中岡望の目からウロコのアメリカ

2009/7/15 水曜日

誰にでも分かる一番易しい金融の話(2):長期金利の決定と景気

Filed under: - nakaoka @ 16:34

前回の本欄で短期金利について説明しました。今回は長期金利について説明します。短期金利は、日本銀行が景気状況を見ながら操作しています。具体的には、銀行同士がお互いに資金の融通をし合っている銀行間市場であるコール市場の金利をコントロールしているのです。すなわち公開市場操作を通して市場への流動性の供給をコントロールすることで、コール市場での資金の需給に影響を与えることで短期金利(具体的には翌日物)を誘導しているのです。ただ従来はコール金利の状況を見ながら資金を供給したり、逆に資金を吸収したりしていたのですが、2001年2月からコール金利の上限など貸出条件を設定し、銀行からの借入申し込みがあれば自動的に貸し出す「ロンバート型貸出制度」が導入されています。コール市場で決まる金利が、銀行が設定する預金金利や短期の貸出金利のベースになります。時間があれば、ぜひ金融の基礎を勉強してみてください。

【長期金利の動向】
短期金利の変動は経済活動に影響を及ぼしますが、それ以上に景気動向に大きな影響を及ぼすのが長期金利です。長期金利が上昇すると企業の設備投資や株式投資、消費者金融金利、為替相場などに大きな影響を及ぼします。今年の3月下旬から日本を含む各国の長期金利は上昇し始めました。リーマン・ブラザーズの倒産で投資資金が安全性を求めて国債市場に流れ込み、昨年は長期金利が低下していたのですが、景気回復の兆しも見え始めたことから国債が売られ、金利が上昇したのです。ただ、ここでいう金利は流通市場での金利で、通常、流通利回り(イールド)と呼ばれています。景気底打ち感に加え、財政赤字拡大に対する懸念も高まり、3月以降、上昇に転じていました。10年物国債の利回りは、1月が1.27%、2月が1.27%、3月が1.34%、4月が1.43%と上昇し、6月11日に1.56%と年初来最高値を記録しました(利回りの指標となる国債は新発債です)。それ以降、10年物国債の利回りは低下に転じ、7月7日には約3ヶ月半ぶりに1.3%台を割り込みました。ちなみにアメリカの10年物財務省証券(国債)の利回りは、1月が2.52%、2月が2.87%、3月が2.82%、4月が2.93%でしたが、6月には4%台にまで急上昇しています。また日本の国債同様に、このところ下落しています。

【国債発行の仕組み】
上の長期金利の説明で10年物国債の流通利回りを使いました。実は日本では10年物国債の流通利回りが長期金利の基準になっているのです。国債は最も信頼度の高い証券ですから、それが長期金利の基準になるのは当然です。各国とも国債の流通利回りが同様に長期金利の基準になっています。国債を発行期間で見ると、短期国債(期間が1年、6ヶ月)、中期国債(同2年、3年、4年、5年)、長期国債(同6年、10年)、超長期国債(同15年、20年、30年)になります。利払いの形式でみると、固定利付債、変動利付債、物価連動債、割引債に分かれます。発行の目的別で見ると、「財政法」に基づき道路や港湾などの社会資本を建設するために資金調達のために発行される「建設国債」と、「公債特例法」に基づき歳入不足を補うために発行される「赤字国債」、「財政融資資金特別会計国債」に基づいて2001年から発行されるようになり、財政投融資資金に充当される「財投債」(それまでは財政投融資資金の原資は郵便貯金でしたが、財投債で資金を調達することで、調達コストに市場実勢が反映されるようになりました)、「国債整理基金特別会計法」に基づいて満期に達した国債を借り換えるために発行される「借換国債」、個人向けの国債があります。同じ国債でも裏付けとなる法律はそれぞれ違うのです。以下の議論は10年物固定利付き国債を基準に行います。

国債には発行市場(primary market)と流通市場(secondary market)があります。通常、国債は機関投資家や金融機関が主に購入しています。もちろん、個人向け国債もありますが、ここで議論する長期金利との関係から言えば、多くが満期償還まで保有される個人向け国債はそれほど重要ではないので、詳しくは触れません。毎年、膨大な額の国債が発行されています。2009年度補正予算後の国債発行計画では総額130.2兆円の発行が計画されています。そのうち発行額が一番多いのが2年物国債で27.6兆円に達しています。次に多いのが5年物国債で26.7兆円、1年物の割引国債が26.4兆円です。10年物国債は24.6兆円で、40年物の超長期国債も1.1兆円発行される計画になっています。毎年膨大な額の国債が発行され、2009年3月末の発行残高は内国債合計で680兆4482億円に達しています。そのうち10年以上の長期国債の残高は354兆2378億円、中期国債の残高は161兆0183億円です。膨大な残高があり、それが毎日市場で売買されているのです。

