中岡望の目からウロコのアメリカ

2009/3/8 日曜日

「バラク・オバマ本」ブームを分析する

Filed under: - nakaoka @ 18:34

日本の出版界はオバマ本ブームです。アメリカでは昨年の半ばがオバマ本のブームでした。最近時点でアメリカのアマゾンのベストセラー・リストを検索してみると、オバマ関連本では28位に『the Obama Nation』、31位に『Fleeced』があがっている程度です。興味深いことに、この二冊はいずれもオバマ批判の本です。アメリカでは、もう大統領就任式の盛り上がりは消え、現実に目が向き始めているといえるのかもしれません。世論調査では、オバマ支持率は依然として高水準ですが、メディアは次第にオバマ政権に対して厳しい目を向けつつあります。その意味で、日本ではまだ「オバマは何者か」という関心は強く残っているようです。日本のアマゾンで検索すると日本語のオバマ本のヒット件数は390件ありました。ちなみにアメリカのアマゾンで検索した英語本のオバマ本のヒット件数は199件です。単純に比較できませんが、日本ではまだオバマ本ブームが続いています。私も1年前からオバマ論を書く約束をある出版社としていますが、なかなか時間が取れず、書きあげられないでいます。なお、今回アップしたのは『週刊東洋経済』の書評欄に寄稿した原稿です。

売れているオバマ就任演説の生声CD付き本

さらに特徴的なのは、日本の検索でトップを占めているのが、オバマ大統領の演説集である。しかも、トップにランクされている演説集はいずれも「生声CD」付きである。その一冊が、ここで取り上げた『完全保存版オバマ大統領演説―大統領就任演説完全収録CD2枚付き』(コスモピア編集部)である。その他にも『生声CD付き対訳オバマ演説集』(CNN English Express編)や『オバマ大統領就任演説DVD Book』(ボマブックス刊)などがある。

特に大統領就任演説は多くの日本人の興味を引いたようだ。朝日新聞は英語の全文に加え全訳まで掲載している。英語学校ではオバマ大統領の就任演説を使ってスピーチの練習をしているところもある。様々なメディアのコメントを読むと、「名演説であった」と高い評価を与えていた。ただ歴代の大統領の就任演説と比べるとそれほど名演説とはいえないというのが評者の正直な感想である。

アメリカでは大統領も副大統領も国務長官も、主要なポストについている人物はそれぞれ自分のスピーチライターを雇っている。オバマ大統領の首席スピーチライターはジョナサン・ファブローで、弱冠27歳の青年である。歴代の大統領のスピーチライターを見るといずれも最高のインテリで、その後もトップクラスのジャーナリストや評論家で活躍している人物が多い。その意味で、オバマ大統領のスピーチライターは異例中の異例といえよう。

ジョージ・ブッシュ大統領のスピーチライターだった評論家のデビッド・フラムは自著で「悪の枢軸」という言葉を使ったのは自分だと告白している。スピーチライターが歴史的な言葉を作ることもある。ケネディ大統領の「国家があなたのために何をすることができるのかではなく、あなたが国家のために何ができるのかを問うべきである」という名演説を書いたのはセオドーア・ソレンセンである。大統領のスピーチライターの役割について詳しく知りたい人は『To Serve the President』(Brookings Institute刊)が役に立つ。

オバマ大統領のもとでアメリカはどこへ行くのか

もちろん売れているのは演説集だけではない。オバマ大統領の話術も関心のあるところである。大統領選挙予備選挙での演説でオバマ大統領は対抗馬のヒラリー・クリントンを圧倒していた。演説と違い討論では台本はなく、状況に応じて受け答えなければならない。『オバマ―勝つ話術、勝てる駆け引き』(西川秀和、池本克之著)は、「オバマの言葉がなぜ人の心を動かすのか」を分析したものである。最近の日本の政治家には当てはまらないが、「政治は言葉」である。いかにメッセージを伝えるかが政治家に課せられた使命である。同時に指導者にはカリスマ性が要求されます。そうした事柄に興味ある人には、本書はお勧めである。

しかし、アメリカ人でもまだ「オバマ・フ-」と思っている人は多くいます。オバマ大統領が書いた自伝『マイ・ドリーム』や『合衆国再生』(いずれもダイヤモンド社刊)があるが、大部なので読むのに苦労するだろう。もっと簡便に知りたいという人には『ホープ&ドリーム―バラク・オバマ』(ゴマブックス刊)は写真入りで読みやすい。

もう少しオバマ大統領の心の中を見てみたい人には『オバマの孤独』(青志社刊)がお勧めである。筆者は保守派の黒人で、オバマ大統領には批判的な本であるが、オバマ大統領を理解するには欠かせない本である。またオバマのアメリカがどう変わっていくのか分析したのが『さらばアメリカ』(大前研一著)である。日本のオバマ本は総論が主体で政策論や人種論などを分析したものは少ない。第2次オバマ本ブームが来れば、日本のオバマ大統領理解も本物になるだろう。

ちなみに翻訳本は出ていないが、お勧め本に「Obama’s Challenge」(Robert Kuttner, Chelsea Green Publishing)や「Obamanomics](John Talbott, Seven Stories Press)などがあります。

3件のコメント »

  1. いろいろおもしろい記事をありがとうございます。私はオバマにあまり魅力を感じられません。軍産団体が彼の背後にあるようで、包丁を持ちながら子守唄を歌っているかのような違和感があります。今日は久しぶりに経済にも春風がやってきました。また真冬に戻らないことだけを祈りたいです。中岡さんこれからアメリカはどうなると思いますか?私は絶望感を感じずにはいられません。

    コメント by fürstentum liechtenstein — 2009年3月10日 @ 21:07

  2. アフガニスタンの民生安定のために行政機関や農業など幅広い分野に数百人の文民を派遣するとの米大統領発表はイラク戦に積極参加出来ず、アメリカとの関係を疎遠にしてしまったスペインに住む日本人としては、一縷の望みをつなぐとゆう状況です。2年前のベルリンでのJCMBにおける日本側意見を見つけました。どうぞhttp://www.mofa.go.jp/region/middle_e/afghanistan/state0701.html

    コメント by satoco gracia — 2009年3月28日 @ 17:06

  3. 本当に、オバマさんには
    頑張ってほしいと思います。

    コメント by バストアップサプリ 口コミ — 2009年4月15日 @ 14:45

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