力】
以上、GDPの構成内容について説明しました。では、どの支出がアメリカ経済の高成長をリードしたのでしょうか。前年あるいは前期と比べる場合、「伸び率」と「寄与度」という2つから見ることができます。たとえば、2006年の「個人消費支出」の前年比の「伸び率」は3.2%です。しかし、2006年の「個人消費支出」の「寄与度」は2.25ポイントです。すなわち、3.4%成長のうち2.25ポイントは個人消費によってもたらされたものです。成長の約66%(2.25÷3.4=66)は個人消費の伸びによる寄与によってもたらされたのです。「民間設備投資」の寄与度は0.75ポイントで、成長に対する寄与度は22%です。住宅投資の寄与度はマイナス0.26ポイントです。住宅低迷が一層深刻になった第4四半期の住宅投資の寄与度はマイナス1.16ポイントにまで拡大しています。したがって、個人消費支出の寄与度の内訳は、①サービス(1.05%)、②非耐久消費財(0.78%)、③耐久消費財(0.41%)です。

2006年の民間設備投資の寄与度はわずか0.75%でした。内訳は、固定資本投資の寄与度は0.49ポイントでした。2004年の1.11ポイント、2005年の1.17ポイントと比べると大幅に低下しています。2006年の第3四半期、第4四半期の固定投資の寄与度はそれぞれマイナス0.21ポイント、マイナス0.19ポイント、第4四半期はマイナス1.21ポイントと期を追うごと悪化しています。
 
純輸出はずっとアメリカの経済成長の足を引っ張ってきました。しかし、2006年についていえば、寄与度はわずかマイナス0.2ポイントまで低下しています。2004年はマイナス0.65ポイント、2005年はマイナス0.26ポイントですから、大幅に改善しています。2006年の四半期ベースの純輸出の寄与度を見てみると、第1四半期がマイナス0.04ポイント、第2四半期が0.42ポイント、第3四半期がマイナス0.19ポイントでしたが、第4四半期は1.64ポイントと経済成長に大きく寄与しています。これは輸出が10.0%増えたのに対して、輸入が3.2%減少したからです。政府部門は、2006年の連邦政府の寄与度は0.14ポイントでした。地方政府は0.26ポイントと連邦政府の寄与度を上回っています。

成長要因を寄与度で際網別整理してみます。
2006年:
個人消費:2.25 国内投資:0.75 在庫:0.26 純輸出:-0.2 政府:0.40 その他=3.4%

細目は以下の通りです。
プラス要因:
構造物:0.75 食品:0.51 政府部門:0.40 食糧:0.41 医療費:0.41 家具・住宅機器:0.36 ソフトウエア・同機器:0.26 住宅維持経費:0.24 衣類・靴:0.17 産業機械:0.08 娯楽:0.06 交通費:0.04  輸送機器:0.01
マイナス要因:
住宅投資:-0.26 自動車・同部品:-0.04 ガソリン・燃料:-0.02 純輸出:-0.02 

【成長パターン】
以上を要約すると、2006年のアメリカ経済成長は次のように要約できる。2006年の景気はかなり減速するというのが、年初の大方の見方でした。理由は、住宅バブルが終焉を迎えつつあること。破裂かどうかは別にして、2005年末から新築住宅販売などの一連の住宅指標はピークを打って落ち込み始めていました。モーゲージ金利(住宅金利)もゆっくりではあるが、上昇に転じており、住宅投資にブレーキがかかるのは避けられないというのがコンセンサスの予想でした。となれば、まず住宅投資の減少による成長減速に留まらず、個人消費も落ち込むと予想されていました。なぜなら、この2年、住宅金利の低下と住宅価格の上昇が個人の可処分所得を増やし、個人消費を刺激するパターンが続いていたからです。

具体的には、住宅ローン金利の低下に伴い、借り換え(refinancing)が急速に進み、毎月の返済負担が軽減、それが可処分所得を増やすという好影響をもたらしたからです。また、住宅価格上昇は、住宅の資産価値を高め、人々は住宅を担保に借入を増やすことができました。これをエクイティー・ローン(equity loan)といいます。さらに、住宅価格の上昇は投機的な需要を刺激し、住宅投資を増やす効果も発揮しました。個人所得がそれほど伸びないにもかかわらず、個人消費が好調を維持した理由の背後に、こうした住宅に関連する動きがあったのです。では、現実に2006年の住宅市場はどうなったのでしょうか。詳細は次回に書きますが、新築住宅の建築件数は減り、在庫水準も大きく増えました。その結果、さきのGDP統計では「住宅投資」の寄与度は年間ベースでマイナス0.26ポイントになりました。第4四半期だけでみれば、マイナス1.16ポイントと大きく成長の足を引っ張っています。

個人消費は、住宅投資の落ち込みの影響をあまり受けていないようです。家具の寄与度は年間ベースで0.36ポイントのプラスでした。2005年が0.29ポイント、2004年が0.35ポイントですから、住宅投資の減少にも関わらず、家具などの売れ行きは減っていないのです。第4四半期の家具の寄与度は0.43ポイントです。自動車販売が2006年通期でマイナス0.04ポイント、第4四半期がマイナス0.08ポイントですから、自動車の販売不振のほうが住宅投資の減少よりも大きな影響を及ぼしたといえます。悲観的シナリオでは、住宅バブルの破裂が個人の可処分所得を減らし、成長は急速に鈍化するというものでしたが、現実はアメリカ経済はソフトランディングの経路を辿っているようです。

もう1つの期初の想定は、石油価格の上昇が続くということでした。石油価格の個人消費に及ぼす影響は甚大です。アメリカでは自動車用のガソリン需要に留まらず、暖房用の灯油などの需要が非常に大きく、原油価格上昇は直接的に可処分所得を減らしてしまいます。事実、ガソリンなどエネルギー関連の寄与度は2006年通期でマイナス0.02ポイントでした。しかし、後半から原油価格が低下し始めたことで、第3四半期、第4四半期のガソリンなどエネルギー関連の寄与度はそれぞれ0.14ポイントと0.09ポイントとプラスの寄与となっています。これも、当初予想と大きく変わった要因の1つです。

では、個人消費を支えている可処分所得の動向はどうだったのでしょうか。FOMC(連邦公開市場委員会)が注視している物価動向とFOMCの政策をどう解釈すればいいのでしょうか。ブログが長くなりすぎるので、それに関しても次回のブログで説明することにします。

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