中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/5/21 月曜日

急成長するコモディティ市場:企業年金や大学基金も運用先として注目

Filed under: - nakaoka @ 8:02

今回はちょっと異質もテーマを掲載します。最近、世界的に「コモディティ市場」への投資が急増しています。コモディティというのは石油や大豆といった一次産品のことです。最近、石油は大豆などの農産物の価格上昇が目立っています。こうしたコモディティ価格の上昇の背景には、中国やインドなど急激に経済成長を遂げ、生活水準の上昇に伴ってコモディティに対する需要が急激に増加しています。こうしたコモディティ価格の上昇を背景に投資する動きも活発化しています。企業の年金基金や大学の基金といったどちらかというと慎重な投資を行なっている投資家も、コモディティ市場に注目しています。今回の記事は専門誌に寄稿したものです。

コモディティ投資に意欲を見せ始めた大学基金と年金基金

アメリカの最大の機関投資家は大学基金と退職者年金基金である。彼らは、膨大な資金量を背景に日本では信じられないくらい高い運用利回りを上げている。特に大学基金の運用利回りの高さは、驚くほど高い。日本と違ってアメリカの大学は多額の寄付金を受け入れ、その資金を運用することで大きな利益をあげ、それを教育の質を上げるために使っているのである。アメリカの大学の優れた教育の背景に、こうした財政的な裏づけがある。おそらく総経費に占める授業料の比率は30%程度に過ぎないだろう。

2006年の大学基金の運用利回りの“中位値”は14・1%で、企業年金の13・4%、公的年金の13・2%を上回っている。中位値でこの水準であるから、実際にはこれよりもはるかに高い利回りを上げている基金もあるわけである。たとえば、マサチューセッツ工科大学基金の運用利回りは23%と、大学基金の中でも際立った実績をあげている。大学基金で2位の運用実績をあげているのはイエール大学で22・9%、3位はデューク大学で20・2%であった。ハーバード大学基金の運用利回りは8位だが、それでも16・7%の利回りを上げている。これに対してカリフォルニア州教職員退職年金の運用利回りは12・3%と、大学基金の運用利回りを大幅に下回っている(以上の運用利回りは06年6月末までの1年間の実績)。

ちなみに主要な基金の運用資産額を見てみると、カリフォルニア州教職員退職年金基金は2213億ドルである。大学基金では、1位がハーバード大学の258億ドル、2位がイエール大学の152億ドル、3位がスタンフォード大学の122億ドルである。

大学基金が高利回りを上げた理由は、優れた分散投資にある。ここ数年目立つ運用手法は、アメリカ国内の株式や債券に対する投資を減らし、国際投資とオルターナティブ投資と呼ばれるコモディティや不動産、プライベート・エクイティへの投資を増やしていることだ。

大学基金のポートフォリオ調査によると、05年から06年の運用期間中に国内株式投資の比率は総資産の28%から27%へ低下、米国債への投資も16%から13%に低下している。これに対してオルターナティブ商品に対する投資比率は35%から39%へと増えている。こうした傾向は、今後、さらに強まっていくと予想される。

スタンフォード大学基金のジョン・パワーズ理事長は「運用実績のなかで特に資源、不動産、非米国株式の3つのアセット・クラスが高成績をあげた」と説明している。同大学基金の場合、40%が株式、16%が不動産、15%が絶対リターン戦略、12%が債券、10%がプライベート・エクイティ、7%がコモディティで運用している。ノートルダム大学基金は、国内のバイアウトとベンチャー投資に12%、国際バイアウトに8%、不動産に7%、コモディティに3%、プライベート・エネルギーとエマージング市場にそれぞれ6%投資している。多くの大学基金は、高収益を求め積極的にリスクを取る運用を行なっているのである。

企業の年金基金にも、同様な動きが見られる。カリフォルニア州教職員年金基金では、昨年末に実験的コモディティ投資プログラムの導入を決定している。同基金は、当面は実験的に5億ドルの資金をコモディティで運用すると説明している。これは高利回りを達成するための分散投資の一環である。具体的には、同基金は2つのコモディティ・プログラムを検討している。一つは太陽電気発電プロジェクトに対する投資収益を確定するためのヘッジ投資で、もう一つはコモディティ・ベースの絶対リターン戦略である。同基金は今年の11月まで実験的な運用を行い、その結果に基づいて将来のポートフォリオ戦略を決めるとしている。

