中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/12/2 日曜日

為替相場を予測する:今の相場は「円高ドル安」か「ドル安円高」か

Filed under: - nakaoka @ 1:39

最近、ある人から「“円高ドル安”と“ドル安円高”というのは何が違うのですか」という質問を受けました。そのときは「本質的には何の違いもないのではないですか」と答えましたが、どうも落ち着かない気持が続いていました。相場を見る限り何の違いもないのですが、敢えて理屈をつければ「円高ドル安」は相場変動の要因が円にあり、相場が円高に推移している場合で、「ドル安円高」は円高の要因がドルにある場合かなと思うようになりました。これは別に理論的な話ではありません。しかし、その論理から言えば、今の円高相場は「ドル安円高」で表現すべきでしょう。円相場が強くなる要因があって円高になっているのではなく、ドル・サイド(サブプライム問題やアメリカ景気の先行き)に相場変動の要因があるということです。実は円はドル以外、すなわちユーロや韓国ウォンに代表されるアジア通貨に対しては弱くなっているのです。すなわち円の要因から円高になっているわけではないのです。なお今回の記事は11月23日に専門誌に書いたものです。ちなみに「ドルの基軸区通貨の役割は終わった」といった類の議論が行なわれていますが、あまり賛成できません。相場が混乱するときには、いつも出てくる議論です。

サブプライムローン問題でリスクヘッジを高める投資家のポジション調整がドル安の要因

 為替相場が神経質な展開となっている。円相場は11月21日に1ドル=108円台と2005年6月の109円02銭の高値を切って越す円高を記録した。ユーロ相場も1.5ドルの大台を超える1ユーロ=1.485ドルと、ユーロが導入されて以来、史上最高値を付けた。今年の2月の末にも世界の為替相場と株式相場が大きく崩れた。その時、多くの市場関係者はドルの急落が始まり、円相場も急激に円高に進むと予想した。そうした円高論の最大の根拠は、円の“キャリートレード”の巻き戻しが始まるということであった。しかし、市場のボラティリティ(変動)が落ち着き、リスクが低下すると、再び相場は円安の展開となり、専門家の予想は大きく外れた。
 では、今回の相場展開はどうであろうか。サブプライムローン問題に端を発した世界の各金融市場を襲ったクレジット・クランチが落ち着けば、再び相場は逆転する可能性があるのだろうか。ドル安論は、短期的にはサブプライムローン問題に伴いアメリカ経済がリセッションに陥ること、長期的には湾岸国がドル・ペッグ制を廃止するのではないかとか、政府ファンドが外貨準備運用の多様化を進め、世界的なドル離れが起こるというのが根拠になっている。

しこるサブプライムローン問題がドル安の要因

 当面の最大の課題は、サブプライムローン問題がどのような決着を見るかである。市場が一番神経質になっているのは、ヘッジファンドや金融機関がどの程度の損出を被っているのか、その実態が分からないからである。場合によっては大手米銀が債務超過に陥るかもしれないとの観測も流れている。そうした最悪の事態が起これば、サブプライムローン問題の影響は予想以上に大きく、長期にわたって続くことになるだろう。11月21日に発表されたOECD(経済協力開発機構)のレポートでは、2008年中に変動金利のサブプライムローン及びリスクの高いローン8900億ドルの金利調整が行なわれると指摘している。同報告は、焦げ付き率を14%と想定し、1250億ドル程度の損失が発生すると予想している。しかし、損失額がさらに膨れる可能性は否定できない。

 サブプライムローン問題の全容が見えてこない限り、ドルを買いにくい状況は続くだろう。従来、市場が混乱したとき、ドルは“セーフ・ヘブン”通貨としてリスクを回避する投資家はドル資産にシフトしたが、今回は混乱の原因がアメリカにあるだけに従来とは違ったパターンになっている。投資家は市場のボラティリティの上昇でリスク回避を進めており、当面はショートポジションの円やスイス・フランの買い戻しを行なっている。シカゴのIMMの投機ポジションは円ロングになっているといわれる。豪州ドルやニュージーランド・ドルは円に対して米ドル以上に下落しているのは、その影響である。
 では、このままドルは底なしに下落していくのだろうか。ドルが売られているのはリスクを回避する投資家のポジション調整と、12月に予定されるFOMC(連邦公開市場委員会)で再度の利下げが行なわれるとの推測があるからだ。またアメリカ経済の先行き懸念もドル売り材料になっている。特にサブプライムローン問題で住宅投資の落ち込みは顕著である。ただ、現時点ではそれが個人消費にどの程度影響を及ぼすか不透明である。感謝祭が終われば、アメリカでは本格的な年末商戦が始まる。その状況次第で相場見通しが影響を受けるかもしれない。景気鈍化は避けられないものの、バーナンキFRB議長はリセッションに陥ることはないと見ている。

円高相場の主因はポジション調整

 ドル・ペッグの廃止や外貨準備の多様化は長期的な流れとして否定できないが、それが直近の相場に大きな影響を与えるとは思われない。依然として最大の焦点はサブプライムローン問題の全容が不透明なところにある。それはドル売り圧力になるだろう。しかし、それがポジション調整を超える円買いにつながるとは思えない。日本株も相対的には魅力に乏しい。日本株のPERは15倍程度でアメリカ株と変わらない。円を積極的に買う状況にはない。108円の水準を大きく越える円高相場はないだろう。目先的にはドルの買い戻し局面も予想されないわけではない。再び110円台に相場が戻る可能性も十分にある。

3件のコメント »

  1. いつも読ませていただいております。

    瑣末な話なのですが、エントリー1行目の
    >“円高ドル安”と“ドル高円安”
    これはミスタイプではないでしょうか。(後半が“ドル安円高”ではないかと)

    ふと思ったのでコメントしてみました。なおもし指摘が正しくて修正されたならば、このコメントは削除していただければと思います。では。

    コメント by nni — 2007年12月2日 @ 03:13

  2. ご無沙汰しています 小生も極端な円高はないと見ていましたが、ドル円は111円台半ば今日の米雇用統計次第では112円台トライです 米国経済とのDecouplingもいわれますがまだまだ米国の影響は大きくエマージング市場動向も注視しています。米国がリセッションに入る可能性は小さくないと思いますが当面米国のサブプライム救済策を株式市場が好感していますね

    コメント by 星の王子様 — 2007年12月7日 @ 20:41

  3. 借金消費サイクルの限界!? 米タイム誌が特集した「景気悪化に備えて今からやるべきこと」…

    冬の寒さも極まるなか、米国市場では何やら不安な噂が囁かれている。大量消費と経済……

    トラックバック by 専門家や海外ジャーナリストのブログネットワーク【MediaSabor メディアサボール 】 — 2007年12月19日 @ 14:28

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