中岡望の目からウロコのアメリカ

2008/3/5 水曜日

大統領予備選挙分析:まだクリントン候補に勝機はある!

Filed under: - nakaoka @ 18:40

3月4日に行なわれた大統領予備選挙で、劣勢を伝えられていたクリントン候補がバーモント州で敗北したものの、オハイオ州、テキサス州、ロードアイランド州で勝利しました。これで民主党の予備選挙の見通しはさらに難しくなった感じがします。昨年秋から見られた激しいマスコミのクリントン批判とオバマ候補を持ち上げる論調が目立つ中でオバマ支持が急激に伸びていました。第3の候補者エドワーズの脱落もオバマ候補に有利に作用し、2月のスーパー・チューズデー以降、オバマ候補の連勝が続いていました。しかし、今回の選挙で状況が大きく変るかもしれません。今回掲載する記事は2月中旬にある雑誌に書いたものです。そのときのタイトルは「まだクリントン議員に勝利の可能性はある!」でした。今回の選挙分析は改めて書きますが、半月前に書いた原稿はまだ有効だと思います。

米国の大統領予備選挙は最終段階に入った。共和党はマケイン上院議員の指名はほぼ確定したといっていい。対抗馬のジュリアーニ元ニューヨーク市長とロムニー前マサチューセッツ州知事は撤退を表明、両者ともマケイン支持を表明している。残った対抗馬はハッカビー前アーカンソー州知事である。彼はエバンジェリカルを主体とした保守派の支持を集めているが、もはや計算上、マケイン議員の追いつくことは不可能である。

現在、マケイン議員が獲得している代議員の数は825人、ロムニー氏が291、ハッカビー氏が240である。2月15日にマケイン議員の支持を表明したロムニー氏は獲得した代議員にマケイン議員に投票するように訴えた。両者の代議員を合計すると、1116になる。指名に必要は代議員の数は1191であるから、残りの州の予備選挙の結果がどうでようとも、マケイン議員の勝利はほぼ確定したといえる。

他方、民主党の予備選挙はオバマ上院議員とクリントン上院議員の接戦が続いている。だがマスコミ報道では、オバマ議員がほぼ勝利を固めたという見方が強くなっている。昨年、圧倒的に世論調査でリードしていたクリントン議員は予備選挙でオバマ議員に相次いで敗退している。

確かに数字を見る限り、オバマ議員の優位は動かないようにみえる。まず獲得代議員の数は39州が終わった段階でオバマ議員が1133、クリントン議員が995である。ただ、この中にはクリントン議員が勝利したフロリダ州とミシガン州の結果が含まれていない。両州はルール違反を犯したとして、民主党全国委員会がペナルティを課し、代議員を全国大会に送り込むことができないので、両議員の獲得数に含まれていない。

ただ、党候補指名選挙で自由に投票できるスーパーデレゲート(特別代議員)が796名おり、そのうち242名がクリントン議員、156名がオバマ議員支持となっている(ただこの数は調査機関によって異なる)。代議員と特別代議員を合計すると、オバマ議員が1289、クリントン議員が1237で、その差はわずか52にすぎない。残された州の予備選挙の結果と特別代議員の動向如何では、どちらにでも動き得る状況である。

また、今までの総得票数で比べてみると(フロリダを含む)、オバマ議員は992万票、クリントン議員は952万票である。また既に予備選挙と党員集会が行なわれた37州(フロリダ州とミシガン州を除く)のうち、オバマ議員は25州で勝利している。さらに2月5日のスーパーチーズデイ以降行なわれた7州全部でオバマ議員が勝利している。

こうした数字を比較すると、オバマ議員の優位は動かないと思われる。しかし、投票の内容と残されている州の予備選挙のみると、まだ「オバマ勝利」を宣言するのは早すぎる。

スーパーチューズデイ後に行なわれた7州はいずれもオバマ議員が有利な州である。例えばワシントンDCでオバマ議員は圧勝しているが、同地域の黒人の人口比率は59%と極めて高い。ルイジアナ州(32%)、メリーランド州(28%)、ヴァージニア州(19%)といずれも黒人人口比率の高い州である。黒人比率の低いメイン州、ワシントン州、ネブラスカ州では予備選挙ではなく、党員集会で投票が行なわれている。この3州にかかわらずオバマ議員は党員集会でいずれもクリントン議員をリードしている。

