中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/20 土曜日

上院司法委員会委員長を巡る抗争ー始まった保守派の攻勢

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選挙が終れば、次に注目されるのは人事です。先に書いたようにパウエル国務長官の辞任など第2次ブッシュ政権の閣僚人事が新聞のトップ記事になっています。それと同時に、議会人事も大きな焦点になのです。まず議会人事で大事なのは2年間の議会運営の各党の責任者である院内総務に誰がなるかあります。また各委員会の委員に誰がなるのかも、もう1つの大きな焦点です。当面の最大の議会人事は、「上院司法委員会委員長」の選出です。実はこのところブッシュ大統領が指名した裁判官候補が議会(民主党が反対したため)の同意を得ることができず、何度も承認に失敗しています。また、近いうちに最高裁判事の承認も必要となる見通してです。裁判官の承認を検討するのが、上院司法委員会です。上院司法委員会は公聴会を開き、指名された人物がふさわしいかどうか、その思想は実績などを本人から聴取したり、証人を読んだりして、調べます。そして、投票で証人するか、拒否するかを決定します。委員会の承認を得た後、総会で最終的な投票を行います。もし委員会と、委員長が指名者に対して厳しい態度を取り、否決したり、また委員会で承認しても総会で否決される場合もあります。

今回、上院司法委員会の委員長人事が問題になっているのは、選挙で活躍したブッシュ大統領の再選を支持したエバンジェリカルと呼ばれる人々を中心とするキリスト教右派が、その功績をバックに政府、議会に対して圧力をかけ、「中絶権」を主張する委員長候補を認めないように圧力をかけているからです。議会の1つの姿を知る良いチャンスなので、少し詳しく説明します。

スペクター人事
アーレン・スペクター議員(74歳、上院4期目)の委員長就任を巡る抗争が起こっています。同議員は「中絶権」を支持し、保守的な宗教団体と対立しています。保守派は、もし彼が司法委員会委員長に就任すると、中絶に反対する裁判官の承認に際して「中絶権」を認めるかどうかを“リトマス紙”として利用するのでないかを懸念しているのです。また、同議員は選挙中にブッシュ大統領に対して「中絶に反対する最高裁判事は承認しない」と警告していました。それが、保守派の大きな反発を呼んだのです。

こうした保守派の反対に対して、スペクター議員は「自分は単に最高裁判事の証人は超党派の支持がいるということを述べただけだ」と弁明。さらに司法委員会の同僚議員の説得を行なっていました。同議員との話し合いで、同僚議員は保守派の要求を受け入れる「書簡」を発表することを求めました。同議員はこれに同意、記者会見で「書簡」を読み上げたのです。スペクター議員の「書簡」発表後、司法委員会の共和党委員は集まり、投票して10名のうち9名が同議員の委員長就任を支持しました。1月に新議会が始まると、正式に委員長選挙が行なわれます。新メンバーでの投票となり、共和党全体の承認が必要ですが、今回の支持で実質的に同議員の議長就任は固まったと見られています。

「書簡」発表の経緯は、次の通りです。スペクター議員はテキサス州選出のジョン・コーンニン(John Cornyn)と会談し、同議員の賛同を得たことが、承認に繋がったのです。コーンイン議員は、保守派の要求に同意するころを「書面」にすることを求めたため、同議員は「書簡」を発表することになったのです。同議員が委員長に就任するのは、アメリカ議会特有のシニオリフィ・システム(日本の年功序列と同じで、在任期間が長いものが委員長になる)現委員長のオリン・ハッチ(Orrin Hatch)議員が委員長職に6年いるためである。議会ルールでは、在任期間は6年に制限されており、ハッチ議員はこれに該当するため、新議会では委員長に立候補せず、ナンバー2のスペンサー議員が与党から立候補することになるのです。ちなみにスペクター議員は、元民主党員で、穏健派の議員とみられています。選挙では共和党のパトリック・トーミー(Patrick Toomey:テネシー選出の下院議員)がチャレンジ。ブッシュ大統領がトーミー候補を積極的に支持する応援を行ないましたが、選挙で勝利を収めたのです。

司法委員会の共和党委員が同議員の議長指示に回った理由は、同議員が(1)「中絶権」を裁判官承認のリトマス紙にしないこと、(2)ブッシュ大統領の指名を阻止しないし、公聴会、承認投票を速やかに行なう、(3)上院での民主党のフィルバスターを封じるための上院のルール変更を認めることを「書簡」で確認したからです。フィルバスターに関していえば、それを阻止するためには上院議員100名のうち60名の支持が必要です。現在、共和党は55議席ですが、現在のルールでは民主党のフィルバスターを阻止できないのです。特に裁判官任命に関して、民主党は抵抗しています。そのため、政府と与党は、必要であれば、51名の議員でフィルバスターを阻止するように上院のルールを変える必要があると考えているのです。スペクター議員は、「書簡」の中でルール改正に反対しない趣旨の文章を入れています。また、同議員は書簡の中で「私は指名者の公聴会と承認投票を早めることを大統領に確約した」と書いています。

反対していた保守的な宗教団体は、ゲイリー・バウアー(Gary Bauer:president of American Values)、ポール・エウイリッチ(Paul Weyrich:フリー・コングレス・ファンデーション、トニー・パーキンス(Tony Perkins:the Family Research Council)といった団体の指導者です。スペクターの書簡発表後、パーキンスは「同議員がこの約束の信義を守ることを期待する」と語り、バウアーは「我々は同議員がブッシュ大統領の判事任命を熱心に支持するものと期待している」と語っっています。Family Research Council のJayd Henricksは「上院は選挙で勝ち取ったものよりも議会のルールを大切にした。私たちはメッセージを送ったと思っている。そのメッセージは聞き入れられると期待している」と語っています。また、Concerned Women for America は声明を発表、「スペクターの書簡は余りに多くの問題に答えていない」と述べ、Christian Coalition 会長Roberta Combsは「スペクターの勝利は保守主義者の敗北ではない」と語っています。保守派は依然として反対しており、スペクター議員の司法委員長就任に賛成したリンゼイ・グラハム(Lindsey Graham:共和党)上院議員のオフィスには抗議の電話が殺到しています。同議員は「保守グループが私の決定に驚いたと思っていることは理解している」と語っています。

議会でスペクター議員の司法委員会委員長の就任が実質的に承認されましたが、まだ紛糾の火種は残っているようです。

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