中岡望の目からウロコのアメリカ

2009/11/18 水曜日

強まるFRB(連邦準備制度理事会)に対する規制強化と情報公開圧力

Filed under: - nakaoka @ 15:25

金融政策の独立性が議論されます。政治的な影響を排して、通貨価値の安定を図るというのが、その主張の論拠です。その結果、中央銀行は一種の聖域となっています。金融危機に対する対処の仕方もあり、アメリカではFRB(連邦準備制度理事会)に対する批判が強まっています。伝統的にアメリカのリバタリアン(自由主義者)は中央銀行そのものに対しても批判を加えています。最近出版された本『End the Fed』の中でロン・ポール上院議員(共和党)は、通貨発行権を中央銀行が独占することを厳しく批判しています。金本位制のように金をベースに銀行が自由に通貨を発行できるようにすべきであるというのが、その主張です。金本位制復帰論は折に触れてマスコミに出てきますが、その是非は別にしても、中央銀行のあり方を巡る議論、言い換えれば中央銀行の規制が必要だとの議論がアメリカで出てきています。ポール上院議員は「連邦準備制度透明化法」を議会に提案しています。また、民主党のクリストファー・ドット上院議員も大恐慌以来最大のFRBの使命の見直しを行うために法案提出を準備しています。今回は、FRBの情報公開と規制を巡る記事を掲載します。なお執筆時点は9月下旬です。

リーマンブラザーズ証券の破綻に始まった金融危機の余震は、依然として続いている。景気の底打ちが伝えられているが、米銀の倒産には歯止めがかかっていない。8月に倒産した銀行は52行、9月も22日までに18行が倒産している。その一方で生き残った大手銀行はさらに巨大化し始めている。JPモルガン・チェースの総資産は2007年から2009年3月末の期間に50%も増えている。さらに全国の預金総額の10%を保有するまでになっている。バンク・オブ・アメリカはメリルリンチ証券などを買収したこともあり、総資産は138%増えている。また最大手商業銀行のウエルズ・ファーゴ銀行も43%の増加を達成し、米国の金融市場の寡占化が急速に進んでいる。こうした金融機関は、金融危機で“焼け太り”したのである。

FRB(連邦準備制度理事会)も“焼け太り”しそうである。オバマ政権は金融危機の原因は十分な市場規制が行われなかったことにあるとして、市場規制の強化を狙った金融制度改革を推し進めようとしている。その改革の大きな柱が、FRBの権限強化である。
FRBは“シークレット・テンプル(秘密の寺院)”を称されるように、金融政策の独立性を盾に巨大な影響力を構築してきた。その寺院は、強大な権威を持つ議長と、巨大なコンピュータ・システム、さらに数多くの優れたエコノミストによって守られ、一般の人を寄せ付けない雰囲気に包まれている。FRB理事の任期は14年と長く、その地位は保障され、寺院の聖域には大統領といえども、また議会ですら一歩も足を踏み込むことはできない。

6月に発表されたオバマ政権の金融改革案にはFRBの金融機関に対する様々な権限の強化が盛り込まれている。まずFRBに「金融機関、非金融機関を問わず金融市場に脅威を与える可能性があるすべての企業を監督する権限」と「支払い、精算、決済システムを監視する権限」が新たに付与され、さらに「緊急貸出権限を強化」する法案の修正が盛り込まれている。

今回の金融危機でFRBは明確な法的権限がないまま、問題銀行を救済するために少なくとも19件に及ぶ超法規的な貸出を行っている。金融機関から債券を買い取り、市場に1兆㌦を超える資金を供給している。改革案では、そうしたFRBの緊急貸出に正式に法的な裏付けを与えることになっている。既に強力な権限を持つ上にさらに新たな権限が付与されようとしている。FRBは、ハンフリー・ホーキンス法によって議長が年に2回、議会で証言し、金融政策報告をする以外の義務はなく、国民に対する直接的な説明義務を負っていない特別な存在である(追記:ハンフリー・ホーキンス法は2000年に失効し、現在は慣例によって行われている。また、状況に応じて議長は議会の要請で証言を行っている)。
それだけに権限の強化は様々な批判を呼んでいる。

