中岡望の目からウロコのアメリカ

2008/12/20 土曜日

ブッシュ大統領の自動車メーカーに対する”つなぎ融資”実施の声明全文

Filed under: - nakaoka @ 10:56

12月18日、ブッシュ大統領が自動車産業救済のためのつなぎ融資を決定しました。議会で「自動車産業救済法案」が成立の見通しがなくなり、GMは年末に資金繰りができなくなる事態が懸念されていました。自動車産業救済を進めていた民主党首脳は、議会での救済が不可能になったことから、政府に金融機関救済の総額7000億㌦の「問題資産救済プログラム(TARP)」の第2次引き出し分の3500億㌦を使って”つなぎ融資(bridge loan)”を行うように求めていました。様々な議論を経て、政府はGMとクライスラーに対して174億㌦のつなぎ融資を実施することを決めました。なおフォードは短期的な資金繰りは必要ないので、今回のつなぎ融資の対象にはなりませんでした。以下、ブッシュ大統領の声明の全文です。

「この何年間、アメリカの自動車メーカーは深刻な問題に直面していた。それはコストの増加、市場シェアの低下、利益の減少である。この数カ月、世界金融危機で、こうした問題はさらに深刻になってきた。現在、アメリカの自動車メーカーの幹部は、会社が倒産の間際にあると言っている。そして、リストラのために必要な時間を稼ぐ唯一の方法は、政府から支援を得ることだとも言っている」

「これは政府の適切な役割に関する基本的な問題を含む難しい状況である。一方で、政府は民間企業システムを損なわないようにする責任がある。他方で政府はアメリカ経済の広範な健全性と安定性を守る責任も負っている」

「自動車産業のこうした課題に取り組むために、この二つの責任をバランスさせる必要がある。もし、今、自由市場のままに委ねると、ほぼ間違いなく自動車メーカーは無秩序な倒産と清算という事態に至るだろう。通常の経済環境のもとなら、私は、これは経営に失敗した企業が支払わなければならない代価であり、自動車メーカーが倒産するのを阻止するために介入しないほうを選ぶと言うだろう」

「しかし、現在は通常の状況ではない。金融危機とリセッションの最中にあり、アメリカの自動車メーカーの倒産を許すことは責任ある行動ではない。問題は、自動車メーカーにリストラに成功するチャンスを与える最善の方法はなにかである。一部の人は、最も賢明な方法は、破産法第11条(チャプター11)を通して企業再編を行うことだと主張している。一部の人は、自動車メーカーが操業を続けられるように政府の支援を与える一方で、自動車メーカーに破産裁判所の監視のもとにリストラを行う努力を行わせることであると主張している。現在の自動車産業と経済の状況を考慮すると、チャプター11は自動車産業にとって効果があるとは思われない」

「アメリカの消費者は、その理由を理解している。すなわち、自動車メーカーが突然倒産したと聞くと、消費者は部品が調達できなくなり、サービスもなくなるのではないかと心配するだろう。また、自動車の保障がどうなるのかと質問するだろう。消費者は倒産した会社から新しい自動車を購入するのを躊躇するため、自動車メーカーが立ち直るのがさらに困難になるだろう」

「さらに、金融危機によって自動車メーカーが予想していたよりも早く自動車メーカーは倒産の瀬戸際に追い込まれた。そのためリストラを成功させる秩序ある手続きを行うのに必要な法的、財務的な準備をすることができなかった」

「こうした要因が重なった結果、倒産にはアメリカの自動車メーカーの無秩序な清算を招くという非常に大きなリスクがある。私の経済顧問たちは、そうした崩壊は自動車産業に留まらず勤勉なアメリカ人に受け入れがたい苦痛をもたらすことになると信じている。自動車メーカーの倒産は、低調な労働市場をさらに悪化させ、金融危機をさらに深刻なものにするだろう。不況にあるアメリカ経済を、さらに深刻で、長期にわたるリセッションに導くだろう。それは次期大統領に就任直後に主要なアメリカ産業の消滅という事態に直面させることになるだろう」

「もっと責任ある選択肢は、自動車メーカーに倒産以外でリストラするインセンティブ(誘因)を与えることである。これが、自動車メーカーが倒産を先延ばしし、その間に生き残るための計画を策定するための法案成立で政府が議会と協力した理由である。この法案は両院で超党派による多数の支持を得た」

「不幸にして、自動車産業の無秩序な倒産を阻止するために広範な議論が行われ、合意に達したにもかかわらず、議会は会期が終了する前に同法案を成立させることができなかった」

