中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/14 日曜日

第2次ブッシュ政権の経済チーム(次期FRB議長再論)

Filed under: - nakaoka @ 16:49

以前、「大統領選挙後の最大の課題は次期FRB議長の選択」という原稿をアップしました。それからしばらくして「朝日新聞」がまったく同じ内容の記事を掲載していました。知人の評価では「うんと水増しした同じ内容の記事」とのことでした。予告からいえば「ブッシュ・ドクトリンとネオコン(3)」を書かなければならないのですが、週末、風邪気味なことに加え、月曜締め切りの原稿を2本抱えていており、ややへばり気味なので、今回は「FRB議長の後任」のテーマを受けて、それだけでは面白くないので、第2次ブッシュ政権の経済チームについて書くことにします。ブッシュ大統領の再選が決まってワシントンでは人事問題が焦点になっています。パウエル国務長官やラズムフェルド防衛長官などの去就が注目されています。大物では既にアシュクロフ司法長官の辞任が決まっています。そこで今回は経済閣僚に焦点を当てて分析してみることにします。

前回の「FRB議長後任」の記事で、最有力候補はレーガン政権で経済諮問委員会委員長を勤め、アメリカ経済学界の重鎮であるマーチン・フェルドシュタイン・ハーバード大学教授と、ブッシュ(息子)政権で大統領経済諮問委員会委員長を務めた経済学者グレン・ハバード・スタンフォード大学教授の二人であると指摘しました。通常で考えれば、フェルドシュタイン教授の可能性が強そうですが、保守派はハバード教授を後押しています。フェルドシュタイン教授はサプライ・サイドの理論を支持する経済学者として知られています。同様に、ハバード教授もサプライ・サイドの経済学の信奉者だと見られています。

ちょっと横道にそれますが、1980年代にアーサー・ラッファーが税率と経済成長の関係を分析し、減税することで経済成長が高まると主張しました。その理論は、当時のレーガン政権の政策に取り入れられ、大幅な減税政策の理論的な根拠となりました。ただ、現実には、大幅減税にもかかわらず、理屈どおりに税収が増えず、政府は巨額の財政赤字を計上するハメになりました。本来なら、減税すれば、貯蓄が増え、貯蓄資金が設備投資に回され、成長を促進する。また、企業も減税で収益が改善するので、事業拡大に意欲的になり、個人(特に富裕層)も所得税の減税で消費を増やし、それらが相まって経済成長を促進するというのが、サプライ・サイドの経済学の基本的な考え方です。そして経済成長が高まれば、税収が増えるので、最初の減税による歳入の減少を埋め合わせ、最終的に財政赤字は縮小する、あるいは解消するというのが、サプライ・サイドの経済学を信じる人たちの主張でした。だが、結果的には、サプライ・サイドの理論が主張するほど歳入は増えず、レーガン政権は巨額の財政赤字と貿易赤字を抱え込んだのです。そして、増税をせざるを得なくなってしまいました。そうしたことから、その後、サプライ・サイドの経済学の主張は理論的に正しくないという見方が一般的になっていました。

しかし、2001年にブッシュ政権が誕生して、再びサプライ・サイドの経済学が蘇ってきたのです。まず大統領首席補佐官にローレンス・リンゼイが任命されました。彼はハーバード大学の博士論文は、レーガン政権下のサプライ・サイド政策は成功したという内容でした。彼の登用に象徴的に示されるように、ブッシュ政権はレーガン政権と同様に大幅減税を行い、史上最大の財政赤字を作りだしたのです。

ここでフェルドシュタイン教授とハバードの違いが鮮明になってきます。フェルドシュタイン教授は大統領諮問委員会委員長に就任すると財政赤字削減が必要だと主張し始めるのです。そして、当時の行政管理局長であったデビッド・ストックマンなどの穏健派と組んで増税を実現させます。したがって、保守派の人々から見ると、フェルドシュタイン教授は”レーガン革命”の裏切り者なのです。これに対して、ハバード教授はブッシュ政権の下で積極的に減税政策を主張し、チェイニー副大統領と組んでブッシュ政権の大幅減税を実現させています。フェルドシュタイン教授は正統派の経済学者で、サプライ・サイドの経済学をそのまま受け入れるほど素朴ではなかったのでしょう。あるいは、それほど政治的な人物ではなかったのでしょう。それに対してハバード教授は、理論だけでなく、政治的にもサプライ・サイダーのようです。

そうした背景があることから、保守派の中にはフェルドシュタイン教授に対する抵抗感が強いのです。また、第2次ブッシュ政権でも減税政策は主要な公約になっています。再びフェルドシュタイン教授がFRB議長としてワシントンに戻ってくれば、財政赤字を問題にするかもしれません。FRB議長は、政府の閣僚ではありませんが、その発言は大きな影響力を持っています。ですから、サプライ・サイダーの減税を主張する保守派にとって、フェルドシュタイン教授は受け入れがたい人物ということになるのです。ですから、既に保守派から、次期FRB議長はハバード教授にすべきだという声が出てきています。また、保守派がかねてから主張している金や穀物などの一次産品市場の動向を勘案して政策を行なうべきだという点でも、ハバード教授は賛成していると伝えられています。もちろん、保守派が閣僚人事にどの程度の影響力を与えることができるかどうかわかりませんが、ブッシュ大統領の姿勢からすれば、ハバードを選ぶという可能性は否定できません。こうしたことから、前回も書きましたが、フェルドシュタイン教授は、保守派との和解を図っています。しかし、保守派の信任を得ることができるかどうか分かりません。あるいは、FRB議長のポストは魅力的ですが、果たして彼がそこまで政治的に動けるかどうかも疑問です。

さらに、保守派が狙っているのは大統領経済諮問委員会委員長のポストです。今の委員長はグレッグ・マンキューです。彼はハーバード大学教授で、1月に職を辞任して大学に戻るといわれています。ちなみにハーバード大学では2年以上休職をするとポストを失うことになるので、大学に留まるには、2年以内に復職しなければなりません。保守派は、その後任にサプライ・サイドの創始者アーサー・ラッファーを押しているのです。もしハバードとラッファーの組み合わせができあがれば、ブッシュ政権の政策はさらにサプライ・サイドに偏っていくでしょう。

もう一人、財務長官も重要な経済官僚です。現在、ジョン・スノーが財務長官ですが、彼は第2期ブッシュ政権でずっと財務長官の座に留まると見られています。彼も、大幅減税論者で、保守派の支持を得ている人物です。1970年代に大幅減税案を最初に作成したジャック・ケンプ(元共和党下院議員で、レーガン政権での住宅都市開発庁長官)が委員長を務めた委員会のメンバーでした。2003年にブッシュ政権が実施した配当課税撤廃もスノーが重要な役割を果たしたといわれています。もともと鉄道会社の経営者であるスノーは、企業減税にも熱心です。

すると、ハバード、ラッファー、スノーという経済政策チームのトリオが成立することになります。保守派にとって、これは”ドリーム・チーム”といえるものかもしれません。もちろん、保守派の思惑通りの人事となるかどうか、まだ分かりませんが・・・・。

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