国債を発行するのは財務省です。財務省です。6月2日に財務省が発表した「10年利付債(第301回)の入札結果」の内容を紹介します。それを見ると国債の姿がなんとなく分かると思います。
1.名称および記号         利付国庫債券(10年)(第301回)
2.表面利率            年1.5%
3.償還期限            平成21年6月22日
4.競争入札について       
   (1)応募額         5兆8573億円
   (2)応募決定額       1兆7392億円
   (3)応募最低価格      99円70銭
      (募入最高利回り)    (1.534%)
   (4)募入平均価格      99円76銭
      (募入平均利回り)    (1.5275)
5.非競争入札について
   (1)応募額          97兆3900億円
   (2)募入決定額        97兆3900億円
   (3)発行価格         99円76銭
                   (1.527%)

以上の内容から国債の仕組みを説明します。国債には必ず番号がついています。この分は「第301回債」になります。これは発行された順番を示しています。「表面利率」は文字通り国債の券面に書かれている利息のことです。これは「クーポンレート」とも言われます。「クーポン」は日本語で「利札」のことで、利札との引き替えで年2回、利息が支払われることから、「クーポンレート」と呼ばれるのです。ただ、実際の発行金利は必ずしも表面金利ではありません。国債の額面は100円ですが、この国債の応募最低価格は99円70銭でした。したがって払い込む金額が額面よりも少ないのです。これをアンダーバー発行といいます。逆に払い込む額が額面よりも多い場合、オーバーパー発行といいます。払い込む額が違うのですから、表面金利は同じでも、「利回り」は変わってきます。払い込む額が多ければ実際の利率は低くなり、払い込む額が少なければ実際の利率は高くなります。表記の例では、「利回り」は1.534%で、これは表面利率の1.5%よりも高くなっています。募入額が額面と違うのは、発行時点の市場実勢を反映するためです。期間10年の国債ですから償還期限は2019年になります。償還額は額面の100円です。

7月の発行予定では、合計15本の国債の発行が予定されています。極めて頻繁に国債は発行されているのです。財務省が国債発行を発表し、買い手を募集します。1965年に戦後初めて国債が発行されたとき、国債引き受けシンジケート団が結成され、国債の引く受け独占的にしていました。しかし、2005年にシ団は廃止されました。大蔵省はシ団を使うことで国債金利を低く抑え、強制的に銀行などのシ団を通して銀行や投資家に販売していました。低利の国債を強制的に割り当てられたために金融機関は国債を「ご用金」と呼んでいました。現在は市場実勢を反映する発行形態になっています。なお引き受け業務のことを「アンダーライティング」と言います。引く受け業者は引く受けた国債を投資家に売りますが、売れ残った場合、それを自分で負担して保有しなければならず、その分、引受業者のリスクとなります。引き受けた額を全て投資家に販売できれば一番良いのです。したがって引く受け業者は市場や投資家の状況を見ながら入札価格を決定するのです。

現在、国債は入札方式で販売されています。2009年6月27日現在で財務省が定めた入札参加資格は276社です。具体的には、みずほ銀行、みずほコーポレート銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行の都市銀行6行をはじめ、地方銀行64行、在日外銀22行、信託銀行15行、証券会社52社、生命保険会社11社などです。毎回の入札に全社が参加するわけではありません。財務省は市場の状況を考慮しながら、発行条件(発行予定額、満期償還日、表面利率など)を決めます。したがって発行条件は市場実勢から大きく乖離することはありません。応募者は落札希望価格と落札希望額を入札し、価格の高いもの(利回りの低い物)から順次落札していきます。予定額に達すると打ち切られます。したがって安い価格で応札した入札者は落札できないことも起こりえます。そのため応札に際して市場の判断が重要になってきます。この入札方式を「コンベンショナル方式」といいます。ただ10年物国債や超長期債の場合、落札平均価格が募集価格になります。こうした入札方式を「ダッチ方式」といいます。

