中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/11 木曜日

ブッシュ・ドクトリンとネオコン(2)

Filed under: - nakaoka @ 10:36

イラクのファルージャでの戦闘は続いています。この戦闘に関して、ブッシュ大統領は「民主主義のために戦う」と語っています。アメリカは引くに引けないから戦闘を続けているのか、あるいはもっと確信を持って戦闘を遂行しているのか、どちらなのでしょうか。そうしたアメリカの政策、行動を理解するには、やや遠回りかもしれませんが、その政策の背後にある思想を見てみる必要があると思います。本稿は「The National Security Strategy of the United States」の2回目の掲示です。前回、「序文」を紹介しました。同レポートには「序文」のほかに8本のブッシュ大統領の演説が収録してあります。アメリカでは大統領の演説はホワイトハウスのスピーチ・ライターが書きます。その後、関連する部門、たとえば安全保障問題なら、国防総省、国務省、ホワイトハウスのスタッフなどに回され、検討を経て、最終稿が作成されます。したがって、大統領演説は政府の政策を発表する重要な役割を果たしているのです。前回の「序文」は、ブッシュ政権が連続テロ事件以降、どのような世界観を抱くようになり、どんな世界戦略をイメージしているかを示したものです。今回紹介するブッシュ演説は、それをさらに明確に説明し、後に“ブッシュ・ドクトリン”と呼ばれるようになった内容を持っています。ちなみに、“ブッシュ・ドクトリン”をいう言葉を使い始めたのは、ネオコンの一人であるチャールズ・クラウサマー(Charles Krauthammer)であると言われています。同演説は、ブッシュ政権の外交政策の基本を理解するうえで欠くことのできないものです。今回も抄訳、粗訳になりますが、メッセージは明確に皆さんに伝わるものと思っています。

この演説は「Preventing Our Enemies from Threatening Us, Our Allies, and Our Friends with Weapon of Mass Destruction」と題されています。日本語に訳すと「私たちの敵が大量殺戮兵器を用いて私たち、私たちの同盟国、私たちの友人に脅威をもたらすのを阻止すること」となります。演説が行なわれたのは、2002年6月。アフガニスタンに侵攻し、アルカイダとの戦いは始まっていました。しかし、まだイラクへの侵攻は議論されても、本当にブッシュ政権が侵攻を始めるのかどうか分からない時点でした。演説はウエスト・ポイント(陸軍士官学校)の卒業式で行なわれました。これも、ある意味では象徴的な場所といえるかもしれません。とても興味深い演説です。

ブッシュ大統領の演説の訳
「冷戦の脅威のもつ特質から、アメリカは敵の軍事力の使用を阻止し、相互破壊的な(報復)戦略を策定した。ソビエトの崩壊、連戦の終焉で、アメリカの安全保障に対する考え方は大きく転換したのである」

「対立から協調への移行はアメリカとロシアの関係の変化を示すものであり、それがもたらして利点は明白であった。すなわち、私たちを分裂させていた恐怖の均衡は終わり、両国で核兵器の歴史的な削減が行なわれ、反テロリズムはミサイル防衛といった分野で協力が行なわれるようになった。こうしたことは、最近まで考えることさえできなかった事柄である」

「しかし、無法者国家(rogue states)とテロリストから新しい致命的ともいえる挑戦を挑んできたのである。こうした現代の脅威はソビエトによってアメリカに向けていた巨大な破壊的な軍事力と比べるべくもないが、そうした新しい敵の本質と動機、世界最強の国家だけが手に入れることができるような破壊的な兵器を入手しようとする彼らの決意、彼らが大量破壊兵器をアメリカに対して使う可能性が高いことから、現在の安全保障の環境は今まで以上に複雑で、危険なものになっているのである」

「1990年代に、少数の無法者国家が現れた。彼らは重要な点でそれぞれ違いはあるが、多くの特徴を共有している。すなわち
・ 支配者の個人的な利益のために自国民を虐待し、国家資源を浪費していること
・ 国際法に対してまったく敬意を示さず、隣国に脅威を与え、国際条約に違反すること
・ 大量破壊兵器だけでなく他の高度な軍事技術を入手し、それを自分の体制の攻撃的な目的を達成するために使うこと
・ 世界中のテロリストを支援していること
・ 基本的な人権を拒否し、アメリカと基本的人権が代表するものすべてを憎んでいること」

