オバマ政権の外交始まる:海外メディアが見た大統領、副大統領、国務長官の海外訪問
オバマ大統領が誕生して1か月経ちます。最初の課題であった景気刺激法案(アメリカ復興・再投資法)も議会を通過し、2月17日にオバマ大統領が署名。次の課題は、外交政策です。オバマ大統領は最初の海外訪問国にアメリカの最大の貿易相手国であるカナダを選びました。NAFTA問題、バイ・アメリカン問題と米加の通商問題が課題になっています。バイデン副大統領は欧州を訪問し、ブッシュ政権で傷ついた米欧関係の修復をおこなっています。クリントン国務長官は2月16日に最初の訪問国に日本を選び、インドネシア、韓国、中国と歴訪しました。オバマ政権では、大統領、副大統領、国務長官とそれぞれ役割を分担しながら最初の外交政策が行われました。最初の訪問国をどこにするかは、外交政策上のいろいろな含みがあるようです。ブッシュ前大統領が最初に訪問した国はメキシコでした。以下でオバマ大統領のカナダ訪問の狙いと評価、バイデン副大統領の米欧関係修復の成果、クリントン国務長官のアジア歴訪の評価に関して、アメリカのメディアの報道を紹介します。日本のメディアとの報道の仕方の違いにも注目してください。いつも日本からの視線で見るのではなく、海外からの視線で見てみるのも面白いものです。
1.オバマ大統領のカナダ訪問
① 『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月19日)
a)特に重要な問題はアフガニスタン問題である。オバマ大統領はスティーブ・ハーパー首相にアメリカの新アフガニスタン戦略を説明した。カナダは2011年までに戦闘地域のアフガニスタン南部からの撤兵する方針を明らかにしている。カナダはNATO指揮下で2750名の兵を派遣している。またカナダ軍はアフガニスタンで100名以上の戦死者を出している。会談に先立つインタビューでオバマ大統領は、カナダに戦闘に留まることを要請するかとの問いに、「私は具体的な要請をするつもりはない」と答えている。両国はNATOに対してさらに貢献するよう要請することで合意すると見られる。
b)NAFTA問題では、オバマ大統領は選挙中に環境問題、労働問題の観点からNAFTA見直しを主張していたが、国内の経済問題の処理を優先することで、今回の会談では具体的な課題の提示は見られなかった。ちなみにカナダの対米輸出は全体の86%を占めている。
c)通商問題に関連し「バイ・アメリカン条項」も問題となった。カナダ政府は景気刺激策に同条項が盛り込まれたことに抗議していた。これに関して、同紙は具体的な指摘をしていない。
d)オバマ大統領のカナダ滞在は日帰りの7時間で、儀礼的な行事はまったく行われなかった。
e)ハーパー政権は保守政権でブッシュ前大統領と極めて良好な関係にあった。またオバマ大統領とハーパー首相は今までまったく面識がない。
② 『ニューヨーク・タイムズ』(2月19日)
a)同紙はNAFTA問題に関して、オバマ大統領は東部の産業地域(ラストベルト)の支持を得ており、選挙中に再交渉を主張していたが、今回のカナダ訪問にあたって「大統領は再交渉を強調することはなかった」と、この問題でのオバマ大統領の姿勢の変化を伝えている。さらにオバマ大統領は世界貿易の減少を踏まえ、制限的なNAFTA再交渉よりも両国の貿易を促進するほうが必要だと判断していると分析している。
b)同紙は、民主党内の保護主義的な勢力の高まりを指摘し、「オバマ大統領はカナダに向かうにあたって微妙な道を歩んでいる(Mr. Obama is walking a delicate path as he heads Ottawa)と指摘している。カナダ政府はオバマ訪加の数日前に19億㌦の景気刺激法を成立させている。
c)それ以外の議論のテーマは、気候変動、エネリギー安保で米加の協力関係の樹立であった。各テーマに関して両国は作業部会を設置することで合意。
③ 『AFP』(2月19日)
a)同通信社はオバマ大統領がカナダで歓迎されたと報じ、両国の課題は通商、エネルギー、環境、アフガニスタン問題であったと伝えている。