こうして落札された国債は投資家に販売されたり、落札した金融機関が保有することになります。しかし投資家や金融機関は保有国債を流通市場で売却したり、新たに購入したりします。すなわち国債は証券取引所に上場され、自由に売買できるのです。金融情勢や経済情勢、需給を反映して国債の売買価格は毎日変動します。額面は100円ですが、95円や105円という価格で取引されるわけです。表面利率は満期まで変化しません。利息が一定であるのに対して購入価格が変わってきます。さらに償還まで保有すると額面で償還されるため、95円で買ったにもかかわらず100円を受け取ることになり、5円だけ収入が増えます。その分を保有期間に案分して調整します。そうした調整を行って出てくるのが「最終利回り」あるいは「最終イールド」と呼ばれるものです。話は長くなりましたが、10年物国債のイールドが長期金利のベースになるのです。よく「価格が下落するとイールドは上昇する」あるいは「価格が上昇するとイールドは低下する」というのは、こうした関係を示しているのです。

最終利回りは次の式で計算できます。
最終利回り={表面利率+[(100円-取得価格)/償還期間]}/購入価格×100

【長期金利はどう決定されるのか】
長期金利と短期金利の関係を示すのを「利回り曲線(イールド・カーブ)」といいます。縦軸に利率、横軸に期間を取ります。すると正常な場合、その曲線は右肩上がりになります。すなわち期間が長いほど金利は高いということです。日本では10年国債の利回りしか発表されていませんが、米国の財務省証券では短期から超長期までの利回りが発表されています。それによれば、7月8日現在の各期間別財務省証券の利回りは次の通りです。1ヶ月の短期財務省証券(通常、TB: Treasury Billと呼ばれます)は0.14%、3ヶ月のTBは0.18%、期間2年の中期財務省証券(通常TN: Treasury Noteと呼ばれています)は0.94%、期間10年の長期財務省証券(TB: Treasury Bond)は3.40%、30年の超長期財務省証券は4.24%です。ちなみに日本の10年国債の利回りが1.3%前後ですから、日米の金利差は2ポイント以上開いていることになります。

期間が長いほど金利が高くなるのは当然です。何もない状況では、長期金利は短期金利の複利計算したものに相当します。したがってイールド曲線は右上がりになるのです。しかし、現実にはそう簡単ではありません。様々なリスクや経済情勢を反映して、時には利回り曲線は急な勾配になったり、なだらかになったり、逆に右下がりになったりします(これを逆イールド曲線といいます)。最も一般的に見られるのが、「インフレ・リスク(inflation risk)」です。インフレ・リスクとは、将来、インフレが起こると、長期国債を含む固定金利の長期金融商品に投資していると損失を被ることになります。すなわち資金の需給関係をベースにした市場の状況が正常で、10年国債の利回りが2%だったとします。もし3%のインフレが起こると、実質的な利回り(利回り-インフレ率)はマイナスになってしまいます。すなわち償還したとき、投資した時よりも実質的な貨幣価値は減っていることになります。そんなとき、投資家はインフレ率を上割る金利を求めます。将来のインフレ予想が高くなると、それに見合う分、通常の長期金利にインフレ・プレミアムが上乗せされます。要するにインフレ率が高い国の長期金利は高くなるのです。その分、イールド曲線の勾配は急になります。

もう一つは「ディフォルト・リスク(default risk)」です。長期に債券を保有するわけですから、満期日に間違いなく償還されるかどうか分かりません。もちろん国債が償還不能になるケースは極めて希ですが、歴史的にまったくなかったわけではありません。また1980年代に発展途上国がドル建てで大量の国債を発行し、償還不能に陥り、投資家は流通市場で大幅な割引で売却を強いられ、損失を被ったこともあります。通常、そうしたディフォルト・リスクは債券の格付けで評価されます。格付けについては以前、本欄で詳細を説明しましたが、格付けが低下する(すなわちディフォルト・リスクが高まる)と債券の金利は上昇します。要するにディフォルト・リスクに応じた高い金利が付くことになります。これもイールド曲線の勾配を急にします。また景気回復が予想され、将来、長期資金の需要が増えると予想される場合も、長期金利は上昇します。

では逆に長期金利が低下する場合はあるのでしょうか。2008年9月にリーマン・ブラザーズが倒産しましたが、それまでアメリカの10年物財務省証券の利回りは4%近い水準で推移していました。それに伴い金融逼迫も起こり、多くの投資家は投資に慎重になり、リスクの少ない金融商品に資金をシフトさせました。特に最も安全と考えられる国債市場へ大量の資金が流入しました。その結果、10年物財務省証券の利回りは2%の水準にまで低下したのです。同様にことが日本の国債にも起こり、リーマン・ショック以前は1.6%から1.4%の範囲で推移していた10年国債の利回りが、2009年1月には1.1%にまで低下しています。要するにイールド曲線の勾配は緩やかになったのです。これを“質への逃避(flight to quality)”と呼んでいます。

