中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/6/11 月曜日

ワシントンを襲った女性スキャンダルの真相:ウフォルフォウィッツ世銀総裁辞任の背景とDCマダム・スキャンダル

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権力者は、どうしていつも傲慢になるのでしょうか。これは古今東西を通していえることですが、特に安倍首相の様々な発言を聞いていて、この政治家には“謙虚”という言葉はないのではないかといつも感じています。それは小泉前首相にも通ずるところがあります。さらに言えば、言葉が“空虚”です。誠実さを感じません。不都合になると、とたんに威圧的な態度を取るのも、成熟した政治家の態度とはいえないでしょう。今回はワシントンを襲った女性スキャンダルに関する記事をアップします。本記事は、ウフォルオウィッツ世界銀行総裁とブッシュ政権の高官を巻き込んだセックス・スキャンダル「DCマダム」について書いたものです。これは『週刊東洋経済』(6月9日号)に掲載された記事「ブッシュ政権を襲う女性スキャンダル」のオリジナル原稿です。掲載記事は字数等の関係で編集されています。ウフォルフォウィッツに代表されるブッシュ政権のネオコンたちに共通しているのは、“傲慢さ”でした。彼は、その傲慢さゆえに世銀総裁の地位を失うことになりました。

政権末期となると、様々なスキャンダルが噴出してくるのが世の常である。残りの任期が2年を切ったブッシュ政権も、その例外ではない。というよりは、今のブッシュ政権はスキャンダルに塗れていると言っても過言ではない。アメリカで影響力の強いインターネット・マガジン『スレート』(5月11日号)はブッシュ政権の閣僚や共和党の政治家のスキャンダルを取り上げた記事を掲載している。そこで取り上げられているスキャンダルの数は24件にも達している。

『スレート』のリストには記載されていないが、さらに追い討ちをかけるようにブッシュ政権で国防副長官を務め、アメリカをイラク戦争に導いたポール・ウフォルフォウィッツ世界銀行総裁のスキャンダルも明らかになった。さらに売春に絡んだセックス・スキャンダルに絡んでブッシュ政権の現職高官も辞任に追い込まれている。

ワシントンは大きく揺れている。ワシントンは政治の街であり、野心と欲望と金とセックスが渦巻く待ちである。特に政治家とセックス、お金は切っても切れない関係にあるようだ。過去において政治家が関連したセックス・スキャンダルの一覧表をxxページに掲載した。それは氷山の一角でしかない。

セックス・スキャンダルはジェファーソン大統領にまで遡ることができる。ハミルトン大統領も不倫をしており、クリーブランド大統領は不倫で私生児を愛人に産ませている。ハーディング大統領はホワイトハウスのクロゼットで愛人とセックスをしている。近年においてもクリントン大統領のセックス・スキャンダルはまだ記憶に新しい。民主党の大統領候補最有力であったゲーリー・ハート元上院議員は愛人とのバカンス旅行がスクープされ、大統領になる野心を断念しなければならなかった。

ウフォルフォウィッツの傲慢さゆえの挫折

そうしたスキャンダルに一ページ加えたのが、ウフォルフォウィッツ世銀総裁である。彼は、おそらくブッシュ政権を支えた最大のインテリであった。シカゴ大学で政治学を学び、レオ・ストラウスの薫陶を受けた最高の政治学者と言われていた人物である。多くのストラシアンは学界に残ったが、彼はワシントンで野心の実現を図る。アメリカの民主主義を世界に普及させるという“理想主義”に燃えた学者であり、ネオコンを代表する人物であった。第一期ブッシュ政権で国防副長官を務め、イラク戦争の構図を描いた人物である。第二期ブッシュ政権になると、政権を離れ世銀総裁に転出する。

ウフォルフォウィッツ国防副長官の世銀総裁任命は唐突であった。元々世銀総裁はアメリカから選ばれ、IMF(国際通貨基金)専務理事はヨーロッパから選ばれるという不文律がある。ブッシュ大統領はブレア英首相に連絡を取り、彼の世銀総裁転出を一方的に決め、財務長官や世銀幹部はその選出に際して完全に疎外されていた。そうした選出過程が、今回のスキャンダルの遠因となったのは皮肉である。

傲慢ともいえるウフォルフォウィィッツ総裁のやり方は、次第に世銀スタッフの反感を買うようになっていく。ストラシアンの特徴は少数のエリート集団を作り上げ、一種のオカルト的傾向を持っていることである。彼も例外ではなく、かつての身内であったホワイトハウスのスタッフを世銀の要職に登用し、閉鎖的なグループを形成していく。その結果、世銀の意思決定プロセスは、総裁とその取り巻きグループによって独占され、副総裁などの幹部は政策決定過程から完全に疎外され始めた。世銀の開発問題の専門家の意見も、まったく聞き届けられなくなったのである。