b)カナダ国民はオバマ大統領を支持。多くの国民が歓迎のために集まったが、同大統領の短時間の訪問に失望した。市はブロックアウトされたが、議会前の広場への立ち入りは許された。2004年のブッシュ前大統領のオタワ訪問の際には数千人規模の抗議デモが行われた。
c)オタワ到着後、オバマ大統領は議会に向い、ハーパー首相と昼食をしながら議論。その後、共同記者会見を開く。それからオバマ大統領は野党指導者と会談。
d)カナダ政府のスポークスマンは「首脳会談の焦点は経済問題だった」と説明している。
e)アフガン問題では、オバマ大統領はカナダ軍の派兵の延長を求めないと語ったが、アフガン戦略に対する同意を求めた。
④ 『ワシントン・ポスト』(2月19日)
a)同紙は同行スタッフについて触れている。ローレンス・サマーズ国家経済審議会議長、ジェームズ・ジョーンズ安全保障担当補佐官、ジェームズ・スタインバーグ副国務長官、エネルギー・気候変動担当のキャロル・ブラウナーなどで、ブラウナーは科学技術協力に関する米加協定に調印した。
b)オバマ大統領のスタッフは、ブッシュ大統領の最初の訪問国がメキシコであり、カナダ政府から不興を買ったこともあり、今回は米加関係の強化を狙ってカナダ訪問を決めたと語っている。両国の密接な関係を考えると、伝統的に米大統領が訪問する最初の国はカナダである。たとえばレーガン大統領の最初の訪問国はカナダであり、その訪問は成功だったと言われている。
c)カナダ政府の最大の関心事は「バイ・アメリカン条項」であった。
d)カナダの環境主義者はオバマ大統領にタールサンドの開発規制を求めたが、同大統領はタールサンド問題に言及しなかった。同大統領はインタビューの中で「サンド・オイルが環境に与える影響を軽減する技術を両国は開発することを望む」と述べたに留まる。ちなみにアメリカの石油輸入の約20%はカナダからである。
④ 『ニューヨーク・タイムズ』(2月20日)
a)上記の新聞報道が主に会談が行われる前に書かれていたが、この記事は会談後の両首脳の発言を紹介している。
b)同紙はオバマ大統領のカナダ訪問を次のように評価している。「オバマ大統領は大統領として最初の訪問国としてカナダを選ぶことで、通商問題、気候変動、アフガニスタン問題を巡る両国の緊張を緩和としようとする微妙な道を選んだ」。さらに「この日帰りの訪問で米加関係はブッシュ大統領時代と非常に大きく変わったことを示した」と指摘し、保守主義的な哲学に基づいていたブッシュ・ハーパーの友好関係に基づく米加関係が変わると指摘している。
c)上記との関係でオバマ大統領が野党自由党のマイケル・イグナチーフ党首に帰国直前に空港で会談したことを指摘。同党首はハーバード大卒業で、オバマ大統領の選挙中の外交政策顧問であったサマンサ・パワーと親しい関係にあることを指摘している。
d)最大の課題は通商問題である。特にカナダ側はNAFTA問題に神経を尖らせていた。これに対してオバマ大統領は「私は貿易を縮小させるのではなく、拡大させることを望んでいるという確証を首相に与えた」と語り、さらに「選挙中に候補者としてNAFTAの見直しを主張したが、現在はその立場を考えなおしている」と、当面はNAFTA問題を取り上げないと示唆している。
e)安全保障問題ではハーパー首相が「アメリカにとって脅威はカナダにとっても脅威である」と、安全保障問題での米加一心同体を主張。これに対してオバマ大統領は「米国の安全保障に対するカナダのコミットメントに対していささかも疑問を抱かない」と答えている。
f)アフガニスタン問題ではオバマ大統領は「私は米軍の1万7000名の増派を命令したが、カナダに追加的な兵士の派遣を求めるような圧力は掛けなかった」と語り、カナダの撤兵を容認する姿勢を示した。
2.バイデン副大統領の訪欧
① 『AHN』(2月6日)