しかし、3月末から状況に変化が見られ始めます。長期金利が上昇し始めたのです。景気に底打ち感が出てきたこと(すなわち長期資金の需要が出てくるとの思惑)、オバマ政権が景気刺激策を発動するに際して大量の財務省証券を発行することでアメリカの財政赤字が膨大な額に達することが懸念され始めたことが、その背景にありました。財務省証券(国債)は最も信頼度の高い金融商品ですが、投資家は特定の金融商品に投資を集中するのを嫌います。様々な金融商品を組み合わせた適切なポートフォリオを行います。したがって“質への逃避”で一時的に資金を国債に集中的に投資したのですが、当然、状況の変化でポートフォリオを組み直したりします。ましてや膨大な財政赤字が予想されるとなれば、財務省証券(国債)に過大に投資するのは賢明な投資方針とはいえないわけです。その結果、財務省証券と日本国債の利回りは上昇したのです。しかし、再び景気の先行き懸念が強まってきたことで、長期資金の需給緩和を見込み、6月末頃から長期金利が低下し始めたのです。金融機関も企業への貸出に慎重になり、国債市場での資金の運用を増やしたことも国債の利回りを低下させることになったのです。

【社債市場】
長期金利の指標は10年国債ですが、政府は様々な期間や種類の国債を発行しています。同様に企業も様々な期間と種類の社債(普通社債、転換社債、ワラント債、劣後債など。また固定金利債と変動金利債もあります)を発行して、資金調達を行っています。当然、社債市場も国債市場の動向の影響を受けます。企業は短期の運転資金に加えて設備投資資金や企業買収などの長期資金を必要としています。短期の資金は銀行借入や短期の社債を発行して調達します。長期の資金は長期社債を発行して調達します。社債は、機関投資家など販売先が限定されている私募債と一般に売り出される公募債があります。機関投資家だけでなく個人投資家も社債に投資することはできます。社債も国債と同様に売り出されます。表面金利などの発行条件は流通市場の利回りの動向や発行企業の格付けなどを元に決定されます。証券会社が社債の販売を引き受けます。これをアンダーライティンと言います。社債は国債同様に流通市場で売買されますので、利回りは常に変動しています。格付けで「投資適格社債」ではないと判断された社債でも、高い金利を付けることで発行できます。投資家の中にはハイリスク・ハイリターンを求める投資家もいるからです。こうした社債は「ジャンク債(Junk bond)」と呼ばれています。ちなみに2009年5月の10年国債の利回りは1.48%ですが、AA格で残存期間10年の社債の利回りは1.77%です。要するに信用度が違うわけですから、社債の利回りは国債の利回りよりも高いのが普通です。

【もうひとつの長期金利】
短期金利の説明の時、「短期プライムレート」について説明しました。プライムレートというのは、優良企業に対する「最優遇金利」のことです。これが貸出金利の基準になります。実際には銀行は企業の信用度などに応じてプライムレートをベースに個別の金利を適用しています。1991年まで短期プライムレートは公定歩合に連動して決められていました。長期プライムレートの長期信用銀行(今はなくなりましたが日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の3行のこと)が発行する5年物の利付金融債の金利に0.9ポイント上乗せして決められていました。しかし、短期プライムレートが銀行の資金調達コスト(普通預金、定期預金、手形金利、コール金利など)の加重平均に基づいて決められるようになり、同時に長期プライムレートの決定方式も変わりました。新方式では、3年未満の貸出は短期プライムレートに0.3ポイント上乗せした金利、3年以上の貸出は0.5ポイント上乗せした金利として設定されています。それだけ市場金利の動きに連動するようになっているのです。

短期、長期のプライムレートは日銀のサイトに掲載されています。短期プライムレートは銀行によってそれぞれ利率が異なっています。従って、日銀の統計では「最頻値」「最高値」「最低値」が掲載されています。2009年7月10日時点では、「最頻値」は1.475%、「最高値」は1.725%、「最低値」は1.475%です。「最頻値」と「最低値」は同じ率です。これは1月13日に変更されて以来、現時点まで変更はありません。では長期プライムレートはどうでしょうか。日銀の統計で使われているのは、みずほコーポレート銀行が発表している長期プライムレートです。それは2009年1月9日に2.40%から2.25%に引き下げられ、4月10日に2.30%に引き上げられ、5月8日に2.10%に引き下げられ、さらに7月10日に1.9%に引き下げられています。要するに7月10日現在の「最頻値」の短期プライムレートは1.475%、長期プライムレートは1.9%ということです。その差は0.425ポイントですが、銀行によって短期プライムレートが違うので長期プライムレートも違ってきます。以上の金利差はあくまでひとつの目安ということです。