そうした世銀内の鬱積した雰囲気が一気に噴出することになったのは、同総裁の恋人シャア・アリ・リザ女史に対するエコヒイキが暴露されたからである。リザはアラブ系の女性であるが国籍はイギリスで、オックスフォード大学で教育を受けたインテリ女性である。90年代からワシントンで中東の民主化運動に関わっており、ウフォルフォウィッツ総裁との恋に落ちたときは世銀で働いていた。二人は04年頃からデートを重ねるようになる。ただ彼は既に離婚しており、それは不倫ではなかった。

ウフォルフォウィッツが世銀総裁に就任すると、二人の関係が取り沙汰されるようになる。世銀の内規では、夫婦、恋人が上司と部下の関係になることを禁じている。そのためリザ女史は世銀から国務省に派遣されることになる。同女史はカレン・ヒューズ国務次官補の下で中東での広報活動を担当することになる。ヒューズ国務次官補はテキサス時代からブッシュ大統領の腹心中の腹心と言われる人物である。こうした人事にも、ウフォルフォウィッツ総裁とブッシュ政権の密接な結びつきが伺える。

問題が起こったのは、政府活動を監視する民間団体が、リザ女史の給料を暴露したときである。彼女の給料は19万3590ドルと高額であった。しかも、世銀から出向していることで、給料は世銀から支払われ、形式的に国際機関で働いているため所得税は課税されない立場であった。ちなみに彼女の上司であるライス国務長官の給料は18万6000ドルである。しかも、リザ女史が国務省に出向する際に、世銀は給料を6万ドル昇給させていた事実も明らかになった。

この事実が、ウフォルフォウィッツ総裁がリザ女史を特別に優遇したのではないかという疑惑を生んだのである。世銀内に鬱積していた反ウフォルフォウィッツ・ムードは一気に噴出し始めた。同総裁が世銀の倫理規定に違反しているのではないかという声が、津波のように勢いを得ていく。

ウフォルフォウィッツ総裁は、世銀の内規で意に反してリザ女史を出向させたのであり、昇給はその見返りであると反論した。また、出向条件の交渉には直接関わっていないと、繰り返し自らの正当性を主張した。ブッシュ大統領もポールソン財務長官もウフォルオウィッツ総裁を支持するとの立場を明らかにしたが、もはや燃え上がった世銀内での反ウフォルフォウィッツの動きを止めることはできなかった。世銀は調査委員会を設置し、総裁が倫理規定違反行為をしたという判断を下したのである。ブッシュ政権も彼を見放さざるを得なかった。屈辱に塗れた同総裁は、辞任する意向を明らかにせざるを得なかった。

同総裁のスキャンダルは、確かにリザ女史に対する“身びいき”が発端であったが、それは同時にブッシュ政権が持つ病根を明らかにするものでもあった。ウフォウフォウィッツ総裁に限らず、チェイニー副大統領に代表されるブッシュ政権の多くの閣僚の傲慢で独りよがりの性格や政策は周知のところである。今回のスキャンダルは、そうしたブッシュ政権の最悪の部分が露呈した結果、起こったといえる。また今回のスキャンダルを通して、世銀総裁やIMF専務理事の人事のあり方が問われるようになったのは、大きな成果であった。

ブッシュ政権の欺瞞性を明らかにしたスキャンダル

ブッシュ政権の海外援助を統括し、国務副長官と同程度の地位にあるロナルド・トビアスの辞任は、倫理を説く保守主義を旗印にするブッシュ政権の欺瞞性を明らかにすることになった。そうした欺瞞性は、チェイニー副大統領や司法省内の人事スキャンダルの渦中にあるアルバルト・ゴンザレス司法長官、カール・ローブ次席首席補佐官にも常に付きまとっている。

トビアス辞任は、ブッシュ政権の最大のスキャンダルと言っても過言ではないだろう。彼はワシントンを揺るがした“DCマダム”と呼ばれるデボラ・ポールフリーが経営するエスコート会社からマンションに派遣されてきた女性と売春行為を行なった疑惑を掛けられたのである。彼は、女性にマッサージをしてもらっただけで性行為はしていないと否定したが、誰も信じるものはいなかった。しかも彼は大手製薬会社イー・ライリーの元CEOであり、ブッシュ政府のエイズ問題の責任者でもあった。