a)ホワイトハウスはバイデン副大統領の訪欧について以下のように説明している。「副大統領は同盟国と共通の挑戦に応えるために強力なパートナーシップを確立する必要性について欧州の指導者と議論を行う」。特に関係修復を必要としているのはロシアとの関係である。ブッシュ政権がポーランドにミサイル防衛基地を建設することで同国と協定を結んでことで、米露関係は悪化している。ジェームズ・ジョーンズ安全保障担当補佐官、リチャード・ホルブルーク・パキスタン担当特使、デビッド・ペトレイアス中東アフガニスタン軍司令官が副大統領に同行。
b)2月18日にミュンヘンで開催された「第45回安全保障政策に関するミュンヘン会議」で講演を行った。
② 『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(2月5日)
a)同紙はバイデン副大統領の訪欧は「ブッシュ時代の一国主義との決別を模索する旅である」と指摘している。さらに新政権のロシア、アフガニスタン、中東、NATO政策を詳細に説明する目的があるとも指摘している。ただ「欧州との絆の修復には長い時間がかかるだろう」という専門家の言葉を紹介している。
b)ホワイトハウスの高官の言葉として、次のような指摘をしている。「一般的な外交政策に関する新政権の方針に関する広範な説明を行うが、それ以上に何か具体的な声明を行うものではない」と、過剰な期待を抑えている。
c)バイデン副大統領はアフガニスタンで欧州各国の支援を求めるだろうが、「欧州の指導者は国民に人気のない派遣で兵士の生命が脅かされることで躊躇してきた」と欧州の反応を紹介している。
d)またロシアとの関係に関して「欧州各国は米露の関係の緊張が緩和する兆しを注意深くみている」と指摘。同時に、オバマ大統領とメドベージェフ大統領の電話会談に言及し、「両首脳は関係悪化を阻止することで合意した。その後、ロシアはポーランド国境へのミサイル配備計画を延期した」と、既に関係改善の兆しがあることを指摘している。
③ 『POLITICO』(2月8日)
a)同記事は「バイデン副大統領のミュンヘン会議への派遣し、政府の外交政策のアウトラインを最初に説明させるのは異例である。通常、同会議に出席するのは国防長官か国防総省の高官クラスであり、バイデン副大統領の派遣はオバマ政権が同会議を重視していたことの反映である」と指摘している。
b)バイデン副大統領とセルゲイ・イヴァノフ副首相の会談に関して、「イヴァノフ副首相が米露関係のボタンをリセットしようというバイデン副大統領の発言を“非常に前向き”な展開であると評価した。しかし、1時間にわたる会談は明確な事態打開には結びつかなかった」と分析している。
c)アフガニスタン問題に関して、バイデン副大統領は演説の中で「America will do more, but America will ask more from its partners」という発言を取り上げ、欧州の指導者が当惑したと指摘している。さらに「バイデン副大統領の演説に皆が感心したわけではない」と、オバマ政権と欧州の和解が直ちに実現するかどうか疑問を呈している。
3.クリントン国務長官のアジア歴訪
① 『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月13日)
a) 同紙はクリントン長官のアジア政策を次のように指摘している。「クリントン長官は米中関係が最も重要であると言っている」「長官は中国と他のアジア3カ国を最初に訪問することで、中国を優先課題にしようとしている」。さらに「ホワイトハウスはアジア政策の劇的な変更を計画していないが、クリントンの訪中で米中関係は漸進する好機になる」というアジア専門家の発言を紹介している。
b)さらに今回の訪中で凍結されていた軍の交流が復活するのと見通しも書いている
c)クリントン長官は「オバマ政権は中国に対する包括的な政策を模索している」と語っている。他方、中国政府は人権問題に注目が集まることを恐れている。
d)中国政府は、オバマ政権の中で外交政策で指導力を発揮するのは誰かに強い関心を抱いている。
e) 「クリントン長官はオバマ政権の中国政策で指導権を握ろうとしている」と同紙は書いている。またバイデン副大統領も、同じような意欲をしめしているとも指摘している。(『デイリー・ニュース』は、「経済問題でクリントン長官はガイトナー財務長官と“equal partner”になろうとしている」としてきしている。事実、同長官は北京で国際金融危機に関して頻繁に言及している)
