中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/8/12 日曜日

エマージング市場で最も注目される南アフリカのランド相場を予想する

Filed under: - nakaoka @ 9:45

8月4日から9日までノルウエーに行ってきました。ノルウエー政府の「Government Pension Fund-Global」の取材をするためです。これは『週刊東洋経済』に報告をまとめることになっていますので、後日、紹介できると思います。先週、アメリカのサブプライム・ローンを巡る問題からヘッジァンドが巨額の損失を被ったとの推測から世界の株価が大きく値を崩しました。アメリカの連邦準備理事会や欧州中央銀行、日銀が金融市場に大量の流動性を供給し、株下落が信用不安に発展しないように迅速な対策を講じました。それにつけても思うことは、ファンド・マネジャーと呼ばれる人々は本当に運用能力を持っているのだろうかということです。以前、何十人というファンド・マネジャーを取材して感じたことは、彼らは株価理論を駆使して資金を運用している“専門家”ではないということでした。昔の“株屋”と何も変わっていないというのが正直な感想でした。何度失敗しても同じ過ちを繰り返すんですね。さて今回アップするのは「南アフリカ・ランド相場」の見通しです。記事は8月4日に執筆し、専門誌に寄稿したものです。その後の相場の変動もありますが、参考のためにアップします。なお8月10日のランド相場は1ドル=7.1725ランド、1ランド=16.4517円です。

アメリカのサブプライム・ローン問題がエマージング市場に大きな影響を与えている。モーゲージ・バックの証券に投資しているヘッジファンドなどが巨額の損失を被っていることが明らかになったことで信用不安の発生が懸念され、投資家がエマージング市場への投資を回収し始めている。南アフリカのランドも、その影響に直撃されている。ランド高を支えてきたのは低金利の円とスイス・フランを借り切れ、高イールドの南アの証券や株式への投資であった。しかし、世界的な株安、信用不安の高まりでキャリートレードの巻き戻しが起こっている。たとえば、南アフリカの場合、7月27日と28日の二日間に12億ランド(1億6900万ドル)の債券が売却されている。これはヘッジファンドなどの投資家が債券を売却し、円やスイス・フランの返却を進めたためである。その結果、ランドの対ドル、対円相場は下落し、逆に円の対ランド相場は上昇している。さらにランド相場特有の状況として、金相場とプラチナ相場の軟調もランド相場の下落に拍車を掛けた。
 
問題は、このキャリートレードの巻き戻しが続くかどうかである。2月に中国株の急落で世界的な株安となり、エマージング国の通貨は売られた。今回の市場混乱の発端は、アメリカのサブプライム問題に端を発する株安と信用不安の台頭であった。2月の大幅な相場の乱調は長くは続かなかった。ランド相場も3月14日に対ドル相場で7.4805ランドと安値を付けたあと、再びランド高の展開となり、7月23日に6.8075ランドと11ヶ月来の最高値を記録している。対円相場でも、3月5日に1ランド=15円54銭の安値を付けたあとランド高に転じ、7月23日に17円82銭まで上昇している。この時点まで、相場見通しは南アの中央銀行である準備銀行が8月16日に開催される政策決定会合で6月に続く今年二度目の利上げに踏み切るとの見通しから、ランド高を予想する向きが大半であった。しかし、サブプライム・ローン問題が発生したことで、ランド相場の見通しに変化が出てきている。

すなわちサブプライム・ローン問題が信用不安に発展し、アメリカ経済が軟調になるとの前提に立てば、当分はランド相場の軟調が続くという見通しになる。しかし、サブプライム・ローン問題は深刻だが、それが世界的な中期的な信用不安や株安を引き起こすことはないとの見通しに立てば、投資家のキャリートレードの巻き戻しは一時的な現象に留まると予想される。8月に入ってランド相場は対円、対ドルともに上昇に転じている。現在、ランド債の利回り(満期が2010年物国債)は9.37%(執筆時点)である。もし信用不安や株安のリスクが小さいと判断できるなら、この利回りは投資家にとって極めて魅力的である。投資家は当面、慎重に市場動向を瀬踏みする姿勢を取るだろう。もし今後のリスク・プレミアムが小さいと判断すれば、再びキャリートレードを利用してランドなどのエマージング市場の通貨に投資を始めるだろう。市場筋では、ランドの対ドル相場は7.13~7.23のレンジで展開されると見ている。ただ、8月16日に予定される中銀の政策決定会合が近づいてくれば、再びランドに対する投資意欲が高まってくると予想される。

中銀はインフレ目標の上限を6%と設定している。しかし、消費者物価は5月が6.4%、6月も6.4%と目標の上限を上回っている。生産者物価の上昇率も年率で10%を上回る状況が続いており、次の政策決定会合で政策金利を現行の9.5%から引上げるのは間違いないだろう。執筆時点の対ドル相場は7.095ランドであるが、再び6ランド台のランド高になるのは間違いないだろう。対円相場では、直近が16円82銭であるが、これも8月中旬には17円台のランド高の展開になると見て間違いない。ただサブプライム・ローン問題が新たな展開を見せるようだと、要注意である。

4件のコメント »

  1. >彼らは株価理論を駆使して資金を運用している“専門家”ではないということでした。

    そう思います。
    歴史は繰り返すんでしょうね、いろいろな意味で。
    責任がない人の意見って、あまり信用できないです。

    コメント by カジノマニア — 2007年9月2日 @ 10:56

  2. >以前、何十人というファンド・マネジャーを取材して感じたことは、彼らは株価理論を駆使して資金を運用している“専門家”ではないということでした。昔の“株屋”と何も変わっていないというのが正直な感想でした。何度失敗しても同じ過ちを繰り返すんですね。

    ファンド・マネジャーは、あまり信用はできないということなんだと思います。
    もちろん、実績をだしている方もいらっしゃるのだと思いますが、投資信託って、うまくいっていないイメージが強いです。
    私の父親も、あっちではうまくいったけれど、こっちでは、元本割れで、とんどんなんて状態になっていて、投資している意味が、あんまりないように感じました。
    やはり、自分で勉強するのが一番なのかもしれませんね。人任せにしないで。

    コメント by インド式計算好き — 2007年9月4日 @ 22:33

  3. やはり、自分で勉強して投資をする必要がありますよね。
    アナリストもアドバイザーも、しょせんサラリーマンですし。

    コメント by rai — 2007年9月14日 @ 11:19

  4. 歴史は繰り返しますよね。
    バブルの歴史を見てもそうだと思います。

    オランダの球根バブルから、日本のバブルまで。
    自分で考える力が大切なのですね。

    コメント by zaku — 2007年9月14日 @ 11:22

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=223

コメントはお気軽にどうぞ