「湾岸戦争のとき、アメリカは、イラクがイランや自国民に対して使った化学兵器に留まらず、核兵器と生物兵器を入手することを計画しているという否定しがたい証拠を手に入れた。過去10年、北朝鮮は、弾道ミサイルの運搬手段の最大の提供者であり、ミサイル発射の実験をする一方で、大量破壊兵器の開発を行なってきた。他の無法者国家も、核兵器、生物兵器、化学兵器を手に入れようとしている。これらの無法者国家がそうした兵器を求める、世界で取引することが、すべての国家にとって差し迫った脅威になっているのである」

「私たちは、無法者国家と彼らのテロリストの顧客がアメリカとアメリカの同盟国、友邦を脅迫するか、あるいは大量破壊兵器を使用する前に、彼らを阻止しなければならない。私たちの対応は、強固な同盟と、かつての敵対国との新しい関係の樹立、軍事力の使用の革新、効果的なミサイル防衛システムの開発を含む近代技術、それと情報収集と情報分析を十分に活用することである」

「大量破壊兵器と戦うためのアメリカの包括的な戦略は、次のような内容である。
 積極的に大量破壊兵器の拡散を阻止する努力を行なうこと。アメリカは、脅威が現実のものとなる前に脅威を阻止し、脅威から守らなければならない。アメリカは、重要な能力―察知、積極的な防衛と消極的な防衛、対抗能力―をアメリカの防衛の転換と本土防衛システムに確実に組み込まなければならない。アメリカは、大量破壊兵器を装備した敵といかなる戦いを確実に行なえるように、大量破壊兵器の拡散阻止を政策の柱、軍隊の訓練と装備の中に組み込まなければならない。
 無法者国家が大量破壊兵器に必要な資材、技術、専門知識を取得するのを阻止するための非拡散努力を強化すること。アメリカは、大量破壊兵器を求めている国家やテロリストを妨げるために外交、武器管理、国際貿易の管理、脅威削減の支援を強化する。そして、必要であれば、技術を資材の密輸を武力で阻止する。アメリカは、こうした努力を支援するための国際的な協力を引き続き強化し、大量破壊兵器の拡散と脅威の削減のプログラムを支援する政治的、金融的支援を促進する。大量破壊兵器の拡散を阻止するための国際的な協力のために200億ドルの資金を提供するという最近のG8の合意は、こうした方向への大きな前進を示すものである。
 テロリストであろうが、敵対国家であろうが、大量破壊兵器の使用の影響に対応するための効果的な事後対応管理を策定する。アメリカの国民をターゲットとする大量破壊兵器の影響を最小限にすることは、そうした大量破壊兵器を保有している国家にその使用を断念させ、彼らが望んでいる目的を達成することができないと説得することによって、大量破壊兵器を手に入れようと思っている国を断念させるのに役に立つだろう。また、アメリカは、海外に駐在するアメリカ軍に対して使用された大量破壊兵器の影響に対応し、アメリカの友邦や同盟国が攻撃された場合にも、そうした国家を支援できるようにしておかなければならない」

