中岡望の目からウロコのアメリカ » 始まった保守主義者の反攻：ティーバーティ運動の背後にあるもの

2010/2/7 日曜日

始まった保守主義者の反攻：ティーバーティ運動の背後にあるもの

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経済

- nakaoka @ 21:41

オバマ大統領の支持率の低下に歩調を合わせるように保守主義者の反攻が始まっています。今まで何度か保守主義運動の展開がありましたが、今回はティーパーティと呼ばれる草の根運動が中心になっています。２月６日からナッシュビルでティーパーティ全国大会が開催され、保守主義者は気勢をあげています。アメリカの保守主義運動については私の『アメリカ保守主義革命』に詳しく書かれています。ただ、このままティーパーティ運動が勢いを増すかどうか、まだ不確定です。ただ１１月の中間選挙を控え、同運動の動向は目が離せません。ここにアップした原稿は『週刊東洋経済』に寄稿したものです。

アメリカが“リベラルな国”であるというのは、多くの日本人がアメリカに対して抱いている大いなる幻想である。保守主義思想は信じられないほどアメリカ社会に深く根付いている。２００８年の大統領選挙と議会選挙でのオバマ候補と民主党の圧勝は、保守主義運動の終焉を意味する訳ではない。この１年、保守主義者たちは着実に体勢を立て直しつつある。1年前、ジャーナリストのサム・タネンハウスは『保守主義の死』（ランダムハウス刊）と題する本を出版し、「保守主義運動は単に後退しているだけではない。もはや時代遅れである」と断じ、“保守主義の死”を宣言した。オバマ政権の誕生に沸く熱狂的な雰囲気の中で、その宣言は当然のごとく受け取られた。

　保守主義運動の実態を知らない人にとって、共和党の敗北は保守主義の敗北と写ったのも当然である。しかし、共和党の存在は保守主義運動のひとつの要素に過ぎない。共和党があって保守主義運動が存在するのではなく、保守主義者たちが自らのイデオロギーを実現する手段として共和党を選び、支配してきたのである。共和党が保守主義の理念から逸脱すれば、保守主義者は容赦なく共和党を切り捨ててきた。それがアメリカの政治のひとつの現実である。

08年の選挙は共和党の大敗であった。オバマ候補が３６５人の選挙人を獲得したのに対して、マケイン候補はわずか１７３人に留まった。得票率もオバマ候補の約53％に対してマケイン候補は46％と大差がついた。議会も下院で民主党が２５７議席を得たのに対して共和党は１７９議席に過ぎなかった。上院も35議席の改選で共和党は８議席を失い、上院の勢力は民主党57議席、共和党41議席、無党派２議席となり、民主党が圧倒的多数を占めた。

しかし、保守主義者は08年の選挙以上に悲惨な敗北を喫したことがある。04年の大統領選挙は現職のジョンソン大統領とゴールドウォーター上院議員の間で争われた。ゴールドウォーター上院議員は、保守主義者が選んだ最初の保守主義を代表する政治家であった。選挙の結果、ジョンソン大統領が４８６人の選挙人を得たのに対して、ゴールドウォーター上院議員が得た選挙人はわずか52人に過ぎなかった。保守主義者の完膚無き敗北であった。議会も下院は民主党が２９５議席、共和党は36議席を失い、１４０議席となった。選挙後の上院の勢力図も民主党が68議席、共和党が32議席で、共和党の壊滅的敗北であった。

この選挙の敗北を契機に保守主義者はダイレクトメールを使った独自の選挙資金集めの方法を作り出し、草の根運動を展開し、民主党の地盤である南部を切り崩していった。同時にロックフェラー・リパブリカンと呼ばれる中道リベラル派を共和党から放逐し、共和党の思想の純化を図り、完全に共和党を乗っ取ったのである。それが80年の大統領選挙でレーガン候補の圧勝を導き、“保守革命”を実現したのである。
　保守派はブッシュ大統領を保守主義思想に反して大きな政府を作ったと裏切り者と呼び、マケイ上院議員を保守主義者と認めなかった。08年の大統領選挙は無党派がオバマ候補を支持したのに対して、保守派がマケイン候補を見限ったことが、勝敗を決したのである。マケイン候補は保守派の支持を得るためにペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に指名したが、状況を転換することはできなかった。