「このことは、アメリカの自動車産業の崩壊を避ける唯一の方法は、行政府が介入することを意味している。アメリカ国民は自動車メーカーが回復することを願っているし、私も同様である。したがって、今日、私は連邦政府が議会が先週検討した条件と同じ条件の下で自動車メーカーに融資を行うことを発表する」

「この融資は2つの方法で自動車メーカーを支援することになる。まず自動車メーカーに成長可能な企業になるために必要なリストラする実行する3ヶ月の時間的余裕を与えることである。二つ目は、倒産以外でリストラを実施することができないのであれば、融資は自動車メーカーにチャプター11に基づく秩序ある手段を取るための法的、財務的な準備をするための時間を与えることになる。チャプター11によって長期的な観点からリストラを成功させる好ましい展望が与えられるだろう。また消費者にアメリカの自動車を買い続ける信頼を与えることになるだろう」

「議会はつなぎ融資のために使える資金を確保を承認しなかったため、今日、私が発表する救済計画では今年の秋に議会が承認した金融機関救済パッケージ(「問題資産救済プログラム」の総額7000億ドル)から資金を引き出すことにする。融資の条件は、自動車メーカーが生存可能になる方法を具体的に示すことである。自動車メーカーは融資を全額返済する義務がある。そして利潤を上げ、純資産をプラスにすることを示さなければならない。リストラを実行するために、自動車産業に関わるすべての関係者(経営者、労働組合、与信者、債券保有者、ディーラー、部品供給者)が意味のある譲歩をしなければならない」

「特に自動車メーカーは、専門家が合意するような長期的生存に必要な条件を満たさなければならない。その条件の中には、退職年金を持続可能な物にすること、債券保有者を説得し、差し迫った資金不足に対処するために必要な資本に転換させること(debt-equity swapのこと)、労働者の報酬をアメリカで生産を行っている海外の主要な自動車メーカーと競争できるようにすることが含まれる。もし自動車メーカーが3月31日までに達成可能な計画を提出できなければ、政府融資を返済しなければならない」

「自動車メーカーと組合は、何が危機にさらされているのかを理解しなければならない。そして改革に必要な厳しい決断をしなければならない。こうした条件が、アメリカの自動車メーカーの将来に関わるすべての人々に明確なメッセージを送ることになる。生存可能になるための厳しい決断をするのは今しかない。そうでないと、唯一の選択肢は倒産になるだろう」

「私が今日、発表した行動は、本来なら必要ない手段であることを願っている。しかし、現状から判断する限り、これが我が国が直面する課題に取り組むための最も効果的で責任ある方法である。自動車メーカーにリストラのチャンスを与えることで、私たちは厳しい時にアメリカ国民が厳しい経済的なダメージを受けるのを阻止することができるだろう。私たちはアメリカの労働者に、自分たちが創意と工夫と断固たる決断をもって、この課題に取り組み、以前よりもはるかに強くなることができることをもう一度世界に示す機会を与えるものである」

以上は仮訳です。なお、今回の自動車メーカー救済に関する経緯の詳細は次のブログに掲載します。今回のつなぎ融資はあくまでつなぎ融資で、問題の解決にはなりません。ただ2009年3月31日までに提出しなければならないリストラ計画の評価如何によっては、政府は融資の返済を求めることができるようになっています。そうした事態が起これば、自動車メーカーは実質的にチャプター11を申請することになります。経済状況はさらに悪化し、自動車の販売台数が予想を上回る減少を示せば、現在のつなぎ資金だけでは危機を乗り切ることはできません。本来なら最初からチャプター11による再建が好ましいのでしょうが、大統領声明にもあるように、消費者離れを誘発し、経営危機を深刻化させるとの判断があったようです。これはワゴナーGM会長も繰り返し主張していたことです。しかし、既に消費者離れは始っています。今後もシェア低下は続くでしょう。自動車産業の危機の構造は何も変わっていないのです。

3件のコメント »

  1. 社長以下全役員が全財産をはたいてでも、従業員を守って欲しいですね。

    コメント by さらら — 2008年12月22日 @ 22:19

  2. 初めまして(^-^)

    お仕事がんばってくださいねぇ~(o^-’)b

    コメント by かなみ — 2008年12月24日 @ 22:55

  3. 非常にシリアスな問題だと思います。つなぎ融資をしたところで、立ち直れるとは思えませんし。アメリカのビッグスリーはこれから先どうなるのでしょう?

    コメント by FXビギナー — 2008年12月26日 @ 15:58

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