f)ただ「クリントン長官は、アメリカの長年の同盟国である日本と韓国との関係と中国との関係のバランスを取る必要があるだろう」と、日本との関係に言及している。
② 『CBSニュース』(2月19日)
a)インドネシアでの記者会見の発言。「アメリカの存在がないと、人々はアメリカがこの地域に関心がなく、それが真空地帯を作りだし、破壊的な勢力が埋めることになると信じている。アメリカは常に存在する」と、東南アジアへのコミットメントを強調している。
b)インドネシアにいる1億9000万人のイスラム教徒を意識して、3月2日にエジプトで開催されるガザ地区再建会議に出席する意向を明らかにした。さらに65年以降中断されているインドネシアでの平和部隊の活動を再開すると発表。
c)最初にアジア歴訪を選んだ理由を聞かれて、「これは偶然ではない。インドネシアや他のアジア諸国との後半でより深い関係を望んでいるからだ」と答えている。
③ 『ロサンジェルス・タイムズ』(2月22日)
a)クリントン長官は米中対話の拡大に意欲を燃やしている。理由は「アジアの大 国である中国と協力することが、北朝鮮やイランの安全保障に関連する多くの国際問題を解決するための鍵を握ると信じている」からであると指摘している。
b)従来の米中戦略経済対話に加え、環境問題と安全保障問題に関する対話の場を作ることで同意。米中戦略経済対話に関してクリントン長官はガイトナー財務長官と一緒に加わる意向をしめた。
c)クリントン長官は人権問題も重要な問題であると指摘したが、中国政府は「国内問題に対する不干渉の原則と同時に“平等と相互信頼”をベースに議論すべきである」と釘をさした。これに対してクリントン長官は記者会見で「アメリカは人権問題で中国に要求を続けるが、人権問題が他の重要な課題の議論で中国との話し合いを阻止するものであってはならない」と、後退する発言を行っている。同長官は95年に北京で開催された国際女性年に出席して以降、中国の人権問題を批判し続けていた。
4件のコメント »
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最近多極化が際立っていますがロシアは自滅するアメリカを無視することは自国の反米基盤が崩れてしまうから必死に妥協しているのでしょう。主権を侵させず反米化させず難しい舵取りになりそうですね。今後ベネズエラもロシアのような舵取りになっていくことでしょう。この世界恐慌にはどのような大国も無傷で入られませんね。国際社会に強い権限があればあるほど被害が比例しています。いつになったらこの世界恐慌は収束すると思いますか?現実逃避したいのですが、ぶっちゃけ現実を見てしっかりいうとこれは今から本格的な嵐が来ると予想しています。今は嵐の前夜のごとく風が吹いているだけだと思います。今後のあなたの論文もフルに取り入れさせていただきますね。
コメント by FÜRSTENTUM LIECHTENSTEIN — 2009年3月2日 @ 20:43
初めまして。
始めてカキコします!
いつも応援しています。
お仕事頑張って下さい。
コメント by あけみ — 2009年3月4日 @ 12:05
はじめまして~ヾ(*・ω・*)ノ
一攫千金!ギャンブル情報を運営しています。
今日は皆さんのサイトを参考にさせていただこうと、
情報収集のために、サイトを訪問させていただいてます。
社会音痴の私には、ちょっと難しい内容でした・・・。
今度勉強してから訪問させていただきます。
コメント by 一攫千金を夢みる子育てママ — 2009年3月5日 @ 21:02
オバマ米大統領とカナダの意外な関係…
“Change”を引っ提げて、オバマ米大統領がカナダ……
トラックバック by 専門家や海外ジャーナリストのブログネットワーク【MediaSabor メディアサボール 】 — 2009年3月19日 @ 08:59