ブッシュ・ドクトリンとネオコン(1)
今、私の所に届いた『ニューヨーク・タイムズ』紙の「alert(緊急報道)」は、イラクでアメリカ軍がファルージャでの総攻撃を開始したというニュースを伝えています(午前2時45分)。これは、レーガン大統領の再選が決まった後の最初の重大な決定でしょう。大統領選挙は、今までの記事に触れたようにネオコン的な外交政策を承認したことになったのでしょう。多くのメディアは、第2期ブッシュ政権はより現実的になるだろうと報じています。そうかもしれません。しかし、そう簡単にブッシュ政権が、外交政策の方向転換を行なうとは思われません。リンドバーグは、再選後、ブッシュ大統領が最初にしなければならないことは、“ブッシュ・ドクトリン”の再確認であると書いています。まさに、アメリカ軍のイラクでの軍事行動は、それを裏付けている感じさえあります。次のテーマは、「ブッシュ・ドクトリンとネオコン」ということで、「2002年アメリカ国家安全保障戦略(The National Security Strategy of the United States)」を紹介しながら、ブッシュ政権の安全保障戦略と外交戦略を検討してみたいと思います。
以下は、同レポートに含まれる「序文」とブッシュ大統領が2002年6月1日に「陸軍士官学校卒業式で行なった演説」の抄訳です。このブッシュ演説は“ブッシュ・ドクトリン”の基本的な思想を表現したものといわれています。それを読むことで、ブッシュ政権の外交政策の基本が理解できると思います。それぞれ読者の立場で、評価の仕方は異なると思います。しかし、まず批判する前に相手の言い分を理解することも必要でしょう。時間の制約もあり、訳は抄訳かつ粗訳です。できるだけ誤訳を避けたつもりです。しかし、誤訳があるとすれば、時間の制約のせいということでご容赦ください。
以下は
The National Security Strategy of the United States
The White House Staff,
2002年9月17日
の翻訳です
(1)序文
20世紀に展開した自由と全体主義の激しい闘争は、自由勢力の決定的な勝利で終った。それは、国家の成功の唯一の持続可能なモデルを示している。すなわち、そのモデルとは、自由、民主主義、自由企業である。21世紀においては基本的な人権を守り、政治的、経済的な自由を保障するというコミットメントを共有している国家のみが、国民の持つ潜在力を発揮させ、国家の将来の繁栄を確実なものにすることができるのである。すべての国の人々は、自由に発言できること、国民を統治する人を選ぶことができること、自らが選択した宗教を崇拝できることを望んでいる。男の子であれ、女の子であれ、子供たちを教育できること、財産を所有することができること、労働の恩恵を享受できるようになることを望んでいる。こうした自由の価値はすべての人々にとって、またすべての社会において妥当するものである。敵から、こうした価値を守るという義務は、世界中の平和を愛する人々の共通な願いである。
今日、アメリカは比類なき軍事力と経済的、政治的な影響力によってもたらされた地位を享受している。私たちの伝統と原則を維持する際に、アメリカは一国の利益を押し付けるために、こうした力を行使するつもりはない。むしろ、私たちは、人間の自由を推進するような権力の均衡を作り出すことを追求しているのである。すべての国家とすべての社会が自分たちのために政治的、経済的な自由を選ぶことができる社会を作り出すことを求めているのである。安全な社会では、人々は自分の生活をより良きものにすることができるのである。私たちは、テロリストと圧制者と戦うことによって平和を守る決意である。私たちは、偉大なパワーの間に良き関係を構築することで平和を維持するものである。私たちは、すべての大陸において自由で開放的な社会を促進することで、平和を広げていくつもりである。
敵からアメリカを守ることは、連邦政府の最も基本的な公約である。今日、その責務は劇的な変化を遂げている。過去の敵は、アメリカに脅威を及ぼすのに十分は巨大な軍事力と産業力を必要としていた。現在、隠れた個人のネットワークが、戦車1台を購入するよりも安いコストで、アメリカの国土に大きな混乱と災いをもたらすことができるのである。テロリストは、開かれた社会に侵入し、現代の技術を私たちに向けるように組織化されているのである。
