中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/2/13 火曜日

円相場はいつまで続くのか:まだキャリートレードを中心とした金利差相場が続く

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為替相場の見通しは難しいものです。12月初旬に『日経マネー』の依頼で為替相場の見通しを書きました。その結論は、円高・ドル安が進むというものでした。しかし、完全に予想は外れました。その1つの理由は、アメリカの金融政策です。年末にかけアメリカ経済の減速が間違いないとの見通しが、市場のみならず、エコノミストの間でも共通な認識になっていました。もし成長が鈍化すれば、金融政策の焦点はインフレよりも景気にシフトするというのが、一般の受けとめかたでした。しかし、アメリカ経済の第4四半期の成長率は予想を大幅に上回るものでした。その内容は「2007年のアメリカ経済の見通し(3)」に詳細を書きました。その結果、12月のFOMC(連邦公開市場委員会も1月のFOMCでもフェデラルファンド金利の引き下げは見送られました。他方、日本では日銀が早ければ12月、おそくても1月の政策決定会合で利上げが決まるというのが市場のコンセンサスでした。しかし、これも市場の予想は完全に裏切られました。その結果、為替相場は円安とドル高が進んだのです。2月のG7ではドイツが強硬に円安問題を取り上げるように主張しましたが、結局、コミュニケでは触れられませんでした。ここに掲載するブログは1月25日に為替専門紙に書いたものです。その後の市場の変化はありますが、そのまま掲載します。

2007年上半期の円相場:内外金利差拡大、円キャリー・トレードで円安基調の展開続く

06年12月6日に1ドル=114円53銭の高値を付けていこう、07年年初にやや戻し場面があったものの、円相場の下落が続いている。昨年12月の段階では、2007年の相場の基調は円高・ドル安に向かうのではないかと見られていたが、コンセンサス的な相場見通しとは逆にさらに円安が進む展開となった。昨年末の時点では、相場の焦点は、アメリカ経済の減速からFRBは金融政策を緩和に向けて舵取りするのではないかということであった。しかし、アメリカ経済の状況は予想に反して堅調な推移を見せ、FRBの金融政策は現状維持あるいは利上げの可能性もあるのではないかという見方が強くなっていた。そうした相場のセンチメントの動きを反映して、年初から一貫して円安・ドル高の相場となり、本記事を執筆時点では1ドル=121円75銭と05年12月5日に記録された1ドル=121円40銭を超える円安水準となっている。

FRBの政策は成長とインフレの両睨みへ

モルガン・スタンレー証券はアメリカ経済の06年第四四半期の経済成長見通しを当初予想の1.6%から2.9%へ上方修正している(1月17日)。住宅バブルの崩壊が経済全体に大きなマイナスの影響を及ぼし、経済成長が急速に鈍化するのではないかという懸念は払拭されつつある。FRB理事の一連の講演を聞いていると、一様にアメリカ経済の“ソフトランディング”の可能性が強まったとの発言が目立っている。たとえば、1月8日、コーンFRB副議長は「経済見通し」と題する講演の中で、住宅セクターの急激な悪化を指摘しつつも、「全体として経済は好調(アップ・ビート)である」と指摘している。コアインフレに関して「1年前と比べると依然として高い」とインフレに対する警戒を緩めていない趣旨の発言を行なっている。こうしたFRB理事たちの発言を分析する限りでは、FRBはインフレと景気の両睨みの姿勢を崩していないことが分かる。当面は原油価格の下落などプラス要因があるが、このまま原油価格の下落が続くとはみていないようだ。また、「単位労働コストの上昇が物価安定に深刻な脅威となっている」(コーン副議長)との指摘もあり、FOMC(連邦公開市場委員会)が07年中に再び利上げを決める可能性も消えていない。

そうしたFRBの慎重な政策姿勢に加え、イギリスの突然の利上げ決定に見られるように世界的に利上げの動きが広がっている。欧州中央銀行は直近の会合では利上げを見送ったが、政策の方向は利上げにある。世界的に見れば、金融政策はまだ緩和基調にあり、利上げの余地は大きい。少なくとも景気中立的な水準にまで引上げられる可能性が強い。そうした世界の金融動向の中で、円金利の調整が大きく遅れているのが実情である。そうしたことから、円相場は依然として金利差をテーマとする展開が続きそうである。内外金利格差を利用した“円キャリー・トレード”が引き続き相場に大きな影響を与えると予想される。構造的な要因として、日本の個人投資家の通貨の分散投資も着実に進んでいる。外為証拠金取引も活況で、試算によれば東京外為市場の出来高の20%程度を占めるまでになっているといわれる。仮に日銀の金利調整のタイミングが遅れ、内外金利差がさらに拡大する状況になれば、相場は円安にさらに傾斜する可能性を否定できないだろう。こうした基調は少なくとも07年前半は続くと考えられる。

125円を見据えた展開も・・・

ただ、今回の円安相場で円のショート・ポジションが大きく積みあがっていることも要注意である。すなわち、このまま円相場が、たとえば125円に向かって一直線に進むと考えるのは危険である。最近の世界の相場の特徴はボラティリティが低下していることだが、それがいつまで続くものではないことも留意しておく必要がある。モルガン・スタンレー証券の為替ストレテジストは「円相場が125円に近づけば介入リスクが顕在化する」と指摘している。地政学的なリスクも拭いきれない。日銀の政策も不透明である。変動リスクも高まってくるだろう。ショート・ポジションの調整も予想される。相場の基調は円安で125円に向かった展開が予想されるが、これ以上の円安相場では一本調子の展開にはならないだろう。

追記:
最近の世界の経済、市場の特徴はリスクが低下していることです。経済のボラティリティが低下しているため、リスク・プレミアムが低下し、相場の大きな変動を心配しないで、投資することができるのが大きな特徴になっています。この基調は、今年も大きく変わらないでしょう。為替相場も同様で、大きな円安要因になっているキャリートレードも金利が安定しているから安心して行なえるのです。その結果、資金の流れが一方的になり、現在のような相場展開になっているのです。しかし、いつまでも同じ状況が続くかどうかは別です。もし金利差が急速に縮む状況になれば、一気に資金の流れが逆転する可能性も否定できません。ですから、原稿に書いたように、モルガン・スタンレーのアナリストはこれ以上、円のポジションを積みることに警鐘を鳴らしているのです。

もう1つ、最近、ある会合で話題になったことですが、まったく為替相場のことを知らない若者がコンビにから為替証拠金の取引をしているということでした。原稿に書いたように、為替証拠金取引の東京外為市場の出来高に占める比率は大きく上昇しています。これも中長期的には大きな不安定要因になる可能性があります。相場は一方通行に動くときはリスクが高まっている証拠です。

2月15日締め切りで、また為替相場の見通し記事を書きます。そのときは、G7などの政策の動きにもっと焦点を当てて書く予定です。月末に次の為替相場に関するブログを掲載する予定です。

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