だがオバマ政権のもとで再び保守派の巻き返しが始まった。昨年11月に行われた選挙でバージニア州とロードアイランド州の知事選で共和党候補が勝利を収めた。さらに１月19日に行われたマサチューセッツ州の上院補選で共和党候補が勝利した。同州は民主党の指定席と言われた州であるが、ここでもオバマ大統領のてこ入れにもかかわらず保守派は圧倒的な勝利を収めた。

世論調査で保守派が多数占める

共和党候補を勝利に導いたのは“ティーパーティ”と呼ばれる新しい保守主義者の草の根グループである。同グループは全国的な組織を持たず、小さな政府、減税といった保守主義の主張を掲げ、全国に広がっている。マサチューセッツ州上院補選で投票した有権者の40％がティーパーティを支持。反対と答えた有権者は41％で、拮抗する結果となっている（ラスムーセン調査）。この１年に急速に台頭してきたティーパーティは、急速にアメリカ国民の中に浸透しつつある。その名称は、アメリカ独立戦争のキッカケになったイギリスの課税に反対して起こった「ボストン茶会事件」に由来している。このグループはレーガン大統領を崇拝し、外から共和党の純化を図り、共和党を再び保守主義の党として再生することを目指している。

同時に保守主義運動を支える膨大な保守層の存在を無視してはならない。ギャロップが１月７日に発表した世論調査では、自分を保守主義者だと答えた比率は40％、リベラルと答えた比率は36％であった。中道派は21％である。また昨年の12月11日にウォールストリート・ジャーナルとＮＢＣが共同で行った世論調査では、ティーパーティ運動を積極的に評価すると答えた比率は41％で、評価しないと答えた比率23％を大きく上回っている。全国のティーパーティは９月にワシントンで減税を求める大規模なデモを行い、メディアの注目を集めた。さらに各地域のティーパーティはそれぞれ地元で集会を行い、着実に支持基盤を拡大しつつある。２月にティーパーティ全国大会を開催し、各地のネットワークの強化と各グループの協力促進を狙っている。その先に11月の中間選挙を見据えていることは間違いない。

ただティーパーティ運動がさらに勢いを増していくのかどうか即断はできない。運動が大きく発展するには、運動を支える指導者やイデオローグが必要である。70年代、80年代の保守主義運動はレーガン大統領という政治的発言者を得たことが大きな力となった。現在のティーパーティ運動の背後にはリチャード・アーミィ元下院共和党院内総務が主催する組織フリーダム・ワークスが存在すると言われている。また自由主義者のロン・ポール共和党上院議員も積極的にティーパーティ運動に関わっているが、熱狂的な国民的支持を得る人物ではない。保守主義者の中にはペイリン元アラスカ州知事に期待を寄せる声は強いが、指導者としての資質に問題がある。

各地に分散するティーパーティを結集する政治的指導者がいない上に、思想面でのイデオローグもまだ登場していない。そうした運動の欠陥をどう補うかが、大きな課題として残っている。ブッシュ政権下での保守主義者の挫折を政治的、思想的にどう克服するかが、運動が本格的に展開するかどうかの鍵を握っているといえる。

保守主義者の当面の目標は、中間選挙で民主党から議席を取り戻すことにある。ティーパーティは独自の候補者擁立の動きをすることで共和党を牽制し、保守主義の立場を鮮明にするように圧力を掛けている。年内は10％台の失業率が続くと予想され、オバマ当選を実現させた無党派層のオバマ離れが見られる。現状でも中間選挙では民主党が両院で過半数を維持したとしても、議席を失うことは間違いないと見られている。今度、ティーパーティが保守層を結集し、無党派層の取り込みに成功すれば、民主党とオバマ政権は逆風の中で中間選挙を迎えることになるだろう。

オバマ政権の誕生で再びリベラルの時代が到来したと言われたが、早くも保守主義者の逆襲が始まっている。今後、アメリカの政治は大きく流動化する可能性がある。

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