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2009/8/10 月曜日

カリフォルニア州の財政危機：連邦政府の景気刺激策を減殺する地方財政の悪化

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経済

- nakaoka @ 16:36

アメリカの各州の財政状況は急速に悪化しています。医療や教育などの住民サービスは州政府の責任であり、財政赤字の拡大で社会プログラムの大幅に削減されています。特にカリフォルニア州の財政状況は急激に悪化しています。７月末に手持ち資金が枯渇すると予想されていましたが、最終段階で民主党と共和党の妥協が成立し、なんとか最悪の事態の発生を回避しました。しかし、財政問題が解決したわけではありません。このまま景気低迷が続き、税収が伸びなければ、再び厳しい状況に陥るのは避けられないでしょう。また州財政の悪化は州政府の歳出削減を招き、連邦政府の景気刺激策の効果を相殺する懸念もあります。さらにカリフォルニア州の所得税の高さから、企業の同州離れの現象も起こっています。以下で、同州の財政危機の分析を行います。

アメリカは財政破綻に向かって疾走しているように見える。財務省の発表によると、２００９年度の連邦政府の財政赤字は史上最高に達する見通しである。昨年10月から今年６月までの累積赤字は１兆０９００万㌦に達し、初めて１兆㌦の大台を超えた。今後も赤字の増大は避けられない見通しで、年度では１兆８４００万㌦に達すると見られている。オバマ政権の積極的な景気刺激策もなかなか効果が現れず、来年度も赤字はさらに膨れるのは避けられない状況である。

しかし、財政赤字問題は連邦政府に留まるものではない。センター・オン・バジェット・アンド・ポリシー・プライオリティの調査（６月29日）によると、全米50州のうち少なくとも48州が７月１日から始まる新年度で財政赤字に陥るか、その可能性が強いという。財政赤字の総額は１６６０億㌦に達すると見られる。２０１１年にはほぼ全州の歳入が落ち込み、赤字の総額は３５００億㌦を超えると予想されている。

１９７０年代に倒産の瀬戸際まで追い込まれたニューヨーク州も、再び金融危機の直撃を受けて深刻な財政赤字に陥っている。同州の歳入の20％が証券会社関連であり、金融危機の影響は特に際立っている。昨年度の財政赤字は１３０億㌦に達しており、州政府は様々な増収政策を講じてきたが、デビッド・パターソン知事が「もはや井戸は涸れてしまった」と嘆く事態に至っている。

さらに深刻な財政状況に直面しているのが、カリフォルニア州である。景気悪化で税収が大幅に落ち込み、大恐慌以来の資金不足に陥り、何らかの対策を講じない限り、７月末には現金が枯渇する事態に直面している。２００８年12月1日、アーノルド・シュワルツネッガー知事は財政緊急事態宣言を発表し、「緊急対策を講じない限り、既に１１２億㌦に達している財政赤字が、今後18ヶ月間に２８０億㌦にまで増加し、州は財政危機に向かって進んでいる」と事態の深刻さを訴えた。

同州の事態が他の州よりも深刻なのは、財政赤字を巡る民主党と共和党の対立が厳しいことと、議会が増税を実施する場合に厳しい法的な制限が課されているからである。巨額の財政赤字を目の前に、民主党は増税による歳入増を主張しているのに対して、共和党は歳出削減を主張して譲らず、議会が機能麻痺に陥っている。

さらにアメリカの“タックス・リボルト（納税者の反乱）”の発端となった１９７８年の「提案一三号」によって、州財政の柱である固定資産税の税率に上限が設定され、議会が増税を行うには州の下院と上院でそれぞれ三分二の支持が必要だと規定されている。三分の二の支持が得られなければ、増税案は住民投票に掛けられることになっている。
　昨年11月に行われた州議会選挙で民主党が両院で過半数を獲得したものの、スーパー・マジョリティといわれる三分の二の議席を確保するには至らなかった。議会はシュワルツネッガー知事の要請を受け、２月に2009年度と2010年度の予算案を可決したものの、増税に関する部分は住民投票の結果に委ねられることになった。

「１A提案」から「１F提案」まで六本の提案が住民投票に掛けられた。「１A提案」は州の予算手続きを改正し、緊急予算安定基金を増額すること、「１B提案」は学校に対する補正支出を認めるもので、「１C提案」は将来の州運営の宝くじからの資金借入を認めるものという内容であった。５月19日に行われた住民投票で可決されたのは「１F提案」のみで、他の５提案は否決された。「１F提案」は財政赤字が予想されるとき、州議会の議員や州政府の役人の給料引き上げを規制するというもので、直接、財政赤字解決には結びつかないものであった。