警察は2年も前からポールフリーが経営する会社を売春容疑で内定していた。そして現在、逮捕され、裁判中であった。単純な事件である。しかし、彼女は客に“セクシャル・ファンタジー”を売ったが、売春はさせていないと無罪を主張した。だが、当然なことだが、彼女を弁護する客は名乗りでてくれなかった。そこで彼女は顧客リストを公表すると発表したのである。事件は単なる売春事件からワシントン全体を包むスキャンダルに発展した。

メディアは一斉に顧客リストに載っている政府高官、実業家などの詮索を始めた。ポールフリーは20キロもある電話帳の控えをABCニュースに持ち込んだのである。同テレビは彼女との独占インタビューを放送したが、具体的な顧客の名前を公表するのを控えた。ただ、連邦検事、軍関係のトップ、世銀幹部、航空宇宙局幹部、民主党と共和党のロビイストなどが名簿に記載されていたことを認めた。

またワシントンの最大手の弁護士事務所の秘書がスタッフとして働いていたことも明らかになった。さらに悲劇的だったのは、ぽーるふりーの会社でエスコートとして働いていたメリーランド大学教授の女性が売春で逮捕され、自殺を図ったことである。離婚して高校生と大学生を育てていた同教授は“少しばかりのお金”が必要だったのである。

燃え上がったセックス・スキャンダルも最近ではメディアで取り上げられることもなく、まるで何もなかったように静かになっている。しかし、ワシントンで渦巻く欲望と野心とお金とセックス問題は、決してなくならない。

過去における米議会の主なセックス・スキャンダル

1974年 下院歳出委員会委員長のウィルバー・ミルズ下院議員がポトマック川岸で女性と言い争っているところを警官が発見。女性は川に飛び込んで逃げたが、同議員と性的な関係にあったストリッパーであることが判明。
1976年 ウエイン・ハイズ下院議員がアシスタントの女性と結婚したとき、ハインズ議員の愛人が彼との関係を『ワシントン・ポスト』紙に暴露。
1976年 ロバート・レゲット下院議員が秘書との間に二人の子供がいることを認める。下院議長のスタッフの女性とも性的関係を持っていることが判明。
1976年 ジョン・ヤング下院議員が元秘書に性的関係を結ぶことを条件に昇給したことを暴露。同議員は次の選挙の前に自殺未遂
1976年 アラン・ホー議員が赤線地帯で売春婦と性交渉をしているとき、私服刑事に逮捕。
1978年 フレッド・リッチモンド下院議員が16歳のアフリカ系アメリカ人の少女を性交渉を持ったとして逮捕。
1980年 ジョン・ヒンソン下院議員がゲイ・バーで男性と性交渉を持ったと告白。しかし自らはゲイでないと主張
1983年 ダン・クレーン下院議員とゲリー・スダッツ下院議員が議会の研修中の少年と性的関係を持ったとして倫理委員が調査。両議員は疑惑を認める。
1988年 ジム・ベイツ下院議員がスタッフの女性二人に昇給との引き換えに性的関係を強要したと告発される。
1989年 ドナルド・ルーケンス下院議員が13歳の少女と性的関係を持ち、有罪判決を受ける。
1989年 バーニー・フランク下院議員が男娼と関係を持ち、スタッフに登用。自分のアパートを売春場所に提供したことと、自分が同性愛者であること認める。
1991年 チャールズ・ロブ上院議員が83年から元ミス・バージニアと不倫関係にあることが判明。女性が『プレーボーイ』誌に告白。
1992年 ロバート・パックウッド上院議員が女性スタッフやロビイストと性的関係にあったことが判明。上院倫理委員会が調査。同議員は辞任。
1993年 ケン・カルバート下院議員が車中で裸で娼婦と一緒にいるところを警察官に見つかり、逮捕される。相手が娼婦だと知らなかったと弁明。
1994年 メル・レイノルズ下院議員が16歳の選挙運動の女性スタッフとの性的関係が明らかになる。その他の女性との関係も判明し、有罪判決。
1998年 クリントン大統領のセックス・スキャンダルを追及していたダン・バートン下院議員が不倫関係と私生児を産んだことを告白。が、選挙では大勝。
1998年 94年の中間選挙で共和党を大勝に導いき、クリントン大統領のセックス・スキャンダルを追及していたニュート・ギングリッチ下院議長の不倫が明らかになり、同議員は辞任
2001年 ガーリー・コンディ下院議員が行方不明の女性など数人の女性との不倫が明らかになる。同議員は辞任
2006年 マーク・フォーリー下院議員が議会研修生の少年に性的な電子メールを送り続けたことが判明。中間選挙の途中に立候補を辞退。

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