他の企業年金基金でも、同様な動きが見られる。企業年金には「確定給付年金」と「401(k)」と呼ばれる「確定拠出年金」がある。幾つかの企業年金基金では、「401(k)」の運用対象としてコモディティ指数ミューチャル・ファンドやユニット化したコモディティ投資を使ってコモディティへの投資を検討している。たとえば、インターナショナル・ペーパー社の年金基金は、運用額が44億ドルある「401(k)」の分散投資の一環としてコモディティ・ファンドを加えることを検討している。

コモディティはハイリスク投資と考えられており、安定運用を目指す大学基金や年金基金の投資としてふさわしくないという見方が強かったが、最近では状況が大きく変わりつつある。まずコモディティ市場の急速な拡大が、その背景にある。コモディティ市場の実際の規模がどの程度なのか正確な統計はない。上場されているものについてはデータがあるが、OTCでの取引に関する正確な情報はないのが実情である。

信頼できる統計として、BIS(国際決済銀行)の調査がある。BISが06年12月に発行した「四半期リビュー」では、コモディティ・デリバティブの残高の推移を掲載している。それによると、04年6月末で1兆2700億ドルであった残高が06年6月末に6兆3940億ドルにまで増えているのである。わずか2年でコモディティ・デリバテフィブの残高が5倍以上も増えているのである。大学基金や年金基金がコモディティに対するポートフォリオを増やす意欲を高めているのは、こうした急激なコモディティ市場の拡大がある。それは同時に、従来は特殊な投資家の市場であったコモディティ市場が次第に機関投資家の間で市民権を得つつあることを意味するのかもしれない。ただ、多くの年金基金はまだコモディティに対する投資に対して慎重な姿勢を崩していないが、今後の投資対象として検討している年金基金は増えている。

市場の拡大は、投資の流動性の高まりを意味する。同時に機関投資家の間で、伝統的な投資に対する“リスク・ヘッジ”としてコモディティ投資が注目されているのである。

最近の研究によると、コモディティ商品の価格変動は、株式や債券の価格と負の相関性が強いことが分かっている。通常、株式と債券は負の相関があると言われるが、経済危機や金融危機など異常な事態が起こると、株価と債券は同じ方向に変動する傾向が見られる。さらに株式は各国の経済情勢に影響されるのに対して、コモディティは国際商品であり、特定の国の経済情勢の影響を受けることは少ない。そうした価格変動の特性から、コモディティのリスク・ヘッジ機能が評価されるようになっている。

もちろん、コモディティそのものの“絶対リターン”の高さも魅力的である。06年の銅、ニッケル、鉛、亜鉛は市場最高値を記録している。“ソフト・コモディティ”と呼ばれるオレンジ・ジュースはトウモロコシ、大豆も大幅な上昇を示している。この数年、コモディティ市場は“スーパーサイクル”と呼ばれるほど好調を続けている。ただ、過去の例から言えば、コモディティ市場は価格変動が激しく、リスクが高いのが特徴であるが、最近の相場は従来になかった要因が見られる。

それは中国、ブラジルといった途上国の急激な経済成長に伴うコモディティの実需の増大である。先進工業国の経済変動に伴う需要減は途上国の需要増で吸収され、さらに長期トレンドも常に旺盛な需要で下支えされる構造ができつつある。さらに電力会社や航空会社など一般企業でもエネルギー価格の変動を先物のコモディティを使ってヘッジする動きが一般化している。こうした状況から判断すると、コモディティ市場は新成長段階に入ったといえるかもしれない。

1件のコメント »

  1. [...] 中岡望の目からウロコのアメリカ » 急成長するコモディティ市場:…u)、日本女子大学、武蔵大学の非常勤講師も務める。icuでは「アメリカ文化研究」「現代アメリカ経済論」など学 [...]

    ピンバック by 米国株 武蔵の抑えておきたいポイントとは? | 株式投資研究所まとめサイト — 2010年12月3日 @ 15:35

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