中岡望の目からウロコのアメリカ

2008/8/21 木曜日

オバマ議員とマケイン議員の経済政策を比較する

Filed under: - nakaoka @ 0:34

大統領選挙の焦点は副大統領に誰が指名されるかに移っています。オバマ議員は今週の金曜日に副大統領候補を発表すると伝えられいます。他方、マケイン議員は72歳の誕生日を迎える8月29日に共和党の副大統領候補を発表すると思われます。マケイン陣営は民主党の全国大会の直後に副大統領候補を発表することで、メディアの注目を得ようとしているようです。メディアは様々な候補の名前を挙げていますが、まだ誰が指名されるかわかりません。メディアではヒラリー・クリントン議員の可能性はなくなったと報じていますが、土壇場でどうなるかまだわかりません。単純にいえば、クリントン支持派の支援がなければオバマ議員は苦戦が避けられないからです。共和党は元民主党の大物議員で、現在は無党派のリーバーマン議員が浮上する可能性もあります。これから一週間の情勢は目が離せません。今回は両大統領候補の経済政策を分析します。文中で「沖合の石油開発」問題に触れ、オバマ議員が反対であると書きましたが、執筆後、同議員は条件付きで賛成に回りました。そうした状況は、次に取り上げます。なお、本記事は『週刊東洋経済』(8月9日号)に寄稿したものです。

崩れ始めた米国経済の基盤

米国経済の根底が徐々に崩れ始めているように見える。サブプライムローン問題が顕在化して1年経つが、まだ根本的な解決策は打ち出されていない。それに追い討ちをかけるように政府支援企業である住宅金融会社ファニーメイ(連邦住宅ローン協会)とフレディマック(連邦住宅貸付担保ローン公社)の経営危機が表面化し、住宅市場の回復がさらに遠のいた感がある。戻し税の実施、金融緩和の効果も薄く、リセッション入りは避けられない状況にある。雇用統計では1月から6月の間に就業者数は約44万人が減少している。石油問題にも有効な政策が打ち出せず、国民は高ガソリン価格に悲鳴の声を上げている。

国民の経済の先行きに対する不安感は強まる一方である。そうした状況を背景に6月17日に行われたABC放送と『ワシントン・ポスト』紙の共同世論調査では、大統領選挙で最も重要な課題は何かという問いに、33%が「経済と雇用」と答えている。「イラン問題」は2位で、わずか19%に過ぎない。

こうした状況を反映してバラク・オバマ上院議員とジョン・マケイン上院議員はいずれも経済問題を最優先課題として取り上げ始めている。両議員とも経済問題に対しては疎いというのが、米国内の一般的な評価である。果たして両議員は米国経済を立て直す有効な政策を打ち出すことができるのであろうか。有効な政策を講じることができず米国経済の混迷が深まれば、その影響は世界経済にも及ぶことになるだろう。

ファニーメイ問題への対応

そんな折り、オバマ議員とマケイン議員は大きな課題に直面した。7月初旬にハンク・ポールソン財務長官がファニーメイとフレディマックの救済策を発表したのである。救済策の柱は、両社に対して財務省が緊急融資をするか、あるいは同社の株式を買い取るというものである。そうした措置がとれるように、財務省は議会に法案を提出した。
救済策に対する両議員の対応に微妙な差がみられた。民主党は元々住宅ローン問題を解決するために政府が積極的に介入することを主張しており、財務省案の賛成に回った。オバマ議員も民主党の動きに同調して賛意を明らかにし、存在感を強めた。

だがマケイン議員は微妙な立場に立たされた。従来から同議員は政府支援企業(GSE)に対して批判的であり、もろ手を挙げて支持するのが憚れた。また共和党内で強い影響力を持つ保守主義者も市場主義から政府の介入に懐疑的で、住宅金融支援法の採決で反対に回った。マケイン議員は大統領選挙を控え党内の保守派支持を取り付けるためには保守勢力を無視できない立場にあった。議会で同法の採決が行われる前に同議員はフロリダ州の有力紙『セント・ピータースバーグ・タイムズ』に寄稿し「国民はワシントンで行われた甘すぎる取引に憤慨すべきである。最終的に国民の税金でファニーメイを救済するものである」と書いている。そして議会での採決には欠席し、「法案の成立を歓迎する」という声明を発表している。苦肉の策といえる。

これは大統領選挙の争点のひとつを象徴的に示す出来事であった。今回の選挙でオバマ議員は明らかに政府の市場介入、大きな政府を志向する“伝統的なリベラル主義”の立場へ傾斜している。それに対してマケイン議員は小さな政府、市場主義の哲学が経済政策の基調となっており、それが両者の経済政策に反映している。今回の大統領選挙は、深刻な経済危機に直面して政府がどういう役割を果たすべきかが問われているともいえる。

当面の緊急課題は、サブプライムローン問題である。マケイン議員は3月の段階でサブプライムローン問題は自己責任で解決すべきだという市場主義、政府の非介入の立場を取っていた。しかし、オバマ議員などから激し批判を浴び、その立場を変えた経緯がある。現在ではオバマ議員と同様に連邦住宅局が融資保証をすることで住宅ローンの借り換えを促進するという案を受け入れている。

