中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/3/27 土曜日

ユーロの将来:ギリシャ危機で露呈したユーロの弱点

Filed under: - nakaoka @ 0:41

ギリシャの財政危機に端を発したユーロ危機も当面の山は越えたようです。ギリシャ政府は自力で50億ユーロの国債を発行し、財政赤字削減策を打ち出しました。厳しい緊縮策は国内で強い反発を招いていますが、金融市場や為替市場は落ち着きを取り戻し、ユーロ相場も回復に向かっています。この数ヶ月のユーロ相場の動きを見てみると、対ドルでは、2月25日に1ユーロ=1.3489ドルの安値を付け、緩やかに上昇に転じています。3月17日の相場は1ユーロ=1.3756ドルです。対円相場でみると、2月25日に1ユーロ=120円66銭の安値を付けた後、反転しています。3月17日の相場は、1ユーロ=124円43銭です。ちなみに過去120日のユーロの対ドル相場の最高値は、昨年の12月3日の1ユーロ=1.512ドルでした。対円相場では、10月26日の1ユーロ=138円09銭でした。

【ギリシャ危機はまだ終わらない】
このままユーロ相場の上昇が続くかどうか、まだ判断できません。当面の危機を乗り切ったとは言え、ギリシャ政府の国債は4月に120億ユーロ、5月に80億ユーロの満期が到来します。こうした返済資金の手当てはまだ付いていません。多くの欧州の銀行は巨額のギリシャ国債を保有しています。たとえば、ドイツのコメルツバンクが保有するギリシャ国債は320億ユーロに達しています。欧州の銀行が巨額のギリシャ国債を保有している理由は極めて簡単です。民間銀行は現在、欧州中央銀行(ECB)から金利1%で資金を借りることができます。他方、ギリシャ国債の利回りは5%程度ですから、ECBから借りた資金でギリシャ国債を買えば、大きな利益を上げることができるからです。またヘッジファンドなども巨額のギリシャ国債を持っています。そうした投資家は、将来のリスクに備えてクレジット・デフォルト・スワップを組んでいます。その額は850億ドルに達していると推定されます。今、ギリシャはアメリカのサブプライムローン危機と同じような状況に置かれているのです。そうした危機を本当に乗り切ることができるのか。もしギリシャ国債がディフォルトに陥れば、新しい金融危機が発生する可能性もあります。その意味で、ギリシャ危機はまだ完全に終わったとは言えない状況です。

【ユーロ導入】
そうした状況の中で「ユーロ」を共通通貨とする欧州通貨同盟が崩壊するのではないかという議論も出てきています。現在の共通通貨ユーロが導入されたのは1999年1月1日です。最初はEU(欧州連合)に加入する11カ国(ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、アイルランド、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、フィンランド)で発足しましたが、その後、ギリシャ、スロベニア、キプロス、マルタ、スロバキアが加わり、現在は16カ国になっています(ちなみにイギリスは通貨同盟に加わっておらず、今でもポンドを使っています)。この16カ国を「ユーロ・ゾーン」と呼んでいます。ユーロの導入と共に、欧州中央銀行(ECB)が設立され、共通の金融政策が行われるようになりました。すなわち、金利はECBが決定し、それはユーロ・ゾーンの国で適用されます。

ユーロが最初に為替市場で取引されたのは1999年1月4日で、その時の対ドル相場は1ユーロ=1.1789ドルでした。現在の水準と比べると、非常にユーロ安で取引が始まったといえます。ユーロ相場は下落が続き、2000年10月26日には1ユーロ=0.8252ドルの最安値を記録しています。ユーロ安に対処するためにECBや日銀、ニューヨーク連銀が市場介入して、ユーロを買い支える局面もありました。そして2008年7月15日に1ユーロ=1.599ドルまで上昇しています。対円相場で見ると、2000年10月26日に1ユーロ=89円30銭の安値を付けています(すなわち超円高でした)。それが2008年7月23日に1ユーロ=169円75銭まで、ユーロ相場は上昇しています。こうしたプロセスを経ながら、ユーロはドルに並ぶ国際通貨として認知されていきます。ユーロが導入された翌年の2000年にはユーロは世界の外貨準備の18.8%しか占めていませんでした。ただ1998年のユーロ・ゾーンの中で最強の経済力を持っていたドイツ・マルクの外貨準備の比率が約14%あったので、ユーロ導入で若干増えたといえます。しかし、着実にその比率は高まり、2008年には26.5%になっています。逆にドルの比率は2000年の70.5%から2008年には64%にまで低下しています。ちなみに円は2000年の段階で6.3%でしたが、2008年には3.3%にまで低下しています。

【通貨同盟の構造的な問題】
実は、ユーロには重大な問題があります。それはECBが共通な金融政策を担当するのに対して、財政政策は加盟国の政府に任されていることです。すなわち金利はECBが決めるのに、税制や歳出は加盟国の政府が決めるという二重構造になっているのです。またユーロ・ゾーンの国の経済成長率やインフレ率は異なっています。本来なら一つの国では金融政策と財政政策は一体化して、その国の経済状況に合わせて行われます。ユーロ・ゾーンは共通通貨のユーロを導入したのですが、国家の枠組みは残されています、財政状況がばらばらでは、共通通貨であるユーロを維持するのは困難です。そこで、加盟国の財政規律を守るために、1997年に「安定と成長のための協定」が結ばれます。そこで通貨同盟に加入する財政の基準が決められたのです。すなわち「財政赤字はGDPの3%以内」と基準を守ることが要請されました。もし、この基準に違反すると、その国は違反金を支払わなければなりません。さらに2005年3月に「国債残高をGDPの60%以下」に抑える修正が加えられました。