たとえばFRBは金融機関に対してどの程度の額の緊急融資を行っているかという情報の公開を拒否
してきた。FRBは、その理由として「情報公開は金融機関に対する投資家の取り付けを誘発し、経営問題を深刻化させる」と説明してきた。こうしたFRBに対して真正面から挑戦したのが通信社のブルームバーグである。同社の記者は、FRBが融資の担保として保有する証券の質に疑問があると考え、FRBに情報開示を求めた。しかし、FRBはその要請を拒否したため、同社は2008年11月7日に「情報公開法」に基づいてニューヨーク市の地方裁判所に対して、FRBに緊急融資の担保に関する情報公開を求める訴訟を起こした。

FRBの総資産は金融危機が発生する前の2008年8月末には9000億㌦であったが、4ヶ月後の12月末には3兆㌦にまで膨れあがっていた(なお最新のデータでは、FRBの総資産は若干減少している)。ブルームバーグのマシュー・ウインクラー編集長は「納税者は政府の異例な金融機関救済に関連したリスク、コスト、救済手段に関して知る権利がある」と、情報公開を求める目的を説明している。さらに「FRBは大恐慌以来最大の金融危機に対応するために11の融資プログラムを通して融資を行っている」と指摘している。

FRBは情報開示をしない理由として、融資内容は“取引上の秘密情報”であり、「こうした種類の情報は極めてセンシティブで、将来、開示することがあるとしても当分の間は秘密にすべきものである」(FRBのアリソン・スロー上級弁護士)と反論。また裁判の審議の中でも「融資情報は情報公開法の対象には含まれていないし、そうした情報の公開は借り手の競争力を損なうことになる」と情報開示拒否の主張を繰り返した。

しかし、8月24日、ロレッタ・プレスカ判事はFRBの主張を退け、「FRBは不当に情報を隠匿した」として、5日以内に書類をブルームバーグに提供することを命じる判決を下した。FRBは同判決を不服として控訴裁判所に上告した。同時に情報開示が行われれば影響を被る可能がある大手銀行で構成されるクリアリング・ハウス協会も同判決を不服として、情報開示の差し止めを求める訴訟を起こしている。

最終的な判決がどうなるか分からないが、金融業界の特異性を理由に情報公開を拒んできたFRBにとって、この判決は大きなダメージとなることは間違いない。
 ジャーナリズムだけでなく、議会でもFRBの強大な権力と秘密主義を懸念する声は強い。ロン・ポール下院議員は「連邦準備制度透明化法」を提出。上院でも同様の内容の「2009年連邦準備サンセット法」が提出されている。「連邦準備透明法」は290名の下院議員が共同提出者として名を連ねている。下院金融サービス委員会のバーニー・フランク委員長は同法案支持の議員に書簡を送り、「私は同法に賛成で、委員会で取り上げる」と、法案成立に向けた動きを取る意向を明らかにしている。さらに「FRBの権限は民主的な社会に存在すべきものから逸脱しており、選挙で選ばれていない一部のエリートの手に委ねられている。来年、FRBの権限を規制するための準備を行っている」と付け加えている。

同法の狙いは、政府機関によるFRBの監査を義務づけることにある。監査対象には、銀行融資の内容や貸出制度、市場操作、海外の中央銀行との協定なども含まれることになる。監査結果は議会に報告されることになる。FRBは外部の法人によって監査を受けていると主張しているが、ポール議員は「FRBの活動の最も重要な部分が監査の対象から外されている」と、FRBの主張を批判している。
 監査の対象が融資の内容から市場操作まで及ぶということは、FRBの金融政策がすべて明らかにされることを意味する。金融の特殊性を理由に情報公開を渋ることはできなくなれば、FRBの権限が制限されるだけでなく、金融政策の実施にも大きな齟齬を来す可能性も出てくるだろう。

オバマ政権が進めるFRB強化を求める金融改革法と、情報公開を義務づけることで権限を規制すると相反する動きの中で、FRBは翻弄されることになるだろう。その結果如何では、FRBの圧倒的な力に陰りがでてくるかもしれない

1件のコメント »

  1. 依然として、苦しい状況は続いているんですね。
    去年、派遣村なるものを見たとき、今回だけだと思っていましたが、今の状況を見ると、そうでもなさそうですよね。

    コメント by エステをお試しぃ^^ — 2009年11月19日 @ 11:17

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