この脅威を排撃するために、私たちは利用できるあらゆる武器を利用しなければならない。すなわち、軍事力、優れた国土防衛、法的な強制、諜報、テロリストの資金源を断つための断固たる努力をしなければならない。世界に根を張ったテロリストとの戦いは、いつまで続くか分からない世界的な事業である。アメリカは、テロリストと戦うときにアメリカの支援が必要な国を支援するつもりである。アメリカは、テロリストに安住の場を与えている国を含む、恐怖によって妥協した国家に断固として制裁を加えるものである。なぜなら、恐怖との同盟者は、文明の敵であるからだ。アメリカと、アメリカと協力する国家は、テロリストが新しい拠点を作ることを許してはならない。私たちはテロリストが聖域を作ることを拒否するものである。
アメリカが直面している最大の危機は、過激主義とテクノロジーの十字路に存在している。私たちの敵は、公然と大量破壊兵器を探していると宣言している。彼らが断固たる決意を持って大量破壊兵器を探していることを示す証拠は存在している。アメリカは、こうした努力が成功するのを許すものではない。私たちは、大陸間弾道ミサイルとその他のミサイルを運搬する手段に対する防衛を構築する。私たちは、他国と協力して、危険な技術を習得しようとする敵の努力を否定し、封じ込め、押さえ込むものである。当然の事柄として、また自己防衛として、アメリカはそうした出現しつつある脅威が現実のものとなる前に、そうした脅威に対抗して行動を取るだろう。私たちは、最善の事柄を想定するだけでは、アメリカとアメリカの友邦を守ることはできないのである。したがって、私たちは、最善の諜報と手続きを慎重に利用することによって、敵の計画を打ち破る準備をしなければならない。歴史は、来るべき危機を傍観し、行動を起こさなかったものに対して過酷な判断を下すことになるだろう。私たちが足を踏み込んだ新しい世界では、平和と安全への唯一の道は、行動を取る道なのである。
私たちは、平和を守ると同時に、平和を維持するために歴史的なチャンスを利用するものである。今、国際社会は、17世紀の民族国家の誕生以降初めて、戦争に備えるのではなく平和を求めるために大国が平和裏に競争する世界を建設する最高のチャンスを手にしているのである。現在、世界の大国は同じ側に立っているのである。すなわち、テロリストの暴力と混乱という共通の敵によって統一されているのである。アメリカは、世界の安全保障を推進するために、こうした共通の利益に期待しているのである。また、私たちは、共通の価値によって次第に統一されつつある。ロシアは、希望が持てる移行期のさなかにあり、民主的な将来を獲得しつつあり、テロリストとの戦いのパートナーなのである。中国の指導者は、経済的な自由は、国家の富の唯一の源泉であることを発見しつつある。やがて、彼らは社会的自由と政治的自由が、国家の偉大さの唯一の源泉であることを発見するだろう。アメリカは、この両国において民主主義と経済的開放の推進を奨励するものである。なぜなら、これは国内の安定と国際的な秩序の最善の基礎であるからだ。私たちは、他の大国が繁栄と通商と文化的な進歩を追求することを歓迎するが、こうした国の攻撃には断固として抵抗するものである。
最後に、アメリカは自由の恩恵を世界に及ぼすためにこの機会を利用するつもりである。私たちは、民主主義の希望と発展、自由市場、自由貿易を世界の至るところに普及させるたに積極的に行動するものである。2001年9月11日の出来事は、アフガニスタンのような弱い国も大国と同様にアメリカの国家利益に重大な脅威を与えることができることを私たちに教えたのである。貧困が貧しい人々をテロリストや殺人者にするものではない。しかし、貧困と脆弱な制度、腐敗は弱い国家を、その国の中に存在するテロリストのネットワークやドラッグの闇組織の影響を受けやすいものにするのである(以下の翻訳は略します)。
さて、これからは私のコメントです。
この翻訳は、アメリカがテロリストと戦う決意を示したものです。そして、民主主義を世界に広げることが、テロリストの撲滅に繋がると訴えたものです。冷戦が終わり、ロシアも中国も同じ価値観の世界に立つようになっています。アメリカは、軍事的、経済的、政治的に圧倒的な力を誇示しながら、テロとの戦争を宣言しているのです。その言葉は美しい。しかし、額面通りに理解すべきでないし、美しい言葉も現実によって検証されなければなりません。今回は「序文」のみ紹介します。次回、ブッシュ演説で表現された“ブッシュ・ドクトリン”を紹介します。こうした事実確認を経ることで、今後のブッシュ政権の行動が見えてくるかもしれません。
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