要するにこの7州は最初からオバマ議員が有利な州であり、クリントン陣営は最初から積極的な運動を展開してこなかった。したがって、この7州で完敗したことは、クリントン陣営にとってそれほどの驚きではなかった。ただ、予想外の大差で敗北したことは、オバマ陣営を勢い付ける結果となったことは、クリントン陣営によって予想外の展開だったとはいえる。

今までの両陣営の選挙運動戦略を見てみると、クリントン議員はニューヨーク州やカリフォルニア州など代議員数の多い州で積極的な運動を展開してきたのに対して、オバマ議員は各州でまんべんなく運動を展開し、勝利を積み重ねることで勢いを得てきた。いわば、クリントン議員はジュリアーニ氏と同じ戦略を取ってきたわけである。ジュリアーニ氏は初期のアイオワ、ニューハンプシャー州を捨て、運動をフロリダ州に絞込み、同州での勝利を背景に一気に地元であるニューヨーク州などの大州を獲得する戦略を取ってきた。しかし、泥臭く草の根の支持を、ニューハンプシャー州の勝利で復活を遂げたマケイン議員の戦略の前に屈した。ある意味では、クリントン議員もジュリアーニ氏の戦略の失敗を繰り返してきたといえる。

それは今後の選挙運動の展開に関してもいえる。残された州は16州ある。2月19日にウフィスコンシン州(代議員数74)、ハワイ州(同20)が行なわれる。ウィスコンシン州はオバマ議員がリードし、ハワイ州は同議員が育った場所であり、有利が伝えられている。そうした状況の中でクリントン陣営は、3月4日に行なわれる大州であるテキサス州(代議員数は193)とオハイオ州(同141)で勝利することで逆転を期している。なお3月4日にはロードアイランド州、バーモント州でも予備選挙が行なわれる。もしクリントン議員が両州で大差で勝利を収めれば、獲得代議員の数でオバマ議員を上回る可能性も残されている。世論調査では、クリントン議員は両州でリードしており、勝利する可能性が強い。

ただ僅差での勝利なら、得票率に応じた比例で代議員が両議員に按分されるため、クリントン議員の逆転の可能性は厳しくなる。予備選挙で勝利を収めないと、まだ態度を表明していない特別代議員の動向にも大きな影響を与えかねない。特別代理人は議員や知事、党幹部などで、クリントン議員との関係が強い人物が多く、クリントン議員が有利だといわれている。しかし、オバマ議員が代理人の獲得で勝利を収めれば、特別代理人も“勝ち馬”に乗る動きにでてくる可能性がある。

厳しい状況に直面しているクリントン議員は選挙運動の責任者を更迭し、陣営の建て直しをしている。残された1ヶ月でオハイオ州とテキサス州での“大勝利”を期している。両州には黒人の人口比率は引く。ちなみにオバマ議員は黒人票の90%を獲得するなど、黒人層の強い支持を得ている。クリントン議員はヒスパニック系住民や労働組合の支持を得ている。テキサス州では、ヒスパニック系住民の比率が32%と高い。ちなみに黒人住民の比率は11%である。また、残された16州のうち10州の労働組合員比率は10%を越えている。これもクリントン議員にとってプラス要因である。

こうした状況を重ね合わせてみると、「オバマ議員リード」とはいえても、「オバマ議員勝利」と断定できる状況ではない。オバマ議員が現在の勢いを3月4日の選挙まで持続できるのか、クリントン議員の巻き返しが可能なのか、いずれも大きな不確定要素が残されているのである。

敗北が濃いといわれたニューハンプシャー州でクリントン議員が勝利を収めたように、選挙ではハプニングが付き物である。クリントン議員が頼りとする女性票の動向も注目される。黒人票がオバマ議員に集中しているように、もし女性票がクリントン議員に結集する状況になれば、情勢は一気に変る可能性もある。3月4日の予備選挙でも決着が付かず、4月22日のペンシルベニア州(代議員数158)、5月6日のノースカロライナ州(同115)まで決まらない事態も予想される。いずれにせよ、クリントン議員にはまだ勝利の可能性は残されている。

この投稿には、まだコメントが付いていません »

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=238

コメントはお気軽にどうぞ