「アメリカが、この新しい脅威の本質を理解するのにほぼ10年かかった。無法者国家とテロリストの目的に対して、アメリカは過去に取っていたように、単に受身の姿勢(reactive posture)に依存することはもはやできないのである。潜在的な攻撃者を阻止することができないこと、現在の脅威が差し迫ったものであること、アメリカの敵対国の兵器によって引き起こされる潜在的な被害の規模から判断すれば、そうした受身の姿勢を取ることは許されないのである。アメリカは、アメリカの敵に最初に攻撃させるわけには行かないのである。
 冷戦の時代、特にキューバ・ミサイル危機以降、アメリカは一般的に現状維持的でリスク回避的な敵と向かいあっていた。抑止政策は、効果的な防衛政策であった。しかし、報復の脅威のみに依存する抑止政策は、リスクを進んで取り、自国民の生命と自国の富を進んで危機にさらすような無法者国家の指導者に対して今までのように効果的ではない。
 冷戦時代、大量破壊兵器は最後の手段としての武器で、大量破壊兵器の使用は、その兵器を使った国民を破滅の危機にさらすものであると考えられていた。現在、アメリカの敵は、大量破壊兵器は武器の選択の1つに過ぎないと考えている。無法者国家にとって、大量破壊兵器は脅迫の手段であり、隣国に対する軍事的に攻撃する手段なのである。また、無法者国家は、自分たちの攻撃的な行動を阻止したり、食い止めさせないように大量破壊兵器を使ってアメリカとアメリカの同盟国を恐喝するかもしれないのである。そうした無法者国家は、大量破壊兵器をアメリカの優位性を覆す手段とみているのである。
 阻止という伝統的な概念は、理不尽な破壊と無垢な人々をターゲットにする戦略を取っているテロリストにとって効果がないのである。テロリストの兵士たちは殉死を求めているのである。テロを支援する国家と大量破壊兵器を手に入れようとしている国家は重なっていることから、アメリカは行動を取らざるを得ないのである」

「何世紀にもわたって、国際法は、国家は差し迫った攻撃の危機となっている勢力に対して自らを守るために合法的に行動を取るために攻撃を受けるのを待つ必要はないことを認めている。法学者と国際法の専門家は、“予防的な攻撃(preemption)”を行う正当性を認める条件は差し迫った脅威が存在することが必要であると主張している。最も明確な差し迫った脅威とは、陸軍、海軍、空軍が攻撃の準備をするために動員されたときである」

「アメリカは、差し迫った脅威という概念を現代の敵対国の能力と目的に対応するように調整しなければならない。無法者国家とテロリストは、通常兵器を使ってアメリカを攻撃しようとはしていない。彼らは、そうした攻撃は失敗することを知っているのである。むしろ、彼らは、テロ行為と大量破壊兵器を使用する可能性を利用しているのである。大量破壊兵器は簡単に隠すことができ、秘密裏に運搬でき、警告なしで使うことができるのである」

「こうした攻撃の対象となるのが、アメリカ軍とアメリカ市民である。2001年9月11日の被害に示されているように、市民に大量の犠牲を引き起こすことはテロリストの具体的な目的であり、テロリストが大量破壊兵器を入手し、使用すれば、市民の犠牲はもっと深刻なものになる可能性がある」

「アメリカは長年、アメリカの国家の安全に対する脅威に対抗するために防御的行動を取る選択のオプションを持っていると主張してきた。脅威が大きければ大きいほど、行動を取らないリスクもそれだけ大きくなる。かりに敵の攻撃の時間と場所が曖昧であったとしても、自らを守るために予想に基づく行動を取る十分な根拠はあるのである。アメリカの敵対国による敵対的な行為を未然に防いだり、あるいは阻止するために、アメリカは、必要とあれば、先制的に行動するであろう」

「アメリカは、脅威を事前に阻止するために、いかなる場合でも軍事力を使うものではない。ましてや、国家は攻撃の口実として予防的行動を利用すべきではない。しかし、文明の敵が公然と世界で最も破壊的な技術を積極的に入手しようとしている時代では、アメリカは危機が現実のものになる間、座して待っていることはできないのである」

「アメリカは、アメリカの行動のもたらす結果を評価しながら、常に熟慮しながら進んでいくつもりである。先制的な行動の選択を支持するために、アメリカは次のことをする。
 脅威に対するタイムリーで、正確な情報を提供できるような優れた総合的な諜報能力を構築する
 最も危険な脅威に対する共通な評価を行なうために同盟国と密接な調整を行なう
 決定的な結果を達成するために、迅速かつ精密な作戦を行なえるようにアメリカの軍事力を引き続き変えていく」

「アメリカの行動の目的は、常にアメリカとアメリカの同盟国、友邦に対する具体的な脅威を取り除くものである。アメリカの行動の根拠は明確であり、その大義は正しいのである」

翻訳が随分長くなりました。その評価については、次回に回すことにします。

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