【長期金利と金融政策】
日本銀行は短期金利を金融政策の目標に沿ってコントロールすることができます。コール市場に公開市場操作を通して流動性の需要と供給に影響を与えることでコール金利を動かします。それが銀行の資金調達コストにと銀行の準備預金の調達に影響を及ぼし、さらに銀行の貸出に影響を与えます。それが経済活動にも影響を及ぼすことになるのです。理屈からいえば、長期金利は日本銀行がコントロールできないものと考えられています。日本銀行は国債の引き受けを禁止されています。日銀は新発国債を購入することはできないのです。ただ金融調整のために短期国債を使って公開市場操作を行いますが、それは長期金利に影響を与えるものではありません。

しかし、巨額の財政赤字の発生や景気が低迷するなかで「国債価格維持政策」が取られるようになってきています。戦時国債は日銀引き受けで大量に発行され、インフレの原因になった例があります。そうした経験から現在では、前述のように、日銀は直接国債を購入することはできません。アメリカでも1951年までFRBが市場から財務省証券を購入して、価格を維持していました。アメリカでも大量の戦時国債が発行されています。そうした状況のもとで、財務省は、財務省証券の金利が上昇すれば金利負担が増加するのを嫌って、FRBに財務省証券の価格維持を命令していたのです。FRBは流通市場で財務省証券を購入し、価格の下落(金利の上昇)を阻止していました。その結果、過剰な流動性が市場に供給されインフレが発生しました。FRBは国債価格維持政策のため金融政策を発動することができなかったのです。財務省とFRBは交渉の末、1951年に「アコード(合意)」に達し、FRBは国債価格維持政策を放棄することになります。ところが金融危機以降、市場に流動性を供給するという目的で、FRBは財務省証券の購入を行うようになっています。日本では長期国債を日銀が購入して価格維持を行う政策は行われていませんが、デフレ脱却のために行うべきだとの議論もありました。

日銀の資産内容を見てみると、2009年6月末時点で45兆1821億円の長期国債を保有しています。要するに、この分は、日銀が購入した国債の額です。その分だけ流動性が市場に供給されているわけです。日銀は、2009年1月に長期国債の買い入れを行っています。その際、条件として「日本銀行が保有する長期国債の残高は発行銀行券残高を上限とする」とし、利付長期国債を年間で16兆8000億円、購入する方針を明かにしています。残存期間10年以上の長期国債は年間9000億円購入するとされています。これも市場に流動性を供給するのが目的ですが、同時に価格維持政策であることもいえます。また、金融危機が起こった2008年秋以降、日銀は積極的に「国債の現先オペ」を行っており(売り戻し条件付きで国債を購入すること)、資産の中の国債現先による国債の保有額は2009年6月現在で6兆3484億円、金融危機が発生した直後の2008年10月には残高は約11兆円に増えています。また2009年2月に金融機関保有の1兆円の株式の購入も行っています。

【金利と景気】
金利が景気に大きな影響を与えます。金利の変動を通して企業の資金需要は変化します。個人も長期金利が上昇すれば、住宅ローン金利が上昇するので住宅の購入を差し控えたりします。また国際的な資金移動にも大きな影響を与えます。資金は金利の高い国に流れていきます。それは同時に為替相場にも大きな影響を及ぼします。景気の影響を受けながら長期金利は決まりますが、同時に長期金利も景気動向に大きな影響を及ぼすのです。政策的には既に述べましたが、中央銀行は直接的な政策手段を持っていますが、長期金利を直接的にコントロールできないのです。それでも国債市場で国債を購入することで国債の利回りに影響を与えることで、長期金利に間接的な影響を及ぼすことはできます。いずれにせよ、経済の先行きを見るには、長期金利動向は重要な指標であることは間違いありません

1件のコメント »

  1. ローン金利を変動・固定のどちらにするか検討している私としましては、今回のご説明は大変勉強になりました。
    大枠として短期金利⇒日銀の意思、長期金利⇒市場の意思、と理解しています。
    さて、もし今後米国債や日本国債の信用が失われた結果として長期金利が大幅上昇したとの仮定下では、インフレになり、短期金利も必ず上昇するのでしょうか?

    コメント by ひで — 2009年7月15日 @ 21:58

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