議会は事態打開に動いたが、民主党と共和党の間に妥協は成立せず、財政状況はさらに悪化していった。州政府はつなぎ資金を調達するために短期の州債を発行しているが、州財政の逼迫化で債券の格付けが下げられる事態に直面した。州政府は連邦政府に債券に連邦政府保証をするように求めたが、オバマ政権は「連邦政府に保証する権限はない」と突っぱねたため、州政府は破綻回避の道を断たれてしまった。そうした状況のもとで州政府と民主党と共和党の間で妥協点を見いだす努力が行われた。しかし、増税を支持した共和党議員の中には選挙区でリコール運動が起こるなど、なかなか妥協点を見いだせない事態が続いた。

その間に財政状況はさらに悪化し、州政府の専門機関の見通しでは歳入不足は４２０億㌦に達するまでに膨れあがっていった。州政府の財務担当責任者のジョン・チェン氏は「大恐慌以来の資金不足に直面している。財務的なオプションはすべてやり尽くした」と、事態の深刻さを訴えた。

事態が動いたのは７月20日である。シュワルツネッガー知事は「財政赤字問題で合意に達した」と発表を行った。合意には民主党と共和党のそれぞれの要求が織り込まれた。妥協案の柱は１５０億㌦の歳出削減と50億㌦の市町村の地方政府からの借入である。歳出削減には、教育関連費用で90億㌦、刑務所経費や州政府の役人の給与削減で10億㌦などが含まれている。さらに会計処理の変更という反則技まで動員しての窮余の策の妥協であった。早くも刑務所経費の削減で囚人が早期に釈放されることになり、住民の不安が高まっている。

州議会では夜を徹した議論が行われ、７月24日の午前６時過ぎに上院が予算案を可決、続いて下院も可決した。可決後、ダレル・スタインバーグ上院議長は「何の喜びもない。やっと救われただけだ」と焦燥し切った表情で語っていた。これで同州の財政赤字問題が解決したわけではない。財政赤字は予想を上回るスピードで拡大しており、議員の中から「来年の１月までに再び予算を見直さざるを得なくなる」との声も出ている。

同州は“ゴールデン・ステート”と呼ばれ、アメリカン・ドリームが実現される希望に満ちた州であった。だが、今や衰退しつつある州になっている。経済状況は最悪で、失業率は12％に近づきつつあり、幾つかの市の失業率はデトロイトよりも高い状況にある。かつては人々を引きつけた州であったが、最近では毎年、人口は10万人減っている。州の所得税率はハワイ州に次いで全米で２番目に高く、また厳しい規制も課されており、今や企業にとって同州は一番ビジネスがしにくい州になっている。経営誌『チーフ・エグゼクティブ』は、同州は過去４年間にビジネスをするには最も環境が悪い州にランクしている。

さらに今回の大幅な歳出削減で、同州が誇ってきた優れた教育システムも崩れつつある。州立大学の入学者数の削減や公立の小学校、中学校の教員の削減も行われている。低所得者や高齢者、子供の医療補助も大幅に削減されている。財政赤字は“カリフォルニア・ドリーム”を夢物語にしてしまっているようだ。

州財政状況に関連して、もうひとつ触れておかなければならないことがある。それは連邦政府の経済政策との関係である。オバマ政権は史上最大の７８７０億㌦の景気政策を発動している。問題はそれがどの程度の効果を発揮するかである。ルーズベルト政権のニューディール政策が効果があったかどうかはまだ決着のついていない問題である。だが、最近のアメリカ学会の論調では、期待されたほどの効果がなかったとの見方が強い。ルーズベルト大統領は基本的に財政均衡主義者で、景気が上向いてきたとき、増税を行っている。それが景気政策の効果を削ぎ、さらにアメリカ経済を深刻な状況に追い込んだとの指摘もある。もうひとつ忘れてはならないのは、地方財政との関係である。当時の州財政は赤字に陥っており、現在の状況と似ていた。連邦政府は財政支出を増やしていたが、逆に州政府は財政削減を行っていた。それが結果的に連邦政府の景気政策の効果を減殺することになったのは間違いない。現在も同様な事態に陥っているといえる。したがって、連邦政府の財政政策を見ているだけでは、アメリカ経済の状況を正確に分析できないといえる。

1件のコメント

経済に関しては、全くの素人ですが、株には関心があります。
このようなほとんどの州で、財政危機の状態が続いている状況で、
なぜ、アメリカの株価は上がっているのでしょうか？
FRBがお金を刷っているので、当面、
暴落する危険性はないのでしょうか？

コメント by 矛盾 — 2009年8月13日 @ 21:36

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