しかし、現実には、多くの加盟国はこの基準を満たすことが出来ませんでした。今回、問題となったギリシャは、この「60%、3%ルール」を満たしたことはありません。また、ギリシャはGDP統計に地下経済などの経済活動など通常はGDP統計に加えられない数値を上乗せしてGDP統計を水増したり、国債発行をスワップとして処理して債務額を減らすなどの細工をして基準を満たそうとしたこともあります。ギリシャの危機は、格付け会社による格下げが発端となりました。それほどギリシャの財政状況は悪いと見られています。一国の場合、景気が悪くなれば景気政策を発動して、財政赤字を拡大することができます。ただ、ユーロ・ゾーンの国には、そうした財政政策に枠がはめられているのです。

もうひとつの問題は、景気が悪い国の為替相場は下落するのが普通です。しかし、ユーロ・ゾーンの国は為替効果を期待できないのです。ユーロ相場はユーロ全体の経済で決まり、特定の国の経済状況は問題になりません。仮にギリシャが為替相場を切り下げて輸出を増やそうとしても、それはできないのです。ただ、今回のユーロ安はギリシャの経済危機が原因となっています。それは他の加盟国にも影響を与えます。ドイツのように輸出依存度が高い国はユーロ安がプラスに作用します。現実にユーロ安でドイツの輸出は大きく増えています。期せずして景気刺激効果がもたらされた訳です。これは“ギリシャによる刺激(Greek Stimulus)”と呼ばれています。逆に輸入依存度の高い国ではユーロ安はマイナスに働きます。すなわち輸入品価格が上昇するからです。

また金融政策に関しても同様のことが言えます。現在、ドイツやフランスの景気回復は進み、インフレ懸念が議論されています。異常な低金利政策の是正が必要になってきています。この問題は「出口戦略」として議論されています。しかし、景気の良い国の経済状況に基づいて金利を引き上げれば、ギリシャなど景気の悪い国に大きなダメージを与えることになります。現在、巨額の財政赤字を抱え、不況に苦しんでいるユーロ・ゾーンの国は、ギリシャ以外にポルトガル、イタリア、スペイン、アイルランドがあります。この5カ国の頭文字を取って”Piigs”と呼んでいます。

【危機に直面する国を救済できない】
もうひとつの問題があります。それは「安定と成長のための協定」の125条に「救済の禁止条項」があるからです。要するに、どの加盟国も他の加盟国の中央政府、地方政府、公的機関の債務を救済してはならないと決められているのです。今回のギリシャ危機では、ドイツ政府の対応が注目されました。それは、もし救済するなら、ドイツ政府しかないからです。協定で救済が禁止されているだけでなく、ドイツ国内でも救済に反対する声は強いのです。共通通貨を持っているとはいえ、それぞれが独立国家であり、他の国を救済するのに国民の税金を使うことに抵抗感があるのです。ただ、今回の場合、ギリシャの破綻はユーロ・ゾーン全体に大きな影響を与える可能性があります。連鎖的に他の国も破綻に追い込まれる事態になれば、通貨同盟が崩壊する懸念も出てきます。当面、ギリシャは危機を乗り切ったのですが、これで解決したわけではありません。

加盟国がユーロをまもろうとすれば、協定に反して国をなんとかしなければなりません。ただ、除名することは現実的に出来ません。また、景気回復のために為替政策や金利政策を使えない国はユーロ・ゾーンに留まるメリットはないともいえます。逆に、厳しい緊縮財政を要求され、国内で深刻な政治問題を引き起こす可能性もあります。

ハーバード大学のフェルドシュタイン教授は、ずっと以前から、こうしたユーロの持つ構造的な問題を指摘し、ユーロは崩壊する可能性があると指摘していました。もし”Piigs”のどこかが本当に破綻したら、ユーロそのものにも深刻な影響が及ぶことは間違いないでしょう。

5件のコメント »

  1. いつも勉強になります!
    更新楽しみにしています☆
    これからも頑張ってください!!

    コメント by アートメイク大好き!銀座さん — 2010年4月9日 @ 15:59

  2. 初めまして。

    いつも応援していますよ~。
    お仕事頑張ってくださいね!

    また遊びにきますね。

    コメント by nana — 2010年4月11日 @ 23:02

  3. はじめまして!
        
    とても勉強になります。
    更新楽しみにしています。
    お仕事がんばってください!

    コメント by 低血圧 改善 解消 対策 — 2010年10月17日 @ 11:11

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    ピンバック by ユーロ ポンドについてFX初心者が月100万円稼ぐ秘密 | FX初心者が月100万円稼ぐ秘密 — 2011年11月20日 @ 20:04

  5. とても勉強になります。
    更新楽しみにしています。
    お仕事がんばってください!

    コメント by kids-english-online — 2014年9月7日 @ 23:01

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