しかし、具体策となると両議員の間に大きな差が見られる。オバマ議員は住宅の差し押さえを防ぐために100億ドルの基金の設立を提案するなど、政府は積極に介入することを求めている。さらにオバマ議員は「現行の倒産法は困窮する家族ではなく、大手銀行とクレジット会社を優遇してきた」として、倒産法の改正を通して過重債務を抱える住宅保有者に救済の道を開こうとしている。具体的には倒産法改正によって申請手続きを簡素化すると同時に裁判官がローン条件を実行可能なものに修正するように命令できるようになり、過重債務を抱える家族は住宅を手放さなくて済むようになる。

これに対してマケイン議員は倒産法改正には反対の意向を示している。対案として司法省内に作業チームを設置し、住宅ローン実施に際して違法行為がなかったかを調査することなどを提案しているが、迫力が欠ける感は否めない。
サブプライムローン問題は緊急の対応が必要とされており、今年が山場だと見られている。来年1月の大統領就任を待って政策を実施に移すのでは遅すぎる。しかしブッシュ政権は完全にレーム・ダック化しており、事態を解決しようとする意欲を失っている。両議員の提案も根本的な解決策には程遠いと言わざるを得ない。もしファニーメイが経営破綻する事態にでもなれば、住宅問題の解決はさらに難しくなるだろう。

原油高対策に即効策はない

原油高に対する政策にも両者の経済に対する基本的な考え方の差がでている。オバマ議員のエネルギー政策の柱は代替エネルギーやクリーン・エネルギーの開発にあり、10年間で1500億ドルの投資を行うことを提案している。地方自治体に対してもエネルギー節約を実施するために補助金を与えるとしている。さらに2025年までに必要なエネルギーの25%をリニューアル可能なエネルギー源で調達することを提案するなど、政府が積極的に関与することを求めている。
これに対してマケイン議員は民間企業と市場を活用し原油増産を促進することで原油高問題に対処すべきだとしている。その立場から、現在禁止されている沖合での原油開発を認めるように主張している。また需要面では1年間、政府に戦略備蓄のために原油を購入することを凍結するとしている。これに対して、オバマ議員は原油増産政策は石油産業側に立った政策であると厳しく批判している。

両議員の政策の違いが最も鮮明に出ているのが財政政策である。両者とも“財政規律の確立”では一致するものの、思い描いている財政の姿はかなり違っている。

オバマ議員はブッシュ政権の大幅減税を恒久化する方針を明らかにしているが、高額所得者に対する課税は強化するが、中産階級以下の家族に対しては減税を行う方針を明らかにしている。ここにも伝統的なリベラル派の税政策が顔を出している。他方、マケイン議員はブッシュ減税に反対票を投じた経緯があるが、現在ではブッシュ減税の恒久化を支持する方向転換をしている。その理由は、経済の先行きが不透明な時に減税措置をやめるのは好ましくないというものでる。

財政政策で特徴的なのは、オバマ議員がクリントン政権の時に適用された“ペイ・アズ・ユー・ゴー政策”の再導入を主張していることだ。すなわち何か新しい政策を導入する場合、既存の政策を廃止し、財源を手当てすることを義務付けることで、歳出の増大に歯止めを掛けるのが狙いである。クリントン政権が最終的に財政黒字を達成したのは、この政策が功を奏したからである。これに対してマケイン議員は財政赤字問題に対して裁量的歳出の1年間凍結を提案している。今後の財政赤字の状況の鍵は、イラク戦費の動向である。オバマ議員は早期撤兵することで巨額の資金が浮くことになり、それがサブプライムローン問題やエネルギー開発などで必要な財源の一部になるとみている。

欠ける世界的視野に立つ政策

減税政策については、先に触れたように、オバマ議員は高額所得者に対する課税強化と中産階級の減税を主張しているが、具体的な内容は明らかにしていない。減税策の中には年収5万ドル以下の高齢者に対する課税を廃止することも含まれている。また最低キャピタルゲイン課税も25%に引き上げるとしている。

これに対してマケイン議員は法人所得税を35%から25%に引き下げ、研究開発に関連する人件費の10%を戻し税で還付するなどの企業寄りの減税政策を打ち出している。

社会保障政策や医療改革の政策では、両議員の差はもっと大きい。ただいずれにせよ両議員の経済政策は極めて国内的な配慮しかされていないこと、住宅ローン問題にせよ、エネルギー政策にせよ、その内容は抜本策というよりも弥縫策に近い。1930年代に米国の国内問題に捕らわれすぎた経済政策の失敗が世界恐慌を招いた。少なくともオバマ議員とマケイン議員の経済政策を見る限り、そうした国際的な視野が欠落していることは否めない。

1件のコメント »

  1. マケインの支持率が盛り返しているようで経済政策は今後も注目ですね。今朝のヘラトリにオバマの経済政策に言及した記事が掲載されていました。

    コメント by 星の王子様 — 2008年8月23日 @ 19:46

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